59 / 79
追加エピソード
むかしのはなし
しおりを挟む
そいつは、こんな田舎町では悪目立ちしてしまうくらいに、無駄に綺麗な顔をしたやつだった。変に持て囃されて、それなのにいい気になるわけでもなく、うまくやり過ごせるわけでもなく、いちいちそれに傷ついて、いつも人目のないところでこそこそと泣いていた。
和山は学生の頃のことを、そう振り返る。
「東くんの成績なら、もうひとつ上の高校でも大丈夫だと思うよ。いいの?」
「いいんです」
通っていた学習塾の相談室の横を通ると、そんなやりとりが和山の耳に入ってきた。
その塾は小さくて、相談室と言っても授業をやるスペースとちょっとしたパーテーションで区切られているだけの空間だったので、そこで話している内容は通りがかりに聞こえてしまうことがあった。
東という名前は和山も聞いたことがあった。塾に通うほかの女子生徒が美少年だなんだと騒ぎ立てていたのを聞いていたのだ。
(ふーん、あれが噂の美少年か。顔はよく見えないけど)
無理に覗き込めば見えないこともなさそうだが、そのときの和山にはそこまでするほどの興味がなかった。
少年時代の和山隆臣という男は、東だけでなくあらゆるものに興味がなかった。唯一執着しているものは、一刻も早く効率よく自立することだった。
和山がそうなってしまったのには理由があるのだが、誰にも話すことはなかった。
その後東と初めてちゃんと会ったのは、数日後のことだった。
「和山くん……だよね? これ、先生が渡しておいてくれって」
「……東くん」
先生からプリントを渡しておくように頼まれたらしい東が和山に話しかけてきた。和山はそこで初めてきちんと東の顔を見る。
なるほど、確かに綺麗な顔だ。女子たちが騒ぐのも無理はない気がする。
「あれ、おれのこと知ってるんだ」
「まあ、そりゃね。ありがとう、高校の案内か」
「そう。和山くんも同じところ受けるんだね」
「東くんもか。お互い頑張ろうな」
「うん」
そのときは、それくらいのことしか喋らなかった。東は人見知りで、和山は他人に興味がない。だから、そんなすぐに仲良くなるなんてことはなかった。
「よお、久しぶり」
「久しぶりだね」
そこまで親しくはなれなかった二人だから、受験が終わり無事に志望校に合格した次の日に、塾の先生へと合格の報告をしに行ったときに再会した。それまでも塾では見かけていたけれど、特に話すこともなかった。
「受かったんだね」
「まあ、無理のないところ選んだし。東くんもでしょ」
「え? ああ、うん」
「前に相談室でもっと上目指さなくてもいいのかって話てるの、聞いちゃったんだよ」
「ああ、そうだったんだ」
東はそれ以上何も言わなかった。だから和山も聞かなかった。
二人の進学先の高校はランクはそれほど高くはないところだったが、進学や就職のためのコースが多数あり評判の良い学校だ。
自立を目指す和山には都合の良いところであり、きっとそこを選んだ東もそうなのだろうと、特に理由は深く考えなかった。
和山は学生の頃のことを、そう振り返る。
「東くんの成績なら、もうひとつ上の高校でも大丈夫だと思うよ。いいの?」
「いいんです」
通っていた学習塾の相談室の横を通ると、そんなやりとりが和山の耳に入ってきた。
その塾は小さくて、相談室と言っても授業をやるスペースとちょっとしたパーテーションで区切られているだけの空間だったので、そこで話している内容は通りがかりに聞こえてしまうことがあった。
東という名前は和山も聞いたことがあった。塾に通うほかの女子生徒が美少年だなんだと騒ぎ立てていたのを聞いていたのだ。
(ふーん、あれが噂の美少年か。顔はよく見えないけど)
無理に覗き込めば見えないこともなさそうだが、そのときの和山にはそこまでするほどの興味がなかった。
少年時代の和山隆臣という男は、東だけでなくあらゆるものに興味がなかった。唯一執着しているものは、一刻も早く効率よく自立することだった。
