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四「エバの部屋」
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四「エバの部屋」
月刊Oneyan十二月号「伝説のオネェ エバ特集」の記事は予想以上に好評で、編成会議では
今後もエバのコーナーを設けようという案が浮上した。 エバもその案を快諾した。
但し、エバからの要求で前回同様中浦と大城が担当で、インタビュー形式でというもの。
初回インタビューが始まった。
中浦が「月刊Oneyan十二月号の記事が好評価で、多くの読者から『今後も継続してほしい』との声が
多かった訳ですが、このことについてどう思われますか?」
「私も分からないよ、だってそうでしょ。 オネェの世界ではどこにでもある普通のことなのね、
変わった話しや話を面白く作ったわけでもないのになにが好いのかしらねぇ?
月刊Oneyanの読者って変人が多いの……?」
中浦が「本の読者はオネェばかりとは限りませんよ。 隠れオネェやオネェファンなど全国に購読者はおります。 とくに十二月号は伝説のエバさん特集で予想の1.5倍は売れました。 これは快挙です」
エバが「良かったじゃない。 で、今回は何が聞きたいの?」
中浦が「大城君れいのものを……」
大城は書類封筒の中から一枚の紙を出しエバに差し出した。
「はい、これは当社に届いた読者の声をランクごとにまとめたものです」
エバが紙に目をやった。
「何々……?
1位が『エバさんの生い立ちが知りたいです』 答え、知ってどうすんのよ。
2位が『エバさんの好きな男性のタイプは?』 答え、好きになった人がタイプ。
3位が『今お付き合いしてる男性はおられますか?』 答え、今いない。
4位が『Hisaeさんのことを教えてください』…… 5位が『今後の展望は?』答え、そんなもの無いわよ。ふ~~ん、どの質問もベタね。 Hisae姉さんか? これは私が言うよりあんた達が直接姉さんに
インタビューして記事にしなさいな。 私なんかよりもはるかに面白い感性してるわよ。
ここの読者もきっと喜ぶわよ」
大城が「Hisaeさんもオネェなんですか?」
「馬鹿ね、そんなこと姉さんに云ったらぶん殴られちゃうわよ。 彼女はれっきとした女よ女。 たぶんね。
でも、正確には男に近い女かな…… これ、私が言ったって内緒よ。本人も気にしてるんだから」
中浦が両腕を組んで「初回ですし今回のテーマはどうします?」
大城が「とりあえずビールでも飲みますか?」
「あんたねぇ、なにも話してないのにもうビールって…… そういう気の利くところが好きで指名したのよ」
満面の笑みだった
「かんぱ~い」
三人は一時間ほど別の話題で盛り上がった。
突然エバが「そういえば、今日ニュースで女性議員の鈴木鶴さんの政治献金問題やってたでしょう。
じつは店のというより私のお客さんなのよ……」
大城が「どっちの店の?」
「どっちも。 ていうか私の客なの、彼女も私のファンなの」
大城が「どこで知り合ったんですか?」
「知り合ったのは二十年ほど前かな? オネェの髭に通ってたお客さんだったの。 その頃は政治家でも
何でもないただのOLさんだったの。 でもある時……」
「エバちゃん。 私、今の会社辞めようと思うの」
「夢園化粧品を…… なんで?」
「うん、じつは私、政治に興味があるのね」
「えっ、政治?」そのときは当然耳を疑ったわよ。
「私ねぇ、新聞の政治欄を読むのが小さい頃から大好きだったの。 当然朝夕のテレビニュースや報道番組は
大体見てたの。 二十歳くらいの時は日本の政治の流れが読めるようになったのね。 あの中田丸男総理の
飛行機の斡旋問題や脳梗塞で倒れるところまで読んでいたの。 正確には心筋梗塞か脳梗塞どっちかだと
思ってたけど。 ニュースで見たときもああやっぱりって感じ!」
「なんで? そこまで読めたの?」
「ある時、この国の政治経済の流れを、角度を変えて斜めから観察して観るようにしたの。当然私流の、
そしたら予想したことが次々に的中したの」
「つまり、どういうこと?」
「この国は、各党や団体の表現は様々だけど、全体的な流れの方向は一緒なの。 あるシナリオがあって、
そのシナリオ通り事が運ぶの、無理なく自然と合法に。 政治家を失脚させるのも簡単、金のスキャンダルか
