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8改心
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8改心
ある日の朝礼で高橋社長が「はい、それでは朝礼始めます。
承知の通りマスコミが我が社のシステムに興味を持ち始めました。 MOMOの新見さん曰く、
持ち上げたものは必ず誰かが降ろす。 これがマスコミだそうです。
勢いのある今が一番大事な時期と思っております。 お客様の扱いでも機械操作においても気を配り、
隙のないように丁寧にお願いします。
新見さんからも必ず足を引っ張ろうとする文屋さんがいるから、しばらくはきっちりした
対応をして下さいとの助言を頂きました。 で、今日は五組の予約です。宜しくお願いします。以上」
ハーデスルームに理恵がやってきた。
「山田様、初めまして。今日山田様のガイドを務めます高橋と申します。 宜しくお願いいたします」
「わしは山田でぇしゅ。 おねげえ申しますだ」
「山田さんは青森から来られたんですか?」
「うんだでば、はっ……」
理恵は「んだでばはっ……? って?」」頭を傾げていた。
「そんだってことだ~なまってですまねえ」
横で聞いていた機械操作の水上が吹き出していた。
「そっちの歳いった姉さんなら解るベや。 なんで、理恵さんは解らねえがな?」
「す、すみません……」
「ところで相談があるけんども」
「はい、なんでしょうか?」
「小便っこさ行きてぇけんど、いいべかな?」
「どうぞ、ドアを出て左の突き当たりです」
「ほんだば、ちょっこら行ってくるべがな」
水上は目を潤ませて理恵を見ていた。 山田が何かブツブツ言いながら部屋に戻ってきた。
理恵が「どうかなさいました?」
「恥ずかしながら、ひっかけました」
「えっ?」
「ひっかけました……」
「何をですか?」
「何をっておめぇ! 便所さ行って、ひっかけるっていったら小便しかねえべや……
まさか、姉さん、おらがウンコでもひっかけたといいてぇだが……アハ?」
「いえ、失礼しました」
聞いていた水上が今度は大きく吹き出し三人の笑い声が廊下まで響きわたっていた。
山田が「もうひどつ、お願いがあります。いろんなハーデスがあると聞いてますけんど、おらぁ、
ひとつでええがら長い時間でお願いしたい」
理恵が「……どういう事ですか?」。
「オラ、三.一一地震で、おっかぁと娘をいっぺんに失ったはんで。 このまま生きてても面白くねえだ。
だけんども、神様が生かしてくれてるからオラは生きてるけんど、せめて死んだおっかぁと
娘っ子に会いてぇ。 お金は全額払うはんで、一時間でも合わせて下さい。 どうかお願いします。
理恵さん、水上さん」
言い終えた山田は目に涙を浮かべ深々と頭を下げた。 理恵と水上はお互いに目を合わせ頷いた。
理恵が「チョット待って下さい。 私達では返答できないので、上の者と相談してきます」
理恵が社長室に報告をした。
「それは無理です。 なぜ即答してあげないの…相談に行くということは期待を持たせることなの」
「すいませんお客様のキャラがどうも」
「キャラがどうかしました? 一回でも事例を作ると、このケースは次から次と
続くの。 いいわ、私が話しましょう」
社長自ら山田とふたりで話し合った。
しばらして社長が「理恵さんチョット来て下さい」
「まず、理恵さんともうひとり、誰か手が空いてる人は……あっ、水上さんとハーデスに行って
奥さんとお子さんの様子を視てきて下さい。 これがお二人の写真です」
「山田様、今のお話しで了承いただけますね」
山田は大きくうなずいた。
「私が機械の操作しますから、山田様は待合室でお待ち下さい」
社長と理恵と水上は操作室に入った。
理恵が「社長受けたんですか?」
「うん、こうでもしないと納得しないでしょ。 それと、コンタクト取れたら二人にお父さんと
会うかどうかの確認を忘れないで。 もし第一と二だったら失望させるから探せなかったことに
しましょう。 じゃぁ頼みます」
二十分ほどて二人は戻ってきた。
理恵が「報告します。第三に二人一緒におりましたが、写真と似てませんでした。
険しい顔になっておりました」
「山田さんが失望するくらいなの?」
「?解りません。 山田さんを視たら変わる可能性もありますから」
「う~ん、難しい。 水上さんはどう思う?」
「……」
「二人は旦那さんと会いたいかどうか聞いた?」
「はい、そしたら『それ、だれ?』っていわれました」
社長が頭を抱えた。
「いい、そのまま伝える。 待合室からお通ししてちょうだい」
社長と理恵が応対した。
「今、理恵と水上が、お二人と会ってきました。 第三ハーデスにおふたり一緒におられました」
山田の目が急に輝いた。
「社長さん是非合わせて下さい。 お願いしますです」
「チョット待って下さい。 話は終ってません」
「まだ、なにか……?」
「はい、お二人は第三ハーデスという世界におられたのですが、その世界は執着が強い人が住んでます。
それと、お二人に山田様のことを話したところ『それ誰?』とおっしゃってたようです。
自分達のことしか頭にないようです。 そういう世界なんです。 どうなさいますか?
