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いつか熟して、あまくなる
試食会
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「和山、お前はどう思う? このケーキ」
「どうって言われてもね」
次の日の夕方、閉店後もしばらく残って東と和山は店の厨房を使って今度出す有名なチョコレート専門店とのコラボメニューを試作していた。
「これはまた豪勢な一品で。こんなの量産して売れないだろ」
「そうなんだよ……でもなんか……良いチョコレートを活かそうと考えるほどになんかこんな感じに……!」
作られていたなかで東が一押ししていたのは東が得意としている複雑な飴細工があしらわれた、トリュフチョコレートの形を活かして絶妙なバランスで自立しているとても美しいケーキだった。
「いやめちゃくちゃ美味いけどね。見た目がもうなんか美術品みたいでケーキの域を超えてるっていうか、あんまりケーキに見えなくて食べたいってならないっていうか」
「はあ~~、返す言葉もございません……」
「どうせあれだろ、最近なんか蓜島さんといいことでもあったんだろ」
「は、はあ? なんでだよ」
「お前がこういうキラキラ~で、ちょっとやりすぎなの作ってくるときはだいたいそうだろ」
「そんなことないし!?」
蓜島というのは東の恋人のことだ。二人はこの店で出会って順調にお付き合いを続けている。
たまに恋人への気持ちが大きくなりすぎると東は、その気持ちをぶつけたそれはそれは綺麗なケーキを新作として試食に持ってくるのだ。
そんないつもの二人が笑い合いながら過ごしているところを、帰り支度を終えた卯月が見ていた。
「あ、卯月くんもおいで。今度出すやつの候補、食べてみて」
「いいんですか!」
東が呼び寄せると、卯月は嬉しそうに駆け寄ってきた。和山はまるで飼い主と子犬だなと思ったけれど、黙っておいた。
「わああ、これがコラボ新作ですかぁ……」
「いや、多分それはボツ」
「ボツ!? こんなに素敵なのに!? じゃあこれはここでしか食べられないってことですか…?!」
「きみって何言っても面白い反応するよね」
東と卯月のやりとりは見ていて笑いそうになってしまう。東もようやく人見知り状態から卯月を良い子だと認識したようで、すっかり扱いにも慣れていつものゆるゆるな東になっている。
「出す予定なのはこっち。はい、あーん」
「あ、あっ……!?」
東が気を許すとたまに距離感を間違えるのが問題だ。自分のビジュアルの良さは自覚しているはずだけれど、自分をそういう目で見ない人だと思えばすぐこういう風に甘えたり甘やかしたりする男だ。
一緒に働く仲間ではあるけれど、そもそもが東の大ファンである卯月は本人からの『あーん』におおいに戸惑い、あわあわとしているうちに東のチョコレートケーキを食べさせられている。
「ど? おいしいかな?」
「……っ、お、おいしいですぅ……」
混乱と歓喜とその他色々の感情がごちゃまぜになった卯月は半べそをかきながら答える。
「えっ、泣いてんじゃん……美味しくない……?」
「本当に美味しいんだと思う。あと泣いてるのはお前のせいだと思うぞ」
東はドン引きしたまま「えっおれのせい?」と何もわかっていなさそうな様子だった。
その後はしっかりとどこがいいとかもっとこうしたらいいかなとか、ちゃんと職人らしい会話もしつつ突発的な試食会はお開きとなった。
「卯月くん、もう遅くなっちゃったし送るよ」
帰り支度を終えると、和山が卯月にそう声をかけた。
「えっ、そんな、悪いです」
「遠慮しなくていいよ。東も送るついでだし」
「卯月くんちょっと家遠いでしょ? 甘えちゃいなよ」
「東なんて徒歩五分なのに乗せてもらう気満々なんだからね」
「そうそう」
悪びれずにこにことしている東がなんだかおかしくて卯月も笑ってしまう。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「よし、じゃあ帰ろ~」
「どうって言われてもね」
次の日の夕方、閉店後もしばらく残って東と和山は店の厨房を使って今度出す有名なチョコレート専門店とのコラボメニューを試作していた。
「これはまた豪勢な一品で。こんなの量産して売れないだろ」
「そうなんだよ……でもなんか……良いチョコレートを活かそうと考えるほどになんかこんな感じに……!」
作られていたなかで東が一押ししていたのは東が得意としている複雑な飴細工があしらわれた、トリュフチョコレートの形を活かして絶妙なバランスで自立しているとても美しいケーキだった。
「いやめちゃくちゃ美味いけどね。見た目がもうなんか美術品みたいでケーキの域を超えてるっていうか、あんまりケーキに見えなくて食べたいってならないっていうか」
「はあ~~、返す言葉もございません……」
「どうせあれだろ、最近なんか蓜島さんといいことでもあったんだろ」
「は、はあ? なんでだよ」
「お前がこういうキラキラ~で、ちょっとやりすぎなの作ってくるときはだいたいそうだろ」
「そんなことないし!?」
蓜島というのは東の恋人のことだ。二人はこの店で出会って順調にお付き合いを続けている。
たまに恋人への気持ちが大きくなりすぎると東は、その気持ちをぶつけたそれはそれは綺麗なケーキを新作として試食に持ってくるのだ。
そんないつもの二人が笑い合いながら過ごしているところを、帰り支度を終えた卯月が見ていた。
「あ、卯月くんもおいで。今度出すやつの候補、食べてみて」
「いいんですか!」
東が呼び寄せると、卯月は嬉しそうに駆け寄ってきた。和山はまるで飼い主と子犬だなと思ったけれど、黙っておいた。
「わああ、これがコラボ新作ですかぁ……」
「いや、多分それはボツ」
「ボツ!? こんなに素敵なのに!? じゃあこれはここでしか食べられないってことですか…?!」
「きみって何言っても面白い反応するよね」
東と卯月のやりとりは見ていて笑いそうになってしまう。東もようやく人見知り状態から卯月を良い子だと認識したようで、すっかり扱いにも慣れていつものゆるゆるな東になっている。
「出す予定なのはこっち。はい、あーん」
「あ、あっ……!?」
東が気を許すとたまに距離感を間違えるのが問題だ。自分のビジュアルの良さは自覚しているはずだけれど、自分をそういう目で見ない人だと思えばすぐこういう風に甘えたり甘やかしたりする男だ。
一緒に働く仲間ではあるけれど、そもそもが東の大ファンである卯月は本人からの『あーん』におおいに戸惑い、あわあわとしているうちに東のチョコレートケーキを食べさせられている。
「ど? おいしいかな?」
「……っ、お、おいしいですぅ……」
混乱と歓喜とその他色々の感情がごちゃまぜになった卯月は半べそをかきながら答える。
「えっ、泣いてんじゃん……美味しくない……?」
「本当に美味しいんだと思う。あと泣いてるのはお前のせいだと思うぞ」
東はドン引きしたまま「えっおれのせい?」と何もわかっていなさそうな様子だった。
その後はしっかりとどこがいいとかもっとこうしたらいいかなとか、ちゃんと職人らしい会話もしつつ突発的な試食会はお開きとなった。
「卯月くん、もう遅くなっちゃったし送るよ」
帰り支度を終えると、和山が卯月にそう声をかけた。
「えっ、そんな、悪いです」
「遠慮しなくていいよ。東も送るついでだし」
「卯月くんちょっと家遠いでしょ? 甘えちゃいなよ」
「東なんて徒歩五分なのに乗せてもらう気満々なんだからね」
「そうそう」
悪びれずにこにことしている東がなんだかおかしくて卯月も笑ってしまう。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「よし、じゃあ帰ろ~」
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