あまいの、いくつほしい?

白湯すい

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本編

56.夢

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 その晩は皆で作ったご飯とケーキを食べて、和やかに時間が流れた。
「聡介のケーキ、久しぶりに食べたわあ」
「ほんと、美味しいね」
「でしょ、でしょ」
 家族に褒められて嬉しそうに笑う東。お客さんの前で見せる笑顔とも蓜島に向けるものとも違う笑顔は、とても柔らかで愛おしいと蓜島は思った。
 実家に来る前から、帰ったら新作を食べさせてあげたいのだと話していて、ちょっとした道具や材料を持ってきていた東だから、家族の喜ぶ姿は心から嬉しいものだった。

「うちのイチゴを扱うのは、聡介が一番だな」
「…へへ、ありがとう」
 父親の言葉に、照れくさそうに、それでも本当に嬉しいのがひしひしと伝わってくる表情で応える東。
「良かったね、聡くん」
「……うん、誠生もありがとうね」


 夜もすっかり深まり、その夜は元々東が過ごしていた部屋で二人で眠ることになった。
 布団を敷きながら二人は話す。
「夕飯の前、父さんと何話してたの?」
「あ、その……何と言いますか……。東さんのことを」
「おれのこと?」
「はい。詳しいことは、伏せますけれど。お父様はお付き合いを肯定的に考えていただいているようでした」
「ええ、何それ。そりゃ良かったですけど、気になるなあ」
「ふふ、そこは秘密ということで。悪いことはもちろん話していませんよ」
「それは信頼してますけどね」
 賑やかな家族の中でひとり物静かな父親だが、厳しいとか怖いとかそういう存在ではない。東自身も何か変な話をしていたというような心配はまったくしていないようだった。
「…東さんには、のびのびと幸せに生きてほしいってお話ですよ」
「……そうですか」
 敷布団にかぶせたシーツをぴんと伸ばしながら、東は静かにそう返す。

「………おれ、長男なのに家を継ぐことなんて全然考えてなくて、弟に家のことは任せっきりで。そのへん、後ろめたさとかもあったんですけど」
 普段よりも少し小さな声で、まるで他の部屋にいる家族に聞かれないようにしているみたいに、東はぽつりぽつりと話し始める。
「でも、おれの夢はうちのイチゴをもっとたくさんの人に食べて美味しいって言ってもらいたい、それをおれの好きなことで叶えていきたいってことだったから。だからパティシエになることに迷いなんてなくて、でもそれは家族みんなが行ってこいって背中を押してくれたから、なんですよね」
「それで、今お店で夢を叶えられているんですね」
 初めて聞く東の夢に、蓜島の胸は熱くなる。東のその情熱を注いでできたものの素晴らしさを、蓜島はよく知っている。それのおかげで、今こうして東に出会えて、恋をしている。
 それがどれだけ得難いことで、奇跡みたいなものなのか。それを思うと、なんだか泣きそうにさえなる。

「おれ、もっと頑張りたいです。もっともっと、良いものが作れるように」
「これからも、応援しますよ」
「ふふ、ありがとう」
 背中を押してくれた家族にも、そばで支えてくれる愛しい人にも、もっとずっと喜んでもらえるように。そんな決意を告げて、受け止めて、優しい気持ちで夜は過ぎていった。
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