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本編
10.夢のような
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ピンポーン、と普段なかなか鳴らない電子音が響く。鳴らした相手は出る前からわかっている。蓜島はいつもの無表情のまま、けれどほんの少しだけ胸を高鳴らせながら応答のボタンを押す。
「はい」
『東です。準備ができたのでお呼びしました~』
自分の家のモニターホンの画面に、東が映っている。そんなことにさえ僅かに感動しながら、蓜島は返事をする。
「わかりました。すぐ出ます」
東が言っていた通り少し時間が開いたので、シャワーを浴びて着替える余裕まであった。これから東の家に行くのだと思うと、やけに緊張して普段着よりは綺麗めかつ新しい服を選んだりした。
平静を装っているつもりだが、やはりどこかそわそわとしている。それも仕方がないだろう、許してほしいと、誰にともわからないまま思った。
玄関を開けると、東がにっこりと笑ってくれた。
「じゃあ、ウチにどうぞ」
「はい、お邪魔します」
家を出たら、もうすぐ数歩で彼の家だ。やっぱり、こんな感覚は不思議だと、蓜島は思った。
「軽くご飯とか食べました?」
「はい、流石に空腹に甘いものは胃にくるので」
「ですよね、よかった」
そんな風に話しながら東は蓜島を自分の部屋に招く。引っ越してからまださほど経っていないので散らかっておらず、見られても特に恥ずかしくないのでよかった。
「……おお、」
「どうぞ、座って。好きなのから食べていいですよ」
一人用のそう広くないテーブルに、ずらりと並んだケーキやデザートたち。東が作る見た目のかわいらしいふわふわきらきらとしたそれらは、ごく普通の生活の中にあってさえ、そこが夢の空間であるかのような気持ちにさせられる。
それを目にした瞬間の蓜島の瞳の輝きを、東は見ていた。普段よりもほんの少し、きっと数値にしてみたならたった数ミリだけ瞼が大きく開き、その黒い瞳にきらりと光が反射する。ぱちぱちと瞬きをするたびに小さな星が飛んでいるような、わくわくと嬉しさが隠し切れないそんな瞳を、東はたまらない気持ちで見つめていた。
「…こんなにあると、迷いますね」
「はは、迷うのも楽しみの内ですね。蓜島さんはベリー系が好きですよね」
「はい。なんでも好きですが、ミックスベリーのタルトが一番のお気に入りです」
「いつも選ばれるので…。これが、あれをちょっとアレンジした物です」
東がそれを知っているのは、和山から常連に人気の商品を聞いていたからだ。決して蓜島のことだから詮索したわけではないが、そんな風に思われたらどうしようという不安はあった。
当の本人はそんなことは一切気にしていない様子だったので、東はこっそりと安堵した表情を浮かべる。
「では、これからいただきます」
用意された小さなデザート用フォークも、綺麗に磨かれた品のあるデザインのもので、食器にもこだわる東らしいものだった。蓜島はそれで丁寧に一口分をすくい上げ、その赤い苺の輝きを見つめ、それを包むくしゅりと音のするしっとりした生地と、さっくりと心地よく砕けるタルト生地をいっぺんに口の中へと運んだ。
「……!」
いつも食べていたベリータルトとは少し違う、というのが蓜島にはすぐわかる。その新鮮な美味しさといったら、思わずきゅっと表情を歪め、息を呑むほどだった。
「……美味しい」
そう呟いた蓜島は、口元を僅かに綻ばせて、うっとりと幸せそうな表情を浮かべていた。普段色の宿ることのない頬はほんのりとピンク色に変化していて、淡い花が咲いたようだった。
「…よかった」
蓜島はケーキに夢中だったが、東はそんな蓜島に夢中だった。これまで見たことのなかった、無表情な男だと思っていた蓜島のこんな顔を見せられては、思わずドキドキしてしまうのも無理ないだろうと東は思う。
