ハーデス観光株式会社(霊界ツーリスト)全11作

當宮秀樹

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4第三ハーデス

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4第三ハーデス

 「ここは人間界に似たハーデス。 但し、嘘偽りがありません。 というか通用しません。 
思ったら即形になるからです。 例えば、新見さんがこの高橋を悪く思った瞬間、
その思いは顔に表れます。 ここも時間の存在というか時の概念がありません。 
ここの特徴は物への執着が強いこと。 そして無神論者が多いのも特徴。 
無神論が悪いという訳ではありませんが、物に執着するのはもっと障害になります。 
物というのは同時に金銭も含まれます。 では、町に出てみましょう」

二人は町を歩いた。

新見が「今までと違って明るいですね」

「そうですハーデスが上になるに従って明るく空気もすんできます。 でもここは下から
まだ三番目の世界。 もっと上は綺麗で楽しいですよ」

二人が歩いていると前から犬が歩いてきた。

「お姉さん達何処から来たの?」犬が話しかけてきた。

高橋が「人間界から来たの」

「私も行きたいな人間界に」

「どうぞ人間界に生まれて下さいな」

「解った、今度人間界に行く。 じゃあね」犬はそのまま歩き去っていった。

新見が「私、初めて犬の話しを聞きました。 なんか、不思議な感覚ですね」

「猫も可愛いわよ。意識は猫の方が上かも」

二人は大通りを歩いた。 町はところ狭しと看板が乱立していた。

高橋が「凄い看板の数でしょ。 ここはね商いが優先されるからなの、芸術など精神面は
全然重視しないの。 物を所持する量が社会的地位も上。 その辺私達の社会と似てるかもね」

道を歩いている老人に声を掛けられた。

「お姉さん達。これ安くしておくから買ってくれない?」

差し出したのが革製のバックだった。

高橋が「お爺さん、今お金もってないのゴメンね…」

「駄目だよ、金ぐらい持って歩かんと、何があるか解らねえぞ、しょうもねぇ」

社長が「あの爺さん何時もああしてバック持ってうろついてるのよ。 
うちの従業員は毎回声かけられるの、有名な爺さんでお金沢山持ってるらしく
『この世は金だ』っていうのが口癖らしい。 この類が多いのもここの特徴。 

人間界にも多いけどここのハーデスはデォルメされてるから如実に顔に出てるの。 
そして、みんな持ち物だとか身だしなみを観察するの。 金もってるかどうかってね。 
だからさっきみたいに金のある、なしで人間を簡単に判断するの。 その辺も何処かの世界と似てるでしょ」

町を歩いているとまた声を掛けられた。

「すみませんけどお金恵んで下さい…… この子に薬を買ってあげたいの」

その女性の左腕には、左手の不自由な子供が抱かさっていた。

高橋は「ごめんね今日お金持ってないのよ」

その母親は「ちぇっ、貧乏人か!」捨て台詞を吐いて立ち去った。

「今のはね、母親自ら子供の手を切断したケースなの。 お金得る手段のために我が子の手を……」

「本当ですか? そんなこと出来るんですか?」

「もう少し歩いてごらん道路の至る所からああいう人達が出てくるよ」

「でも、あの人達この町の住人に顔が知られてるから、お金もらえなくなるのでは?」

「それが大丈夫なの。 新しくこの世界に来る魂が多いからちゃんと食べていけるの。 
新見さんも声かけられたでしょ」

「拝金主義って凄いですね」新見は淋しそうな目をして呟いた。

「心が伴わないってこういう事なの……」

「で、お金等を蓄えて結局何をどうしたいのでしょうか?」

「たぶん、そんなこと考えてないと思うよ。 お金を蓄えることが生き甲斐というか、
さっきもいったように未来の展望なんてないの。 今お金が入ればそれでいいの。 それが生き甲斐なのよ」

「じゃあ、稼いだお金をどう使おうとか、役立てようとかない?」

「それは人間世界の話よ。 何度も言うようだけど、ここは時間がないから先の展望がないの。 
とりあえず目先のお金、物、オンリー」

「やっぱり人間の方が少しは上ですね」

「まっ、上といえば上かもね、ここと似たような人も多いけどね」


 二人は公園に移動した。

新見が「ここにも動物がいるんですね」

「基本どのハーデスにもいるけど観念だからね。 新見さんが公園は鳥が付きものだという
観念があるからそう見えるの」

「他の人には見えてないの?」

「そういうことです」

「このハーデスを出たら、少し休憩に入りますから。 次からのハーデスは楽しいですよ。
帰りたくないというお客様も沢山います。 楽しみにして下さい。 
もう少し欲得の第三ハーデスを歩いてみましょうか」

