あまいの、いくつほしい?

白湯すい

文字の大きさ
36 / 79
本編

36.もっとください

しおりを挟む
「私は東さんのこと、完璧な人だと思って好きになったわけではありません。けれど、東さんの言うように何もできない人だとも思っていません。私は東さんのように人を魅了する物は作れません。初めて会った日にも、こんな仏頂面の男にも明るく声をかけてくれました。私は親しみやすい言葉を使うことも、東さんのように柔らかな笑顔も不得意です。私が持っていない素晴らしいものを東さんは持っていて、それを惜しげもなく私に向けてくれます。私はそういうあなただから、好きになりました」
 蓜島の言葉はいつだって嘘や迷いがなくて説得力がある。そう言われてしまえば、東はそういうものか、と納得する他なくなってしまう。

「……逆に私こそ、あなたに呆れられないか心配していたくらいです」
「へ? どうして?」
 蓜島の思いもよらない言葉に東はきょとんとする。
「……私自身も驚いているのですが、私は存外、独占欲が強いみたいです。東さんが素を見せるとすぐにふられてしまうなんて言うものですから、であれば東さんが本音を見せて甘えてくれるのは私だけなのかと思うと……かなり、嬉しいなどと思ってしまいまして」
「は、ああ……それは…」
 東は曖昧な返事しかできない。引いているわけでは決してない。珍しく頬を色濃く染めて恥ずかしそうに話す蓜島に動揺しているのだ。
「受け入れられたと感じて、ほっと安心したような顔も、私だけが知っているんですよね?」
「お、おれそんな顔してました?」
 蓜島は東の腰に腕をまわして、きゅっと優しく抱き込む。蓜島のいつもよりも赤い顔がすぐ近くにあって、東のほうまで熱が伝わってくるようで、つられて頬が熱くなる。
「かわいかったですよ。他の人には見せないでくださいね」
「み、見せる機会ないですよ! てか本当に、蓜島さんキャラ変わってません?」
「そうかもしれません。東さんに恋をしたからではないでしょうか」
「……っ、」
 蓜島の言う通り、蓜島は親しみやすいくだけた言葉を使う人ではない。けれど、時にはだからこそ強烈にその想いが伝わることもある。

 東はあまりの真っ直ぐな瞳と言葉に耐え切れなくなり、思わずぎゅっと瞼を閉じてしまった。そしてすぐに、この距離で目を閉じたなら、することなんてひとつだということに気が付いた。
「東さん」
 返事は、できなかった。呼び返そうとして僅かに開いた唇は、すぐに柔らかな蓋をされてしまったから。
「ん、」
 代わりに、小さなくぐもった声が漏れた。それを聞き届けた蓜島が、フ、と笑ったのが東はわかった。こんなに息遣いを感じる距離なのに、息を漏らして笑う蓜島の顔を見れなかったことを少し惜しく思ったけれど、ちっとも離れる気にはなれなかった。

「……おれ、幸せです」
「私もです」
 キスの合間に、そう溢した。自分を受け入れてくれた好きな人とのキスは、こんなに気持ちいいものなんだと、こんなにも幸せに思うのだと、東は初めて知った。
「東さん……もっとしてもいいですか?」
「…うん、」
 東はするりと蓜島の首に腕をまわして、髪を撫でる。蓜島は嬉しそうに微笑んだ。
 東のほうも、蓜島の微かな表情の変化を誰よりも近くで感じ取れることにちょっとした優越感は覚えていた。けれど蓜島のこの笑顔は、きっと誰が見ても笑っているとわかるだろう。

 けれどこんなに甘い顔を見られるのは、東だけの特権だった。東はそれが嬉しくて、愛しくてたまらなかった。

「もっと、ください」
「……かわいいひと」
 ちゅ、ちゅ、と柔らかさを感じる吸い付き合うキスをしていると、東の唇にぴたりと蓜島の熱い舌が触れる。それを招き入れるみたいに東が口を開けば、ぴちゃりと舌が絡み合う音が聞こえて、次第にキスは深くなっていく。

 東の作った食後のデザートのせいなのか、そのキスはひどく、甘かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

俺の婚約者は小さな王子さま?!

大和 柊霞
BL
「私の婚約者になってくれますか?」 そう言い放ったのはこの国の王子さま?! 同性婚の認められるパミュロン王国で次期国王候補の第1王子アルミスから婚約を求められたのは、公爵家三男のカイルア。公爵家でありながら、長男のように頭脳明晰でもなければ次男のように多才でもないカイルアは自由気ままに生きてかれこれ22年。 今の暮らしは性に合っているし、何不自由ない!人生は穏やかに過ごすべきだ!と思っていたのに、まさか10歳の王子に婚約を申し込まれてしまったのだ。 「年の差12歳なんてありえない!」 初めはそんな事を考えていたカイルアだったがアルミス王子と過ごすうちに少しづつ考えが変わっていき……。 頑張り屋のアルミス王子と、諦め系自由人のカイルアが織り成す救済BL

路地裏の王子様と秘密のカフェ ―10年ぶりに再会した親友はトップアイドルでした―

たら昆布
BL
大学生の千秋がバイト帰りの路地裏で助けたのは、今をときめくアイドル『GALAXY』のセンター、レオだった。 以来、レオは変装して千秋の働くカフェへ毎日通い詰めるようになる。 ​「千秋に会うと疲れなんて全部消えちゃうんだ」 トップアイドルとは思えないほど素直に懐いてくるレオに、千秋は戸惑いながらも多忙な彼を支えたいと願うようになる。 ​しかし、千秋はまだ知らない。 レオが10年前に「また絶対会おう」と約束して別れた泣き虫な親友の玲央本人だということに。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

たとえ運命じゃなくても、僕は

mimi
BL
「僕は自分の気持ちを信じたい。 たとえ運命から背を背けようとも」 音楽大学に通うΩの青年・相田ひなた。 努力家の先輩αと、 運命の番だと告げられた天才α。 運命か、愛情か―― 選ぶのは、僕自身だ。 ※直接的な描写はありません。

処理中です...