チルアウト・コミュニケーション

白湯すい

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困っていること

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 辻さんがちょっと、アレすぎて、困っている。
 アレ、というのは、流石に言葉にするのは憚られるから、言いたくはない。

「ああ、喜多村くん。今日もよろしくね」

 このところ仕事が立て込んでいるのか、少しくたびれた様子の辻が出迎えてくれる。夏らしいラフな格好のまま煙草を吸っていたらしく、その気だるげな雰囲気と甘い煙が絵になりすぎていて困る。

「お疲れですね。すぐ片付けますから、今日は何か食べやすくて栄養のあるもの作っておきますよ」
「ああ、ありがとう。本当に助かるよ」

 最近になって信頼を置いてもらえたのか、掃除洗濯に買い出しの他に、食事の作り置きなんかも任せてもらえるようになっていた。継続して訪問していれば掃除や片付けなんかは一回ごとにかける時間は少なくできるし、料理は得意なので役に立てることが増えて嬉しかった。
 辻さんは俺の料理をたいそう気に入ってくれたらしく、いつも美味しかったよとニコニコしながら伝えてくれる。

「……最近の僕は本当に、きみが居ないとだめだな」

 ……けれど、そんな風に言うのは反則だろうと思う。俺はそんな辻さんの言葉を受けて、素直に嬉しいやら、ちょっと変な気分になるやらで複雑だった。

(せっかくそういうことにならないようにって男の俺が来るように頼んでくれてるのに、俺がそういう気持ちになってどうするんだ……)

 そんな風に考えながら俺はその日の買い出しに出た。疲れている辻さんのために栄養があるけど食べやすいものを…と考えを巡らせてしまうことは、事実辻さんのためになることなのだからいいとして。
 絶対につき纏ったり無理に関係を迫ったりなんてことはしないけれど、多少ドキドキしてしまうっていうのは、セーフなんだろうか。
 俺はもう考え過ぎて、よくわからなくなってしまっていた。


「辻さん、戻りました~……辻さん?」
「……んん……」
「……寝ちゃってる」

 家に戻ると、辻さんは仕事の原稿を執筆中なのであろうノートパソコンを開いたまま、眠ってしまっていた。しばらく一緒に過ごすようになったけれど、もちろん寝顔なんて初めて見た。
 初めて見る一面がまた増えて嬉しいような、せっかく安心してくれているのにそういう気持ちになってしまうことに申し訳なさも覚える。そんな風に心が行ったり来たりしているうちに、辻さんのまぶたが少し震えて、薄くゆっくりと目を開いていった。

「……ん、きたむらくん……?」
「辻さん。寝ちゃってましたよ」
「うんん……いつの間に……」

 自分でも寝てしまうつもりではなかったらしい。机に突っ伏すように眠ってしまっていた体はぎしぎしと痛そうで、ぐっと伸びをしてあくびをひとつ。
 そうして少し涙が滲んだまま、辻さんは寝顔を見られて恥ずかしそうな表情のまま、俺に言った。

「おはよう、きたむらくん。おかえり」

 寝起きで少しだけ滑舌が甘い辻さんが、そんなことを言ってくれたのだ。
 これで、ドキドキもするなというのは無理な話だと思った。
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