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 個人住宅のリフォームの打ち合わせは、お気楽な俺でもそれなりに気を遣う。
 普段は傲慢な態度をとっていても、仕事は仕事と割り切れるところが自分でも凄いなぁと感心する。
 ただ、相手の出方次第によっては、昨日のように話を抉らせてしまうこともしばしばあった。
 そんな時は決まって、華城がフォローに回ってくれる。彼の冷静な判断力に、今までどれだけ助けられたことだろう。
 そういう所はさすが年上だと感じるが、本人はあくまでも後輩であり、先輩である俺を立てることに専念したいようだ。
「――それでは、最終の見積書が出来た段階で、再度打ち合わせと言うことでよろしいでしょうか?」
 まだ若い……と言っても三十代半ばの夫婦が笑顔で頷く。
 元々は御主人の両親が住んでいた家に夫婦が同居することになり、今の間取りや設備では不憫だと両親のたっての希望でリフォームに踏み切ったようだ。
 設計は自社設計なので、多少の変更などの融通はきく。
 それに、地域に密着した地盤を持ったA建設なら……ということで声を掛けてくれたらしい。
 修行という形で入社したこの会社を最初は完全にナメていた。
 名前は昔から聞いていたが、一流でもなく三流でもないどっちつかずな会社が、どの程度の仕事をこなせるんだ――と。
 しかし、フタを開けてみれば地域活動として周辺のゴミ拾いや、地区の年中行事への積極的な参加などで、人と触れ合う事が多い。これは社長の経営方針の一つであり、人との繋がりを大切にしながら、会社を盛り上げていくというものだ。
 最初は面倒臭がって参加もしなかった行事も、渋々ではあるが今では参加するようになっていた。
 上司からの圧力では決してない。俺自身が追い詰められたからだ。 
 杉尾建築設計事務所の次男といえば誰もが「あぁ……」と声をあげる。
 メディアの力というのは恐ろしいもので、俺自身を知らなくても父親の顔は浮かんでくる。
 それに加えて、一度見たら忘れないであろう俺の顔。
 俺が参加するだけで必然的に社員の参加率は上がり、会社の株も上がるが、同時に父親の株も上がる。
 下心を巧みに使った新手の営業戦略といったところか。
 おかげで小さくても民間の仕事はコンスタントに入ってくるし、ホームページや口コミなどでも評判は広がっているようだ。
 無駄な広告費を使わずに、社員全員を使っての街頭活動の方が安上がりで成果も高い。
 俺のような女王様がやるような仕事とは思えないのだが……。
「改めて、後日ご連絡を差し上げます。――失礼いたします」
 玄関先で深く腰を折って挨拶を済ませると、俺は車の助手席に乗り込んだ。
 即座にシートを倒し、背中を預けると大きく伸びをする。
「はぁ~。疲れたぁ……」
 少し遅れて車に乗り込んだ華城が、そんな俺の様子を見て呆れたようにため息をついた。
「まだ一件目ですよ。これから昨日のクレーム処理です」
「――俺、いかなくてもいい?」
 一瞬、見開かれた目がすぐに冷静さを取り戻す。野性味のある黒い瞳の奥に苛立ちのようなものを滲ませながら俺を見つめている。
「杉尾さん……。あまりこんな事は言いたくはないんですが」
「なに?」
「あなたの仕事にケチをつける気はありませんけど、自分で蒔いた種くらい自分で片付けて欲しいですね。昨日、先方に出向く前に言ったじゃないですか。あそこの専務は少々クセ者だって……。俺の忠告も聞かないで突っ走った結果がこれです。自覚してますか?」
「してるよ。でも、仕方ないじゃん。頭にきたんだから……」
