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本編
37.お疲れ様会
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ガヤガヤと楽しげな声と食器が立てる音に溢れた賑やかな大衆居酒屋に、その日は東と和山が来ていた。
月の終わり、東の提案した商品とそれをうまくサプライズ的に売り出した和山の手腕もあって、売り上げ目標を軽々と上回ることができた祝いの席のようなものだった。
祝いの席といっても、二人とも昔からこういう気取らない店が好きなので、接待でもデートでもない飲み会ならと、学生時代にもよく来ていた店で飲むことにしたのだった。
「で、お前らどこまでいってるんだ?」
「……和山って、そういうこと聞いてくる奴だっけ」
和山は相変わらずさほど美味くもなさそうに焼き鳥をかじりながらそう聞いてくる。うまいうまいと言いながら食べるが、和山も蓜島のことは言えないくらい表情があまり出ない男だ。
東は今そんな和山に、蓜島との恋愛話を焼き鳥のように酒の肴にされようとしている。
「そりゃお前、今まではろくな女と付き合ってなかったんだから興味もわかなくて聞かなかっただろ」
「ろくな女って……」
「あの人は色々話してそれでいいって言ってくれたんだろ?」
「うん……めちゃめちゃ嬉しい」
そう呟く東を見るだけで、和山は二人について何の心配もいらないだろうと思える。こんなに幸せそうにしている東をこれまで見たことがあっただろうか、と考えた。東という男は、家族や和山の前では普通のバカな男だったけれど、それ以外の付き合いにおいては寂しそうな顔や苦しそうな顔ばかりしていた。
それが今は、安心して寄り添える恋人ができて嬉しそうに、照れ臭そうにしている。素直にニコニコと笑えないのはきっと、まだ少し不安が残っているのだろうが、そんなものは多分蓜島がなんとかするだろう。
「まあお前はそんなだし、あの人もすぐ手出してくる感じじゃなさそうだしなあ」
「…そーだよ、まだキスしかしてない」
東は和山に対して隠し事はしない。だいたいのことは見透かされていて隠したところで無意味だからだ。
和山は思っていた通りの返事がきて、そうだろうなと思ったよ、と小さく言った。
「そんなお前たちに、いいものをやろう」
「なに?」
和山がそう言って鞄から取り出して渡されたのは綺麗な封筒だった。何やらちょっと高そうな紙のそれは、開けば一枚のチケットとそれの使い方の説明が書いた紙が一枚入っていた。
「温泉旅行ペア招待券?」
「去年番組でコラボしたホテルの営業の人から貰った。またウチとコラボしてくださいってことでな、あそこの系列のホテルか旅館が対象らしい」
和山の話には東も覚えがあった。高級ホテルのビュッフェデザートに東とのコラボスイーツを加える期間限定の企画で、かなり反響があった。そんな功績もあって、今回和山はこんなものを貰っていたらしい。
「お前いつの間にそんな話を…」
「まだ次もやりたいですねって話が出ただけの段階だよ。お前温泉好きだったじゃん。かなり店も成長したと言って良いくらいなんだし、そろそろたまには休んで羽根伸ばしてこいよ」
「お前は……そっか、旅行とかあんま好きじゃないっけ」
「そう。だからもともとこれはお前にやろうと思ってたんだよ。お前が居ない間に俺は俺で休んでおくから気にするな」
そう言いながら含み笑いをする和山から貰った旅行のペアチケットを、東は複雑な思いで受け取る。
確かに旅行でも一緒に行けたなら、もっとじっくりと二人の時間が過ごせるのかもしれない。蓜島の仕事が早く終えられるようになり過ごせる時間が少し増えたとはいえ、付き合いたての二人にはまだまだ物足りなく感じられていた。
しかしながら、和山の目論む通りになるというのも、なんだかな、と東は思う。和山もきっとそんな直接的な意味ではなく、二人の仲がより深まるようにという気遣いなのだろうが……と思いたかったが、付き合いの長い東にはわかる。あれは面白がっているときの顔だった。
東とて、蓜島と触れ合いたくないわけではない。蓜島に対してはちゃんと恋愛感情としての好きな気持ちがあって、そこにはしっかりと下心も存在している。
「なんか、大事にされてるよなあ……」
東は帰り道、ひとり呟く。蓜島は決して強引なことはしてこない。自らもそれなりに奥手なほうだと自覚している東としては、多少強引でもリードしてほしいところがあるのだが、それを素直に言い出すのは流石に恥ずかしい。
「まあ、もしくは……」
こういうことを考えると、やはり男同士ということが気になってくる。触れたいと思うとは言ってくれていたけれど、自分たちはどこまで進めるのだろうか、そんな風に思ってしまう。男の体を見て、萎えられたりしないだろうか。
「ていうか、いざするって時にできなかったら困るな…!?」
男同士のやり方なんて、これまで経験のない東はあまりよく知らなかった。そもそも自分は抱く側なのか、抱かれる側なのか?まずそこからわからない。でもなんとなく、抱かれる側のような気がしていた。無意識のうちに、受け身な妄想をしてしまっている気がする。
