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2香織の黙示録
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2香織の黙示録
4月初旬、桜が咲くこの季節、コートを脱ぎ捨てたが朝晩の寒さが肌身にしみ、まだコートが恋しい季節。
少し風変わりな依頼がHisaeのもとに届いた。依頼の題名は「黙示録」依頼者は古屋敷香織30歳。
職業ホステス。
依頼内容
未来を予知する特殊能力の持ち主、古屋敷香織。 職業ススキノで働くホステス。
現代版のノストラダムス、エドガー・ケーシー風にとの依頼で結末は意味ありげな予言を残し忽然と
姿を消してしまうという展開にしてほしい。
予言の内容は適当にHisaeに考えてほしいとのこと。 注文はそれだけ。
執筆の依頼額は原稿用紙200枚で50万円。
なんか解らないけど興味をそそるような依頼と金額にHisaeは机に向かった。
えーと題名は「黙示録」か…ちょっとベタね? 「香織の黙示録」…同じか、まっ、解りやすくていいか!
あらすじ、職業ススキノのクラブで働く女性香織二五歳の数奇な運命。
ホステスは人間観察の好きな香織にはもってこいの仕事。
多彩な職業と年齢の客を観察し、お金がもらえる、趣味と実益を兼ねた打って付けの職業だと考えた。
働いて一年が経過し、この仕事が本当に楽しく思えてきた矢先。 香織の身にある変調が起こった。
仕事中、なんの予兆もなく突然激しい頭痛がして気を失ってしまった。
脳外科病院へ救急搬送され意識を取り戻したのはMRIの中だった。
医師は「脳に異常なし。 疲れかストレスからきた一過性のものだろう」との診断。
三日間の検査入院。 初見通り異常は見あたらず退院。 その日のうちに職場復帰した。
それから数日後店で普通にお客の横に座った刹那、その客が帰るビジョンが脳裏に視えてしまう。
何だろう……? わたしの頭どこか変? 少し不安になってきた。
退院後の香織に少し不可思議な能力が目覚めてきたのであった。
香織の能力は個人に止まらず、地域社会、果ては国のことまでが視えてくるという特殊な能力。
そんな香織の数奇な生き様を描いた小説。
こんな感じでどうかな? Hisaeはあらすじを香織にメールした。
「興味深い内容になりそうで楽しみです。よろしくお願いいたします」と返事がきた。
ようし!執筆に取りかかろう。
Hisaeは部屋に籠もった。 執筆中は部屋に閉じこもったまま、できあがるまで何日も
出てこないことが普通にある。 それが彼女の執筆スタイル。
「香織の黙示録」
札幌のクラブで働く女性香織25歳の数奇な運命。
好きな人間観察が出来て、そしてお金になる仕事ホステス。
この職業は人間観察の好きな香織にはうってつけの仕事。 二四歳でデビューをした香織。
ホステス業の1年はあっという間に過ぎていった。
そんな仕事が楽しく思えてきたある日のこと、香織の身に突然ある変調が起こった。
それは、接客中になんの予兆もなく突然頭に激痛をおぼえ客の前で気を失ってしまった。
店は騒然となり、ホステス仲間や客はくも幕下出血か脳梗塞だろうと皆は勝手に憶測した。
救急搬送され、意識を取り戻したのはMRIの中。
医師の診断は「脳には異常なし。疲れかストレスからくる一過性のものだろう」との診断。
念のため三日ほど検査入院することになった。 再検査結後、初見通り脳に異常は診あたらず退院となった。
退院後、香織は心の奥で微妙な何かが異なっていることに気がついていた。
言葉でうまく表現できないので他言はせずにいた。
退院から数日後、店に普段通り香織の姿があった。 同僚のANNAが香織に声を掛けてきた。
「香織ちゃん大丈夫なの?無理しないでもう少し休んだら?」ANNAは香織の同期で店で
一番気の合う同僚。
「心配させてごめんね、もう大丈夫だよ。心配かけてごめんね…」
香織が仕事に復帰して3日目のこと、紳士風の中年男性客の席に着いた。
その瞬間だった。香織は意識がとおのいて、先日倒れた時のあの感覚。 そしてあるビジョンが視えた。
そのビジョンとは、客が店を出てタクシーを止めようと車道に乗りだした瞬間、後ろからきた
白いスポーツカーにその客が跳ねとばされるという光景。
香織は「妙にリアル……?錯覚?」と思ったが気にせずいつものように明るく接客した。
そして、その客が帰るのを店の外まで送りに出た。
香織は「楽しかったです。 又、お越し下さい。お休みなさい」手を振り見送った。
店に戻ろうと背を向けた瞬間、ドン!という鈍い音が後ろでした。 同時に女性の悲鳴が聞こえた。
香織が振り返ると今見送ったばかりのその中年紳士が倒れ込んでいた。
警察が来て目撃者の証言を横で聞いていた香織は我が耳を疑った。
タクシーを止めようと車道に乗りだした瞬間、後ろから来た白いスポーツカーに跳ねとばされたらしい、
その車はそのまま逃走したとのこと。
なんと、あのビジョンと一致していたのだった。
その後も何度か自分が予期しないときに視るビジョンが現実に起こることに気がついた。
その頻度がだんだん増してきて自分が怖くなってきた。
仕事前に携帯で「ねえ、ANNAちゃん、ちょっと聞いてほしいことがあるの」香織は事の
一部始終を時間をかけて説明した。
「香織、あんたにすごいこと起きているのね。 最近の香織はなにか宙を見ているなって
気になってたけど……あんた大丈夫なの? もう一度病院で検査したら?」
「うん、今のところ大丈夫だけど、でも今朝、新聞を読んでいたら急に文字が歪んで見えたの、
そしたら紙面が急に変わったのね、そこに書いていた記事が政治家の山田国男が何者かに
拳銃で撃たれ即死って書いてあったのよ。
もう一度よく目を凝らして見てみると、今度は全く違う株価暴落の記事だったのね。
わけ解らないよ…」
香織はANNAに話して落ち着いたのか気が少し気が晴れ、最後は普段通り笑いながら話し携帯を切った。
翌朝10時香織は携帯の着信音で目がさめた。
だれなの?こんな時間に…ホステスの朝は遅かった。
「はい……」
「香織、テレビのニュース見た?」
「ANNAちゃん?どうしたのよこんな時間に?」
「山田国男が銃撃されて死んだのよ」
「……えっ! うっそ?」
「本当よ。 今、テレビでやってるもん。 テレビ入れてみて速報でやってるから」
香織は自分の耳を疑った。 すぐテレビをつけ目に飛び込んできたのは山田国男殺害の速報。
「ほんとだ…ANNAちゃん、私、怖くなったからとりあえず電話切るね。
また、こっちから連絡するからじゃあね」
携帯を置いた香織はその場に座り込んでしまった。
その日は「病院の検査で疲れたので今日は店を休ませてほしい」とマネージャーに連絡し、
部屋に籠もりパソコン画面を朝から眺めていた。
自分のような症状の人が他に居るんだろうか?
これからどう行動したらいいの?
考えることがいっぱいあって解決するどころか香織の頭は混乱するばかりだった。
「なぜ私なの?」
「聖書黙示録?・ヨハネ、ノストラダムス、エドガー・ケーシー、日月神示?