和山がそうなってしまったのには理由があるのだが、誰にも話すことはなかった。
その後東と初めてちゃんと会ったのは、数日後のことだった。
「和山くん……だよね? これ、先生が渡しておいてくれって」
「……東くん」
先生からプリントを渡しておくように頼まれたらしい東が和山に話しかけてきた。和山はそこで初めてきちんと東の顔を見る。
なるほど、確かに綺麗な顔だ。女子たちが騒ぐのも無理はない気がする。
「あれ、おれのこと知ってるんだ」
「まあ、そりゃね。ありがとう、高校の案内か」
「そう。和山くんも同じところ受けるんだね」
「東くんもか。お互い頑張ろうな」
「うん」
そのときは、それくらいのことしか喋らなかった。東は人見知りで、和山は他人に興味がない。だから、そんなすぐに仲良くなるなんてことはなかった。
「よお、久しぶり」
「久しぶりだね」
そこまで親しくはなれなかった二人だから、受験が終わり無事に志望校に合格した次の日に、塾の先生へと合格の報告をしに行ったときに再会した。それまでも塾では見かけていたけれど、特に話すこともなかった。
「受かったんだね」
「まあ、無理のないところ選んだし。東くんもでしょ」
「え? ああ、うん」
「前に相談室でもっと上目指さなくてもいいのかって話てるの、聞いちゃったんだよ」
「ああ、そうだったんだ」
東はそれ以上何も言わなかった。だから和山も聞かなかった。
二人の進学先の高校はランクはそれほど高くはないところだったが、進学や就職のためのコースが多数あり評判の良い学校だ。
自立を目指す和山には都合の良いところであり、きっとそこを選んだ東もそうなのだろうと、特に理由は深く考えなかった。
1
あなたにおすすめの小説
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
俺の婚約者は小さな王子さま?!
大和 柊霞
BL
「私の婚約者になってくれますか?」
そう言い放ったのはこの国の王子さま?!
同性婚の認められるパミュロン王国で次期国王候補の第1王子アルミスから婚約を求められたのは、公爵家三男のカイルア。公爵家でありながら、長男のように頭脳明晰でもなければ次男のように多才でもないカイルアは自由気ままに生きてかれこれ22年。
今の暮らしは性に合っているし、何不自由ない!人生は穏やかに過ごすべきだ!と思っていたのに、まさか10歳の王子に婚約を申し込まれてしまったのだ。
「年の差12歳なんてありえない!」
初めはそんな事を考えていたカイルアだったがアルミス王子と過ごすうちに少しづつ考えが変わっていき……。
頑張り屋のアルミス王子と、諦め系自由人のカイルアが織り成す救済BL
路地裏の王子様と秘密のカフェ ―10年ぶりに再会した親友はトップアイドルでした―
たら昆布
BL
大学生の千秋がバイト帰りの路地裏で助けたのは、今をときめくアイドル『GALAXY』のセンター、レオだった。
以来、レオは変装して千秋の働くカフェへ毎日通い詰めるようになる。
「千秋に会うと疲れなんて全部消えちゃうんだ」
トップアイドルとは思えないほど素直に懐いてくるレオに、千秋は戸惑いながらも多忙な彼を支えたいと願うようになる。
しかし、千秋はまだ知らない。
レオが10年前に「また絶対会おう」と約束して別れた泣き虫な親友の玲央本人だということに。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
たとえ運命じゃなくても、僕は
mimi
BL
「僕は自分の気持ちを信じたい。
たとえ運命から背を背けようとも」
音楽大学に通うΩの青年・相田ひなた。
努力家の先輩αと、
運命の番だと告げられた天才α。
運命か、愛情か――
選ぶのは、僕自身だ。
※直接的な描写はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる