つのつきの子は龍神の妻となる

白湯すい

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結婚生活のはじまり

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 フェイが目を覚ますと、知らぬ天井が見えて驚いた。昨日初めて龍神のもとへ来て、ここで暮らすこととなったのだったとすぐに思い出す。
 王宮の離れから外へ出ない生活を送っていたフェイは体力がなく、城の裏手にある山道をしばらく歩いただけでへとへとだったようで、昨日はすぐに眠ってしまった。

 これではいけないとフェイは起き上がる。広い寝台の隣で眠っていたはずの彼はもうそこには居なかった。身支度を簡単に整えてから屋敷の外へ出てみる。

「龍神様、おはようございます」
「フェイ、もう起きたのか」
「はい。ゆっくり休ませていただきました」
 フェイはまだ少し体が重く感じていたが、そのまま眠り続けるのも疲れてしまうと思った。

「その『龍神様』というのは些か仰々しいな。もっと気楽でよい」
「では、何とお呼びすれば?」
「そうだ、名を名乗っていなかった。私はルイという」
「ルイ様」
「様はいらぬ」
「では、ルイ」
「うむ、それでいい」
「龍神を呼び捨てるなど、少し落ち着きませんね」
「人間たちは私を神としているが、私自身は神として在るわけではない。人が長く生きているものをありがたがっているだけだよ」
「そういうものなのですか」
「ああ。人に作られた神は信仰なくして存在することは叶わないが、私はただの龍。あたりに同じように暮らしている妖精たちと何ら変わりない」
「妖精たち?」
 フェイが首を傾げると、ルイは屋敷の屋根を指さした。
「あの妖精たちは私に仕えてくれている生き物たちでね。しばらく使っていなかった屋敷が薄汚れていたから、掃除を頼んでいたところだ」
「……本当だ。私に姿は見えませんが、何かが屋根をきれいにしていくのがわかります」
「なんだ、フェイは森の生き物が見えないのか」

 ルイはそう言うと、その大きな手でフェイの目元をそっと覆う。フェイは驚いたが、触れる力が優しかったので怖くはなかった。少し触れられた手にあたたかさを感じたかと思うとルイは手を離した。フェイが目を開けると、先程ルイが指さした屋根のあたりでふわふわと光る何かがせっせと動いているのが見える。それら以外にも、森にはたくさんの妖精が飛び回っている。

「……っ、わあ」
「ほら、これで見えるか? ほんの少し、私の力を与えた」
「すごい、きらきらしています。私たちの周りには、たくさんの命が輝いていたのですね」
「今はフェイが珍しいからと妖精たちもはしゃいでいる、かなり多く見えるだろうが、そのうち落ち着くよ」
「そうなのですね。私は歓迎されているのでしょうか?」
「振る舞い次第だが、フェイなら問題ないだろう」
「ならば、よかったです」

 妖精たちは住処を荒らされるようなことがなければ来た者を拒むことはしない。むしろ彼らは好奇心旺盛で新しいことが大好きだ。その反面飽き性ですぐに特別な興味はなくしてしまう。受け入れられれば、さほど時間も経たないうちに仲間として扱われるだろう。

「私はこれから少し仕事で出掛ける。フェイは自由にしていてくれ」
「は、はい。お仕事ですか」
「ああ、日が落ちる頃には戻るよ」
「いってらっしゃいませ」

 ルイはそう言ってまた龍の姿に戻り、あっという間に山の向こうへと飛んでいってしまった。

 ひとり残されたフェイは屋敷の周りを散歩する。王宮の窓から見える庭にあった植物よりもずっと多くの種類の草花を見つけることができる。
「あれは、何という花だったか。ああ、気に入っていた本くらい持ってくるのだった」
 フェイはそんな風に思ったが、死ぬと思っていたところに本など持っていくものかと少しおかしくなった。


 言葉通り、ルイは夕方に戻ってきた。

「フェイ、戻ったよ」
「おかえりなさいませ。お仕事ご苦労様でございました」
「腹は減っていないかい。魚を貰ってきた」
「そういえば、何も食べていません」
「それはいけない。人の子はちゃんと食事が必要だろう」

 ルイは手早く籠に入った立派なマスを簡単に開いて血を洗うと串に刺して塩をふり、囲炉裏に起こした火でそれを焼き始めた。

「ルイは料理ができるのですか」
「料理なんてたいそうなものはできない。魚はうまい食べ方を昔人間が教えてくれた」
「そうだったのですね。私も知りたいです」
「今度魚をとりに行こう。そしたら教えてあげるよ」
「本当ですか。嬉しいです」
「焼けるまで少しかかる。火にあたりながら話そう」

 ふたりは棚から湯呑を出して囲炉裏の火で湯を沸かしながら話をする。

「今日は何をしていた?」
「屋敷の周りを見て歩きました」
「退屈はしなかったか。いきなり一人にしてすまなかった」
「いいえ。王宮では見られない草木や花がたくさんで、見ていて飽きませんでした」
「それならよかった。植物が好きなのか」
「はい。窓から眺める庭は季節や時間で変わっていきますから、それが私の楽しみでした」

 そう話すフェイの表情に悲壮感はかけらもない。きっとフェイは不自由な生活のなかで上手に楽しみを見つけて心からそれを愛していたのだろうとルイは思う。
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