なんなのよ全然解らないよ?まったく!」そのうち香織は寝入ってしまい夢を見ていた。
場所は中国。香織は大きなダムの上空にいた。
突然「ドドドッ!」というけたたましい音がしてダムが崩壊した。
下流の街はひとたまりもなく押し流され、死者数三十九万人という前代未聞の大惨事と化していた。
原因は下請け業者と役人の癒着による手抜き工事。 中国史上最大最悪の人災と判明。
次の瞬間、香織はアメリカのとある空軍基地の中にいた。 記者団を前に軍の偉いさんと思われる人間が、
手元にある写真の白い物体を指さして何かを語っていた。
「この度我が軍は地球外生命体と接触することに成功した」
その先には普通の人間とは若干違い透き通った感じのする生命体があった。
そう、それは地球外生命体の存在。 アメリカが宇宙人の存在を世界に知らしめた歴史的な瞬間であった。
ここで香織は目が醒めた。
今の夢なの? なんかリアル過ぎ? と自問自答した。
それから十日程過ぎた頃、自宅でテレビを見ていると急に部屋が揺れ始めた。
「あっ!地震!」揺れはすぐに収まったがそれなりに大きな揺れだった。 テレビでは震度4となっていた。
震源地は中国とあった。
その後、テレビは臨時ニュースに切り替わり「この度の地震の震源地中国でダムが決壊し、
複数の街が一瞬にして飲み込まれ、大惨事になっている」というニュースが報道された。
香織は絶句し固まった。 瞬間はっきりと自覚した。
「この事は偶然なんかじゃない。 だって私、視たもの。十日前、この現場に私は居たもの。
一部始終見てたし」そう思った瞬間身体が震えてきた。 得体の知れない不安感に襲われた。
「じゃあ、あの宇宙人も? もしかしたら?」
その翌日の新聞に小さく「米空軍、宇宙生物の存在を容認する発言!」と書かれていた。
もう、疑う余地はない。 私には未来の出来事を何らかの方法で察知できる力があるんだわ。
でも、香織は他言しないでおこうと心に決めた。
この手の発言は最初もてはやされるが、次第に話が歪曲され終いに狂言者呼ばわりされるのが
関の山と思ったからだから。
でも、せっかく備わった能力。 ブログを開設して夢日記の類で書き込みをしよう。
ブログは書き込みした日時が刻まれるから、狂言でないことは実証できるし、事故を事前に
回避できる人が出てくるかもしれないと思った。
ブログは「香織の夢日記」というタイトルでアップされた。
内容は自然・社会の出来事など新聞の三面記事のような書き方。
違うのは、まるでその場で見てきたかのようにリアルに書いているところが新聞とは大きくちがう。
Hisaeはキーボードを叩く手を休めた。
あ~あ~とっ、一服、一服。書き始めはこんなものかな?
次はどんな事件や出来事を書こうか? 案外自分で書いていて面白い出来だなこれ……
架空の予言って結構楽しいかも…
責任感が全くないし、かといってデタラメでも伝わらないからリアルさも要求される、小説ならではね。
シャワー浴びて、続き書こうっと。 今度はと……そうだ!大企業を倒産させちゃおうっと。
香織はまた夢を見ていた。 新聞の一面の見出しが目に入った。
「SMO電気、経営破綻」の文字が大きく目に入った。
SMO電気突然の経営破綻。 従業員約一万五千二00人は今月末をもって解雇という新聞見出しであった。
横には小さく従業員の50%はSANY電気が引き受け検討か?
香織は早速ブログに書き込んだ。
3日後、TVの臨時ニュースで「SMO電気、経営破綻」の速報が流れ日本中の話題となった。
「あらまたまた当たってしまったみたい……」
PCを開き「夢日記」ブログを覗いてみると炎上していた。
「何で事前に解るの?」 「お前が影で糸を引いているんだろう」
「何の占いですか?」 「あなたは誰なの?」
などなど訳の解らない数百の書き込みがされていた。
香織はすぐに書き込み禁止の処理をした。
「今後は雑音無しの一方通行ね。もっとたくさん書こうっと」
Hisaeが呟いた「今度は明るいニュースもいいわね……そうだ、思いついた!」
店で客のグラスに酒を注ごうと手を伸ばした時だった。 香織が体勢を崩して横にいた客の手に触れた。
その瞬間「俺はついに透明の金属を開発した。もしかして俺はノーベル賞受賞か?」伝わってきた。
香織は思わず「開発、おめでとうございます」と無意識に口にしてしまった。
客は当然怪訝な顔をして香織を凝視していた。
「しまったっ!」不用意に言葉を出してしまった。
客は「えっ? 何がおめでとうなの?」
香織はすかさず「ごめんなさい。 お客さんの顔を見たら何かとっても嬉しそうな表情だったので、
きっと何か良いことがあったに違いないと思ってたら、つい言葉に出てしまったんですぅ。
ごめんなさい」
「そっか。 僕の顔に出てたかな? 君、洞察力あるなぁ…」客の顔は確かに二ヤついていた。
「あんたの顔を見たら誰でも解る」と香織は思った。
それから数日後「広島大学にて、世界初の透明金属開発!ノーベル賞候補か?」とニュースで放映された。
さすがに香織はこの件はブログには載せなかった。
Hisaeは手を止めた。今日はこの辺でお終いにしようっと。それにしても小説とはいえ、
こんな発明品があったら世界が変わるだろうな。
発想のアメリカ・技術の日本か…これって的をえてるよね、よし今日はもう寝る!
翌朝、Hisaeは夢にうなされて起きた。なんだ? 今の夢は? 夢の内容はこうだった。
夢の中でHisaeは新聞記者をしていた。
今日はやけに忙しいなあ「鳥インフルエンザが九州に上陸。少なくとも九州の全養鶏場の約30%で
感染し鶏は殺処分された。 数万羽処分」
「大変なことになったもんだ」その記者会見場にHisaeはいた。
目が醒めたHisaeは「うん?……えっ? これ良い題材。 私はもしかして天才?」と思った。
コーヒーを入れ食パンを頬ばりキーボードを叩いた。
香織はまた夢を見た「九州地方で……」
Hisaeの見た夢を「香織」に置き換えて小説に書いたのだった。
こんな調子で5日間でHisaeは 「香織の黙示録」を半ば完成させた。
香織は人と違う自分がだんだんと怖くなってきた。
もう、ブログ更新を辞めようか、事前に世の中に起きる事が解ったからと云ってどうしたというの?
別に私が惨事を防げる訳でもないし……
自己嫌悪に陥ってしまった。
そんな時、ANNAからメールがあった。
「何してますか? 時間があったら店前に食事どう?」
返信した「いつもの時間にいつもの場所でどう?」
行きつけのレストランに二人はいた。
「ねえ香織、最近浮かない顔してるけどどうかした?」
「私、精神科に行って相談しようかなって考えてるんだ。 自分が怖くなってくるのよね」
「例の予知のこと?」
「うん、怖くなって、寝るのが辛くなることもあるんだ」
「その予知って自分で視ようとして視えないの?」
「できない。占い師なら視たくない時には視なくてすむけど、私の場合は自分の意志関係なく
勝手に視えるの、その場にいることもあるんだ。 全くコントロールきかないの」
「そっか……香織いっそのこと本にして出版したら?」
「ANNAちゃん、冗談辞めてよね」
「ごめん、ごめん」
次の瞬間、香織は又ビジョンを視た。
「話変わるけど、最近犬飼った?」
「えっ!私まだ香織に言ってないよね…」
「ANNAちゃんすぐ家に帰って、子犬がANNAちゃんのベッドの下で血だと思うんだけど、
赤いもの吐いてるのが視えるの…お勘定いいから早く帰ってやって!」
ANNAはすぐ店を飛び出してタクシーを拾った。
2時間ほどしてメールが届いた。
「さっきはありがとう。 犬のpinoがグッタリしてたの、すぐ病院に駆けつけてレントゲン撮ったの。
とりあえず命に別状ないみたい。ホッ! でもおう吐物を検査したら細菌が見つかったの、母犬からの
胎内感染の可能性かもしれないって。 悪いけど今日一日念のため犬に付いててあげたいから
今日お休みします。 マスターに連絡したからお店お願いします。 香織の能力、本当に凄いよ!
