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本編
32.普通の男
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「で、それでもお前は自分に自信がなくて不安になってウジウジしてるわけだ?」
「お前な、少しオブラートに包めよ」
蓜島と話し合った翌日、取材に来た記者の女性が蓜島の元恋人だった、ものすごく綺麗で仕事ができそうなかっこいい人だった、と東が話しただけで和山はすべてを察していた。付き合いが長く東のことに関しては鋭いというのもあるが、そもそも東という男がわかりやすいのだ。
仕事終わり、最近は早めに帰宅することが多かったというのに、東はいつまでもスタッフルームでくだを巻いていた。まだ経理の仕事が残っている和山の横で延々とうなだれているのを見かねて、和山が相談に乗っていたのだった。
「なんかおれ、勝手に蓜島さんの好みはかわいらしい感じなのかと思ってた……」
「まあお前の話を聞いてたらそんな感じはするな。ケーキも割とふわふわカワイイ系のやつを多く買っていく」
お前蓜島さんのそんなことまで把握してるのかよ、と東は思ったが、和山のことだから蓜島のことだけでなく常連の好みの傾向をすべて把握しているなんてこともありそうだと思い何も言わないことにした。
「田崎さん、話すほどにめちゃめちゃしっかりしててさ、頭いい人なんだな~ってわかるっていうか。細かい気配りもできて、多分自分のそういうとこにちゃんと自信があるんだろうなっていうのが見て取れるわけ」
「非の打ち所がないな」
「めちゃめちゃ良い人で、だから全然気に入らないとかじゃないの。むしろ蓜島さんの付き合ってた人が変な人とかじゃなくてよかったって気持ちすらあって」
「お前ら、別れそうとかでもないんだろ?」
「それは、ないと思う。元カノに会ったからって心変わりするような人でもないと思うし」
「じゃあシンプルにお前の問題じゃないか」
「そうなんだよ! あんな綺麗な人の後がおれかよって考えるほどに、なんでおれなんだ?って思っちゃって……おれがこれまで付き合った彼女が次々おれに幻滅していったのとかも思い出してしまいまして……その……ちょっとかなり元気がなくてですね……」
東が沈んでいるのは、何も蓜島のことを信用していなかったりするわけではない。東がこれまで見た目のイメージからかけ離れた人間であることを理由にふられてきた経験が今になってまた堪えているのだ。蓜島も東をメディアの姿から知っている人間であり、蓜島は東を尊敬しているのだと言っていたことも響いているのかもしれない。
東という男は、周りからの期待値が高いほどに頑張ろうとしてしまって不自由さを感じたり、開き直って本来の自分を見せては失望の目を向けられてきた。その経験は東にとって、最早トラウマと言ってもいいものだった。
「お前のことだからカメラの前でもないのに取り繕い続けられてるわけもなく、もう本性見せちゃってるんだろうしなあ」
「ちょっとかっこつけてみてるけど、もうばれてるだろうなあ……」
綺麗な見た目から受けるイメージやメディアに出ている王子様みたいな自分と、ごく普通に生きていて人よりちょっと面倒くさがりで人付き合いが不器用で落ち込みやすい自分とのギャップが、ずっとずっと苦しい。東は物心ついた頃からこの苦しさと一緒に生きてきた。理解者と呼べる人は、家族と和山くらいしか居ない。それでもいいと思っていた、というよりも、それで仕方ないと思っていた。
「おれ、蓜島さんにはがっかりされたくないんだな」
そんな東が今は、仕方ないとは思いたくない自分に気付いていた。蓜島には、今まで東から離れていった人と同じようになってほしくない。そんな風に思っている。
ぽつりとそう呟く東のことを、和山は少し驚いた目で見ていた。和山の知っている東は、何度他人に幻滅されて不当に傷つけられてもしょうがないよねと笑っている、人付き合いを諦めるのに慣れ切ったような男だ。そんな男が、珍しく執着とも呼ぶべき感情を見せている。それほどまでに、東は蓜島に入れ込んでいるらしい。
「……というか、かっこつけてたのか、お前」
