あまいの、いくつほしい?

白湯すい

文字の大きさ
10 / 79
本編

10.夢のような

しおりを挟む
 ピンポーン、と普段なかなか鳴らない電子音が響く。鳴らした相手は出る前からわかっている。蓜島はいつもの無表情のまま、けれどほんの少しだけ胸を高鳴らせながら応答のボタンを押す。
「はい」
『東です。準備ができたのでお呼びしました~』
 自分の家のモニターホンの画面に、東が映っている。そんなことにさえ僅かに感動しながら、蓜島は返事をする。
「わかりました。すぐ出ます」
 東が言っていた通り少し時間が開いたので、シャワーを浴びて着替える余裕まであった。これから東の家に行くのだと思うと、やけに緊張して普段着よりは綺麗めかつ新しい服を選んだりした。
 平静を装っているつもりだが、やはりどこかそわそわとしている。それも仕方がないだろう、許してほしいと、誰にともわからないまま思った。
 玄関を開けると、東がにっこりと笑ってくれた。
「じゃあ、ウチにどうぞ」
「はい、お邪魔します」
 家を出たら、もうすぐ数歩で彼の家だ。やっぱり、こんな感覚は不思議だと、蓜島は思った。


「軽くご飯とか食べました?」
「はい、流石に空腹に甘いものは胃にくるので」
「ですよね、よかった」
 そんな風に話しながら東は蓜島を自分の部屋に招く。引っ越してからまださほど経っていないので散らかっておらず、見られても特に恥ずかしくないのでよかった。
「……おお、」
「どうぞ、座って。好きなのから食べていいですよ」
 一人用のそう広くないテーブルに、ずらりと並んだケーキやデザートたち。東が作る見た目のかわいらしいふわふわきらきらとしたそれらは、ごく普通の生活の中にあってさえ、そこが夢の空間であるかのような気持ちにさせられる。

 それを目にした瞬間の蓜島の瞳の輝きを、東は見ていた。普段よりもほんの少し、きっと数値にしてみたならたった数ミリだけ瞼が大きく開き、その黒い瞳にきらりと光が反射する。ぱちぱちと瞬きをするたびに小さな星が飛んでいるような、わくわくと嬉しさが隠し切れないそんな瞳を、東はたまらない気持ちで見つめていた。

「…こんなにあると、迷いますね」
「はは、迷うのも楽しみの内ですね。蓜島さんはベリー系が好きですよね」
「はい。なんでも好きですが、ミックスベリーのタルトが一番のお気に入りです」
「いつも選ばれるので…。これが、あれをちょっとアレンジした物です」
 東がそれを知っているのは、和山から常連に人気の商品を聞いていたからだ。決して蓜島のことだから詮索したわけではないが、そんな風に思われたらどうしようという不安はあった。
 当の本人はそんなことは一切気にしていない様子だったので、東はこっそりと安堵した表情を浮かべる。

「では、これからいただきます」
 用意された小さなデザート用フォークも、綺麗に磨かれた品のあるデザインのもので、食器にもこだわる東らしいものだった。蓜島はそれで丁寧に一口分をすくい上げ、その赤い苺の輝きを見つめ、それを包むくしゅりと音のするしっとりした生地と、さっくりと心地よく砕けるタルト生地をいっぺんに口の中へと運んだ。
「……!」
 いつも食べていたベリータルトとは少し違う、というのが蓜島にはすぐわかる。その新鮮な美味しさといったら、思わずきゅっと表情を歪め、息を呑むほどだった。

「……美味しい」
 そう呟いた蓜島は、口元を僅かに綻ばせて、うっとりと幸せそうな表情を浮かべていた。普段色の宿ることのない頬はほんのりとピンク色に変化していて、淡い花が咲いたようだった。

「…よかった」
 蓜島はケーキに夢中だったが、東はそんな蓜島に夢中だった。これまで見たことのなかった、無表情な男だと思っていた蓜島のこんな顔を見せられては、思わずドキドキしてしまうのも無理ないだろうと東は思う。

 だって、こんなの反則じゃないか。いつもはぴりりと空気の張りつめた生真面目が服を着て歩いているような男が、こんなにも柔らかで穏やかな表情を見せるなんて。そしてそうさせたのは自分だなんて、そんなの。

 かわいいと思ってしまうに決まっている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

俺の婚約者は小さな王子さま?!

大和 柊霞
BL
「私の婚約者になってくれますか?」 そう言い放ったのはこの国の王子さま?! 同性婚の認められるパミュロン王国で次期国王候補の第1王子アルミスから婚約を求められたのは、公爵家三男のカイルア。公爵家でありながら、長男のように頭脳明晰でもなければ次男のように多才でもないカイルアは自由気ままに生きてかれこれ22年。 今の暮らしは性に合っているし、何不自由ない!人生は穏やかに過ごすべきだ!と思っていたのに、まさか10歳の王子に婚約を申し込まれてしまったのだ。 「年の差12歳なんてありえない!」 初めはそんな事を考えていたカイルアだったがアルミス王子と過ごすうちに少しづつ考えが変わっていき……。 頑張り屋のアルミス王子と、諦め系自由人のカイルアが織り成す救済BL

路地裏の王子様と秘密のカフェ ―10年ぶりに再会した親友はトップアイドルでした―

たら昆布
BL
大学生の千秋がバイト帰りの路地裏で助けたのは、今をときめくアイドル『GALAXY』のセンター、レオだった。 以来、レオは変装して千秋の働くカフェへ毎日通い詰めるようになる。 ​「千秋に会うと疲れなんて全部消えちゃうんだ」 トップアイドルとは思えないほど素直に懐いてくるレオに、千秋は戸惑いながらも多忙な彼を支えたいと願うようになる。 ​しかし、千秋はまだ知らない。 レオが10年前に「また絶対会おう」と約束して別れた泣き虫な親友の玲央本人だということに。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

たとえ運命じゃなくても、僕は

mimi
BL
「僕は自分の気持ちを信じたい。 たとえ運命から背を背けようとも」 音楽大学に通うΩの青年・相田ひなた。 努力家の先輩αと、 運命の番だと告げられた天才α。 運命か、愛情か―― 選ぶのは、僕自身だ。 ※直接的な描写はありません。

処理中です...