感謝感謝!その能力が人助けに使えるといいのにね。 香織、本当にありがとう」
香織はこの能力が初めて人の役に立ってよかったと実感した。
「人の役に立つのもいいね」Hisaeは呟いた。キーボードを叩く手を止め思いをめぐらせた。
「さてさて? 最後はどのように締めようか? 香織が宗教組織の教祖?or街で人気の占い師?
or占いBARのママ? それとも預言を駆使した小説家? なんかどれもベタよねぇ~
最後は謎の予言を残し香織は姿を消した。 よっしゃ、これで行こう。 やっぱ私は天才だ!」
最初の予言から二年が過ぎた。 年の瀬という季節がら店は忘年会の二次会などで大忙し。
香織とANNAが店を出たのは二時を過ぎた頃だった。街は、タクシーを待つホステス、
千鳥足の客。 雪降るススキノは人と車が入り乱れていた。
「明日で店は終了ねぇ」ANNAは手袋をはめながら香織に話しかけた。
「そうね、一年はあっという間。ANNAちゃんは帰省するの?」
「私は犬がいるから今年は帰らない。 香織は帰省しないの?」
「私は列車のチケット買ってないから、元旦辺りに帰ろうかなと思ってる」
その後、2人は各々タクシーを拾って別れた。
翌日の店は昨日と比べ、かなり空いていた。マネージャーが「ANNAちゃん、チョット良いかい?」
「はい、何ですか?」
「香織ちゃん、もう九時なのにまだ来ないし、携帯にも出ないんだけど……何か聞いてない?」
「昨日別れるときは、何も言ってなかったけど…私、メールしてみますね」
十一時頃、マネージャーが「ANNAちゃん、香織ちゃんからまだ何も言ってこないかい?」
「はい、どうしたんだろう?」
「マネージャー、私、心配だから今日は上がらせてもらっていいですか? 香織ちゃんのアパートに様子見に行きたいの、ダメですか?」
「そうしてくれるかい? 今日はもう客も来ないと思うから。結果だけ電話してくれる?」
「はい、じゃあ上がらせてもらいます」
着替えたANNAは小声で「マネージャー、よいお年をお迎えください」
マネージャーは軽く手を振った。 店を出たANNAはタクシーを拾って香織のマンションに直行した。
ピンポーン・ピンポーン
何の応答もなかった。
ANNAは管理人に事情を話し部屋の鍵を開けてもらった。
「香織ちゃん、お邪魔します。香織ちゃん……?」
暗い部屋からは何の応答もない。
「入りま~す」
部屋の電気を点けた。部屋は綺麗に整頓されていて、何にも変わった様子はない。
「管理人さん、いつもの部屋と変わりはありません。 テーブルにメモだけ置かせてもらいます。いいですか?」
「はい、どうぞ」
メモには走り書きで「香織へ、何時でもいいから電話ちょうだい。ANNA」
ANNAは部屋を後にした。マネージャーに報告し家路に着いた。
年が明け、3日の朝ANNAの郵便ポストに手紙が一通あった。差出人は香織からだった。
封筒から取り出して読んだ。
ANNAちゃん、明けましておめでとう。
突然の手紙でごめんなさい。
私はしばらく旅に出ます。
わがまま言ってごめんなさい。
店のみんなにも宜しく伝えて下さい。
特にマネージャーには申し訳ないことをしたと思ってます。(マネージャーにも手紙書いておきました)
私が最後ANNAちゃんと別れた後に、衝撃的なビジョンを視たの……それが真実なのか?
私の錯覚なのか確かめるために旅に出ることにしたの。
詳しいことは今は言えないけど、ハッキリしたら連絡します。 ごめんね
これからの日本、いや世界に関する事でもあるの、だからもっと深く知ってみたいの、じゃあまたね!
ANNAちゃんへ 香織より
ANNAは意味が解らなかった。理解できることは、香織が誰にも告げずに、急に店を辞めて何かを
探しに旅に出たという事だけだった。
余韻を残したまま終了。こんな具合でどうかしらね、昔のアメリカSF映画みたいかしら?
Hisaeは手を止めた。
よし、後は製本して引き渡し。この世で一冊の本。喜んでくれるかな?
残り半金が古屋敷香織から銀行口座に振り込まれ、製本された本は古屋敷香織に送り届けられた。
「よし完了! まいどあり、金が入ったしパーマに行っていい女に変身してくるか……アハッ!」
Hisaeは気合いを入れKONAのドアを開けた。
「KOHEI君いる? KOHEI君」
スタッフが「あっハイ! おります、少々お待ち下さい」
出迎えた受付の娘はスタッフルームに入っていった。
「KOHEIさん、例のオバサン来てるわよ」
「例のオバサンって、例の?」
「そう、例の小説家の……」
KOHEIは「今日は休みって言ってよ」
「無理。今、連れてきますって言っちゃったんです」
「あ~~ぅ。きっと小説のお金入ったんだ」
「Hisaeさん、いらっしゃいませ」KOHEIは愛想をふりまいた。
「よっ!久しぶりね、KOHEI君。元気だった?」
「はい、僕はいつも元気です。おかげさまで」
「また、始まった、KOHEI君。僕はいつも元気です。でしょ!おかげさまでって、おかしな
日本語使わないのね、何のおかげなのよ?」
HisaeはKOHEIの喋る接客の言葉遣いにはいつも厳しかった。
「あっハイ!」
「で、今日はどのような髪型にします?」
「します?じゃない。いたしますか?とか、又は、なさいますか?でしょ!」
「あっハイ!」 店のスタッフは大笑いした。
「当然、Hisaeカットよ!」
KOHEIは髪を触り始めた。
「また、黙って触った。失礼しますとか、ないわけ?」
「し・し・し・失礼します」
「しは1回でいいの」
KOHEIは完全にてんぱっていた。
それから十日過ぎた頃、テレビに緊急速報が流れた。
「本日未明、現職参議院議員で民和党の山田国男氏が何者かに狙撃され死亡」と報告された。
えっ!うそっ!ほんとに?私が香織さんに書いた小説とほぼ同じだ?
これを偶然の一致というのね。そう言う事ってあるのね……寝ようと……
それからさらに数日が過ぎた。夕方のテレビニュースに地震予告の一報が入った。
数秒後軽い揺れを感じた。
テレビでは震度2弱と報告されていた。震源地は中国の内陸部でマグニチュード七.五。
ゲゲ、Hisaeは言葉つまったった。
翌日のニュースでは「上流の三景ダムが崩壊し、下流域の街が水に飲み込まれ被害が甚大。
人類史上最大の惨事では?」と報道した。
中国政府の体質上、事故の詳しい事は隠しているが、推定でも犠牲者30万人以上に登るのではと
懸念された。 後日談で地震の規模も大きかったが、それに加えダム工事の下請け業者による手抜き工事が
発覚した。 震災と人災が加わった事故と判明した。
Hisaeは言葉が無かった。私ってノストラダムス。ヒサダムス? ・・・怖っ!