「はい、」

二人は公園を抜け買物公園のような商店街を探索した。

新見が「あっ、あれ?」

高校生くらいの制服を着た女の子が、電車が通る踏切を潜り、電車に向って歩き出した。

新見は咄嗟に止めようと踏切を潜った。

「あんた何やってるのよ」そういって腕を引っ張ってその娘を避難させようとしたが女の子は、
簡単に新見の手をふりほどいた。 その刹那、今度は高橋が女の子の脇を押さえ、
何かの武道のような技を掛け踏切の外に連れ出した。 間一髪だった。

それを観ていた野次馬が「おい姉ちゃん達、折角死にたがってる子に何するんだ。 
よけいな真似しくさって、いいもの見損なったぜ。 馬鹿もんが……」

その罵声は数人におよんだ。

高橋が「とりあえず移動しようよ」三人は商店街から逃げ去った。

今通ってきた小さな公園のベンチにその娘を座らせた。

その娘は「死なせて下さい」

高橋が「失恋かい?」

「……死なせて」

高橋は「あのね、死ぬこと以外の方法は無いのかい?」

「死にたいです」

「じゃぁ、いうけどあんたはもうとっくに死んでるんだよ」

怪訝な顔をして「私はこうして生きてますけど……」

「なんで死にたいの?」

「お母さんとお父さんが離婚して、私ひとりのこして出て行ったの。 
お金無いから万引きしてたけど。 帰ったら警察が家の前にいて……で、逃げてるの」

高橋は「良くそこまで思い出したね、あんた凄いよ。ハッキリいうけどお姉ちゃんはあの踏切で
いつ頃か解らないけど電車に飛び込んだんだよ。 死んでこの世界に残ったんだ。
まだ生きてると勘違いしてるんだ」

新見は涙を浮かべながら「そうです」小さく呟いた。

「ねぇ?目にあるそれって水? えっ、もしかしてそれ涙ってやつ?」

高橋が「そう、このお姉さんがあなたを思って流してる涙」

このハーデスでは他人のために涙を流すという行為はなかった。

「もしかして、私の為に?」

「うん」高橋がいった。

次の瞬間だった、その娘の顔色が段々と赤みがさしてきた。

高橋が「右後ろ視てごらん?」

女の子は右後ろを振り返った。

視線の先には光る人影のようなものがみえた。 瞬間、女の子は胸が熱くなり本人も徐々に輝きだしてきた。
横でその男性は、二人に深く頭を下げた。

「ありがとうございます。 これから先は私がこの魂を案内します」

次の瞬間二人は姿を消した。

 新見が「あの~~」

「解説でしょ解ってます。 あの娘はずっと一人だったのよ、いつもああやって電車に飛び込む
ことを繰り返しているの。 実際に人間世界でああやって死んだの。 今回も同じ事したの。 
そこに新見さんが飛び込んできた。 このハーデスではそんな他人を助ける行為する
人はいないからビックリしたのよ。 そして、あの娘は気が動転したのと同時に新見さんの
愛を感じ取ったのね。 そしたら胸が熱くなり同時に心を開いたの、いつも心配して
側に着いていたガイドの存在に気がついたの。 早い話成仏したっていうこと。新見さんの行為で」

「成仏ってあんな感じなんですか?」

「それは、人それぞれです」

「ハーデス観光の皆さんも成仏のお手伝いされるのですか?」

「ケースバイケース、側に着いてるガイドでも難儀してるのに、私達が急にポンと行って上手くいかないの。
酷なようだけど。 もうひとつ言っておきます。 
第三までのハーデスは人間の時の行ないがそのままハーデスに反映されてるの。 
だから、死んだ時の意識や、生前の意識がハーデスの行き先を決定するの。 
全ては自分で決めてます。 完璧に」

新見は高橋の言葉に強い説得力を感じた。

高橋が続けた「良い体験したのよ。 成仏する瞬間なんて私達でも滅多に、お目にかかれません。 
貴重な体験です。 さあここからは人間より上のハーデス。 人気ハーデスです。 
最初、第一から体験してもらったのは、ここから上のハーデスを本当の意味で楽しんでもらうため、
美味しい食べ物は最後に……第四から楽しみにして下さい。 
ここで、三十分ほど休憩を取りたいと思います。 先程渡したコマを回して下さい」

新見はコマを回すと次第に傾きだし、同時にヘッドホンをした自分に戻った。

水上が「新見様お疲れ様でした。 ヘッドホンを外して楽にして下さい。 トイレなどの用を足して下さいね。 三十分後に再会します。 それと添乗員を変えても面白いですよ。どうなさいますか? 考えておいて下さい」

新見は視てきたことを出来るだけ克明にメモった。 
世の中にはこんな次元を越える装置があるなんて・・・夢うつつのようにさえ感じた。

同時に第4ハーデス以降への期待感と好奇心で胸がワクワクしていた。
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