それでもお会いになられますか?」
「社長さん、自分は今ただ息をして生きてるっていう感じで、毎日が空しく感じてます。
たとえ、あの二人がどんな世界にいようが会いたい! オラのことわからねぐてもかまわねぇ。
社長さんお願いします。 どうか私を二人に会わせてやってくだはい!」
「……解りました。 どんな結果になっても後悔しないで下さい。 約束出来ますか?」
山田は黙ってうなずいた。
「では、私が添乗員で同行させてもらいます」
二人は装置を装着しコマを握り横になった。
水上が「開始します」スイッチを入れた。
予め場所を聞いていた社長は現場に直行した。
「山田様ここが第三ハーデスという世界です。 我々が住む人間界と似てますが、生前に物だとか
精神的にもこだわりが強い人が多く住んでるハーデスです。 お二人に会う前にこの町を観てみましょう」
「あんれ、人間世界と似てるな~や。 わんつか(少し)空気が重く感じるはんで、
それと全体に暗いなや……」
「ここは、他者に大きな危害は加えません。 が利己主義ですから間接的に加えることはあります。
窃盗だとか嘘だとかです」
「そったらもの、人間だって沢山いるでよ」
「そうですよね。 そういう人が来るケースも多いんです。 生きてる時の行ないと死んだ時の
思いが大事なんです」
「よく、解りますた。 でも、なんであの二人が?」
二人に後ろから声が掛かった。
「ねぇ、オジサン達お金恵んでくれない? 少しでいんだけど」
山田が振り向くと声の主は中学生くらいのセーラー服を着た女の子だった。
山田が「なんぼ欲しんだや?」
「千円でいいけど」
「まいね、まいね(駄目だ)お金欲しければ、たんと働いでずぶん(自分)で稼ぐの。
オメェだっきゃ、若けぇからたんと働け」
「ねぇ・・オジさん分かんないだけど。 くれるの? くれないの? どっちなの?」
社長が「あげません。この方は自分で働きなさいといってるんです」
「なんだ……ケチ」そう言って去っていった。
「社長さん、今のなに?」
「さっき言ったようにここは利己主義な世界なの、他人はどうであっても関係ないの、 全ては自分が中心」
「な~るほど、おらえ(自分の家)の二人もあんなのかな?」
「近いかも知れません。 このハーデスに居るということはそういうことです」
二人はまた足を進めた。
「社長さん、オラよりここの人間の方が下け」
「本来上下はありませんけど、今は人より意識が下と言うことです。 解りやすく言ってるだけです」
「ふ~ん……?」
社長が突然指さして「あそこに二人の人影がみえますか?」
「どれどれ? あっ、視えます」
「あれが奥さんと娘さんです」
「……」
「近づいてみましょう」次の瞬間二人の前に移動した。
「社長さん、これがですか?」
山田が視た二人は眼光が鋭く獲物を見つめるタカのような、どことなく落ち着かない眼差しをしていた。
肌はあさ黒く、身体を小刻みに揺らし落ち着きのない感じがした。
「おい、悦子。紗英。わ(俺)だ解るか?」
「誰? 解らないそれよりなんかくれない? 物でも金でも何でもいいからさ」
「え悦子……?」
「だからそんな人知らないって。あんたも変なオヤジだね」
「紗英、オド(父)だ、解るベ」
「おい、爺い、私達のことをからかってるの?」
「おめぇまで」
