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本編
5.嵐の日
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その日はあいにくの雨模様……どころか、暴風雨と言っても良いような荒れた日だった。こうなると客足が引いてしまうのが客商売というものだった。
「って言っても、こんな悪天候の時ほどチャンスだと言わんばかりの客が来るからな」
「まあ、いつもよりは全然慌ただしくないよね」
いつもは人気商品は売り切れ必至、遅い時間には何も残っていないようなことがザラにあるパティスリー・ジュジュでは、客足が遠退くタイミングこそいつもは買えない品を必ずゲットしようという客が必ず来ていた。
「そういうお客様はたいてい客単価が高いから本当に助かるんだよなあ、手間もその方が少ないわけだし」
「和山、ほんとに接客好きじゃないよね」
「そりゃそうだろ……できることならやりたくはない」
和山は主に営業時間は接客販売のほうを担当してくれている。それは和山がてきぱきと動き愛想良く接することが得意だからなのだが、得意と好きかどうかは別問題だった。
和山が好きなのは顧客の興味を観察し傾向を知り対策や施策を練ることであり、それに伴って必要になる若い女性客に対してニコニコと接する行為は好きではなかった。和山はそもそも女性があまり得意ではない。もちろんそんなことは、店の中ではカケラも示さないのだが。
その日の朝は、和山が言った通りになっていた。悪天候にも関わらずやって来たいつもより少ない客たちが、チャンスとばかりにたくさんの菓子を買い求めていた。
それでもやはり、いつもよりも暇がある。店の外は予報以上の大荒れで、そもそも傘をさして歩くのも大変そうだった。
「……今日は、流石に来ないかな」
今日は土曜日。いつもだったら、あの人がもう店に来ている時間だ。家がいくら近いとはいえ、こんな天気だ。外に出る気だって起きないだろう。
東はこれまで彼のことを気にしてはいなかったのに、いざ来ない日があると、不思議と寂しく思うものだった。まだ一度しか話したことだってないというのに。
「あ!」
東がそんな風に思わず大きな声をあげてしまったのは、もう日が暮れるかもという頃だった。外はまだ土砂降りのままどころか、午前中よりももっとひどくなっている。
それでも、彼が来た。店先で、傘の雨雫を落としている。
「あの、中で大丈夫ですよ」
「! …パティシエさん。でも、びしょ濡れで」
「床は拭けばいいんで、ほら」
「…すみません」
高そうなスーツの裾や革靴がぐしゃぐしゃに濡れている。東はちょうど店が落ち着いていて時間があったので、掃除用のモップを手にしていた。自分が店内を汚してしまうのを気にした様子の彼は、東が手に持ったモップを軽く掲げて大丈夫だ、というジェスチャーをしながらそう言うと、申し訳なさそうに、しかし助かったと安堵したような表情を見せた。
そのとき、東は妙な気持ちになる。どきりと胸が高鳴った。
頬や髪までもが濡れている彼の表情の乏しい顔でそんな風に眉を下げられると、なんだか……そう、少しだけ可愛く見えてしまったのだ。
「って言っても、こんな悪天候の時ほどチャンスだと言わんばかりの客が来るからな」
「まあ、いつもよりは全然慌ただしくないよね」
いつもは人気商品は売り切れ必至、遅い時間には何も残っていないようなことがザラにあるパティスリー・ジュジュでは、客足が遠退くタイミングこそいつもは買えない品を必ずゲットしようという客が必ず来ていた。
「そういうお客様はたいてい客単価が高いから本当に助かるんだよなあ、手間もその方が少ないわけだし」
「和山、ほんとに接客好きじゃないよね」
「そりゃそうだろ……できることならやりたくはない」
和山は主に営業時間は接客販売のほうを担当してくれている。それは和山がてきぱきと動き愛想良く接することが得意だからなのだが、得意と好きかどうかは別問題だった。
和山が好きなのは顧客の興味を観察し傾向を知り対策や施策を練ることであり、それに伴って必要になる若い女性客に対してニコニコと接する行為は好きではなかった。和山はそもそも女性があまり得意ではない。もちろんそんなことは、店の中ではカケラも示さないのだが。
その日の朝は、和山が言った通りになっていた。悪天候にも関わらずやって来たいつもより少ない客たちが、チャンスとばかりにたくさんの菓子を買い求めていた。
それでもやはり、いつもよりも暇がある。店の外は予報以上の大荒れで、そもそも傘をさして歩くのも大変そうだった。
「……今日は、流石に来ないかな」
今日は土曜日。いつもだったら、あの人がもう店に来ている時間だ。家がいくら近いとはいえ、こんな天気だ。外に出る気だって起きないだろう。
東はこれまで彼のことを気にしてはいなかったのに、いざ来ない日があると、不思議と寂しく思うものだった。まだ一度しか話したことだってないというのに。
「あ!」
東がそんな風に思わず大きな声をあげてしまったのは、もう日が暮れるかもという頃だった。外はまだ土砂降りのままどころか、午前中よりももっとひどくなっている。
それでも、彼が来た。店先で、傘の雨雫を落としている。
「あの、中で大丈夫ですよ」
「! …パティシエさん。でも、びしょ濡れで」
「床は拭けばいいんで、ほら」
「…すみません」
高そうなスーツの裾や革靴がぐしゃぐしゃに濡れている。東はちょうど店が落ち着いていて時間があったので、掃除用のモップを手にしていた。自分が店内を汚してしまうのを気にした様子の彼は、東が手に持ったモップを軽く掲げて大丈夫だ、というジェスチャーをしながらそう言うと、申し訳なさそうに、しかし助かったと安堵したような表情を見せた。
そのとき、東は妙な気持ちになる。どきりと胸が高鳴った。
頬や髪までもが濡れている彼の表情の乏しい顔でそんな風に眉を下げられると、なんだか……そう、少しだけ可愛く見えてしまったのだ。
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