身体の不調和なの。 最近は異性問題もその一つの手段。 ちなみに血栓を溶かす薬があるんだから、
逆に血栓を作る薬も作れるの。 政治家は誰とでも握手をするから薬の注入は簡単なの……」
「国や役所の取り決めには、必ず反対する人も多い でしょ」
「うん、反対側もシナリオに仕組まれてたらどうします?」
「つまりどういうこと? 反対側にも賛成派の息がかかった人間がいるっていうこと? 反対派が勝つこと
だってあるでしょ」
「そこなの、彼らかすると負けもシナリオ。 反対派がいつも負けてばかりだと国民は疲れるでしょ。
たまには国側も負けないとね、反対派の空気抜きよ。 政治家もそう、与党野党がいてバランスをとるの。
今は、昔のように一方的では駄目なの」
「鶴ちゃんの言いたいことは分かるけど、そこまで読んでいてなんで今、政治家になりたいの?」
「知りたいの」
「知りたい? 何を?」
「この戦後脈々と続く日本の流れを覆す弱点が必ずあるはず。 その弱点を利用すれば何かが変わるそして
好転すると思うの」
「面白いこと考えるのね、で鶴ちゃんの今後はどうするの?」
「とりあえず与党の関係事務所に所属するの。 そして私流の準備をする。 早く地位を確立して党からの
推薦を仰ぐ。 今の流れだとそうなると踏んでるの」
「言ってることは分かるけど、もう少し具体的に話してくれる?」
「エバ姉さん、この国の国民は福祉に弱いの。 選挙に福祉を持ち出すのは票集めの手段。 但し、ただ普通に
福祉を出しても駄目。 もう国民は飽きてる、そこで私の考えてる福祉政策を掲げて立候補するシナリオなの」
黙って聞いていた大城が「ど、どんな政策ですか?」
「私にも『姉さんにもまだ言えない』って、口を閉ざしたの」
中浦が「でも、彼女は当選してますよね。 僕の知る限り彼女は普通の福祉政策で特別印象に残るような
政策では無いような?」
「そこなの、私も当選した後にそのことを聞いたの、そしたら『奥の手を出さなくっても簡単に当選を約束
されたからとりあえずいいの』ってな具合よ」
中浦が「そうなんですか。 鈴木鶴議員はそんなことを、面白いサクセスストーリーですね、今度彼女に
会わせてください。 興味あるな」。
「いいわよ、その時期が来たら言ってください。 あっ、ビール追加して」
中浦が「おい、大城君どうせなら十リットルのサーバーで持ってこさせて」
エバが「これはここだけの話よ。 彼女まだ現役だからね」
「でも今回の献金問題が……」中浦が言った。
「大丈夫、たぶん彼女は潔白。 それが証明されたら以前にも増して彼女の株が上がるわよ。
たぶんそれも彼女のシナリオかも…… 成り行きが楽しみなの」
ビアサーバーが運ばれ三人は一息ついた。
大城が「エバさんは政治家にも人脈があるんですね」
「人脈って言うほど大げさじゃないの、普通に店のお客さんよ。 私の場合客のコネを利用したことなんて
今まで一度もないよ。 家電や服を買うにも利用したことないわよ。 街を歩いていて偶然会っても失礼だけど
私は無視してるの。 むこうも昼にオネェと道ばたで挨拶したくないでしょ、そういうもんなのよ」
大城が「そうですか僕なら声をかけてもらったら嬉しいけどな」
「あなたが会社の大事なお得意さんと歩いている時でも?」
「……?」
「ねっ、そういうものなのよ私たちは、オネェが市民権を得たように気をつかって面白おかしくマスコミや
世間は言うけど、それは表面的なことだけで本音は別かも。 それよりか、今思い出したんだけど客の中に
ソクラテスみたいな女の子がいたの。 どんな娘かといえば見かけはバラエティーに出る鈴木紗理奈似かな。
その娘ったら会話してる最中とか突然前触れもなく意識が抜け出てしまうのよ」
中浦が「抜け出るってもしかして魂が?」
「そう、店に一人でひょっこり入ってきた客だったの。 私は綺麗な娘がひとりで来たんだ珍しいなあって
思ったの」
「いらっしゃいませ~お一人ですか?」
「あっ、はいひとりでもいいですか?」
「全然かまいません。 いらっしゃいませ私がこの店のママのエバです初めまして」
「瑠璃です」
「瑠璃さんかぁ…… 可愛いすてきな名前でね」
「今日は会社かなにか飲み会のあとですか?」
「はい、帰宅するため駅に向かってたら、急にこのビルに入らなくっちゃて思いました。気がついたら
