仇敵騎士団長と始める不本意な蜜月~子作りだけヤル気出されても困ります~

一ノ瀬千景

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四章3

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 カイはジェインを応接間に通し、アデリナにも同席するよう言った。サーシャが用意したお茶に口をつけることもせずジェインはすぐに話を切り出す

「アデリナ嬢は明日にも実家であるミュラー家に帰す。そこからレイン殿下のもとへ輿入れすることになるだろう」

 次ら次へと告げられる急展開にアデリナは戸惑うばかりだったが、カイはジェインの来訪から想定していたのか「わかった」と簡潔に答えた。

「バタバタして申し訳ないが、早急に荷物をまとめてもらえるかな」

 穏やかな声で言って、ジェインは様子をうかがうようにアデリナの顔を見た。

「荷物と言われましても、この屋敷のものはすべてカイが手配してくれたものですし」

 アデリナの私物はほとんどない。

「気に入ったものはなんでも持っていけ。いらないものは捨てて構わない」

 カイの言葉にアデリナはがくぜんとして、彼を見た。カイの瞳はもうなにも映してはいなかった。

(あなたに贈られたドレスを着て、他の男のもとへ嫁げと言うの?)

 アデリナはカイの非情さに唇をかむ。ジェインが今後のことを簡単に説明してくれる。

「輿入れ自体は来月の予定だから、実家で準備を整える時間は十分にあるよ。ただ、こうなった以上は君がこの屋敷にいるのは問題だからね。カイ、荷物を運び出すための馬車や人員を手配できるか?」

「確認してくる」

 そう言って、カイは応接間を出ていく。

 ジェインとふたりきりで取り残されたアデリナは会話に困ってしまった。それはきっと彼のほうも同じだったのだろう。気づまりを吹き飛ばすような明るい声で、ジェインはアデリナに話しかける。

「本当に久しぶりだ。我が国の真珠はその美しさにますます磨きをかけたね」
「いえ、そんなこと……」

 アデリナは彼の前でどんな顔をすればよいのかわからなかった。ジェインもまた自分を憎んでいるだろうと思うからだ。

「カイとの結婚が決まった時点であいさつすべきだったのに、遅れて申し訳なかった」
「それは私の言うべき台詞ですよね。申し訳ありませんでした」

 アデリナが言うと、ジェインは明るい笑顔を見せた。つられてアデリナの口元も少し緩む。

「正直に言ってしまうと、君の家とはいろいろあったからね。どうすべきかと迷っている間に時間が過ぎてしまったんだ」

 アデリナ側もまったく同じだった。拒絶されるのを覚悟であいさつに出向く勇気はなかなか持てなかったのだ。

「でも、まさかお別れのあいさつになってしまうなんてね。残念だよ」

 ジェインは真摯な口調で言ったが、アデリナは微笑を浮かべて首を横にふった。

「気を使わないでください、ジェインさま。両家にとっては、これで……よかったんだと思います」

 この結末にオーギュスト家はほっと安堵したことだろう。気にするなと言ってはいたが、レガッタやオルコットも同じ気持ちかもしれない。

「両家にとってということは、本人たちにとっては違うのかな」

 からかうような瞳でジェインはアデリナを見る。アデリナは慌てて、否定の言葉を口にした。

「いいえ、私たちにとってもです。これでよかったんだと思っています」

 自分に言い聞かせるように、アデリナはきっぱりと言いきった。

(だって、こう言うしかないじゃない。カイがこの結末を受け入れたのなら、私にはもうどうすることもできない)

 泣きたい気持ちを必死にこらえて、アデリナは前を向いた。

「僕個人としては、カイは最良の相手を得たと喜ばしく思っていたんだけどね。兄の贔屓目を抜きにしてもカイは優秀で将来有望だ。でも、あの子は人に甘えるのが絶望的に下手くそだから……君ならカイが心安らげる場所を作ってくれるだろうと安心したのに」
「買いかぶりです」
「そんなことないさ。君はカイが唯一ライバルだと認めた相手だからね」

 ジェインは柔らかな笑みを浮かべる。その優しい笑顔に、どうしてかクリスティアの面影が重なった。

(クリスティア姉さま。私、どうしたらいいの?)

 ふたりの会話がちょうど途切れたところでカイが戻ってきた。

「問題なく手配できた。アデリナは午前中のうちにミュラー家に送り届ける」
「それはよかった。じゃあ僕はこれで」

 ジェインは用意されていたお茶を飲み干してしまうとソファから腰を浮かせた。カイの顔を見ると、なにかをためらうように視線を泳がせた。

「なんだ?」

 カイに問われ、渋々ながら口を開く。

「数か月内にカイにも新しい妻が決まるはずだ。その準備はしておいてくれ」

 カイは眉根を寄せて、じっとこらえるように押し黙った。アデリナは耳を塞いでしまいたかった。

(新しい妻……この屋敷に別の女性が……)

 当然にわかりきっていることなのに、胸が引き裂かれるように痛んだ。苦しくて、この世界から消えてしまいたくなる。
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