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4京子ちゃん

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4京子ちゃん

 ああ、やっぱ普通の我が家は落ち着く! 
この石の不思議な力と僕の見た世界のはなしを誰かに聞かせたいなぁ。 
どんな顔をするか楽しみ。 信じてくれるかな? 
呟きながらケンタは携帯で京子にメールして札幌駅のミルキーコーヒーで待ち合せた。  

「今日はごめんね京子ちゃん。 久しぶりだね」

「ケンタくんから電話なんて滅多にないから驚いちゃった」  

「ごめん、ごめん。 せっかくの休みなのにお昼一緒にどうかなと思って。 
それに聞かせたい不思議な話があるんだ」

「な~に、またエッチな話しでしょ」

なんかむかつく「実はさあ~」札幌に来てからのことを一気に喋りまくった。 

「どう信じられる……?」

ケンタの話しをなにも言わずに聞いていた。 京子ちゃんはケンタの顔を擬視してひと言
「ケンタくんバイバイ。 私帰るからそれじゃぁ」

京子は椅子から立ち上がった。 

「チョ、チョット待ってよ京子ちゃん」ケンタは慌てて京子の腕をつかんだ。

「ほら、これがその石だよ。 作り話じゃないから」そう来るだろうと予め石をポケットに忍ばせていた。
 
「これが……?」  

「そう」 

「この石が?」 

「そう」  

「朝起きたらいきなり?」  

「そう」  

「ケンタくんもうひと言いい?」 

「うん、どうぞ」

「ばっかじゃないの……?」

か~超ガッペむかつく、なんだこの女……%$($%)

「もういい、僕が悪かったよ。 この話し忘れてごめん」

「でも、ケンタくん面しろ~い。 うける~」

「話しにすごくリアル感がある! どうやったら思いつくわけ? そんなSFみたいなはなし……?」 

「思いつきじゃあないよ。 体験談だからさ、そのまま話してるんだけどね」 

「笑ってごめんね。 話しがいきなりだったからつい」

その後、話題を変え食事をし夕方帰宅した。

やっぱり話しがぶっとんでるよなあ。 経験した俺自身が最初はとまどったから。 
京子ちゃんならわかってくれると思ったけど、京子ちゃんでも無理ないか……? 

ポケットから石を取り出し、また眺めながら寝入ってしまった。 ケンタのつかの間の休日だった。 
翌朝、テーブルにあった携帯の音で目が覚めた。

「ハイ、ケンタ」  

「京子だけど、まだ寝てた? ごめんね」 

「うん寝てたけど今何時?」 

「昨日の今頃~~」

京子の古いギャグにケンタはむかついた。

「で、なに?」 

「昨日、話してたあの石なんだけど二~三日、私に貸してくんない」

「ああ、いいけど何処に届ければいい?」  

「じゃあ、例のミルキーコーヒーに六時頃でどう?」 

「了解」


 ケンタは約束の場所に来た「やあ、待ったかい?」 

「私も今来たところ。 早速なんだけど私一晩考えたんだ。 ケンタくんの見た世界ってケンタくんの
世界観だよねぇ。 たとえば私の世界観で見たらどういう世界が展開するのかなって思ったのね」 

「なに! じゃあ僕のいうこと信じてくれたわけ?」 

「あっ、それは別」 

京子は目を輝かせながら「それで、もし私も同じような経験ができたらどんな世界に行くのかなと思ったら、
昨日は寝れなくって。 つい朝早かったけど電話したわけ。 チョット早かったけどごめんね」  

「チョット早い…… 朝の四時がチョット早いなの?」 

「メンゴ、メンゴ」 

京子の古いギャグにケンタはまたむかついた。  

「もし京子ちゃんがトリップ出来て、その世界から戻りたくなったらこの石を手で握り、
もとの部屋を思い浮かべてね、僕の場合はいつもそうやったんだ」  

「ありがとう。 また連絡する。 コーヒーは私が払ってあげるね」

払ってあげるってか? 呼び出した京子ちゃんが払うのが筋だろが…… 
と思った。 ケンタはまたむかついた。

石を借りた京子は、夕食後早速石を握り目を閉じた。 が、なかなかケンタのいう通りにならなかった。  
やっぱりケンタに一杯食わされたかな?
京子はそのまま寝入ってしまった。 翌朝目が覚めふと横を見ると、えっ!  
だれかが同じ布団で寝ている? しかも男っぽ。 やだ! 誰……? 
恐る恐る確認すると隣で寝ているのはケンタだった。

京子は思わず「ケンタ! てめぇどこで寝てるんだ……」

布団を一気にはぎ取った。 ケンタはびっくりして飛び起きた。 

「な、な、なんだよ、びっくりするなぁ」  

「ビックリするのはこっちよ。ケンタくんがなんでここにいるわけ?」 

「質問の意味が解らないけど……?」目をこすりこすり言った。 

「だから、あんたがなんで私と一緒に寝てるわけ?」 

「あのさっぁ、いつも一緒に寝てるし、それよりも夫婦なんだから当たり前だろ…… なんで?」
 
「夫婦? 私とケンタが夫婦……?」 

「私、ヒデキくんがよかった~っ!」  

「京ちゃんそれどういう意味さ?」  

ケンタはなんかむかついていた。 そう、京子は別世界でケンタとは夫婦だった。 
ひととおり複数の世界を観てきた京子は考え深げに。 複数の世界はどこかで重なっている……?  

そして一週間がすぎた。 駅のミルキーコーヒーでおちあった二人は、自分たちがこの札幌いや、
世界の中で特別な経験したことを噛みしめていた。

「ケンタくんこれからどうするの……?」

「どうって、どうもしないよ。 それに何かするといっても何をどうすればいいのかわからないし」 

「そうね~」

二人、沈黙のままコーヒーを飲んだ。

「京子ちゃんは行く先々で側に必ず案内役の存在っていなかった?」 

「いた。 困ったときは色々教えてくれたの。 あの存在ってなに?」 

「僕にはガイドって言ってたよ。 君は僕で僕は君さ! なんて格好つけて言ってた。 
チョットむかつくけどいいやつだった」

「いえてる~ ケンタくん、この石を何か他に面白い使い方は無いかしらね?」  

「そういえば、ガイドが集団意識と制限っていう話しをしてたんだよね。 
その制限っていうのが人間本来持っている能力にリミッターをかけているとかって言ってたよ。 
そのリミッターを外せたら自由になれるとも言ってたけど」 

「あっ、私もそんなようなこと聞いた。 どうしたらそのリミッターはずせるのかな? 
ケンタくんはガイドに聞いた?」

「聞いてない……」

「……」

その後、話しに何の進展もないままミルキーコーヒーをあとにした。

家に帰ったケンタはそのことだけを考えた。
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