この店の前に立っていたんです。 不思議? と思っていたら急に誰かに押されたような感じがして店に
入ってしまったんです。 そしたらママさんが『いらっしゃいませ』って」
「そうですか、たまにそういう人がいるんですよ。 瑠璃さんと店と縁があるんでしょうかね・」
「私、みんなから不思議ちゃんっていわれてるんです。 やっぱり変ですよね」
「何をおっしゃいますか、私も不思議ちゃんですから瑠璃さんとおなじ。 とりあえず乾杯しましょ。
不思議にカンパ~~イ。 ちなみに瑠璃ちゃんはどういう不思議ちゃんなんですか? 聞いていい?」
「私はねぇ」
そのまま五分ほどグラスを持ったまま止まってしまった。 それを察知したエバは自分も体外離脱をして
瑠璃の意識を追った。 次の瞬間目の前に広大な海が広がる砂浜に移動していた。 瑠璃と思われる少女が
水平線をじっと眺めて座っていた。
エバが声をかけた「瑠璃ちゃん」
声のする方を振り返った瑠璃は「エバさん、どうしたんですか?」
「あなたの意識が飛んだから追いかけてきたの。 いつもここに来るの?」
「はい、わたしのよく来るところです」
「そう、ここ穏やかでキレイな海ね」
次の瞬間店のカウンターにふたりは戻った。
瑠璃は「えっ! エバさん今私と一緒でした?」
「そう、急に瑠璃ちゃんが止まったから私後を追っちゃった」
「初めてですこんなの、いつも突然意識が今みたいに突然飛ぶんです。 それを観た人達が私のこと
不思議ちゃんって呼ぶようになったんです」
「なるほどね、分かるわよ。 でもその力自分で制御できないの?」
「何度か試みたんですけど無理でした。 勝手に飛んじゃうんです。 エバさんはさっきみたいに自分で
意識して出来るんですね。 そのやりかた教えてもらえないですか?」
「他人に教えたこと無いけど私の場合はガイドにお願いするの」
「ガイドさんですか…… どうやって?」
「たとえば今の場合は『ガイドさんこの子の意識と重なりたい、お願いします』ってな具合にお願いしたの。
そしたらあなたの居る海に出たの」
「私も出来ますか?」
「瑠璃ちゃんは簡単だと思うよ。 但し、今は駄目よ試すのは家に戻ってからにしてね」
「それが彼女瑠璃ちゃんとの初対面だった」
大城が「体外離脱ってやつですね。 でも、それがどう不思議なんですか?」
「そう、体外離脱は誰でも経験してる普通のことなんだけど、彼女は自分のパラレルセルフにも重なることを
習得したのよ」
大城が「ちょっと待ってください? そのパラレルセルフって何ですか?」
「パラレルワールドやパラレルセルフというのは、今この地球や自分と平行する似ているけど違う世界が、
複数存在するという考え方なの。 もっと分かりやすくいうと同時に進行する複数の平行した世界」
中浦が「具体的に彼女の場合どのように?」
それからふた月ほどたった頃だった。
「瑠璃ちゃんいらっしゃい」
「エバ、ママお久しぶりです」
エバは棚のボトルを探しながら「その後どう? なんかいいことあった?」
「いいかどうか分かりませんけど、パラレルの自分と何度も重なって向こうのわたしの技術を習得してます」
「へぇ、面白いこと発見したのね、で、具体的にどんな?」
瑠璃はショルダーからスケッチブックを取り出してエバに開いて渡した。
「何かしら?」エバは微笑みながら目をやった。
「……なにこれ? 瑠璃ちゃんが描いたの?」
そこにあったのは鉛筆だけで描かれていた風景画や人物、動食物など緻密な写実画だった。
「はい、もうひとりの私は絵描きさんをやってました。 私も絵が好きなので彼女に重なって絵の描き方を
勉強して出来上がったのがその絵です」
「へぇ、上手に技術を習得したのね、すばらしい。 で、これ何回ぐらい重なったらここまで書けるように
なったの?」
「三回です」
「えっ、たった三回で…… そっか、元々絵の才能が瑠璃ちゃんにもあるから習得が簡単なのかしらね、
私にはパラレルって理解できるけど実際にこの目で見ると感動するわすごいよ瑠璃ちゃん」
「私もびっくりです。 こんなに早く上達するんですもん」
「で、他に経験したこと無いの?」
「詩です」
「詩を書く瑠璃ちゃんも存在するの?」
「恥ずかしいけどいました」
「なにが恥ずかしいのよ立派な才能じゃないのよ」
「でもわたし詩は興味ないんですねだから」