Hisaeは香織に書いた小説を読み直した。
「え~と、SMO電気の破綻と透明金属の開発、九州の鳥インフルエンザか」
Hisaeは完全に焦っていたが、気を取り直し又、通常の仕事に取りかかった。
良かった。小説の内容を知るのが私と依頼者の古屋敷香織さんで。一応メールしておこうと思った。
「先日はありがとうございました。小説の内容に酷似した事件が発生しましたが、
あくまでも私が書いた物はフィクションであり、本事件は偶然の一致です。
全然、他意はございませんのでご了承願います。Hisae」
返信が来た「私も驚いています。 本当に偶然の一致という事があるんですね。当然他言は致しません。
古屋敷」
Hisaeは親友のSizueに事の次第を打ち明けた。
Sizueは「絶対偶然よ!そんなことは忘れて寝なさい」
「うん、そうする」
それから、ひと月が立った。
夕方のニュースで「SMO電気、経営悪化により倒産。負債総額二千五百億円、従業員一万五千二百人。
SMO電気は即日、民事再生法の申請」と発表された。
「出た!」Hisaeはもう偶然じゃあないわよ。従業員数まで一致してるもの。
Sizueから電話があった。
「姉さんの言ってた事、マジ当たってる。そのほかに
何を書いたの?」
「広島大学の透明金属の開発と九州の鳥インフルエンザで30%の鳥を処分よ」
「ウソッ!さっき九州で鳥インフルエンザ発症ってニュースやってたよ。もう完璧」
「何が完璧よ」Hisaeは多少むかついた。
「Hisae姉さんに未来を透視する能力があるのよ」
「私はヨハネやノストラダムスじゃないからね」
「まあいいけど。もし広島大学の透明金属とやらの開発が発表されたら完全にHisaeダムスに
決まりだからね」
「ひやかしは辞めてよね」Hisaeの言葉に力がなかった。
「Hisaeとりあえず寝てなさい」
「うん、解った・・そうする」
数日後、Hisaeはネットで、九州、鳥インフルエンザ被害と打ち込んだ。
すると、「九州の鶏の三十二%殺傷処分」と出ていた。
ついでに「広島大学、開発」と打ってみた。経済新聞がヒットした。内容を見てびっくりした。
「広島大学で透明金属の開発に成功!」という文字が目に入った。
HisaeはSizueにメールを送った。
「鳥インフルエンザで三十二%処分。広島大で透明金属開発とネットに流れていた。もう、
疑いようがないみたい。 私、どうしたらいい?」
「最近、それ以外の予言みたいな事、書いてないの?」
「あれは、たまたま依頼があったから書いただけなの。あの小説の後にも先にも書いたこと無い」
「じゃあ、私が予言者になるという設定で書いてみない?」
「あんた、私で遊んでるわけ?」
「だって、試さないと解らないじゃない」
「考える!」
香織からメールがあった。
「先日来の一連のニュース、 私も驚きのひと言です。 と同時にHisaeさんが心の
負担になってることと思います。 どうかお許し下さい。
私なりに考えたのですが、当然、偶然の一致というレベルで語るにはできすぎだと思います。
あれは、何らかの原因が存在するはずと考えています。
当然、私ではなくHisaeさんに何らかの原因があると考えられます。
たまたま私の依頼がきっかけで、このような形になりましたが、Hisaeさんは自分で気付いていない
特別な能力があるような気がします。
例えば(チャネリング能力)(透視能力)(時空を越えて未来を視る能力)などです。
これは私のひとつの見解です。 失礼いたします 香織」
「ふ~ん? 能力ね? まっ。考えても仕方ないから仕事続けるしかないか……」
いつものようにHisaeはパソコンに向かった。
ある日の夕方。いつものようにHisaeはパソコンに向かって執筆作業をしていた。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、インターホンが鳴った。
「はい!」
「Hisaeさんのお宅ですね」
「はい、そうですけど」
「私、警察の者ですが」
「はぃ。警察の何課ですか?」
「生活安全課の上山と佐伯と申します」
「はい?で、何か用ですか?」
「古屋敷香織さんのことでお尋ねしたいことがありまして、恐れ入ります。
チョットよろしいですか?」
「はい、今、開けます」
Hisaeはドアを開けた。
刑事らしき鋭い目をした二人の男が手帳を開示した。
「どうしました?」
「古屋敷香織の事でお尋ねしたいことがあります。 Hisaeさんはこのお名前の女性をご存じですか?」
「はい、私のお客様ですが……」
写真を提示しながら「この顔に見覚えは?」
Hisaeが手にした写真は年の頃なら60歳前後かと思われる品の良い女性。
「知りません。この方、誰ですか?」
「彼女が古屋敷香織さんです」
「ジェ・ジェ・ジェ~」Hisaeは驚いた。
「すみません。彼女は三十歳と聞いてましたので……」
佐伯が言った「ここでは何なので、差し支えなければ玄関に入らせてもらってよろしいでしょうか?
お手間はとらせませんから」
Hisaeは部屋に二人を通した。椅子に腰掛け話し始めた。
「あっ、失礼します。早速ですが実は古屋敷香織さんなんですが、ご家族の方から署の安全課に捜索願が
5日程前に出されております」
もうひとりの目付きの鋭い上山刑事が口を開いた。
「古屋敷香織さんのパソコンのメール履歴はHisaeさんへの送信が最後でした。
それ以降メール及び携帯電話のメールや通信の形跡がないんですね、それで今日は直接Hisaeさんに
会ってお話しをお聞きしたく訪問いたしました。古屋敷香織さんはご存じですよね?」
「はい、古屋敷香織さんは私のお客様です。間違いありません」
「最後に連絡を取られたのは憶えておりますか?」
「一週間前です。メールの内容はそちらで解りますよね」
「はい。ですが何度読んでも理解出来ない箇所があるんです。宜しければ、お仕事の内容を
お聞かせ願えないですか?」上山が聞いた。
「お客さんの変わりに私が小説を代筆するという仕事ですが」
「芸能人のよくやる代筆ってやつですか?」
「代筆は代筆ですが自叙伝や小説です。随筆とはちがいますけど」
「どう違うんですか?」
Hisaeが語気を荒げて言った。
「失礼ですけど随筆って知ってますか? 自叙伝は? 違いわかります?」
少しいらついた目で佐伯が「すいません。勉強不足で」
「勉強不足ではありません。常識知らずです」Hisaeはきっぱり言った。
「…………」部屋に冷たい沈黙が走った。
「あの~う。古屋敷さんの依頼で、私が書いた本を読んでないんですか?」
「その様な本は彼女の部屋に見あたりません」上山が言った。
「そうですか、じゃあCDにして差し上げますから読んで下さい」
「今、簡単に説明願えませんかね」偉そうに佐伯が言った。
Hisaeはめんどうくさそうに話し始めた。
「客の要望に応じ、客を主人公にした内容でその方の好みの小説を執筆するの。
自叙伝や随筆、SF小説、なんでも受けますの……
小説の場合、お客の書いてほしい題材と内容をアレンジしSF、ファンタジー、純愛、風刺、
メルヘンや童話、何でもOKです。 最後は製本までの総てをしてお届けするの。
自称〔小説請負人〕です。 そして、その客の中のひとりが香織さんで内容は当然彼女を主人公にした
小説です。 彼女が急に予言者になったというものです。 わかります?」
上山が「その小説がこのCDに書き込んであるわけですね」
「そう」
「はい、ありがとうございました。また、何かあったらお話を聞かせていただいてよろしいですか?」
「かまいませんけど」
佐伯と上山は部屋から退室した。
「ウエさん、彼女どう思いますか?」
「なにが、勉強不足ではありませんかだ!ったく」
「嗚呼腹立つ!あのおばさんの態度、きっちり調べさせてもらおうかね」上山は思い出しただけでむかついた。
2人は署に戻りCDを読んだ。
「????」
「この書いた日付……? ウエさん」
「一連の騒動は事件の前に書かれたものだぜ」
「細工してるんじゃねえのかよ」
「いや、香織のPCの通信記録から見ても前もって書かれた物だ」
佐伯は黙って宙を見つめていた。
上山は「なんかのトリックですよ」
「トリック使うメリットあるか?」
「うん、そうですよね」
「こいつ(Hisae)は化けもんか?」佐伯が腕組みをした。
警察の調べでは、小説の内容を書いた日付後に、地震や小説にある一連の内容があることを確認した。
上山が「SF小説やSF映画のようなことが現実に起こりえるんだなぁ~世の中解らんことだらけだ」
佐伯が腕組みをしながら呟いた「香織探しは振り出しか」
Hisaeは古屋敷香織の事が気になっていた。
「その後、あの刑事さん達、なにも言ってこないけどどうしたものかな? こっちから電話するのも
シャクに障るし……
小説の最後に本人をなんで失踪させたんだろう?
