あまいの、いくつほしい?

白湯すい

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本編

31.元恋人のこと

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 しかしながら、田崎が店に来たのは仕事のためである。ビジネスの場で恋人がどうだとかそういう話はしないもので、全員がそれ以上は触れなかった。蓜島はすぐに帰宅したし、東は店の中へ田崎を案内した。

「約束のお時間の前にすみません、今日はよろしくお願いします。本当は少し早めに来て、お客様が入っている様子も見ておこうと思ったのですが」
「そうだったんですね。確かに早めの到着でしたが、今日は特に早く完売してしまって」
「すごい人気ですね。私も何度か頂いてますが、人気商品は本当に手に入りにくくて」
 渡された名刺には、大手情報誌の副編集長と書いてある。会社の規模を考えれば、かなり地位の高い人だと考えられる。
「副編集長さんも直接取材に来られたりするんですね」
「ウチの雑誌は編集長も自分の足で良い店を探して取材するんですよ。口コミ頼りや人任せでは見つけられないものや本当の良さがわからないこともありますから」
「それ、わかります。僕も研究とか食材のために地方でもあちこち行ったりしますよ」
 いいものを探すために自ら動き労力を惜しまない、ということにおいては田崎と東は考え方が似ていた。


 話題はそのまま仕事の話になり、流れるように取材も始まった。田崎は話すほどに聡明で、けれども仕事に対する情熱のある魅力的な人だった。
 仕事は仕事と割り切って色々と話すものの、東の頭の片隅には蓜島と田崎の関係についてが常にちらついていた。
 綺麗な人だな、と思う。かわいいというよりも、凛とした美人という感じだった。真面目な人だということもわかるし、正直なところ、蓜島とはお似合いだと思ってしまった。




 その日取材が終わった頃、蓜島から東へ連絡があった。『夜うちに来ませんか』と、ただそれだけだったけれど、なんとなく東には蓜島が何を伝えようとしているのかがわかってしまった。

 だから切り出された話を聞いても、さほど驚きはしなかった。

「田崎さんは、以前交際していた女性です」
 だろうな、と東は思った。むしろ他のことを言われたほうが驚くくらいだった。
「前に話してましたね、何年か前にフラれたっていう」
「そうです、三年位前のことです」
 付き合い始めるときに聞いた、仕事の多忙さによるすれ違いで蓜島のほうが振られてしまったという元彼女、それが田崎だったらしい。

「たまたまうちの取材に来るなんて、結構すごい偶然ですよね」
「はい。ただ出版社に勤めてて、ああして店舗の取材等もしているとは知っていたので、こういうこともあるものだなと……突然だったので驚きはしましたが」
 付き合っていたのだから職業やどんな仕事をしているかも知っているのは当然だ。それにしたって、二人でいるところにばったり遭遇するなんて、お互い驚くはずだった。

「……少し、変な態度をとってしまったと思ったので。説明だけはきちんとしておきたくて、今日はお時間いただきました」
「あ、ありがとうございます」
 相変わらずビジネスじみた口調の蓜島に東は思わず笑いそうになる。笑いがこみ上げてきたことで少しもやもやとした気持ちが晴れて、強張っていた体から力が抜けた気がした。
「お互い大人なんですから、過去のことは色々あるって理解してます。まったく気にならないと言ったら嘘ですけど……おれは、蓜島さんが説明しなきゃって思ってくれたことが嬉しい」
「彼女とは、ちゃんと終わっています。私にも彼女にも、もう特別な気持ちはありませんから」
 恋人である東に変な勘違いをさせないようにすぐに行動して、言葉にしてくれたことが東は嬉しかった。東に蓜島の言葉を疑う気持ちはひとつもない。それは、蓜島が嘘のない男だと知っているからだ。
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