社長が「山田様帰りましょうか?」
「いや、待って下はい」
紗英が「なんか、なんか変な日だね、さっきも女二人で変なこと聞いてくるし。
聞きたいことあったら金を出してから聞けっちゅうの……たく!」
山田が「社長さん、お金貸してもらえないですかね」
「もってきてません」
その四人のやり取りを黙って視ていた男ががいた。
「あの~すいませんが」
社長が「なんでしょうか」
「いや、皆さんのやり取りが耳に入ったもんですからね」
「はい、で?」
「どうでしょ。ここは私が仲介にはいるっていうのはどう?」
「ここで、何かの交渉をしているわけでありませんから、その必要ありません」
「そうですか? そこの旦那さん、泣いてますよ」
声を押し殺して泣いている山田がいた。
「山田さんもう帰りましょう?」
「す、すいません大丈夫です」
娘が「このオヤジなんなの? さっきから泣いてばっかで」
母は「ほっておきなさい。係わって損することあっても得すること無いよ」
男は「ねっ、全然話しにならないでしょ、姉さん方どこから来てるか知らねえけど、蛇の道は蛇ですよ。
ここら辺の事情は、姉さん達よりこの私が熟知してますよ。どうです?」
「だからお金持ち会わせてないから結構です」
「いや、金はいらないです。 その代わり荷物を運んで欲しい」
「脱法の荷物ならお断り」
「大丈夫、大丈夫、ここに法はねえから」
「やっぱりやばいものかい?」
「あんたも疑り深いね、手紙だよ手紙」
「そんなの自分で渡しなよ」
「わけあって直接渡せねんだよ」
山田が「社長さん、私で良ければその手紙届けます。 ここはこの方に入っていただきたいと思います」
母が「あんた達さっきから勝手に話し進めてるようだけどさ、話しがあるのはこっちなんだろ?
私達をないがしろにして勝手に盛り上がってるんじゃないよ。 私達は帰るからね」
男が「ちょちょっと待った。 金出すから話しだけ聞いてやってくれねえか? ほら一万円あるからよ」
男は財布から一万円を出して娘に渡した。
娘が「母さん話しぐらい聞こうよ」
「わかったよ。さっさと話しな」
社長が「山田さんどうぞ」
山田が「悦子。紗英。八戸って知ってるだか?」
「町の名前だろ」悦子が言った。
「うんだ、おめだづ(お前達)が 住んでた町の名前だ」
「だから?」
「まっ、わ(俺)の喋ること黙って聞けや。 おめだづが地震で発生した津波に呑まれて死んだんだ」
娘が「このオッサンなに言ってるの? ここにちゃんと生きてるべ」
「死んだこと覚えてねんだでば。 父親の俺の名前も忘れてるべ、おめぇ、自分の名前や
オッカァの名前解るだか?」
「私の名前……? オッカァの名前……?」
「おめぇは紗英ださ~え。 死んだ爺が付けた名前だ。 おら読みにくいから反対したけんど、
オッカァが気に入ってしまって爺と結託して勝手に役場さ届けを出してしまったんだ。
憶えてねぇだか?」
「紗英……?」
「オッカァ。お前だって中学高校と俺と同級生だんべ。 駆け落ちして仙台せ逃げて紗英を出産したんべ。
おめぇは手が器用で何でも作ってらよ、そうだはんでいつも近所から頼まれて服作ったり、
小間物作って喜ばれてたべ」
母親が「あんた名前は?」
「山田秀樹だ」
母親は「山田ひ、で、き……?青森……八戸?」
紗英も「紗英? 八戸……」
