あまいの、いくつほしい?

白湯すい

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本編

33.撮影中

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 ピピ、パシャ、パシャ、と心地よい軽い音が厨房に鳴り響くたびに、フラッシュの光が眩しい。その光の先は、仕事着であるコックコートに身を包んだ東である。
 日を改めて、今日は先日の取材の記事に使われる写真撮影をしていた。カメラを向けられた東はいつもの営業用の爽やかでどこか色っぽい、世間が求める通りの笑顔を浮かべている。今日はその様を少し離れたところで見ている和山も、思わず感心してしまうほどに美しくて完璧な王子様を東は演じていた。
「いやー、東さんやっぱりかっこいいですね~!」
「ありがとうございます」
 外見を褒められたときはいつもどう反応したらいいかわからないという風にまごつく男だったのに、撮影慣れしてからはカメラの前でだけは別人になる。リアクションが苦手というだけで、自分が美しいことは自覚しているのが東だ。どの角度で撮られようが問題ないという余裕が、何も知らない人間にはそれがまるで本人の性格であるかのように映る。
「あんまりにも絵になるもんで、撮ってる側も楽しいですよ。次こっちのほうに視線外してみてもらっていいですか?」
「こうですか?」
「ああ~、いいですね! じゃあちょっとそのままで何枚か!」
 カメラマンは張り切って撮影を続けている。その様子を見守るように、和山のすぐそばには田崎の姿もあった。
 先日東から田崎についての愚痴のような相談を受けていた和山は、その凛とした立ち姿と横顔を見てなるほどな、と思った。

「カメラマンさん、楽しそうですね」
「被写体が良いと張り切ってしまうんでしょうね。良い写真になりそう」
 和山がふいに話しかけると、それまでじっと集中して撮影風景を眺めていたというのに、まるで話しかけられるのを知っていたように微笑んで言葉を返す田崎。和山はそこでさらになるほど、と思う。東が弱気になるのも無理もないかもしれない。隙のない美人の隣にいると、なんだかいたたまれないような気持ちになるのは誰でも同じだ。
「次は和山さんのことも書かせていただけませんか?」
「俺のことですか? 俺はただの裏方ですよ。うちの代表も看板もあいつです」
「お店の表に立ってお客様との触れ合いを丁寧にこなしているからこそ、ジュジュは魅力的なのだと私は思いますよ」
「ありがとうございます。ただ俺は、東みたいに華がないんでね。メディアに出るのは適任じゃないですよ」
 傍から見れば、和山に華がないということはなかった。ただ東が華やかすぎるだけで、常連客の中では密かに和山も人気だった。顧客のリサーチを欠かさない和山がそれを知らないわけはないが、和山に表舞台に立つ気は一切なかった。
「……信頼されてるんですね、東さんのこと」
「そういうことではないですけど」
 田崎が言ったことは、和山にとって半分は正解である。光の当たる場所でうまく笑っていられるのは東のほうだし、そうあるべきだと和山も思っているし、そうすると決めた東のことを信じて任せている。そこに自分はいらない。
 東がそこに立つのにも、そこから去るのにも邪魔になるからだ。

「残念。やり手の経営術、お聞きしたかったです」
「それは企業秘密なんで」
「ふふ、周到ですね」
 自分の思い通りにいかないときであっても、どこまでも隙のない人だと和山は田崎に対して思った。これは多分、東や自分と違って取り繕われて出来た仮面などではない。
 手強いな、と和山は思う。もう田崎に対して気持ちはないと話した蓜島の言葉を信じれば、もう東が戦う必要なんてない相手だとわかっているのに、どうにも『敵わない』という気持ちにさせられる人だと思った。
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