不可思議よねぇ~ こういう時は寝るか……
END
4月初旬、桜が咲くこの季節、コートを脱ぎ捨てたが朝晩の寒さが肌身にしみ、まだコートが恋しい季節。
少し風変わりな依頼がHisaeのもとに届いた。依頼の題名は「黙示録」依頼者は古屋敷香織30歳。
職業ホステス。
依頼内容
未来を予知する特殊能力の持ち主、古屋敷香織。 職業ススキノで働くホステス。
現代版のノストラダムス、エドガー・ケーシー風にとの依頼で結末は意味ありげな予言を残し忽然と
姿を消してしまうという展開にしてほしい。
予言の内容は適当にHisaeに考えてほしいとのこと。 注文はそれだけ。
執筆の依頼額は原稿用紙200枚で50万円。
なんか解らないけど興味をそそるような依頼と金額にHisaeは机に向かった。
えーと題名は「黙示録」か…ちょっとベタね? 「香織の黙示録」…同じか、まっ、解りやすくていいか!
あらすじ、職業ススキノのクラブで働く女性香織二五歳の数奇な運命。
ホステスは人間観察の好きな香織にはもってこいの仕事。
多彩な職業と年齢の客を観察し、お金がもらえる、趣味と実益を兼ねた打って付けの職業だと考えた。
働いて一年が経過し、この仕事が本当に楽しく思えてきた矢先。 香織の身にある変調が起こった。
仕事中、なんの予兆もなく突然激しい頭痛がして気を失ってしまった。
脳外科病院へ救急搬送され意識を取り戻したのはMRIの中だった。
医師は「脳に異常なし。 疲れかストレスからきた一過性のものだろう」との診断。
三日間の検査入院。 初見通り異常は見あたらず退院。 その日のうちに職場復帰した。
それから数日後店で普通にお客の横に座った刹那、その客が帰るビジョンが脳裏に視えてしまう。
何だろう……? わたしの頭どこか変? 少し不安になってきた。
退院後の香織に少し不可思議な能力が目覚めてきたのであった。
香織の能力は個人に止まらず、地域社会、果ては国のことまでが視えてくるという特殊な能力。
そんな香織の数奇な生き様を描いた小説。
こんな感じでどうかな? Hisaeはあらすじを香織にメールした。
「興味深い内容になりそうで楽しみです。よろしくお願いいたします」と返事がきた。
ようし!執筆に取りかかろう。
Hisaeは部屋に籠もった。 執筆中は部屋に閉じこもったまま、できあがるまで何日も
出てこないことが普通にある。 それが彼女の執筆スタイル。
「香織の黙示録」
札幌のクラブで働く女性香織25歳の数奇な運命。
好きな人間観察が出来て、そしてお金になる仕事ホステス。
この職業は人間観察の好きな香織にはうってつけの仕事。 二四歳でデビューをした香織。
ホステス業の1年はあっという間に過ぎていった。
そんな仕事が楽しく思えてきたある日のこと、香織の身に突然ある変調が起こった。
それは、接客中になんの予兆もなく突然頭に激痛をおぼえ客の前で気を失ってしまった。
店は騒然となり、ホステス仲間や客はくも幕下出血か脳梗塞だろうと皆は勝手に憶測した。
救急搬送され、意識を取り戻したのはMRIの中。
医師の診断は「脳には異常なし。疲れかストレスからくる一過性のものだろう」との診断。
念のため三日ほど検査入院することになった。 再検査結後、初見通り脳に異常は診あたらず退院となった。
退院後、香織は心の奥で微妙な何かが異なっていることに気がついていた。
言葉でうまく表現できないので他言はせずにいた。
退院から数日後、店に普段通り香織の姿があった。 同僚のANNAが香織に声を掛けてきた。
「香織ちゃん大丈夫なの?無理しないでもう少し休んだら?」ANNAは香織の同期で店で
一番気の合う同僚。
「心配させてごめんね、もう大丈夫だよ。心配かけてごめんね…」
香織が仕事に復帰して3日目のこと、紳士風の中年男性客の席に着いた。
その瞬間だった。香織は意識がとおのいて、先日倒れた時のあの感覚。 そしてあるビジョンが視えた。
そのビジョンとは、客が店を出てタクシーを止めようと車道に乗りだした瞬間、後ろからきた
白いスポーツカーにその客が跳ねとばされるという光景。
香織は「妙にリアル……?錯覚?」と思ったが気にせずいつものように明るく接客した。
そして、その客が帰るのを店の外まで送りに出た。
香織は「楽しかったです。 又、お越し下さい。お休みなさい」手を振り見送った。
店に戻ろうと背を向けた瞬間、ドン!という鈍い音が後ろでした。 同時に女性の悲鳴が聞こえた。
香織が振り返ると今見送ったばかりのその中年紳士が倒れ込んでいた。
警察が来て目撃者の証言を横で聞いていた香織は我が耳を疑った。
タクシーを止めようと車道に乗りだした瞬間、後ろから来た白いスポーツカーに跳ねとばされたらしい、
その車はそのまま逃走したとのこと。
なんと、あのビジョンと一致していたのだった。
その後も何度か自分が予期しないときに視るビジョンが現実に起こることに気がついた。
その頻度がだんだん増してきて自分が怖くなってきた。
仕事前に携帯で「ねえ、ANNAちゃん、ちょっと聞いてほしいことがあるの」香織は事の
一部始終を時間をかけて説明した。
「香織、あんたにすごいこと起きているのね。 最近の香織はなにか宙を見ているなって
気になってたけど……あんた大丈夫なの? もう一度病院で検査したら?」
「うん、今のところ大丈夫だけど、でも今朝、新聞を読んでいたら急に文字が歪んで見えたの、
そしたら紙面が急に変わったのね、そこに書いていた記事が政治家の山田国男が何者かに
拳銃で撃たれ即死って書いてあったのよ。
もう一度よく目を凝らして見てみると、今度は全く違う株価暴落の記事だったのね。
わけ解らないよ…」
香織はANNAに話して落ち着いたのか気が少し気が晴れ、最後は普段通り笑いながら話し携帯を切った。
翌朝10時香織は携帯の着信音で目がさめた。
だれなの?こんな時間に…ホステスの朝は遅かった。
「はい……」
「香織、テレビのニュース見た?」
「ANNAちゃん?どうしたのよこんな時間に?」
「山田国男が銃撃されて死んだのよ」
「……えっ! うっそ?」
「本当よ。 今、テレビでやってるもん。 テレビ入れてみて速報でやってるから」
香織は自分の耳を疑った。 すぐテレビをつけ目に飛び込んできたのは山田国男殺害の速報。
「ほんとだ…ANNAちゃん、私、怖くなったからとりあえず電話切るね。
また、こっちから連絡するからじゃあね」
携帯を置いた香織はその場に座り込んでしまった。
その日は「病院の検査で疲れたので今日は店を休ませてほしい」とマネージャーに連絡し、
部屋に籠もりパソコン画面を朝から眺めていた。
自分のような症状の人が他に居るんだろうか?
これからどう行動したらいいの?
考えることがいっぱいあって解決するどころか香織の頭は混乱するばかりだった。
「なぜ私なの?」
「聖書黙示録?・ヨハネ、ノストラダムス、エドガー・ケーシー、日月神示?