「茶化すなよお」
……人は誰でも、好きな人の前では自分をかっこよく見せたいものである。
「お前な、少しオブラートに包めよ」
蓜島と話し合った翌日、取材に来た記者の女性が蓜島の元恋人だった、ものすごく綺麗で仕事ができそうなかっこいい人だった、と東が話しただけで和山はすべてを察していた。付き合いが長く東のことに関しては鋭いというのもあるが、そもそも東という男がわかりやすいのだ。
仕事終わり、最近は早めに帰宅することが多かったというのに、東はいつまでもスタッフルームでくだを巻いていた。まだ経理の仕事が残っている和山の横で延々とうなだれているのを見かねて、和山が相談に乗っていたのだった。
「なんかおれ、勝手に蓜島さんの好みはかわいらしい感じなのかと思ってた……」
「まあお前の話を聞いてたらそんな感じはするな。ケーキも割とふわふわカワイイ系のやつを多く買っていく」
お前蓜島さんのそんなことまで把握してるのかよ、と東は思ったが、和山のことだから蓜島のことだけでなく常連の好みの傾向をすべて把握しているなんてこともありそうだと思い何も言わないことにした。
「田崎さん、話すほどにめちゃめちゃしっかりしててさ、頭いい人なんだな~ってわかるっていうか。細かい気配りもできて、多分自分のそういうとこにちゃんと自信があるんだろうなっていうのが見て取れるわけ」
「非の打ち所がないな」
「めちゃめちゃ良い人で、だから全然気に入らないとかじゃないの。むしろ蓜島さんの付き合ってた人が変な人とかじゃなくてよかったって気持ちすらあって」
「お前ら、別れそうとかでもないんだろ?」
「それは、ないと思う。元カノに会ったからって心変わりするような人でもないと思うし」
「じゃあシンプルにお前の問題じゃないか」
「そうなんだよ! あんな綺麗な人の後がおれかよって考えるほどに、なんでおれなんだ?って思っちゃって……おれがこれまで付き合った彼女が次々おれに幻滅していったのとかも思い出してしまいまして……その……ちょっとかなり元気がなくてですね……」
東が沈んでいるのは、何も蓜島のことを信用していなかったりするわけではない。東がこれまで見た目のイメージからかけ離れた人間であることを理由にふられてきた経験が今になってまた堪えているのだ。蓜島も東をメディアの姿から知っている人間であり、蓜島は東を尊敬しているのだと言っていたことも響いているのかもしれない。
東という男は、周りからの期待値が高いほどに頑張ろうとしてしまって不自由さを感じたり、開き直って本来の自分を見せては失望の目を向けられてきた。その経験は東にとって、最早トラウマと言ってもいいものだった。
「お前のことだからカメラの前でもないのに取り繕い続けられてるわけもなく、もう本性見せちゃってるんだろうしなあ」
「ちょっとかっこつけてみてるけど、もうばれてるだろうなあ……」
綺麗な見た目から受けるイメージやメディアに出ている王子様みたいな自分と、ごく普通に生きていて人よりちょっと面倒くさがりで人付き合いが不器用で落ち込みやすい自分とのギャップが、ずっとずっと苦しい。東は物心ついた頃からこの苦しさと一緒に生きてきた。理解者と呼べる人は、家族と和山くらいしか居ない。それでもいいと思っていた、というよりも、それで仕方ないと思っていた。
「おれ、蓜島さんにはがっかりされたくないんだな」
そんな東が今は、仕方ないとは思いたくない自分に気付いていた。蓜島には、今まで東から離れていった人と同じようになってほしくない。そんな風に思っている。
ぽつりとそう呟く東のことを、和山は少し驚いた目で見ていた。和山の知っている東は、何度他人に幻滅されて不当に傷つけられてもしょうがないよねと笑っている、人付き合いを諦めるのに慣れ切ったような男だ。そんな男が、珍しく執着とも呼ぶべき感情を見せている。それほどまでに、東は蓜島に入れ込んでいるらしい。
「……というか、かっこつけてたのか、お前」
「茶化すなよお」
……人は誰でも、好きな人の前では自分をかっこよく見せたいものである。
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