「いっそのこと詩も習得して自分の絵に詩を入れて、ひとつの作品にしたら面白いと思わない?」
大城が「絵に描いた詩か? なんかラピスさんみたいですね」
中浦が声を大きくして「そっか、そういうことか……」
大城が驚いて「中浦さんなんですか急に? どうしました?」
「中浦さんには分かったようね」エバが笑みを浮かべていた。
中浦は深く頷いた。
「ど、どういうことですか? 二人して」
中浦が「瑠璃っていう字は瑠璃色の瑠璃だろ。 英語スペルだと?」
「R・U・R・Iですか?」
中浦とエバは顔を見合わせて笑った。
エバが「日本語で瑠璃、英語では?」
「ちょっと待ってください」大城はスマートフォンを取り出し操作した。
中浦が「なんて?」
「ラピスですけど」
中浦が「大城君、なんか気づかないか? 今までの話の流れから?」
「ラピス? えっ、もしかしてあの画家のラピスさん……?」
エバは笑みを浮かべ首を縦に振った。
「そうなのよ、ラピスも店の常連さんなの、画家ラピスの作品がどのように生まれたのかというエピソード。
もう一つは出会いよ。 これも面白い話があるけど、彼女のプライバシーだから私は言えないけど
結構面白いのよ」
中浦が「エバさん記事には載せませんから。 頼みます我々にも教えてください。
絶対に他言はしません…… なんとか」
「いいわ、絶対内緒よ」
「はい」ふたり同時に返事した。
「ある時珍しく同伴で店にやってきたの、彼はちょっと年上の男性だったわ」
「いらっしゃいませ~」
小声で「瑠璃ちゃん久しぶり。 今日はデート?」
「ええ、ママに紹介したくて連れてきました」
「まあほんとに始めましてエバです」
「初めまして、志田と言います」三人はかるい挨拶を交わし飲み始めた。
「私が瑠璃に質問したの『どこで知り合ったの? 好青年じゃない』って、そしたら答えが面白いのよ。
瑠璃曰くパラレルの世界の私が付き合っていた彼が気に入ったので、こっちの世界にも存在するはずだと考え、
そして実際に探し当てたらしいの。 でも、案外近場にいたっていってた」
中浦が「なるほど、理屈では合ってますよね、でもすごい根性というか気迫というか何かを感じます」
「そうでしょ、私もよく考えたねって瑠璃ちゃんをほめたわよ」
大城は「じゃあ今ある瑠璃さんはパラレルのおかげっていうことですか?」
「そういう見方もあるけど、おかげというよりも定めを早めに引き寄せたっていう言い方もあると思わない?」
中浦が「定めを早めに引き寄せたのですか…… なるほど。 でも単純な疑問なんですけど、本当は出会う
はずの彼がこちらの世界では何らかの事故等で既に他界していたっていう場合どうなるんでしょうね?」
エバが「そうよね、そういう場合は独身で通すか、あるいは違う人と知り合うのかしらね?運命には保険が
掛かってるって聞いたことあるから」
大城が「って云うことは、何でもありという事ですか?」
「あんたも歪な考え方するのね? でもこの世の未来は絶えず変化するのよ。 何らかの意味がそこにあるの。 偶然はひとつも無いの」
中浦が「話を戻しますが、その二人はその後どうなりました?」
「ちゃんと結婚して子供もいて、普通に幸せに暮らしてるわよ。 何年かに一度は彼女と会うようにしてるの。 やっぱり今でも会話中に飛んでるけどね。 そこんところは変わらないわ。 男女の縁ってどんな切っ
掛けであれ上手に絡み合ってるのよ、すばらしい」
中浦が「政治家、芸術家、あと著名人はいませんかね? 読者が喜びそうな芸能関係の人とか?」
「沢山いるけど、みんな現役だしプライバシーの問題だから勘弁してね。 あっ、そうだ歌手のファイの
話しようか。 彼ならいいかも」
月刊Oneyan十二月号「伝説のオネェ エバ特集」の記事は予想以上に好評で、編成会議では
今後もエバのコーナーを設けようという案が浮上した。 エバもその案を快諾した。
但し、エバからの要求で前回同様中浦と大城が担当で、インタビュー形式でというもの。
初回インタビューが始まった。
中浦が「月刊Oneyan十二月号の記事が好評価で、多くの読者から『今後も継続してほしい』との声が
多かった訳ですが、このことについてどう思われますか?」
「私も分からないよ、だってそうでしょ。 オネェの世界ではどこにでもある普通のことなのね、
変わった話しや話を面白く作ったわけでもないのになにが好いのかしらねぇ?