やり取りを見ていた社長が「山田さんもっとなんか言って」
「そんだ、おめぇだち青森市のねぶた祭り好きで毎年、オラに隠れて遊びに行ってるべ。
オラたんと知っとるぞ」
「ねぶた祭り……」
「ラッセ、ラッセ、ラッセナァ~って躍ってるべ。 あれだ」
二人の顔色に変化が現われてきた。そしてついにその時が来た。
紗英が「おどぅ?」
「うんだ。紗英のおどだ思い出しだか?」
「あんた、あんたかいね? 私達地震の時、自分の財布だとか取りに建物に戻って探してたのさ。
そしたら海水が」
「お~う、オメ達思い出したがぁ」
山田はまた泣いてしまった。
社長が「お二人さんは地震の時に津波にさらわれて亡くなたんです。 そしてどういう訳かこの
世界に来てしまったんです。 本当はもっと上の世界に行くべきです。
まず、死んだことを悟って下さい。 魂は違う次元の意識体です。 お二人の後ろに魂の兄弟が
迎えに来てます。 ガイドしてもらって下さい。 お父さんは私が責任を持って連れて帰ります」
二人は「お父さんありがとう。先に私達旅立ちます。 本当にありがとう・・・」
迎えに来たガイドとともに二人は消えていなくなった。
男が「どういう事だ? なんだか俺も胸が熱くなってきた」
社長が「あなたの後ろにもガイドさんが来てますよ。 勇気出して光の方に向かって下さい」
男の姿も徐々に消えていった。 残されたのは社長と山田だった。
「山田さんこれからどうなさいます? 奥さん娘さんは高い世界に逝ってしまいましたよ。
山田さんの心が通じたんですね」
「社長さんワシも二人を追っかけたいけどいいだが?」
「そうですね、来たついでに視てみましょうね」
ある日の朝礼で高橋社長が「はい、それでは朝礼始めます。
承知の通りマスコミが我が社のシステムに興味を持ち始めました。 MOMOの新見さん曰く、
持ち上げたものは必ず誰かが降ろす。 これがマスコミだそうです。
勢いのある今が一番大事な時期と思っております。 お客様の扱いでも機械操作においても気を配り、
隙のないように丁寧にお願いします。
新見さんからも必ず足を引っ張ろうとする文屋さんがいるから、しばらくはきっちりした
対応をして下さいとの助言を頂きました。 で、今日は五組の予約です。宜しくお願いします。以上」
ハーデスルームに理恵がやってきた。
「山田様、初めまして。今日山田様のガイドを務めます高橋と申します。 宜しくお願いいたします」
「わしは山田でぇしゅ。 おねげえ申しますだ」
「山田さんは青森から来られたんですか?」
「うんだでば、はっ……」
理恵は「んだでばはっ……? って?」」頭を傾げていた。
「そんだってことだ~なまってですまねえ」
横で聞いていた機械操作の水上が吹き出していた。
「そっちの歳いった姉さんなら解るベや。 なんで、理恵さんは解らねえがな?」
「す、すみません……」
「ところで相談があるけんども」
「はい、なんでしょうか?」
「小便っこさ行きてぇけんど、いいべかな?」
「どうぞ、ドアを出て左の突き当たりです」
「ほんだば、ちょっこら行ってくるべがな」
水上は目を潤ませて理恵を見ていた。 山田が何かブツブツ言いながら部屋に戻ってきた。
理恵が「どうかなさいました?」
「恥ずかしながら、ひっかけました」
「えっ?」
「ひっかけました……」
「何をですか?」
