あまいの、いくつほしい?

白湯すい

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いつか熟して、あまくなる

面接

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 次の日の朝、二人が店の前を整え開店準備をしながら、店先に貼ったアルバイト募集の紙を剝がそうとしていたその時。話しかけてくる一人の男の子がいた。

「あの、バイト募集、もう締め切っちゃいましたか?」
 線の細くて背の低い、中学生にも見えるような子だった。ふわふわと緩いクセのある髪とくりっと大きな瞳が印象的なかわいらしい男の子が、恥ずかしいけれど勇気を出して声をかけた、というような表情で立っている。
 幼い雰囲気だけれど意外なほどにハスキーな声をしていて、女の子でも中学生でもないということがわかる。

「いや、まだ決まった訳じゃないですけど……君は?」
「僕、ここで働きたいです! まだ応募してもよければ、どうかご検討よろしくお願いします!」
 かわいらしい彼はハキハキとそう言って、頭が地面についてしまうんじゃないかという勢いで頭を下げた。諦めかけていたところにいきなりのアルバイト希望の男の子で、そしてその圧に驚いた和山と東は思わず顔を見合わせた。

「……だめですか?」
 恐る恐る顔を少し上げて上目遣いで聞いてくる姿は子犬のようだった。あざとい仕草は、きっと無意識なのだろう。
「駄目じゃないですよ。履歴書が必要なんだけど、いつ用意できるかな?」
「履歴書、今持ってます。どうぞ」
「準備いいですね、ありがとう。そうだな……今これから時間あれば、ちょっと話せたりします? また次都合のいいときでもいいですけど」
 今日は販売スタッフが他に来てくれているし、開店まではまだ少し時間があるからと和山はそう切り出した。和山がそう言うと、男の子はパッと嬉しそうに笑って頷いた。
「時間あります! ぜひお願いします」
「じゃあ、中にどうぞ。裏で話しましょう。ってことだから東、あと準備頼める?」
「いいよ。今日はそんなに大変じゃないし」
「じゃ、よろしく」
 そう言って店の奥へと入っていく二人を、東が見送った。にこにこと手を振る東を振り返りながら、男の子は困ったようにはにかんで見つめていた。


「卯月諒一と申します。どうぞよろしくお願いします」
 改めて向かい合って座ってその子を眺めると、どこをとっても上品そうな子だった。卯月はとても幼く見えるけれど、履歴書の年齢は二十二。今年二十三歳になる、立派な成人男性だった。

「へえ、東と同じ製菓学校だったんですね」
「はい! 僕、東さんにずっと憧れてて、それでパティシエを目指して同じ学校に行きました」
「大学中退して製菓専門に通いなおして……先月勤め先を退職……前のところ辞めた理由を聞いても大丈夫?」
 和山が聞くと、卯月はぎくりとした顔をして言葉を詰まらせる。
「あ、あの……休みがまったくなくて……労働時間が十何時間とかが普通のところだったので……」
 返ってきた答えは、予想の範囲内のことだった。悲しいことだけれどこの業界には、割とよくある話だった。東はストレートで製菓専門に入ったので大学中退はしていないが、その後ブラック企業に勤めてしまったことまで同じなのか、と可哀相だけれど和山は少し可笑しくなってしまう。

「じゃあ一応経験者ってことなんですね」
「実務経験は数カ月なので、そう言っていいのかはわからないですけど」
「数カ月でも十分ですよ。店ごとのルールもあるだろうし、そこが染みつきすぎててもこっちとしてはありがたくない。あとウチは休みはしっかりとってもらうし、そんな長時間勤務もないです。アルバイトなんだから最初は少しずつとかでも大丈夫ですし」
「よかったです」
 安堵したように笑う卯月は、この店を始めて軌道に乗り始めたころの東に似ていた。ブラック企業に耐えた年数は違えど、別に長く耐えたほうが強いとか偉いとかはない。東は目的があって残っていたし、卯月は身を守るために辞めたのだから、どちらも賢明だ。

「僕、ジュジュのケーキは全種類知ってます。たくさん研究して、いつかこんなにすごいものを自分も作れたらって思っていたんです。なので今回の募集を見て、絶対チャレンジしたいって思いました」
 そう語る卯月の目はキラキラしていて、でも真剣そのものだった。
 か細くてどこか頼りなさげな男の子だけれど、育ててみてもいいかもしれないと和山は思った。
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