 以前、当社が施工した物件であるビル管理会社、F不動産からのクレームに呼び出された俺たちは、専務である早川はやかわにあることないことを並べ立てられ、それはもはやクレームの域を遙かに超えていた。
 当初からうちが施工することに反対していた彼は、社長に押し切られる形で自分を押さえ込んだ。その反動が今になって爆発した……と言うことだろう。
 建物の引き渡しが済んで三年以上。保証期間は一年として契約書に謳ってはあるが、事あるごとに呼び出され、挙げ句の果てには利益の出ない、もはや持ち出し状態の工事を強要されている。
 営業部内ではブラックリスト入りも検討されているが、契約者は社長であるために一概に決められない。
 おそらく専務の早川の言動は、社長の知らないところで行われているのではないかと推測される。
 典型的な長いものには巻かれろ体質な彼は、社長の前では良き忠犬として尻尾を振っていい顔をする。。
「――それにまた、利益の出ない工事受注して怒られるのは部長だよ? 工事部からも文句言われて、役員会では針のムシロ。それを回避するためにやったことなのに、なんで怒られなきゃなんない? 理不尽だろ……」
 俺は上着のポケットから煙草を取り出すと、それを唇に挟んで火をつけた。ゆっくりと、気持ちを落ち着けるように煙を吐き出す。
 そして、エンジンのかかっていない車内に揺らぐ白い煙を見るともなくぼんやりと見ていた。
「あなたの言い分は十分わかっています。ですが……営業という仕事はそれも含めてのことなんじゃないですか?」
「はぁ? 赤字確定の案件取って、文句言われて……。お前さぁ、どこまでお人好し? 商社の営業はそれで良かったかもしんないけど、うちは建築屋だよ? 家一軒建てるのに、どんだけの思い切りが必要だと思ってるわけ? その金額に見合ったサービスして、メンテナンスして、お客さんの希望を出来るだけ反映させて、その上で利益を出すって、すっごい難しい事なんだぞ。それだけのことをしてもなお、文句言われるっておかしいだろ!」
 なんかムカつく……。
 華城が早川を擁護するような言い方をしたことに。
 いつも一緒に行動し、俺のことを理解してくれていると思っていただけに怒りと同時にショックも重なる。
「そりゃあ、引き渡しが済んでから三年も経てば、何処かしこに故障は出てくる。だけど、それは引き渡した当初からあった事じゃない。それを認めない早川にムカつくんだよっ。工事部の連中だって工期内に終わらせるために残業して間に合わせたんだ。アイツらだってムカつくだろ……。それを代弁して何が悪い?」
 ひとしきり声を荒らげて、口元に煙草を寄せる。吸い込んだ煙が喉にピリリと染みた。
 彼との言い争いは今までに何度かあった。しかし、今回は俺の気が静まらない。
 先輩という立場上、不慣れな華城に譲歩する場面はいくつかあったが、年下だからといってナメられるのは俺のプライドが許さない。
 灰皿に乱暴に煙草を押しつけると、俺は窓の外に視線を向けた。彼の視線を痛いほど感じる。こんな時にばかり見つめるのは、ずるい……と思う。
「――だったら、逃げないでください」
 静寂を破った低い声に、俺は視線をあげて彼の方を見た。
「あなたのさっきの言い方は、早川専務が面倒だから行かないという感じでしたよね? 俺の言い方が悪かった事は謝ります。そういう考えを持っているのなら、本人にぶつけたらどうですか?」
 まるで子供を諭すような物言いに、ますますイライラする。
 もとはと言えば、お前が俺を否定したことから始まったんだぞ・……。
 なぜ逆に俺が言いくるめられなきゃならない?