月刊Oneyanの読者って変人が多いの……?」
中浦が「本の読者はオネェばかりとは限りませんよ。 隠れオネェやオネェファンなど全国に購読者はおります。 とくに十二月号は伝説のエバさん特集で予想の1.5倍は売れました。 これは快挙です」
エバが「良かったじゃない。 で、今回は何が聞きたいの?」
中浦が「大城君れいのものを……」
大城は書類封筒の中から一枚の紙を出しエバに差し出した。
「はい、これは当社に届いた読者の声をランクごとにまとめたものです」
エバが紙に目をやった。
「何々……?
1位が『エバさんの生い立ちが知りたいです』 答え、知ってどうすんのよ。
2位が『エバさんの好きな男性のタイプは?』 答え、好きになった人がタイプ。
3位が『今お付き合いしてる男性はおられますか?』 答え、今いない。
4位が『Hisaeさんのことを教えてください』…… 5位が『今後の展望は?』答え、そんなもの無いわよ。ふ~~ん、どの質問もベタね。 Hisae姉さんか? これは私が言うよりあんた達が直接姉さんに
インタビューして記事にしなさいな。 私なんかよりもはるかに面白い感性してるわよ。
ここの読者もきっと喜ぶわよ」
大城が「Hisaeさんもオネェなんですか?」
「馬鹿ね、そんなこと姉さんに云ったらぶん殴られちゃうわよ。 彼女はれっきとした女よ女。 たぶんね。
でも、正確には男に近い女かな…… これ、私が言ったって内緒よ。本人も気にしてるんだから」
中浦が両腕を組んで「初回ですし今回のテーマはどうします?」
大城が「とりあえずビールでも飲みますか?」
「あんたねぇ、なにも話してないのにもうビールって…… そういう気の利くところが好きで指名したのよ」
満面の笑みだった
「かんぱ~い」
三人は一時間ほど別の話題で盛り上がった。
突然エバが「そういえば、今日ニュースで女性議員の鈴木鶴さんの政治献金問題やってたでしょう。
じつは店のというより私のお客さんなのよ……」
大城が「どっちの店の?」
「どっちも。 ていうか私の客なの、彼女も私のファンなの」
大城が「どこで知り合ったんですか?」
「知り合ったのは二十年ほど前かな? オネェの髭に通ってたお客さんだったの。 その頃は政治家でも
何でもないただのOLさんだったの。 でもある時……」
「エバちゃん。 私、今の会社辞めようと思うの」
「夢園化粧品を…… なんで?」
「うん、じつは私、政治に興味があるのね」
「えっ、政治?」そのときは当然耳を疑ったわよ。
「私ねぇ、新聞の政治欄を読むのが小さい頃から大好きだったの。 当然朝夕のテレビニュースや報道番組は
大体見てたの。 二十歳くらいの時は日本の政治の流れが読めるようになったのね。 あの中田丸男総理の
飛行機の斡旋問題や脳梗塞で倒れるところまで読んでいたの。 正確には心筋梗塞か脳梗塞どっちかだと
思ってたけど。 ニュースで見たときもああやっぱりって感じ!」
「なんで? そこまで読めたの?」
「ある時、この国の政治経済の流れを、角度を変えて斜めから観察して観るようにしたの。当然私流の、
そしたら予想したことが次々に的中したの」
「つまり、どういうこと?」
「この国は、各党や団体の表現は様々だけど、全体的な流れの方向は一緒なの。 あるシナリオがあって、
そのシナリオ通り事が運ぶの、無理なく自然と合法に。 政治家を失脚させるのも簡単、金のスキャンダルか
身体の不調和なの。 最近は異性問題もその一つの手段。 ちなみに血栓を溶かす薬があるんだから、
逆に血栓を作る薬も作れるの。 政治家は誰とでも握手をするから薬の注入は簡単なの……」
「国や役所の取り決めには、必ず反対する人も多い でしょ」
「うん、反対側もシナリオに仕組まれてたらどうします?」
「つまりどういうこと? 反対側にも賛成派の息がかかった人間がいるっていうこと? 反対派が勝つこと
だってあるでしょ」
「そこなの、彼らかすると負けもシナリオ。 反対派がいつも負けてばかりだと国民は疲れるでしょ。
