あまいの、いくつほしい?

白湯すい

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本編

14.甘い香りの彼

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 一方の蓜島はといえば、実はちゃんと新商品が発売された週の土曜日に来店しており、そのケーキたちを見て感動していた。
 それらは確かにあの日、東の部屋に招かれて試食を頼まれたあのケーキやタルトで、協力させてもらったそれらが実際に発売になり店頭に並んでいるという事実は、この店のいちファンとしてはなんだか不思議な気分で、思わず嬉しくなってしまうものだった。

 そして蓜島は新商品といつものお気に入りを買い込み、自宅でそれを楽しむ。
「……っ、これって」
 ひと口頬張るたびに、幸せの甘さが広がるし、東のスイーツは食べ進めるごとに新鮮な美味しさに気付かされる。
 あの日食べたものだって、本当に美味しかった。けれど新商品として店に並んだこれは、あの日のものよりも更に努力や工夫を重ねて磨かれているのが、素人の蓜島にもはっきりとわかった。

「……やっぱり、東さんはすごい」
 蓜島は初めて、食べた感想を伝えたいと考えた。そんな気持ちになったのに、蓜島自身が驚いている。
 試食なんて頼まれてしまったからだろうか。これまで食べてきたケーキたちもきっと努力と才能の結晶みたいなものなのだろうと考えてはいたけれど、こうしてその完成への道のりを歩く姿の一部を目の前で見せられてしまうと、感動もひとしおだった。


 しかしそんな気持ちを伝えようにも、彼は基本的に店頭には出てこない立場の人であるし、隣同士に住んでいるとは言えそこまで親しいというわけでもなく、連絡先だって知らなかった。試食だってもしかしたらこれっきりでもう頼まれたりしないかもしれないと考えると、こちらから連絡先交換を申し出るのは恐れ多くてできなかったのだ。

 けれど、今すぐにでも東と会って話がしたい。そんな気持ちになった今は、その勇気が出なかったことを蓜島はひどく後悔していた。
「でも東さんは、気さくに話しかけてくださるけれど、有名人なんだよな……」
 東はテレビや雑誌に度々出演しているほどの著名人だ。メディアは彼の美貌をアイドルのように扱い、彼もそれに相応しいように笑顔を振り撒いている。
 実際に会って話した東は、そんな著名人としての顔とはどこか違って見えた。生まれ持った美しさや才能だけの人ではない、それに甘えず驕らず、努力を惜しまない人で。優しくて気さくで、どこか人懐っこさもあって親しみやすい普通の人だ。

 だからだろうか。これまで東は憧れの人で、雲の上の人みたいな気持ちで居たから、自分には理解しきれない人間と思っていたのに、今は東のことをもっと知りたいと思っている。
 今までメディアを通して見てきた東聡介ではなく、あのマンションのエレベーターの中で、彼の部屋の中で、もうすぐ手の届くところに居た彼自身に、興味がわいてきてしまっているのだ。
 甘くて、馨しい香りのする彼に。
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