 唇を噛んだまま、そらすことなく見つめる華城の瞳に吸い込まれそうになる自分がいる。野性的で、どこか野心さえ抱いていそうな鋭い光を湛えた瞳。
 くっきりとした二重の奥にあるそれは、眩暈を起こしそうになるほど眩しい。
「――俺がフォローします」
 そう言って手元のキーを回し、エンジンをかけた彼はまっすぐ前を見据えた。
 ワックスで整えられた黒髪が端正な横顔を縁取る。
 その男らしい顔に見惚れている自分を叱咤し、ゆっくりと顔を背けた。
「勝手にしろ……」
 小さく呟いて、気怠げに髪をかき上げる。
 その時、彼がわずかに唇を綻ばせたことに俺は気付きもしなかった。
 互いに重々しい空気を持ち越したまま訪れたF不動産は自社が所有するビルの上階にある。
 他のフロアーはテナントとなっており、コンビニや飲食店が入っていた。
 社長の今居いまいは、先代の社長であった父親から引き継いだ二代目であるがかなりのやり手で、 不動産だけでなく分譲や住宅メーカーの依頼を受けての建て売りなどもやっており、最近では太陽光発電事業などにも参入し、手広く事業を行っている。
 代替わりして失速するという話はよく聞くが、この会社はまざましい成長を遂げている。
 当社の取引先としては有望株で、つまらないことで縁は切りたくない大切な顧客だ。しかし、ブラックリスト入り寸前になっていることは社長である今居は知らない。
 その原因を作っている早川は、クレーマーと言うには少々ガラも悪く、黒い繋がりがあるのでは? という噂もあとを絶たない。
 だが、F不動産はその手のフロント企業でないことは、こちらとしても調査済みである。
 俺は案内された応接室で、出されたお茶をじっと見つめながら大きく息を吐いた。
「――胃が痛い」
 仮病でも冗談でもない。食道のあたりがギュッと圧迫されているように息苦しい。
 いくら華城がフォローすると言っても、昨日の今日で自身の過ちを謝罪し、ムカつく早川に頭を下げることは俺のプライドが許さない。
 さて、どうやって切り出そうかと考えを巡らせるうちに、気のせいでは済まないレベルで胃が痛くなってくる。
 早川はまだ応接室に顔を見せない。
 俺は助けを求めるように華城に視線を向けた。しかし、彼はバッグから取り出した資料を真剣に見つめている。
「おい……」
 掠れる声で小さく呟くと、華城はたった今気づいたという顔で俺を見返した。
「――どうしたんですか? 顔色、悪いですよ」
「誰のせいだと思ってんだよ……」
 いつになく弱気になっている俺を見て、華城がふっと笑った気がして、苛立ちがまた募っていく。
 確かに――。彼の言うとおり、種を蒔いたのは俺だ。
 それを何とかしなきゃならないのは自分でも分かってる。でも――。
 なぜだろう。彼の前では強気でいたいという自分がいる。弱い所を見せたら、先輩でありながら後輩である彼にナメられそうで怖い。なにより、それが癪に障る。
 建設会社の営業経験は、はるかに俺の方が上だ。どんな理由があったか知らないが、商社を辞めて地方のゼネコンなんかに就職したヤツに、たった一年ちょっとで追い抜かれるのは絶対に嫌だ。
 それに……。堕とそうと思っている相手だからこそ、優位でいたい。
 悔しさにキュッと唇を噛んだ時、ソファについていた手に華城の指先が触れた。
 ビクッと肩を震わせ、自身の思惑を悟られたかと鋭く顔を向ける。しかし彼は、何事もなかったかのように再び資料に目を落とした。
(何だったんだ……今の)
 指先が触れただけなのに、一度跳ねた心臓がなかなか落ち着かない。
 こんな場所で、しかもこんな時に……。自身の体なのに制御できないなんて、あり得ない。
 何度か深呼吸を繰り返し、訳も分からず火照る顔を両手で覆った。
 そうこうしているうちに、勢いよくドアが開かれ早川が現れた。
 戦意を完全に喪失し、違う方向に向かってしまった情熱を呼び戻すには時間がなさ過ぎた。
「――今日はどのようなお話ですか? 昨日の件でしたら、もう……あなた方には失望したと言ったはずです」
