チルアウト・コミュニケーション

白湯すい

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自覚

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 喜多村くんが来てくれるようになってから、明らかに生活が整ってきている。
 これまでも何人か家事代行を呼んだことはあったけれど、こんなに気持ちよく過ごせるようになったのは初めてのように思う。

 朗らかで裏表のなさそうな人柄だけでなく、彼はかなり有能らしかった。
 面倒くさがりな僕の性格をよく理解して、部屋のゴミ箱の配置や片付けの動線などを相談しながら工夫し変えていってくれたおかげで、やってもらうほどじゃないにしても、自分自身でもこれまでよりもずっと綺麗を維持できるようになってきている。
 そして何より、喜多村くんは料理が上手い。プロ級という訳ではないが、素朴で安心する家庭料理の味にほっとする。辻はすっかり胃袋を掴まれていた。

 そんな信頼感と彼自身の人柄による圧倒的な安心感もあってか、完全に気を許してしまっている自分に気付く。

(あくまでただの客とスタッフなのに、色々と話して親しくしてしまっているし、何より彼の前で居眠りするところまで見せてしまうなんて……いくらなんでも腹を見せすぎなんじゃないか、僕は)

 いい歳して、若い男の子に懐いて腹を見せている犬やら猫やらのようになってしまった気分だった。


 気を許し過ぎている自覚はあるし、それに少し気恥ずかしさを覚えたものの、かと言って急に余所余所しく接するのも違うなと思い、これまで通りに接しようと努めた。

 次の週、喜多村くんはいつもの曜日のいつもの時間にやってきた。

「……どうも、今日もよろしくね」
「? はい!よろしくお願いします」

 一瞬、これまで通りってどんな風だったかと考えてしまい、変な間を置いてしまった。そんな僕の妙な態度に喜多村くんは少し不思議そうな顔をしていた。

「辻さん、最近おうちの中良い感じですね」
「そうかな。まだ喜多村くんがやったみたいにはできないけど、自分でも無理ない範囲でやりやすくなったなとは思っていたんだ」
「よかったです! ……そのうち、俺が来なくなっても大丈夫になりそうですね?」
「……っ、そんなことはない。きみが来なくなったら、また足の踏み場もなくなる」
「ふふ、そうなんですか? 当社としてはリピートいただけるのは助かります! なんてね」

 そうわざとらしいセールストークで和ませてくれる喜多村くんがかわいい。

(ああ、やっぱり僕は喜多村くんのことがかわいいんだな)

 僕はそう自覚してしまった。

「俺としても、辻さんに会えなくなっちゃうのは寂しいので、利用続けてもらえるのは嬉しいです。ほんとはご自身でできるようになるのが一番なんでしょうけど…お仕事が忙しかったりすると、どうしても無理は出てきてしまいますよね」
「……そんな風に思っていたのか」
「あっ……す、すみません。寂しいなんて……気持ち悪いですよね」

 あ、少し失敗したかもしれない。僕はふとそう思った。
 喜多村くんのどこか申し訳なさそうな表情を見て、きっと僕が以前話したスタッフに好意を持たれてストーカー行為をされていた事実に気を使っているのだろうと察することができた。喜多村くんは、そんなこと気にしなくたっていいというのに。
 きっとお互いに『これまで通り』だとか『ただのお客さんとスタッフの関係でいないといけない』だとかにこだわりすぎて、むしろこれまでできていたはずの自然なコミュニケーションが難しくなっていってしまっている。そのことが、とてももどかしくて居心地が悪かった。

「気持ち悪いだなんて、そんなことはないよ。だってきみは、『そういう』んじゃないだろう?」
「……っ、……そう、ですね」

 ただ自然体で、普通に気を許せる相手に気楽に過ごしていてほしいのに、何故だかそれがうまくいかない。気を使ったはずの言葉が、また何か間違えたらしいというのだけは、僕にもわかった。
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