「何をっておめぇ! 便所さ行って、ひっかけるっていったら小便しかねえべや……
まさか、姉さん、おらがウンコでもひっかけたといいてぇだが……アハ?」
「いえ、失礼しました」
聞いていた水上が今度は大きく吹き出し三人の笑い声が廊下まで響きわたっていた。
山田が「もうひどつ、お願いがあります。いろんなハーデスがあると聞いてますけんど、おらぁ、
ひとつでええがら長い時間でお願いしたい」
理恵が「……どういう事ですか?」。
「オラ、三.一一地震で、おっかぁと娘をいっぺんに失ったはんで。 このまま生きてても面白くねえだ。
だけんども、神様が生かしてくれてるからオラは生きてるけんど、せめて死んだおっかぁと
娘っ子に会いてぇ。 お金は全額払うはんで、一時間でも合わせて下さい。 どうかお願いします。
理恵さん、水上さん」
言い終えた山田は目に涙を浮かべ深々と頭を下げた。 理恵と水上はお互いに目を合わせ頷いた。
理恵が「チョット待って下さい。 私達では返答できないので、上の者と相談してきます」
理恵が社長室に報告をした。
「それは無理です。 なぜ即答してあげないの…相談に行くということは期待を持たせることなの」
「すいませんお客様のキャラがどうも」
「キャラがどうかしました? 一回でも事例を作ると、このケースは次から次と
続くの。 いいわ、私が話しましょう」
社長自ら山田とふたりで話し合った。
しばらして社長が「理恵さんチョット来て下さい」
「まず、理恵さんともうひとり、誰か手が空いてる人は……あっ、水上さんとハーデスに行って
奥さんとお子さんの様子を視てきて下さい。 これがお二人の写真です」
「山田様、今のお話しで了承いただけますね」
山田は大きくうなずいた。
「私が機械の操作しますから、山田様は待合室でお待ち下さい」
社長と理恵と水上は操作室に入った。
理恵が「社長受けたんですか?」
「うん、こうでもしないと納得しないでしょ。 それと、コンタクト取れたら二人にお父さんと
会うかどうかの確認を忘れないで。 もし第一と二だったら失望させるから探せなかったことに
しましょう。 じゃぁ頼みます」
二十分ほどて二人は戻ってきた。
理恵が「報告します。第三に二人一緒におりましたが、写真と似てませんでした。
険しい顔になっておりました」
「山田さんが失望するくらいなの?」
「?解りません。 山田さんを視たら変わる可能性もありますから」
「う~ん、難しい。 水上さんはどう思う?」
「……」
「二人は旦那さんと会いたいかどうか聞いた?」
「はい、そしたら『それ、だれ?』っていわれました」
社長が頭を抱えた。
「いい、そのまま伝える。 待合室からお通ししてちょうだい」
社長と理恵が応対した。
「今、理恵と水上が、お二人と会ってきました。 第三ハーデスにおふたり一緒におられました」
山田の目が急に輝いた。
「社長さん是非合わせて下さい。 お願いしますです」
「チョット待って下さい。 話は終ってません」
「まだ、なにか……?」
「はい、お二人は第三ハーデスという世界におられたのですが、その世界は執着が強い人が住んでます。
それと、お二人に山田様のことを話したところ『それ誰?』とおっしゃってたようです。
自分達のことしか頭にないようです。 そういう世界なんです。 どうなさいますか?