 俺たちの顔を見るなり嫌悪感を露わにした彼は、傲岸な態度でソファに座ると長い脚を組んだ。
 黒髪を後ろに撫でつけ縁なしのメガネをかけた、いかにもインテリ風情な容姿は決して悪くはない。むしろ『イケメン』といっても納得する者は多いはずだ。
 でも、俺のタイプじゃない。こうして嫌悪感を抱くのは彼の言動だけではなく、合わないと本能的に感じるからだろう。
「昨日は……申し訳あ、り……ませんでしたっ」
 血を吐くような思いで、俺は体内に渦巻く悔しさを押し殺しながら頭を下げた。こんな真似はしたくない。華城の前でカッコ悪い自分を見せたくない。そんな俺を見て、早川は嘲笑うかのように鼻を鳴らした。
「なんの真似ですか?」
「当社といたしましては、クレームはクレームとして真摯に受け止め、今後……このよ……な、事が……ない……ように」
 息が苦しい。言葉を紡ごうとしているのに喉が張り付いたように乾いて声が出ない。
 心にない謝罪の言葉に、体が拒絶反応を起こしている。
 膝の上で握った拳がブルブルと震え、俺のストレスはもう限界に近づいていた。
「A建設さんと言えば地域密着型企業として有名ですけど、うちのビルのような欠陥工事をするような企業だと知れたら、信用もガタ落ちですよね? 私はね、自分が犠牲になったことで他の方々に同じ目に遭ってもらいたくないんですよ。こんなに次々に故障箇所が出るような施工をされたんじゃ、高いお金を支払って詐欺に遭ったも同然ですよね?」
 縁なしメガネの奥で容赦なく向けられる鋭い目が俺を射抜く。まるで獲物を見つけた蛇のような冷酷な視線は、相手の動きを封じ逃がす事を許さない。
俺が急に黙り込んだことをきっかけに、敵は一方的にとことん攻め込むつもりでいる。
 それに立ち向かう事も出来ず、上手く切り返す言葉も見つけ出せずにいる俺の精神は焼き切れそうになっていた。
 思い切り怒鳴ってやりたい。しかし、それをさせてくれなかったのは早川に向けられた華城のまっすぐな眼差しだった。
「――早川専務」
 それまで黙っていた華城が静かに口を開いた。その声音はまったく動揺を見せることなく落ち着き払っていて、大人の余裕さえ垣間見えるものだった。
「あなたがそう言うのでしたら、我が社も犠牲者と言っていいですね……。ありもしないクレームに振り回されて、工事担当者も正直迷惑しています。先日、社長の今居氏立ち会いのもと、あなたが仰った箇所をすべて検査しました。そのどの部分からも欠陥は見つからず、引き渡して三年以上経っている割には設備の方も問題なく稼働しています。エアコンのフィルターなどの消耗品は仕方ないにしても、構造的欠陥は一切ありませんでした」
 そう言って、それまで目を通していた薄いファイルに綴じられた資料をテーブルの上に差し出した。
「第三者機関発行の調査報告書です。社長にも同様の物をお渡しして、受領確認も頂いています」
 落ち着いた口調で、早川を窺うように上目遣いで見つめる。
 骨張った長い指先がファイルを開き、そのページに書かれた今居の直筆のサインを指す。
 それを見た早川の顔色が変わったことに気付いた俺は、目を見開いたまま華城と早川の顔を交互に見つめる事しか出来なかった。
「早川専務、あなたをクレーマーとして訴える気は毛頭ありません。ですが、これ以上当社が迷惑を被るような事があれば、威力業務妨害で訴えることも厭わない。営業風情が……とお思いでしょうが、当社の社長もそういうことであれば仕方がないと、私たちに一任してくれました。それは自分たちの仕事に責任と誇りを持っているからです」
「それは……脅迫、じゃないのかっ」
「これが脅迫であれば、あなたが今まで私たちにしてきたことも脅迫になりますね。ありもしない欠陥箇所をでっち上げて、無償で直せという。そして、このことが世間に知れたら信用を落とす……と言う」
 抑揚のない低い声で淡々と話す彼の横顔に、俺は釘付けになっていた。