なんなのよ全然解らないよ?まったく!」そのうち香織は寝入ってしまい夢を見ていた。
場所は中国。香織は大きなダムの上空にいた。
突然「ドドドッ!」というけたたましい音がしてダムが崩壊した。
下流の街はひとたまりもなく押し流され、死者数三十九万人という前代未聞の大惨事と化していた。
原因は下請け業者と役人の癒着による手抜き工事。 中国史上最大最悪の人災と判明。
次の瞬間、香織はアメリカのとある空軍基地の中にいた。 記者団を前に軍の偉いさんと思われる人間が、
手元にある写真の白い物体を指さして何かを語っていた。
「この度我が軍は地球外生命体と接触することに成功した」
その先には普通の人間とは若干違い透き通った感じのする生命体があった。
そう、それは地球外生命体の存在。 アメリカが宇宙人の存在を世界に知らしめた歴史的な瞬間であった。
ここで香織は目が醒めた。
今の夢なの? なんかリアル過ぎ? と自問自答した。
それから十日程過ぎた頃、自宅でテレビを見ていると急に部屋が揺れ始めた。
「あっ!地震!」揺れはすぐに収まったがそれなりに大きな揺れだった。 テレビでは震度4となっていた。
震源地は中国とあった。
その後、テレビは臨時ニュースに切り替わり「この度の地震の震源地中国でダムが決壊し、
複数の街が一瞬にして飲み込まれ、大惨事になっている」というニュースが報道された。
香織は絶句し固まった。 瞬間はっきりと自覚した。
「この事は偶然なんかじゃない。 だって私、視たもの。十日前、この現場に私は居たもの。
一部始終見てたし」そう思った瞬間身体が震えてきた。 得体の知れない不安感に襲われた。
「じゃあ、あの宇宙人も? もしかしたら?」
その翌日の新聞に小さく「米空軍、宇宙生物の存在を容認する発言!」と書かれていた。
もう、疑う余地はない。 私には未来の出来事を何らかの方法で察知できる力があるんだわ。
でも、香織は他言しないでおこうと心に決めた。
この手の発言は最初もてはやされるが、次第に話が歪曲され終いに狂言者呼ばわりされるのが
関の山と思ったからだから。
でも、せっかく備わった能力。 ブログを開設して夢日記の類で書き込みをしよう。
ブログは書き込みした日時が刻まれるから、狂言でないことは実証できるし、事故を事前に
回避できる人が出てくるかもしれないと思った。
ブログは「香織の夢日記」というタイトルでアップされた。
内容は自然・社会の出来事など新聞の三面記事のような書き方。
違うのは、まるでその場で見てきたかのようにリアルに書いているところが新聞とは大きくちがう。
Hisaeはキーボードを叩く手を休めた。
あ~あ~とっ、一服、一服。書き始めはこんなものかな?
次はどんな事件や出来事を書こうか? 案外自分で書いていて面白い出来だなこれ……
架空の予言って結構楽しいかも…
責任感が全くないし、かといってデタラメでも伝わらないからリアルさも要求される、小説ならではね。
シャワー浴びて、続き書こうっと。 今度はと……そうだ!大企業を倒産させちゃおうっと。
香織はまた夢を見ていた。 新聞の一面の見出しが目に入った。
「SMO電気、経営破綻」の文字が大きく目に入った。
SMO電気突然の経営破綻。 従業員約一万五千二00人は今月末をもって解雇という新聞見出しであった。
横には小さく従業員の50%はSANY電気が引き受け検討か?
香織は早速ブログに書き込んだ。
3日後、TVの臨時ニュースで「SMO電気、経営破綻」の速報が流れ日本中の話題となった。
「あらまたまた当たってしまったみたい……」
PCを開き「夢日記」ブログを覗いてみると炎上していた。
「何で事前に解るの?」 「お前が影で糸を引いているんだろう」
「何の占いですか?」 「あなたは誰なの?」
などなど訳の解らない数百の書き込みがされていた。
香織はすぐに書き込み禁止の処理をした。
「今後は雑音無しの一方通行ね。もっとたくさん書こうっと」
Hisaeが呟いた「今度は明るいニュースもいいわね……そうだ、思いついた!」
店で客のグラスに酒を注ごうと手を伸ばした時だった。 香織が体勢を崩して横にいた客の手に触れた。
その瞬間「俺はついに透明の金属を開発した。もしかして俺はノーベル賞受賞か?」伝わってきた。
香織は思わず「開発、おめでとうございます」と無意識に口にしてしまった。
客は当然怪訝な顔をして香織を凝視していた。
「しまったっ!」不用意に言葉を出してしまった。
客は「えっ? 何がおめでとうなの?」
香織はすかさず「ごめんなさい。 お客さんの顔を見たら何かとっても嬉しそうな表情だったので、
きっと何か良いことがあったに違いないと思ってたら、つい言葉に出てしまったんですぅ。
ごめんなさい」
「そっか。 僕の顔に出てたかな? 君、洞察力あるなぁ…」客の顔は確かに二ヤついていた。
「あんたの顔を見たら誰でも解る」と香織は思った。
それから数日後「広島大学にて、世界初の透明金属開発!ノーベル賞候補か?」とニュースで放映された。
さすがに香織はこの件はブログには載せなかった。
Hisaeは手を止めた。今日はこの辺でお終いにしようっと。それにしても小説とはいえ、
こんな発明品があったら世界が変わるだろうな。
発想のアメリカ・技術の日本か…これって的をえてるよね、よし今日はもう寝る!
翌朝、Hisaeは夢にうなされて起きた。なんだ? 今の夢は? 夢の内容はこうだった。
夢の中でHisaeは新聞記者をしていた。
今日はやけに忙しいなあ「鳥インフルエンザが九州に上陸。少なくとも九州の全養鶏場の約30%で
感染し鶏は殺処分された。 数万羽処分」
「大変なことになったもんだ」その記者会見場にHisaeはいた。
目が醒めたHisaeは「うん?……えっ? これ良い題材。 私はもしかして天才?」と思った。
コーヒーを入れ食パンを頬ばりキーボードを叩いた。
香織はまた夢を見た「九州地方で……」
Hisaeの見た夢を「香織」に置き換えて小説に書いたのだった。
こんな調子で5日間でHisaeは 「香織の黙示録」を半ば完成させた。
香織は人と違う自分がだんだんと怖くなってきた。
もう、ブログ更新を辞めようか、事前に世の中に起きる事が解ったからと云ってどうしたというの?
別に私が惨事を防げる訳でもないし……
自己嫌悪に陥ってしまった。
そんな時、ANNAからメールがあった。
「何してますか? 時間があったら店前に食事どう?」
返信した「いつもの時間にいつもの場所でどう?」
行きつけのレストランに二人はいた。
「ねえ香織、最近浮かない顔してるけどどうかした?」
「私、精神科に行って相談しようかなって考えてるんだ。 自分が怖くなってくるのよね」
「例の予知のこと?」
「うん、怖くなって、寝るのが辛くなることもあるんだ」
「その予知って自分で視ようとして視えないの?」
「できない。占い師なら視たくない時には視なくてすむけど、私の場合は自分の意志関係なく
勝手に視えるの、その場にいることもあるんだ。 全くコントロールきかないの」
「そっか……香織いっそのこと本にして出版したら?」
「ANNAちゃん、冗談辞めてよね」
「ごめん、ごめん」
次の瞬間、香織は又ビジョンを視た。
「話変わるけど、最近犬飼った?」
「えっ!私まだ香織に言ってないよね…」
「ANNAちゃんすぐ家に帰って、子犬がANNAちゃんのベッドの下で血だと思うんだけど、
赤いもの吐いてるのが視えるの…お勘定いいから早く帰ってやって!」
ANNAはすぐ店を飛び出してタクシーを拾った。
2時間ほどしてメールが届いた。
「さっきはありがとう。 犬のpinoがグッタリしてたの、すぐ病院に駆けつけてレントゲン撮ったの。
とりあえず命に別状ないみたい。ホッ! でもおう吐物を検査したら細菌が見つかったの、母犬からの
胎内感染の可能性かもしれないって。 悪いけど今日一日念のため犬に付いててあげたいから
今日お休みします。 マスターに連絡したからお店お願いします。 香織の能力、本当に凄いよ!