それでもお会いになられますか?」
「社長さん、自分は今ただ息をして生きてるっていう感じで、毎日が空しく感じてます。
たとえ、あの二人がどんな世界にいようが会いたい! オラのことわからねぐてもかまわねぇ。
社長さんお願いします。 どうか私を二人に会わせてやってくだはい!」
「……解りました。 どんな結果になっても後悔しないで下さい。 約束出来ますか?」
山田は黙ってうなずいた。
「では、私が添乗員で同行させてもらいます」
二人は装置を装着しコマを握り横になった。
水上が「開始します」スイッチを入れた。
予め場所を聞いていた社長は現場に直行した。
「山田様ここが第三ハーデスという世界です。 我々が住む人間界と似てますが、生前に物だとか
精神的にもこだわりが強い人が多く住んでるハーデスです。 お二人に会う前にこの町を観てみましょう」
「あんれ、人間世界と似てるな~や。 わんつか(少し)空気が重く感じるはんで、
それと全体に暗いなや……」
「ここは、他者に大きな危害は加えません。 が利己主義ですから間接的に加えることはあります。
窃盗だとか嘘だとかです」
「そったらもの、人間だって沢山いるでよ」
「そうですよね。 そういう人が来るケースも多いんです。 生きてる時の行ないと死んだ時の
思いが大事なんです」
「よく、解りますた。 でも、なんであの二人が?」
二人に後ろから声が掛かった。
「ねぇ、オジサン達お金恵んでくれない? 少しでいんだけど」
山田が振り向くと声の主は中学生くらいのセーラー服を着た女の子だった。
山田が「なんぼ欲しんだや?」
「千円でいいけど」
「まいね、まいね(駄目だ)お金欲しければ、たんと働いでずぶん(自分)で稼ぐの。
オメェだっきゃ、若けぇからたんと働け」
「ねぇ・・オジさん分かんないだけど。 くれるの? くれないの? どっちなの?」
社長が「あげません。この方は自分で働きなさいといってるんです」
「なんだ……ケチ」そう言って去っていった。
「社長さん、今のなに?」
「さっき言ったようにここは利己主義な世界なの、他人はどうであっても関係ないの、 全ては自分が中心」
「な~るほど、おらえ(自分の家)の二人もあんなのかな?」
「近いかも知れません。 このハーデスに居るということはそういうことです」
二人はまた足を進めた。
「社長さん、オラよりここの人間の方が下け」
「本来上下はありませんけど、今は人より意識が下と言うことです。 解りやすく言ってるだけです」
「ふ~ん……?」
社長が突然指さして「あそこに二人の人影がみえますか?」
「どれどれ? あっ、視えます」
「あれが奥さんと娘さんです」
「……」
「近づいてみましょう」次の瞬間二人の前に移動した。
「社長さん、これがですか?」
山田が視た二人は眼光が鋭く獲物を見つめるタカのような、どことなく落ち着かない眼差しをしていた。
肌はあさ黒く、身体を小刻みに揺らし落ち着きのない感じがした。
「おい、悦子。紗英。わ(俺)だ解るか?」
「誰? 解らないそれよりなんかくれない? 物でも金でも何でもいいからさ」
「え悦子……?」
「だからそんな人知らないって。あんたも変なオヤジだね」
「紗英、オド(父)だ、解るベ」
「おい、爺い、私達のことをからかってるの?」
「おめぇまで」
社長が「山田様帰りましょうか?」
「いや、待って下はい」
紗英が「なんか、なんか変な日だね、さっきも女二人で変なこと聞いてくるし。
聞きたいことあったら金を出してから聞けっちゅうの……たく!」
山田が「社長さん、お金貸してもらえないですかね」
「もってきてません」
その四人のやり取りを黙って視ていた男ががいた。
「あの~すいませんが」
社長が「なんでしょうか」
「いや、皆さんのやり取りが耳に入ったもんですからね」
「はい、で?」
「どうでしょ。ここは私が仲介にはいるっていうのはどう?」
「ここで、何かの交渉をしているわけでありませんから、その必要ありません」
「そうですか? そこの旦那さん、泣いてますよ」
声を押し殺して泣いている山田がいた。
「山田さんもう帰りましょう?」
「す、すいません大丈夫です」
娘が「このオヤジなんなの? さっきから泣いてばっかで」
母は「ほっておきなさい。係わって損することあっても得すること無いよ」
男は「ねっ、全然話しにならないでしょ、姉さん方どこから来てるか知らねえけど、蛇の道は蛇ですよ。
ここら辺の事情は、姉さん達よりこの私が熟知してますよ。どうです?」
「だからお金持ち会わせてないから結構です」
「いや、金はいらないです。 その代わり荷物を運んで欲しい」
「脱法の荷物ならお断り」
「大丈夫、大丈夫、ここに法はねえから」
「やっぱりやばいものかい?」
「あんたも疑り深いね、手紙だよ手紙」
「そんなの自分で渡しなよ」
「わけあって直接渡せねんだよ」
山田が「社長さん、私で良ければその手紙届けます。 ここはこの方に入っていただきたいと思います」
母が「あんた達さっきから勝手に話し進めてるようだけどさ、話しがあるのはこっちなんだろ?