 そんな資料の存在など今の今まで聞かされていなかったし、今居が立ち会って検査をしたという事も知らない。なにより、部長に「何とかしろ」という指示を出すのであれば話は分かるが、社長自らが平社員である俺たちに一任するなんてあり得ない話だ。
「私たちを疑うと言うのであれば、今居社長に伺って頂いても構いませんよ」
「お、おいっ! 華城……っ」
 もしもこれが華城のでっち上げだとしても、そこまで言う必要があるのかと聞いているこちらの方が不安になる。
 早川のことだ。社長の機嫌を損なわないように、本当にウラを取りかねない。
 グッと喉を鳴らしたまま黙り込んだ早川は、蛇のような目を俺からそらすと勢いよく席を立った。
「不愉快だ! お前ら、出入り禁止にしてやるっ」
「結構ですよ。あなたに頼まれても仕事はしたくありません。ただ、今居社長から新規物件の入札依頼を直接受けていますので、打ち合わせにはお伺いします」
「なにっ? そんな話は聞いていないっ」
 こめかみに血管を浮かせて声を荒らげる早川に、華城が冷たく言い放つ。
「F不動産が、あなたには一切関与させない意向で動いているプロジェクトです。専務という肩書きがありながら社員から除外される気分はいかがですか? あなたの存在意義はどこにあるんでしょうか?」
 ギリリと奥歯を鳴らして顔を歪めた早川は、勢いよくドアを開けて応接室を出て行った。硬質な靴音が遠のいていく。
 アカの他人に、自分が社内で浮いた存在だということを突き付けられて居たたまれなかったのだろう。
 事実、F不動産社内での彼の評判は良くない。クレーム処理でここを訪れるたびに、社長の今居をはじめ、社員たちに同情されたことが多々あったからだ。
 それにしても――。欺くのはまず味方から……とはよく言ったものだ。
 華城の話すべてが初耳で、俺の方が狐につままれた気分だ。
 早川が怒りにまかせて部屋を出て行った後、ゆっくりと長く息を吐く華城がいた。
「――帰りましょうか?」
 何事もなかったかのようにテーブルの上のファイルを片付け始める。その手際の良さに圧倒されながらも、俺はまだ頭の中が整理出来ずにいた。
「あの……さ。今の話って……」
 彼は俺を覗き込むように見ると、薄い唇をわずかに綻ばせて言った。
「嘘――は、言ってない」
 いつもと違う甘さを含んだ響きに、またも心臓が大きく跳ねる。
 その顔には不安の一片も感じ取ることが出来ない。自信に満ち溢れ、自分が言うことに間違いはないという余裕さえ感じられる。
「俺……何も聞いて、ない……」
 華城の実力と圧倒的な存在感を感じてしまった俺は、うまく呼吸が出来ずに浅い息を繰り返していた。
極度のストレスにヤられ、小動物のように震えていた自分が情けない。
「すみません。杉尾さんと事前に打ち合わせるべきでした」
「い、いや……。そういうんじゃ……なくて」
「実は勝算があったから、あなたを焚き付けたんです。あなただって、黙って早川専務の言いなりにはなりたくなかったでしょう?――あなたの性格、分かってますから」
 クスッと楽しそうに笑った彼の妖艶さに目を奪われる。いつも無愛想な彼からは想像出来ないほどの色香に当てられ、俺は目の前が一瞬真っ白になった。
 この顔を俺以外のヤツに見せるのか? どんなヤツが見る? それは、いつ、どんな時?
 そう考えただけで――ムカつく。
 こういうときに限って彼の香水が一段と香り立ち、体から放たれる雄のフェロモンと混じり合い、俺の理性をじわじわと侵し始める。
「か……、帰るぞっ!」
 俺は、完全に逆上せあがった顔を見られないように顔を背けながら立ち上がると、バッグを掴み応接室を出た。
 その勢いに、廊下で鉢合わせになったF不動産の女性社員が驚いて足を止める。
 そんな彼女を気遣うように丁寧に頭を下げている華城に、またまたムカつきながらエレベーターのボタンを叩くように押した。
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