あまいの、いくつほしい?

白湯すい

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いつか熟して、あまくなる

完コピ

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「あとは東のお眼鏡に適えばってことで、見てやってよ」
「よ、よ、よろしくお願いします! 東さんと同じ製菓学校に通ってて、フランスに短期留学経験あります!」
 日を改めたとある夕方、店じまいをした後の厨房に和山は卯月を連れて行った。

「お前って、たまにおれにまったく相談なしになんでも進めるよね」
 当の東本人はどこか呆れ顔だ。東は採用テストをやるなんて話は聞かされていなかった。
「いいだろ。やる気じゅうぶん、経験者で男、SNSはあんまりやってない。何よりお前のファンだそうだぞ」
「はい、そうです!」
「……まあ、別に嫌だとは言ってないけど」
 そもそも厨房に他のスタッフを入れるのを嫌がっていた東だから、卯月がどうのということではなく、いざ仕事を軽く教えてみようという段階になって少し憂鬱になっていた。
 それに、憧れの目で見られるのは相変わらず苦手な東だ。開店時間やメディアへの出演中でもないところでスイッチを入れるのは難しいから、諦めて普通でいることにした。

「とりあえず任せたいのは、仕込みの準備かな。フルーツ類のカットとか素材の計量とか。計量は道具だけ覚えてもらえばできると思うからいいとして、ある程度技術がいるのはカット作業かな」
 東は用意した道具を並べてひとつひとつ説明していく。試作用の食材を差し出して、事前に研修用に作ってあった仕込みのための資料をぺらぺらとめくる。
「これがうちの定番のケーキね」
「知ってます! もう何度も食べて研究してます……!」
「そ、そう。ありがとう。これはイチゴをこうカットしてるんだけど、できるかな」
「こうですか?」
 卯月のナイフさばきは綺麗なものだった。繊細そうな白い指先が丁寧に素材を扱い、かつ素早くフルーツをカットしていく。
 それはいつも東の店に並ぶケーキを彩るフルーツとまったく同じカットの仕方で、研究しているという卯月の言葉は本物なのだと実感した。
「おお~、完璧じゃん」
「まじで綺麗にコピーされてるみたいでちょっと怖い……」
「ええっ、怖いですか僕?」
「仕事の指示以外の東の言うことはあんまり気にしなくていいよ」
 自分の知らないうちに技を盗まれていることはあり得ることだろうが、それを目の前で披露されるとどうにも気持ちが悪いものなのだろう。あくまで想像の域は出ないが、和山も東の気持ちはわからなくもない。
 しかしそれよりも、その後にも試作させた他のフルーツのカットも完璧だった卯月は即戦力に間違いないということが和山は喜ばしかった。

「……合格ってことでいいんじゃない」
 卯月の技術については、東も納得したらしい。多少指導する部分はあったものの、東が言ったことを素直に飲み込みそのまま再現できる技術は素晴らしく、東が出した課題はすべてクリアした。
 技術もさることながら、細かいことを言われても嫌な顔も困った顔もひとつもせずに楽しそうに作業する姿は誰の目にも好印象だ。

 華やかな外見をしておきながら根暗な東は、その技術が怖いのではなく卯月から溢れ出す光のオーラに気圧されている。
 テンションが低いのはそのせいだ。東がすごく明るく元気にニコニコしているような瞬間はそもそもありはしないけれど。

「ほんとですか!」
「うん、ばっちりだと思うよ。うちの店も明るくなっていいんじゃないか」
「ありがとうございます、頑張ります!」
 こうして厨房の人手不足も解決に向かい始めた。これはより店を成長させるチャンスだと、和山は心の中で喜んでいた。
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