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いつか熟して、あまくなる
アルバイト募集
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アルバイト募集。洋菓子店での仕込み・調理補助のお仕事。経験・年齢不問。土日祝働ける方歓迎します。
―― パティスリー・ジュジュ
店の前にそんな張り紙があるのを、たくさんの人が見た。
パティスリー・ジュジュは、メディア出演もひっきりなしに依頼が舞い込む有名パティシエ東聡介の人気洋菓子店だ。東本人が直接手掛けるキラキラと美しくかわいらしいスイーツたちは連日閉店時間を待たずに完売することも多い。
そんな人気店でのアルバイト募集となれば、今の仕事を辞めてでも働きたいというような勢いで、応募が殺到するのは予想していた。
運営管理を取り仕切っている和山隆臣は、送られてきた履歴書の山を次々と確認していく作業に追われていたのだった。
「うわ、すごい量だね。おれも手伝ったほうがいい?」
「ああ、そうしてもらえると助かる」
東が厨房での仕事を終えてバックヤードに戻ると、ひどく散らかったテーブルの上を見てそう言った。和山は店のカウンターに立つために綺麗に整えられていた髪をぐしゃぐしゃにしながら、疲れた顔で返す。
「どういう基準で選んでるの?」
「まず製菓や調理を学んだことがある人。そうでない人なら若い人はまずダメ、たいていがお前目的だよ。そういうのは無理だろ」
「絶対むり~」
東はまるで人形みたいに綺麗な顔をだらしなくゆるめてそう言った。東はパティシエとして世間に認められているだけでなく、その外見の美しさからアイドル的な人気もあった。
メディアに見せているきらびやかでどこか儚げな王子様のイメージとは裏腹に、東はノリが軽くてゆるくて適当だ。気が弱くてネガティブなくせに、でも変なところにこだわりがあって頑固。女にモテるけれど、本性を知られたらすぐに振られていたような男だ。
もちろん基本的には優しくておおらかな性格だから友達付き合いをする分には居心地のいい存在で、和山とは高校生の頃からの友人だった。最近できた恋人の影響で、ネガティブなところも多少良くなってきたように見える。
「若い世代は特に、お前の話をあることないことネットで書かれたりなんかしたらたまったもんじゃない。ある程度年齢層は上の方がいい、主婦層も狙い目だけど……荷受けとかの力仕事もちょっとあるし、なるべく男性がいいんだよな」
「うーん……ねえ、そんなのないよ」
「そうなんだよな…………」
ふたりがいくつもぺらぺらと履歴書の山をめくっても、そんな希望の通る人物が見当たらない。和山自身も難しいことを言っているのはわかっているが、店のためには必要なことだった。
ようやく厨房に他の人に入ってほしくないという東を説得することに成功したというのに、これでは先が思いやられる。
結局、すべての履歴書を見終わっても目ぼしい人材はたった二人しか見つからなかった。ここからさらに面接してみて相手の希望も聞いて……としていって、採用に至るかどうか。
「……いったん、募集のチラシは剥がすか」
「募集やめるの?」
「そういう訳じゃないけど、もうちょっと方法を考えるよ。この二人には後で連絡して俺が面接してみる」
時間はもうすっかり夜になってしまっていた。これだけ時間をかけても面接できるのはたった二人。なるべくコストを抑えよう、応募は来るだろうと安易に自分たちでやろうとしたのが間違いだったのかもしれない。和山はそう思い直した。
ジュジュにも、販売のアルバイトスタッフたちは男女数名いる。思えば彼らがきちんと店のことを思って何もトラブルを起こさずに働いてくれていることがラッキーだったのかもしれない。
―― パティスリー・ジュジュ
店の前にそんな張り紙があるのを、たくさんの人が見た。
パティスリー・ジュジュは、メディア出演もひっきりなしに依頼が舞い込む有名パティシエ東聡介の人気洋菓子店だ。東本人が直接手掛けるキラキラと美しくかわいらしいスイーツたちは連日閉店時間を待たずに完売することも多い。
そんな人気店でのアルバイト募集となれば、今の仕事を辞めてでも働きたいというような勢いで、応募が殺到するのは予想していた。
運営管理を取り仕切っている和山隆臣は、送られてきた履歴書の山を次々と確認していく作業に追われていたのだった。
「うわ、すごい量だね。おれも手伝ったほうがいい?」
「ああ、そうしてもらえると助かる」
東が厨房での仕事を終えてバックヤードに戻ると、ひどく散らかったテーブルの上を見てそう言った。和山は店のカウンターに立つために綺麗に整えられていた髪をぐしゃぐしゃにしながら、疲れた顔で返す。
「どういう基準で選んでるの?」
「まず製菓や調理を学んだことがある人。そうでない人なら若い人はまずダメ、たいていがお前目的だよ。そういうのは無理だろ」
「絶対むり~」
東はまるで人形みたいに綺麗な顔をだらしなくゆるめてそう言った。東はパティシエとして世間に認められているだけでなく、その外見の美しさからアイドル的な人気もあった。
メディアに見せているきらびやかでどこか儚げな王子様のイメージとは裏腹に、東はノリが軽くてゆるくて適当だ。気が弱くてネガティブなくせに、でも変なところにこだわりがあって頑固。女にモテるけれど、本性を知られたらすぐに振られていたような男だ。
もちろん基本的には優しくておおらかな性格だから友達付き合いをする分には居心地のいい存在で、和山とは高校生の頃からの友人だった。最近できた恋人の影響で、ネガティブなところも多少良くなってきたように見える。
「若い世代は特に、お前の話をあることないことネットで書かれたりなんかしたらたまったもんじゃない。ある程度年齢層は上の方がいい、主婦層も狙い目だけど……荷受けとかの力仕事もちょっとあるし、なるべく男性がいいんだよな」
「うーん……ねえ、そんなのないよ」
「そうなんだよな…………」
ふたりがいくつもぺらぺらと履歴書の山をめくっても、そんな希望の通る人物が見当たらない。和山自身も難しいことを言っているのはわかっているが、店のためには必要なことだった。
ようやく厨房に他の人に入ってほしくないという東を説得することに成功したというのに、これでは先が思いやられる。
結局、すべての履歴書を見終わっても目ぼしい人材はたった二人しか見つからなかった。ここからさらに面接してみて相手の希望も聞いて……としていって、採用に至るかどうか。
「……いったん、募集のチラシは剥がすか」
「募集やめるの?」
「そういう訳じゃないけど、もうちょっと方法を考えるよ。この二人には後で連絡して俺が面接してみる」
時間はもうすっかり夜になってしまっていた。これだけ時間をかけても面接できるのはたった二人。なるべくコストを抑えよう、応募は来るだろうと安易に自分たちでやろうとしたのが間違いだったのかもしれない。和山はそう思い直した。
ジュジュにも、販売のアルバイトスタッフたちは男女数名いる。思えば彼らがきちんと店のことを思って何もトラブルを起こさずに働いてくれていることがラッキーだったのかもしれない。
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