どちらにしても、どちらにも対応できるように色々と調べたり準備はしておこう、と東は考えるのだった。
月の終わり、東の提案した商品とそれをうまくサプライズ的に売り出した和山の手腕もあって、売り上げ目標を軽々と上回ることができた祝いの席のようなものだった。
祝いの席といっても、二人とも昔からこういう気取らない店が好きなので、接待でもデートでもない飲み会ならと、学生時代にもよく来ていた店で飲むことにしたのだった。
「で、お前らどこまでいってるんだ?」
「……和山って、そういうこと聞いてくる奴だっけ」
和山は相変わらずさほど美味くもなさそうに焼き鳥をかじりながらそう聞いてくる。うまいうまいと言いながら食べるが、和山も蓜島のことは言えないくらい表情があまり出ない男だ。
東は今そんな和山に、蓜島との恋愛話を焼き鳥のように酒の肴にされようとしている。
「そりゃお前、今まではろくな女と付き合ってなかったんだから興味もわかなくて聞かなかっただろ」
「ろくな女って……」
「あの人は色々話してそれでいいって言ってくれたんだろ?」
「うん……めちゃめちゃ嬉しい」
そう呟く東を見るだけで、和山は二人について何の心配もいらないだろうと思える。こんなに幸せそうにしている東をこれまで見たことがあっただろうか、と考えた。東という男は、家族や和山の前では普通のバカな男だったけれど、それ以外の付き合いにおいては寂しそうな顔や苦しそうな顔ばかりしていた。
それが今は、安心して寄り添える恋人ができて嬉しそうに、照れ臭そうにしている。素直にニコニコと笑えないのはきっと、まだ少し不安が残っているのだろうが、そんなものは多分蓜島がなんとかするだろう。
「まあお前はそんなだし、あの人もすぐ手出してくる感じじゃなさそうだしなあ」
「…そーだよ、まだキスしかしてない」
東は和山に対して隠し事はしない。だいたいのことは見透かされていて隠したところで無意味だからだ。
和山は思っていた通りの返事がきて、そうだろうなと思ったよ、と小さく言った。
「そんなお前たちに、いいものをやろう」
「なに?」
和山がそう言って鞄から取り出して渡されたのは綺麗な封筒だった。何やらちょっと高そうな紙のそれは、開けば一枚のチケットとそれの使い方の説明が書いた紙が一枚入っていた。
「温泉旅行ペア招待券?」
「去年番組でコラボしたホテルの営業の人から貰った。またウチとコラボしてくださいってことでな、あそこの系列のホテルか旅館が対象らしい」
和山の話には東も覚えがあった。高級ホテルのビュッフェデザートに東とのコラボスイーツを加える期間限定の企画で、かなり反響があった。そんな功績もあって、今回和山はこんなものを貰っていたらしい。
「お前いつの間にそんな話を…」
「まだ次もやりたいですねって話が出ただけの段階だよ。お前温泉好きだったじゃん。かなり店も成長したと言って良いくらいなんだし、そろそろたまには休んで羽根伸ばしてこいよ」
「お前は……そっか、旅行とかあんま好きじゃないっけ」
「そう。だからもともとこれはお前にやろうと思ってたんだよ。お前が居ない間に俺は俺で休んでおくから気にするな」
そう言いながら含み笑いをする和山から貰った旅行のペアチケットを、東は複雑な思いで受け取る。
確かに旅行でも一緒に行けたなら、もっとじっくりと二人の時間が過ごせるのかもしれない。蓜島の仕事が早く終えられるようになり過ごせる時間が少し増えたとはいえ、付き合いたての二人にはまだまだ物足りなく感じられていた。
しかしながら、和山の目論む通りになるというのも、なんだかな、と東は思う。和山もきっとそんな直接的な意味ではなく、二人の仲がより深まるようにという気遣いなのだろうが……と思いたかったが、付き合いの長い東にはわかる。あれは面白がっているときの顔だった。
東とて、蓜島と触れ合いたくないわけではない。蓜島に対してはちゃんと恋愛感情としての好きな気持ちがあって、そこにはしっかりと下心も存在している。
「なんか、大事にされてるよなあ……」
東は帰り道、ひとり呟く。蓜島は決して強引なことはしてこない。自らもそれなりに奥手なほうだと自覚している東としては、多少強引でもリードしてほしいところがあるのだが、それを素直に言い出すのは流石に恥ずかしい。
「まあ、もしくは……」
こういうことを考えると、やはり男同士ということが気になってくる。触れたいと思うとは言ってくれていたけれど、自分たちはどこまで進めるのだろうか、そんな風に思ってしまう。男の体を見て、萎えられたりしないだろうか。
「ていうか、いざするって時にできなかったら困るな…!?」
男同士のやり方なんて、これまで経験のない東はあまりよく知らなかった。そもそも自分は抱く側なのか、抱かれる側なのか?まずそこからわからない。でもなんとなく、抱かれる側のような気がしていた。無意識のうちに、受け身な妄想をしてしまっている気がする。
どちらにしても、どちらにも対応できるように色々と調べたり準備はしておこう、と東は考えるのだった。
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