だって、こんなの反則じゃないか。いつもはぴりりと空気の張りつめた生真面目が服を着て歩いているような男が、こんなにも柔らかで穏やかな表情を見せるなんて。そしてそうさせたのは自分だなんて、そんなの。
かわいいと思ってしまうに決まっている。
「はい」
『東です。準備ができたのでお呼びしました~』
自分の家のモニターホンの画面に、東が映っている。そんなことにさえ僅かに感動しながら、蓜島は返事をする。
「わかりました。すぐ出ます」
東が言っていた通り少し時間が開いたので、シャワーを浴びて着替える余裕まであった。これから東の家に行くのだと思うと、やけに緊張して普段着よりは綺麗めかつ新しい服を選んだりした。
平静を装っているつもりだが、やはりどこかそわそわとしている。それも仕方がないだろう、許してほしいと、誰にともわからないまま思った。
玄関を開けると、東がにっこりと笑ってくれた。
「じゃあ、ウチにどうぞ」
「はい、お邪魔します」
家を出たら、もうすぐ数歩で彼の家だ。やっぱり、こんな感覚は不思議だと、蓜島は思った。
「軽くご飯とか食べました?」
「はい、流石に空腹に甘いものは胃にくるので」
「ですよね、よかった」
そんな風に話しながら東は蓜島を自分の部屋に招く。引っ越してからまださほど経っていないので散らかっておらず、見られても特に恥ずかしくないのでよかった。
「……おお、」
「どうぞ、座って。好きなのから食べていいですよ」
一人用のそう広くないテーブルに、ずらりと並んだケーキやデザートたち。東が作る見た目のかわいらしいふわふわきらきらとしたそれらは、ごく普通の生活の中にあってさえ、そこが夢の空間であるかのような気持ちにさせられる。
それを目にした瞬間の蓜島の瞳の輝きを、東は見ていた。普段よりもほんの少し、きっと数値にしてみたならたった数ミリだけ瞼が大きく開き、その黒い瞳にきらりと光が反射する。ぱちぱちと瞬きをするたびに小さな星が飛んでいるような、わくわくと嬉しさが隠し切れないそんな瞳を、東はたまらない気持ちで見つめていた。
「…こんなにあると、迷いますね」
「はは、迷うのも楽しみの内ですね。蓜島さんはベリー系が好きですよね」
「はい。なんでも好きですが、ミックスベリーのタルトが一番のお気に入りです」
「いつも選ばれるので…。これが、あれをちょっとアレンジした物です」
東がそれを知っているのは、和山から常連に人気の商品を聞いていたからだ。決して蓜島のことだから詮索したわけではないが、そんな風に思われたらどうしようという不安はあった。
当の本人はそんなことは一切気にしていない様子だったので、東はこっそりと安堵した表情を浮かべる。
「では、これからいただきます」
用意された小さなデザート用フォークも、綺麗に磨かれた品のあるデザインのもので、食器にもこだわる東らしいものだった。蓜島はそれで丁寧に一口分をすくい上げ、その赤い苺の輝きを見つめ、それを包むくしゅりと音のするしっとりした生地と、さっくりと心地よく砕けるタルト生地をいっぺんに口の中へと運んだ。
「……!」
いつも食べていたベリータルトとは少し違う、というのが蓜島にはすぐわかる。その新鮮な美味しさといったら、思わずきゅっと表情を歪め、息を呑むほどだった。
「……美味しい」
そう呟いた蓜島は、口元を僅かに綻ばせて、うっとりと幸せそうな表情を浮かべていた。普段色の宿ることのない頬はほんのりとピンク色に変化していて、淡い花が咲いたようだった。
「…よかった」
蓜島はケーキに夢中だったが、東はそんな蓜島に夢中だった。これまで見たことのなかった、無表情な男だと思っていた蓜島のこんな顔を見せられては、思わずドキドキしてしまうのも無理ないだろうと東は思う。
だって、こんなの反則じゃないか。いつもはぴりりと空気の張りつめた生真面目が服を着て歩いているような男が、こんなにも柔らかで穏やかな表情を見せるなんて。そしてそうさせたのは自分だなんて、そんなの。
かわいいと思ってしまうに決まっている。
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