たまには国側も負けないとね、反対派の空気抜きよ。 政治家もそう、与党野党がいてバランスをとるの。
今は、昔のように一方的では駄目なの」
「鶴ちゃんの言いたいことは分かるけど、そこまで読んでいてなんで今、政治家になりたいの?」
「知りたいの」
「知りたい? 何を?」
「この戦後脈々と続く日本の流れを覆す弱点が必ずあるはず。 その弱点を利用すれば何かが変わるそして
好転すると思うの」
「面白いこと考えるのね、で鶴ちゃんの今後はどうするの?」
「とりあえず与党の関係事務所に所属するの。 そして私流の準備をする。 早く地位を確立して党からの
推薦を仰ぐ。 今の流れだとそうなると踏んでるの」
「言ってることは分かるけど、もう少し具体的に話してくれる?」
「エバ姉さん、この国の国民は福祉に弱いの。 選挙に福祉を持ち出すのは票集めの手段。 但し、ただ普通に
福祉を出しても駄目。 もう国民は飽きてる、そこで私の考えてる福祉政策を掲げて立候補するシナリオなの」
黙って聞いていた大城が「ど、どんな政策ですか?」
「私にも『姉さんにもまだ言えない』って、口を閉ざしたの」
中浦が「でも、彼女は当選してますよね。 僕の知る限り彼女は普通の福祉政策で特別印象に残るような
政策では無いような?」
「そこなの、私も当選した後にそのことを聞いたの、そしたら『奥の手を出さなくっても簡単に当選を約束
されたからとりあえずいいの』ってな具合よ」
中浦が「そうなんですか。 鈴木鶴議員はそんなことを、面白いサクセスストーリーですね、今度彼女に
会わせてください。 興味あるな」。
「いいわよ、その時期が来たら言ってください。 あっ、ビール追加して」
中浦が「おい、大城君どうせなら十リットルのサーバーで持ってこさせて」
エバが「これはここだけの話よ。 彼女まだ現役だからね」
「でも今回の献金問題が……」中浦が言った。
「大丈夫、たぶん彼女は潔白。 それが証明されたら以前にも増して彼女の株が上がるわよ。
たぶんそれも彼女のシナリオかも…… 成り行きが楽しみなの」
ビアサーバーが運ばれ三人は一息ついた。
大城が「エバさんは政治家にも人脈があるんですね」
「人脈って言うほど大げさじゃないの、普通に店のお客さんよ。 私の場合客のコネを利用したことなんて
今まで一度もないよ。 家電や服を買うにも利用したことないわよ。 街を歩いていて偶然会っても失礼だけど
私は無視してるの。 むこうも昼にオネェと道ばたで挨拶したくないでしょ、そういうもんなのよ」
大城が「そうですか僕なら声をかけてもらったら嬉しいけどな」
「あなたが会社の大事なお得意さんと歩いている時でも?」
「……?」
「ねっ、そういうものなのよ私たちは、オネェが市民権を得たように気をつかって面白おかしくマスコミや
世間は言うけど、それは表面的なことだけで本音は別かも。 それよりか、今思い出したんだけど客の中に
ソクラテスみたいな女の子がいたの。 どんな娘かといえば見かけはバラエティーに出る鈴木紗理奈似かな。
その娘ったら会話してる最中とか突然前触れもなく意識が抜け出てしまうのよ」
中浦が「抜け出るってもしかして魂が?」
「そう、店に一人でひょっこり入ってきた客だったの。 私は綺麗な娘がひとりで来たんだ珍しいなあって
思ったの」
「いらっしゃいませ~お一人ですか?」
「あっ、はいひとりでもいいですか?」
「全然かまいません。 いらっしゃいませ私がこの店のママのエバです初めまして」
「瑠璃です」
「瑠璃さんかぁ…… 可愛いすてきな名前でね」
「今日は会社かなにか飲み会のあとですか?」
「はい、帰宅するため駅に向かってたら、急にこのビルに入らなくっちゃて思いました。気がついたら
この店の前に立っていたんです。 不思議? と思っていたら急に誰かに押されたような感じがして店に
入ってしまったんです。 そしたらママさんが『いらっしゃいませ』って」