私達をないがしろにして勝手に盛り上がってるんじゃないよ。 私達は帰るからね」
男が「ちょちょっと待った。 金出すから話しだけ聞いてやってくれねえか? ほら一万円あるからよ」
男は財布から一万円を出して娘に渡した。
娘が「母さん話しぐらい聞こうよ」
「わかったよ。さっさと話しな」
社長が「山田さんどうぞ」
山田が「悦子。紗英。八戸って知ってるだか?」
「町の名前だろ」悦子が言った。
「うんだ、おめだづ(お前達)が 住んでた町の名前だ」
「だから?」
「まっ、わ(俺)の喋ること黙って聞けや。 おめだづが地震で発生した津波に呑まれて死んだんだ」
娘が「このオッサンなに言ってるの? ここにちゃんと生きてるべ」
「死んだこと覚えてねんだでば。 父親の俺の名前も忘れてるべ、おめぇ、自分の名前や
オッカァの名前解るだか?」
「私の名前……? オッカァの名前……?」
「おめぇは紗英ださ~え。 死んだ爺が付けた名前だ。 おら読みにくいから反対したけんど、
オッカァが気に入ってしまって爺と結託して勝手に役場さ届けを出してしまったんだ。
憶えてねぇだか?」
「紗英……?」
「オッカァ。お前だって中学高校と俺と同級生だんべ。 駆け落ちして仙台せ逃げて紗英を出産したんべ。
おめぇは手が器用で何でも作ってらよ、そうだはんでいつも近所から頼まれて服作ったり、
小間物作って喜ばれてたべ」
母親が「あんた名前は?」
「山田秀樹だ」
母親は「山田ひ、で、き……?青森……八戸?」
紗英も「紗英? 八戸……」
やり取りを見ていた社長が「山田さんもっとなんか言って」
「そんだ、おめぇだち青森市のねぶた祭り好きで毎年、オラに隠れて遊びに行ってるべ。
オラたんと知っとるぞ」
「ねぶた祭り……」
「ラッセ、ラッセ、ラッセナァ~って躍ってるべ。 あれだ」
二人の顔色に変化が現われてきた。そしてついにその時が来た。
紗英が「おどぅ?」
「うんだ。紗英のおどだ思い出しだか?」
「あんた、あんたかいね? 私達地震の時、自分の財布だとか取りに建物に戻って探してたのさ。
そしたら海水が」
「お~う、オメ達思い出したがぁ」
山田はまた泣いてしまった。
社長が「お二人さんは地震の時に津波にさらわれて亡くなたんです。 そしてどういう訳かこの
世界に来てしまったんです。 本当はもっと上の世界に行くべきです。
まず、死んだことを悟って下さい。 魂は違う次元の意識体です。 お二人の後ろに魂の兄弟が
迎えに来てます。 ガイドしてもらって下さい。 お父さんは私が責任を持って連れて帰ります」
二人は「お父さんありがとう。先に私達旅立ちます。 本当にありがとう・・・」
迎えに来たガイドとともに二人は消えていなくなった。
男が「どういう事だ? なんだか俺も胸が熱くなってきた」
社長が「あなたの後ろにもガイドさんが来てますよ。 勇気出して光の方に向かって下さい」
男の姿も徐々に消えていった。 残されたのは社長と山田だった。
「山田さんこれからどうなさいます? 奥さん娘さんは高い世界に逝ってしまいましたよ。
山田さんの心が通じたんですね」
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「そうですね、来たついでに視てみましょうね」
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