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ザマァレボリューション
17 エル視点
しおりを挟む馬に乗って6時間、朝に家を出て太陽が西に傾きかけた頃、私たちはやっと東の森の手前にある宿に着いた。そこで2部屋予約いれ、徒歩で森へ向かう。私は、初めての乗馬で腰は痛いし体力は使うしで、かげでこっそり自分自身に回復魔法をかけた。魔法の腕は自分で言うのもなんだが、良い方なのでしっかり効き目がある。それでも、前を颯爽と歩く彼には、コンパスと運動能力の差で距離は広がる一方。当然のように彼も後ろを振り向かないから、私がなんとかするしかない。
仕方なく自分に付与魔法ををかけて、彼に追いつくように森へ歩く。魔力的には問題はないが、自分のためにこんなに魔法を使ったのは初めてだった。
東の森は、昔から邪悪な魔獣が住んでいると有名な場所で、近く人は殆どいない。例え、この森を突っ切った方が隣国に早く着くとしても、大きく迂回して道を作ったほどだ。
背の大きな木々が立ちはだかるように私を圧倒し、その木のせいで暗いから、地面に生い茂る植物が足に引っかかる。時々、聞こえる獣の唸り声は、冗談でなく怖かった。完全に未知なる世界で、その中をまるで街中を歩くみたいに平然に歩く彼はなるほど。やはり第一級冒険者だと、改めて納得させられたほどだ。
置いていかれないように必死に着いていけば、やっと魔獣と遭遇した。すかさず、魔法を放とうと手をかざした時には、もう事足りて。魔獣達は血を吹き上げ絶命していた。
速い。速すぎる。
初対面で決闘した時にも思ったが、彼は人とは思えないほどに優れた身体能力を持っていて。されど、動くより短縮詠唱する方が早いと思っていた、自分の甘さをまた実感させられた。
また第一級冒険者の実力を見せつけられて、私は今のところなんの役にもたっていない。
せめて、魔獣の群れを探知する魔法があるからそれを使おうとしたら、匂いでわかるから必要ないと拒否される始末。ハカイナ草の知識は、あらかた教え、私の役割は最後の採取だけ。自分の身は自分で守れと言われても、私を狙う魔獣は大概彼のことも狙う。そうなれば、彼が倒してしまうから。本当に、私はただ彼の後ろを着いていく馬の気分だった。
彼が立ち止まり、ここか……と小さく呟く。森を歩いて二、三時間。彼に追いつくことに必死で何も出来ていないことに焦りを感じていた私は、彼に断られていた付与魔法を咄嗟にかけた。
「速度強化!」
私の呪文と共に、彼の身体が赤く光る。これは、成功のサインだ。いらないとされていた付与魔法をかけられて、少し役に立った気になっている私に、彼は振り返って苦々しく言う。
「いらないって言ってるだろ」
「いいでしょ!別に減るもんじゃないんだし」
面倒くさがり屋な彼が、怒ることさえ面倒なことは予想していたからこその暴挙。本当はマナー違反だと分かっているが、そうでもしないと彼は私の存在を忘れかねない。
彼はため息を落としてから、戦闘の体勢に入る。今回の群れは、ビターウルフ。足の速さが特徴で爪には強力な毒を持つ。一体でも紛れも無い強敵だ。それが彼の前では弱者に過ぎない。
今までも、とんでもなく速かったのに、今は彼を目で追えないほどで。恐らく、私と決闘した時は全力じゃなかったのだ。こんなに強い人のだから、パーティがいらないわけが分かった。彼は、魔人とか魔王とか、そんな歴史上の生き物並みに強いんじゃないかと思う。
向かってくる敵は、彼が片っ端から倒すから私はすることがなく立ち尽くす。だが、一応ここは魔獣の群れの中。後ろから、獣の唸る声が聞こえたと思ったら、5頭のビターウルフが牙を向いて私に襲いかかろうとしている。
今の私に5頭を相手するほどの力は無い。咄嗟に彼を見れば目が合うが、彼は興味がないようにすぐにそらされてしまった。
「そうよね。こんな奴ら、倒さなきゃ天才じゃないわ!」
彼は私を助ける気は無いらしい。確かに、自分の身は自分で守れと言われたし。
この時、初めて死を意識した私は決死の覚悟で挑んだが、結局二匹しか倒せなかった。残りの3匹は全て掃討してきた彼に早くしろとばかりに瞬殺された。
彼の鋭い視線を感じながら、ハカイナ草を丁寧に採取する。結局、私は戦いでなんの役にも立たなかった。もしかしたら、今度こそパーティから追放されるかもしれないと不安になりながら、採取したハカイナ草をマジックボックスに入れ、彼を見上げる。
すると、難しそうな顔の彼と目があって。
「付与魔法をかけろ」
「へ?」
「付与魔法」
てっきり使えない奴だな、とでも言われると思っていたのに彼は、開口一番、付与魔法と口にするから一瞬意味が分からなかった。眉をひそめた様子から、苛立ったことが分かったから、彼の言う通り付与魔法をかける。どの種類とは言われてないから、取り敢えずさっきと同じ速度強化をかける。
「速度強化」
身体が紅く光った後、彼はその場で何回かジャンプし、徐にその場にあった石を力一杯投げた。
何をやっているのだろう、と首を傾げれば、隣にいたはずの彼が猛スピードの石を数十メートル先でキャッチしていて驚く。人間技では無い。
彼の突然の行動に、驚く暇もなくまた付与魔法をかけろと促してくるので、色々な種類の付与魔法をそれぞれかけたり、掛け合わせたりした。何がなんだが分からないが、私が戦力で足手まといで、せめて補助をさせるためにかけさせているのだろうか。でも、彼は以前、付与魔法は自分に効果がないと言っていた。
これは、もう完全に私はいらない人間なのでは? と軽く絶望していたら彼は気がすんだらしく、帰る、と言って歩き出す。
私の心の中は、彼から言われるだろう別離の言葉でいっぱいだった。
お前はもういらない。
使えない奴だ。
さっさと出て行け。
別に彼が好きでも、彼を信用しているわけでもないが、一応、養ってもらっているし、目的の足掛かりであるから私に明日はない。
今、自分の稼げるお金でどんな所に住めるだろう。恐らく、馬小屋。だが、女が馬小屋で生活すると犯罪に巻き込まれるケースが少なくない。いや、私は強いから大丈夫、と悶々と考えていたら宿に着き、私たちは別々の部屋に泊まった。
その後の帰路でも、彼は無言だし、私はパーティを抜けた後どう生活するかを考えるかでいっぱいで終始無言だ。
それも、彼の家、私の居候先に着くまでに私は考え疲れていて、クビならクビとさっさと答えを出して欲しかった。一応、パーティがクビならせめて、家政婦として雇ってもらおうと言う算段もあり、彼が高そうなソファに座ると同時に彼の前に立つ。
彼の前で背中をピンと張って仁王立ちするのは、彼と会って以来だが、これは私なりの防御なのだ。
「はっきり言いなさいよ!」
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