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本編
6.ご自宅用ですか?
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「……っ、和山! 裏からタオル取って来て!」
「わかったー」
東はそんな正体のよくわからない感情を誤魔化すみたいに大きめの声を出した。少し離れたところに居る和山に話しかけるためだから、不自然ではない。
「あ、そんな…申し訳ないです」
「いえ、大したことじゃないんで。それより風邪引いちゃうほうが大変でしょう」
「……謝ってばかりではいけませんね。ありがとうございます」
和山がすぐにタオルを渡してくれたので、それで髪やら鞄やらを拭いてもらう。
「…今日は、お仕事だったんですか?」
「え、あ……はい」
「すみません、いつもはスーツじゃないし、今日は遅かったから」
「ああ、いつもはそうでしたね。今日は急な休日出社だったので……」
家からならこんなにも濡れずに店まで来れるはずだし、びしょ濡れの鞄を拭いて中身の書類か何かまで濡れていないか確認する様を見ると、きっと仕事だったのだろうということは想像に容易い。
「……こんな日ですけど、どうしても、買いに来たくて」
「……! そう、でしたか」
やばい、今のは嬉しい、と東は思った。こんなずぶ濡れになってでも、自分のケーキたちを欲しがってくれることを直接言われると、本当に嬉しいと感じた。
「こんな日だからこそ、ですね。大変な思いしちゃいましたから、美味しいケーキでリラックスしてください」
「……ふ、そうですね」
あ、笑った。東は見逃さなかった。
ほんの僅かに唇の端が上がり、おかしそうに息が少し漏れた。そんな顔を見て、やっぱりこの人可愛いな、と東は思ったのだった。
それから彼は、クリームたっぷりのショートケーキとアーモンドプラリネのチョコレートケーキ、ベリーのタルト、ティラミスプリンをひとつずつ購入していった。
「ご自宅用ですか?」
「はい」
本人に興味が出てしまうと、そんなお決まりの文句さえ詮索しているような気になってしまって良くないな、と東は思うが、誰にでも毎度確認することを聞かないわけにもいかない。
ご自宅用、なんだよな。住んでいるのは単身者用のマンションだし、でも結構いい年齢だよな。いつもこんなにたくさん週末に、やっぱり彼女さんとかと食べる用なんだろうか。なんて、もやもやと考え込んでしまう。
それでも東はメディアにも出るような男である。何故か感じてしまったそんなもやもやは一切見せない営業スマイルで、「ありがとうございました、また来てくださいね」と彼を見送る。
「名前くらい、聞けばよかったなあ」
そう東はぽつりとつぶやいた。長話をしたおかげで、ちょうど彼が店を出る頃に雨は弱くなっていた。
それでも買ったケーキの箱を大事そうに、強い風から守るみたいに持ち帰る彼の後ろ姿を、見えなくなるまで東はぼんやりと見つめていた。
「わかったー」
東はそんな正体のよくわからない感情を誤魔化すみたいに大きめの声を出した。少し離れたところに居る和山に話しかけるためだから、不自然ではない。
「あ、そんな…申し訳ないです」
「いえ、大したことじゃないんで。それより風邪引いちゃうほうが大変でしょう」
「……謝ってばかりではいけませんね。ありがとうございます」
和山がすぐにタオルを渡してくれたので、それで髪やら鞄やらを拭いてもらう。
「…今日は、お仕事だったんですか?」
「え、あ……はい」
「すみません、いつもはスーツじゃないし、今日は遅かったから」
「ああ、いつもはそうでしたね。今日は急な休日出社だったので……」
家からならこんなにも濡れずに店まで来れるはずだし、びしょ濡れの鞄を拭いて中身の書類か何かまで濡れていないか確認する様を見ると、きっと仕事だったのだろうということは想像に容易い。
「……こんな日ですけど、どうしても、買いに来たくて」
「……! そう、でしたか」
やばい、今のは嬉しい、と東は思った。こんなずぶ濡れになってでも、自分のケーキたちを欲しがってくれることを直接言われると、本当に嬉しいと感じた。
「こんな日だからこそ、ですね。大変な思いしちゃいましたから、美味しいケーキでリラックスしてください」
「……ふ、そうですね」
あ、笑った。東は見逃さなかった。
ほんの僅かに唇の端が上がり、おかしそうに息が少し漏れた。そんな顔を見て、やっぱりこの人可愛いな、と東は思ったのだった。
それから彼は、クリームたっぷりのショートケーキとアーモンドプラリネのチョコレートケーキ、ベリーのタルト、ティラミスプリンをひとつずつ購入していった。
「ご自宅用ですか?」
「はい」
本人に興味が出てしまうと、そんなお決まりの文句さえ詮索しているような気になってしまって良くないな、と東は思うが、誰にでも毎度確認することを聞かないわけにもいかない。
ご自宅用、なんだよな。住んでいるのは単身者用のマンションだし、でも結構いい年齢だよな。いつもこんなにたくさん週末に、やっぱり彼女さんとかと食べる用なんだろうか。なんて、もやもやと考え込んでしまう。
それでも東はメディアにも出るような男である。何故か感じてしまったそんなもやもやは一切見せない営業スマイルで、「ありがとうございました、また来てくださいね」と彼を見送る。
「名前くらい、聞けばよかったなあ」
そう東はぽつりとつぶやいた。長話をしたおかげで、ちょうど彼が店を出る頃に雨は弱くなっていた。
それでも買ったケーキの箱を大事そうに、強い風から守るみたいに持ち帰る彼の後ろ姿を、見えなくなるまで東はぼんやりと見つめていた。
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