「そうですか、たまにそういう人がいるんですよ。 瑠璃さんと店と縁があるんでしょうかね・」
「私、みんなから不思議ちゃんっていわれてるんです。 やっぱり変ですよね」
「何をおっしゃいますか、私も不思議ちゃんですから瑠璃さんとおなじ。 とりあえず乾杯しましょ。
不思議にカンパ~~イ。 ちなみに瑠璃ちゃんはどういう不思議ちゃんなんですか? 聞いていい?」
「私はねぇ」
そのまま五分ほどグラスを持ったまま止まってしまった。 それを察知したエバは自分も体外離脱をして
瑠璃の意識を追った。 次の瞬間目の前に広大な海が広がる砂浜に移動していた。 瑠璃と思われる少女が
水平線をじっと眺めて座っていた。
エバが声をかけた「瑠璃ちゃん」
声のする方を振り返った瑠璃は「エバさん、どうしたんですか?」
「あなたの意識が飛んだから追いかけてきたの。 いつもここに来るの?」
「はい、わたしのよく来るところです」
「そう、ここ穏やかでキレイな海ね」
次の瞬間店のカウンターにふたりは戻った。
瑠璃は「えっ! エバさん今私と一緒でした?」
「そう、急に瑠璃ちゃんが止まったから私後を追っちゃった」
「初めてですこんなの、いつも突然意識が今みたいに突然飛ぶんです。 それを観た人達が私のこと
不思議ちゃんって呼ぶようになったんです」
「なるほどね、分かるわよ。 でもその力自分で制御できないの?」
「何度か試みたんですけど無理でした。 勝手に飛んじゃうんです。 エバさんはさっきみたいに自分で
意識して出来るんですね。 そのやりかた教えてもらえないですか?」
「他人に教えたこと無いけど私の場合はガイドにお願いするの」
「ガイドさんですか…… どうやって?」
「たとえば今の場合は『ガイドさんこの子の意識と重なりたい、お願いします』ってな具合にお願いしたの。
そしたらあなたの居る海に出たの」
「私も出来ますか?」
「瑠璃ちゃんは簡単だと思うよ。 但し、今は駄目よ試すのは家に戻ってからにしてね」
「それが彼女瑠璃ちゃんとの初対面だった」
大城が「体外離脱ってやつですね。 でも、それがどう不思議なんですか?」
「そう、体外離脱は誰でも経験してる普通のことなんだけど、彼女は自分のパラレルセルフにも重なることを
習得したのよ」
大城が「ちょっと待ってください? そのパラレルセルフって何ですか?」
「パラレルワールドやパラレルセルフというのは、今この地球や自分と平行する似ているけど違う世界が、
複数存在するという考え方なの。 もっと分かりやすくいうと同時に進行する複数の平行した世界」
中浦が「具体的に彼女の場合どのように?」
それからふた月ほどたった頃だった。
「瑠璃ちゃんいらっしゃい」
「エバ、ママお久しぶりです」
エバは棚のボトルを探しながら「その後どう? なんかいいことあった?」
「いいかどうか分かりませんけど、パラレルの自分と何度も重なって向こうのわたしの技術を習得してます」
「へぇ、面白いこと発見したのね、で、具体的にどんな?」
瑠璃はショルダーからスケッチブックを取り出してエバに開いて渡した。
「何かしら?」エバは微笑みながら目をやった。
「……なにこれ? 瑠璃ちゃんが描いたの?」
そこにあったのは鉛筆だけで描かれていた風景画や人物、動食物など緻密な写実画だった。
「はい、もうひとりの私は絵描きさんをやってました。 私も絵が好きなので彼女に重なって絵の描き方を
勉強して出来上がったのがその絵です」
「へぇ、上手に技術を習得したのね、すばらしい。 で、これ何回ぐらい重なったらここまで書けるように
なったの?」
「三回です」
「えっ、たった三回で…… そっか、元々絵の才能が瑠璃ちゃんにもあるから習得が簡単なのかしらね、
私にはパラレルって理解できるけど実際にこの目で見ると感動するわすごいよ瑠璃ちゃん」
「私もびっくりです。 こんなに早く上達するんですもん」
「で、他に経験したこと無いの?」
「詩です」
「詩を書く瑠璃ちゃんも存在するの?」
