あまいの、いくつほしい?

白湯すい

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本編

17.優しさと下心

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 トントン、と料理をしているとき特有の優しい音がして目が覚めた。とは言え、目覚めた時間は朝ではないし、眠っていた場所はベッドでもない。それでも一瞬、自分が眠っている場所やその音への違和感を覚えるまでに時間がかかったのは、それだけ深く眠っていたからだ。

 そもそも一人暮らしのこの家でそんな音がするのは、隣人である東が蓜島の体調不良を見兼ねて夕食を作ってくれることになったからである。
「準備できるまで休んでていいですよ」
 そんな風に言ってくれた東の言葉に甘えて蓜島はソファに座っていると、いつの間にか眠ってしまっていたようだった。

 キッチンからは食欲をそそるいいにおいがする。
「あ、起きました? もうすぐできますよ」
 蓜島が覗きに行くと、東はちらりとこちらを振り返りながらそう言った。時計を見れば帰宅してからさほど時間は経っていないのに、ほとんどの作業が終わっているようだった。
 蓜島に声をかけながらもてきぱきと動く様を見ると、いつもお店の厨房でもこんな風に働いているのだろうかと想像させる。

「僕、お菓子はまあそこそこですけど、ご飯作る腕はめちゃくちゃ普通ですからね」
「そういうものですか」
「そういうものです」
 帰り道にそんなことを話していたけれど、やはり手際の良さはさすがだなと蓜島は感心していた。
 流れるような動きは見ていて気持ちがいいが、見ているばかりというわけにもいくまい。自分の家ということもあるので、食器類などの在処は自分が一番わかっている。彼の作ってくれているメニューに合わせて、適したものを用意していくと、東さんは柔らかな声でありがとうと言ってくれた。


「いただきます」
「はい、どうぞ」
 テーブルに並べられたのはおろしポン酢のかかったさっぱりと美味しそうなチキンと、野菜たっぷりのスープなど身体に優しそうなものばかりだった。
「美味しいです」
「ほんとですか? よかった」
「はい、本当に助かりました。人の作ったごはんは、ずいぶん久しぶりです」
「一人暮らしだとそうなりますよね、忙しいと尚更」
 一人暮らしは長いんですか、なんてちょっと踏み込んだ質問はできなかった。東は自分の気持ちに気付き始めてからというもの、どうにもうまく話ができなくてもどかしい思いをしていた。

 相変わらず目の前で表情を変えずに、けれどどこかほんのりと嬉しそうな色を浮かべながら自分の作ったものをもくもくと食べるこの男に、聞きたいけれど聞けないことが、たくさんある。

 なんでそんなにおれのケーキを好きでいてくれるんですか。こうやって関わられるの迷惑じゃないですか。付き合ってる人とか本当に居ないんですか。男ってぶっちゃけアリですか。アリなら、おれってどうですか。

 そんな頭に次々と浮かんでくる言葉たちは、言う勇気もなく。目の前で自分の作った料理を食べる蓜島を見ていると、なんだか自分の気持ちが料理に染み出していてバレてしまいそうに思えてむずむずした。
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