感謝感謝!その能力が人助けに使えるといいのにね。 香織、本当にありがとう」
香織はこの能力が初めて人の役に立ってよかったと実感した。
「人の役に立つのもいいね」Hisaeは呟いた。キーボードを叩く手を止め思いをめぐらせた。
「さてさて? 最後はどのように締めようか? 香織が宗教組織の教祖?or街で人気の占い師?
or占いBARのママ? それとも預言を駆使した小説家? なんかどれもベタよねぇ~
最後は謎の予言を残し香織は姿を消した。 よっしゃ、これで行こう。 やっぱ私は天才だ!」
最初の予言から二年が過ぎた。 年の瀬という季節がら店は忘年会の二次会などで大忙し。
香織とANNAが店を出たのは二時を過ぎた頃だった。街は、タクシーを待つホステス、
千鳥足の客。 雪降るススキノは人と車が入り乱れていた。
「明日で店は終了ねぇ」ANNAは手袋をはめながら香織に話しかけた。
「そうね、一年はあっという間。ANNAちゃんは帰省するの?」
「私は犬がいるから今年は帰らない。 香織は帰省しないの?」
「私は列車のチケット買ってないから、元旦辺りに帰ろうかなと思ってる」
その後、2人は各々タクシーを拾って別れた。
翌日の店は昨日と比べ、かなり空いていた。マネージャーが「ANNAちゃん、チョット良いかい?」
「はい、何ですか?」
「香織ちゃん、もう九時なのにまだ来ないし、携帯にも出ないんだけど……何か聞いてない?」
「昨日別れるときは、何も言ってなかったけど…私、メールしてみますね」
十一時頃、マネージャーが「ANNAちゃん、香織ちゃんからまだ何も言ってこないかい?」
「はい、どうしたんだろう?」
「マネージャー、私、心配だから今日は上がらせてもらっていいですか? 香織ちゃんのアパートに様子見に行きたいの、ダメですか?」
「そうしてくれるかい? 今日はもう客も来ないと思うから。結果だけ電話してくれる?」
「はい、じゃあ上がらせてもらいます」
着替えたANNAは小声で「マネージャー、よいお年をお迎えください」
マネージャーは軽く手を振った。 店を出たANNAはタクシーを拾って香織のマンションに直行した。
ピンポーン・ピンポーン
何の応答もなかった。
ANNAは管理人に事情を話し部屋の鍵を開けてもらった。
「香織ちゃん、お邪魔します。香織ちゃん……?」
暗い部屋からは何の応答もない。
「入りま~す」
部屋の電気を点けた。部屋は綺麗に整頓されていて、何にも変わった様子はない。
「管理人さん、いつもの部屋と変わりはありません。 テーブルにメモだけ置かせてもらいます。いいですか?」
「はい、どうぞ」
メモには走り書きで「香織へ、何時でもいいから電話ちょうだい。ANNA」
ANNAは部屋を後にした。マネージャーに報告し家路に着いた。
年が明け、3日の朝ANNAの郵便ポストに手紙が一通あった。差出人は香織からだった。
封筒から取り出して読んだ。
ANNAちゃん、明けましておめでとう。
突然の手紙でごめんなさい。
私はしばらく旅に出ます。
わがまま言ってごめんなさい。
店のみんなにも宜しく伝えて下さい。
特にマネージャーには申し訳ないことをしたと思ってます。(マネージャーにも手紙書いておきました)
私が最後ANNAちゃんと別れた後に、衝撃的なビジョンを視たの……それが真実なのか?
私の錯覚なのか確かめるために旅に出ることにしたの。
詳しいことは今は言えないけど、ハッキリしたら連絡します。 ごめんね
これからの日本、いや世界に関する事でもあるの、だからもっと深く知ってみたいの、じゃあまたね!
ANNAちゃんへ 香織より
ANNAは意味が解らなかった。理解できることは、香織が誰にも告げずに、急に店を辞めて何かを
探しに旅に出たという事だけだった。
余韻を残したまま終了。こんな具合でどうかしらね、昔のアメリカSF映画みたいかしら?
Hisaeは手を止めた。
よし、後は製本して引き渡し。この世で一冊の本。喜んでくれるかな?
残り半金が古屋敷香織から銀行口座に振り込まれ、製本された本は古屋敷香織に送り届けられた。
「よし完了! まいどあり、金が入ったしパーマに行っていい女に変身してくるか……アハッ!」
Hisaeは気合いを入れKONAのドアを開けた。
「KOHEI君いる? KOHEI君」
スタッフが「あっハイ! おります、少々お待ち下さい」
出迎えた受付の娘はスタッフルームに入っていった。
「KOHEIさん、例のオバサン来てるわよ」
「例のオバサンって、例の?」
「そう、例の小説家の……」
KOHEIは「今日は休みって言ってよ」
「無理。今、連れてきますって言っちゃったんです」
「あ~~ぅ。きっと小説のお金入ったんだ」
「Hisaeさん、いらっしゃいませ」KOHEIは愛想をふりまいた。
「よっ!久しぶりね、KOHEI君。元気だった?」
「はい、僕はいつも元気です。おかげさまで」
「また、始まった、KOHEI君。僕はいつも元気です。でしょ!おかげさまでって、おかしな
日本語使わないのね、何のおかげなのよ?」
HisaeはKOHEIの喋る接客の言葉遣いにはいつも厳しかった。
「あっハイ!」
「で、今日はどのような髪型にします?」
「します?じゃない。いたしますか?とか、又は、なさいますか?でしょ!」
「あっハイ!」 店のスタッフは大笑いした。
「当然、Hisaeカットよ!」
KOHEIは髪を触り始めた。
「また、黙って触った。失礼しますとか、ないわけ?」
「し・し・し・失礼します」
「しは1回でいいの」
KOHEIは完全にてんぱっていた。
それから十日過ぎた頃、テレビに緊急速報が流れた。
「本日未明、現職参議院議員で民和党の山田国男氏が何者かに狙撃され死亡」と報告された。
えっ!うそっ!ほんとに?私が香織さんに書いた小説とほぼ同じだ?
これを偶然の一致というのね。そう言う事ってあるのね……寝ようと……
それからさらに数日が過ぎた。夕方のテレビニュースに地震予告の一報が入った。
数秒後軽い揺れを感じた。
テレビでは震度2弱と報告されていた。震源地は中国の内陸部でマグニチュード七.五。
ゲゲ、Hisaeは言葉つまったった。
翌日のニュースでは「上流の三景ダムが崩壊し、下流域の街が水に飲み込まれ被害が甚大。
人類史上最大の惨事では?」と報道した。
中国政府の体質上、事故の詳しい事は隠しているが、推定でも犠牲者30万人以上に登るのではと
懸念された。 後日談で地震の規模も大きかったが、それに加えダム工事の下請け業者による手抜き工事が
発覚した。 震災と人災が加わった事故と判明した。
Hisaeは言葉が無かった。私ってノストラダムス。ヒサダムス? ・・・怖っ!