「恥ずかしいけどいました」
「なにが恥ずかしいのよ立派な才能じゃないのよ」
「でもわたし詩は興味ないんですねだから」
「いっそのこと詩も習得して自分の絵に詩を入れて、ひとつの作品にしたら面白いと思わない?」
大城が「絵に描いた詩か? なんかラピスさんみたいですね」
中浦が声を大きくして「そっか、そういうことか……」
大城が驚いて「中浦さんなんですか急に? どうしました?」
「中浦さんには分かったようね」エバが笑みを浮かべていた。
中浦は深く頷いた。
「ど、どういうことですか? 二人して」
中浦が「瑠璃っていう字は瑠璃色の瑠璃だろ。 英語スペルだと?」
「R・U・R・Iですか?」
中浦とエバは顔を見合わせて笑った。
エバが「日本語で瑠璃、英語では?」
「ちょっと待ってください」大城はスマートフォンを取り出し操作した。
中浦が「なんて?」
「ラピスですけど」
中浦が「大城君、なんか気づかないか? 今までの話の流れから?」
「ラピス? えっ、もしかしてあの画家のラピスさん……?」
エバは笑みを浮かべ首を縦に振った。
「そうなのよ、ラピスも店の常連さんなの、画家ラピスの作品がどのように生まれたのかというエピソード。
もう一つは出会いよ。 これも面白い話があるけど、彼女のプライバシーだから私は言えないけど
結構面白いのよ」
中浦が「エバさん記事には載せませんから。 頼みます我々にも教えてください。
絶対に他言はしません…… なんとか」
「いいわ、絶対内緒よ」
「はい」ふたり同時に返事した。
「ある時珍しく同伴で店にやってきたの、彼はちょっと年上の男性だったわ」
「いらっしゃいませ~」
小声で「瑠璃ちゃん久しぶり。 今日はデート?」
「ええ、ママに紹介したくて連れてきました」
「まあほんとに始めましてエバです」
「初めまして、志田と言います」三人はかるい挨拶を交わし飲み始めた。
「私が瑠璃に質問したの『どこで知り合ったの? 好青年じゃない』って、そしたら答えが面白いのよ。
瑠璃曰くパラレルの世界の私が付き合っていた彼が気に入ったので、こっちの世界にも存在するはずだと考え、
そして実際に探し当てたらしいの。 でも、案外近場にいたっていってた」
中浦が「なるほど、理屈では合ってますよね、でもすごい根性というか気迫というか何かを感じます」
「そうでしょ、私もよく考えたねって瑠璃ちゃんをほめたわよ」
大城は「じゃあ今ある瑠璃さんはパラレルのおかげっていうことですか?」
「そういう見方もあるけど、おかげというよりも定めを早めに引き寄せたっていう言い方もあると思わない?」
中浦が「定めを早めに引き寄せたのですか…… なるほど。 でも単純な疑問なんですけど、本当は出会う
はずの彼がこちらの世界では何らかの事故等で既に他界していたっていう場合どうなるんでしょうね?」
エバが「そうよね、そういう場合は独身で通すか、あるいは違う人と知り合うのかしらね?運命には保険が
掛かってるって聞いたことあるから」
大城が「って云うことは、何でもありという事ですか?」
「あんたも歪な考え方するのね? でもこの世の未来は絶えず変化するのよ。 何らかの意味がそこにあるの。 偶然はひとつも無いの」
中浦が「話を戻しますが、その二人はその後どうなりました?」
「ちゃんと結婚して子供もいて、普通に幸せに暮らしてるわよ。 何年かに一度は彼女と会うようにしてるの。 やっぱり今でも会話中に飛んでるけどね。 そこんところは変わらないわ。 男女の縁ってどんな切っ
掛けであれ上手に絡み合ってるのよ、すばらしい」
中浦が「政治家、芸術家、あと著名人はいませんかね? 読者が喜びそうな芸能関係の人とか?」
「沢山いるけど、みんな現役だしプライバシーの問題だから勘弁してね。 あっ、そうだ歌手のファイの
話しようか。 彼ならいいかも」
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