Hisaeは香織に書いた小説を読み直した。
「え~と、SMO電気の破綻と透明金属の開発、九州の鳥インフルエンザか」
Hisaeは完全に焦っていたが、気を取り直し又、通常の仕事に取りかかった。
良かった。小説の内容を知るのが私と依頼者の古屋敷香織さんで。一応メールしておこうと思った。
「先日はありがとうございました。小説の内容に酷似した事件が発生しましたが、
あくまでも私が書いた物はフィクションであり、本事件は偶然の一致です。
全然、他意はございませんのでご了承願います。Hisae」
返信が来た「私も驚いています。 本当に偶然の一致という事があるんですね。当然他言は致しません。
古屋敷」
Hisaeは親友のSizueに事の次第を打ち明けた。
Sizueは「絶対偶然よ!そんなことは忘れて寝なさい」
「うん、そうする」
それから、ひと月が立った。
夕方のニュースで「SMO電気、経営悪化により倒産。負債総額二千五百億円、従業員一万五千二百人。
SMO電気は即日、民事再生法の申請」と発表された。
「出た!」Hisaeはもう偶然じゃあないわよ。従業員数まで一致してるもの。
Sizueから電話があった。
「姉さんの言ってた事、マジ当たってる。そのほかに
何を書いたの?」
「広島大学の透明金属の開発と九州の鳥インフルエンザで30%の鳥を処分よ」
「ウソッ!さっき九州で鳥インフルエンザ発症ってニュースやってたよ。もう完璧」
「何が完璧よ」Hisaeは多少むかついた。
「Hisae姉さんに未来を透視する能力があるのよ」
「私はヨハネやノストラダムスじゃないからね」
「まあいいけど。もし広島大学の透明金属とやらの開発が発表されたら完全にHisaeダムスに
決まりだからね」
「ひやかしは辞めてよね」Hisaeの言葉に力がなかった。
「Hisaeとりあえず寝てなさい」
「うん、解った・・そうする」
数日後、Hisaeはネットで、九州、鳥インフルエンザ被害と打ち込んだ。
すると、「九州の鶏の三十二%殺傷処分」と出ていた。
ついでに「広島大学、開発」と打ってみた。経済新聞がヒットした。内容を見てびっくりした。
「広島大学で透明金属の開発に成功!」という文字が目に入った。
HisaeはSizueにメールを送った。
「鳥インフルエンザで三十二%処分。広島大で透明金属開発とネットに流れていた。もう、
疑いようがないみたい。 私、どうしたらいい?」
「最近、それ以外の予言みたいな事、書いてないの?」
「あれは、たまたま依頼があったから書いただけなの。あの小説の後にも先にも書いたこと無い」
「じゃあ、私が予言者になるという設定で書いてみない?」
「あんた、私で遊んでるわけ?」
「だって、試さないと解らないじゃない」
「考える!」
香織からメールがあった。
「先日来の一連のニュース、 私も驚きのひと言です。 と同時にHisaeさんが心の
負担になってることと思います。 どうかお許し下さい。
私なりに考えたのですが、当然、偶然の一致というレベルで語るにはできすぎだと思います。
あれは、何らかの原因が存在するはずと考えています。
当然、私ではなくHisaeさんに何らかの原因があると考えられます。
たまたま私の依頼がきっかけで、このような形になりましたが、Hisaeさんは自分で気付いていない
特別な能力があるような気がします。
例えば(チャネリング能力)(透視能力)(時空を越えて未来を視る能力)などです。
これは私のひとつの見解です。 失礼いたします 香織」
「ふ~ん? 能力ね? まっ。考えても仕方ないから仕事続けるしかないか……」
いつものようにHisaeはパソコンに向かった。
ある日の夕方。いつものようにHisaeはパソコンに向かって執筆作業をしていた。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、インターホンが鳴った。
「はい!」
「Hisaeさんのお宅ですね」
「はい、そうですけど」
「私、警察の者ですが」
「はぃ。警察の何課ですか?」
「生活安全課の上山と佐伯と申します」
「はい?で、何か用ですか?」
「古屋敷香織さんのことでお尋ねしたいことがありまして、恐れ入ります。
チョットよろしいですか?」
「はい、今、開けます」
Hisaeはドアを開けた。
刑事らしき鋭い目をした二人の男が手帳を開示した。
「どうしました?」
「古屋敷香織の事でお尋ねしたいことがあります。 Hisaeさんはこのお名前の女性をご存じですか?」
「はい、私のお客様ですが……」
写真を提示しながら「この顔に見覚えは?」
Hisaeが手にした写真は年の頃なら60歳前後かと思われる品の良い女性。
「知りません。この方、誰ですか?」
「彼女が古屋敷香織さんです」
「ジェ・ジェ・ジェ~」Hisaeは驚いた。
「すみません。彼女は三十歳と聞いてましたので……」
佐伯が言った「ここでは何なので、差し支えなければ玄関に入らせてもらってよろしいでしょうか?
お手間はとらせませんから」
Hisaeは部屋に二人を通した。椅子に腰掛け話し始めた。
「あっ、失礼します。早速ですが実は古屋敷香織さんなんですが、ご家族の方から署の安全課に捜索願が
5日程前に出されております」
もうひとりの目付きの鋭い上山刑事が口を開いた。
「古屋敷香織さんのパソコンのメール履歴はHisaeさんへの送信が最後でした。
それ以降メール及び携帯電話のメールや通信の形跡がないんですね、それで今日は直接Hisaeさんに
会ってお話しをお聞きしたく訪問いたしました。古屋敷香織さんはご存じですよね?」
「はい、古屋敷香織さんは私のお客様です。間違いありません」
「最後に連絡を取られたのは憶えておりますか?」
「一週間前です。メールの内容はそちらで解りますよね」
「はい。ですが何度読んでも理解出来ない箇所があるんです。宜しければ、お仕事の内容を
お聞かせ願えないですか?」上山が聞いた。
「お客さんの変わりに私が小説を代筆するという仕事ですが」
「芸能人のよくやる代筆ってやつですか?」
「代筆は代筆ですが自叙伝や小説です。随筆とはちがいますけど」
「どう違うんですか?」
Hisaeが語気を荒げて言った。
「失礼ですけど随筆って知ってますか? 自叙伝は? 違いわかります?」
少しいらついた目で佐伯が「すいません。勉強不足で」
「勉強不足ではありません。常識知らずです」Hisaeはきっぱり言った。
「…………」部屋に冷たい沈黙が走った。
「あの~う。古屋敷さんの依頼で、私が書いた本を読んでないんですか?」
「その様な本は彼女の部屋に見あたりません」上山が言った。
「そうですか、じゃあCDにして差し上げますから読んで下さい」
「今、簡単に説明願えませんかね」偉そうに佐伯が言った。
Hisaeはめんどうくさそうに話し始めた。
「客の要望に応じ、客を主人公にした内容でその方の好みの小説を執筆するの。
自叙伝や随筆、SF小説、なんでも受けますの……
小説の場合、お客の書いてほしい題材と内容をアレンジしSF、ファンタジー、純愛、風刺、
メルヘンや童話、何でもOKです。 最後は製本までの総てをしてお届けするの。
自称〔小説請負人〕です。 そして、その客の中のひとりが香織さんで内容は当然彼女を主人公にした
小説です。 彼女が急に予言者になったというものです。 わかります?」
上山が「その小説がこのCDに書き込んであるわけですね」
「そう」
「はい、ありがとうございました。また、何かあったらお話を聞かせていただいてよろしいですか?」
「かまいませんけど」
佐伯と上山は部屋から退室した。
「ウエさん、彼女どう思いますか?」
「なにが、勉強不足ではありませんかだ!ったく」
「嗚呼腹立つ!あのおばさんの態度、きっちり調べさせてもらおうかね」上山は思い出しただけでむかついた。
2人は署に戻りCDを読んだ。
「????」
「この書いた日付……? ウエさん」
「一連の騒動は事件の前に書かれたものだぜ」
「細工してるんじゃねえのかよ」
「いや、香織のPCの通信記録から見ても前もって書かれた物だ」
佐伯は黙って宙を見つめていた。
上山は「なんかのトリックですよ」
「トリック使うメリットあるか?」
「うん、そうですよね」
「こいつ(Hisae)は化けもんか?」佐伯が腕組みをした。
警察の調べでは、小説の内容を書いた日付後に、地震や小説にある一連の内容があることを確認した。
上山が「SF小説やSF映画のようなことが現実に起こりえるんだなぁ~世の中解らんことだらけだ」
佐伯が腕組みをしながら呟いた「香織探しは振り出しか」
Hisaeは古屋敷香織の事が気になっていた。
「その後、あの刑事さん達、なにも言ってこないけどどうしたものかな? こっちから電話するのも
シャクに障るし……
小説の最後に本人をなんで失踪させたんだろう?
不可思議よねぇ~ こういう時は寝るか……
END
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