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プロローグ
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今日もいつもと変わらない。
決まった時間に退屈な授業が始まる。
天音(あまね)は教科書とノートを開き、さらにもう一冊一回り小さいノートを開いた。
数学の先生が黒板に例題を書いて説明をしている。
周りのクラスメイトたちはそれを黙々と聞きながらノートを取っている。
姿勢だけ見たら天音も同じようにノートにシャーペンを走らせているのでサボっているとは思うまい。
この窓際の後ろから二番目という席は天音にとって最高の場所だった。
一番後ろほど目立たないし、先生からも遠い。
そして、元々地味で存在感薄い天音がそこに座ってしまえば、授業中に邪魔されることは滅多になかった。
さて、先生とクラスメイトの状況を確認できたところで、まずは世界観設定だ。
この前は人に変身できる竜と仲良くなって、空を飛んで旅をしていくって話だったから……。
今度はもっと殺伐とした物語が良いかな。
二冊目のノートに[世界観]と書き、[ファンタジー世界]の項目を書き加える。
オーソドックスに中世ヨーロッパを基本とした世界。
……でも、ファンタジーって言うとどうしてこうみんな画一的に同じような世界観になるんだろう。
結局のところ世界観なんて記号みたいなものだから誰もが知っているような世界のほうが想像しやすいってことかな。
もちろん、魔法が栄えていて、人間と敵対する魔族なんかがいる。
――そうだ。
魔族が世界を支配していることにしよう。
世界を支配した魔族が次にすることは決まっている。
さらなる人間の世界の支配だ。
魔族たちは世界を仕切る壁を打ち破り、この――天音たちのいる世界へと侵入してくる。
大きな物音。空がガラスのように割れていく。
「な、なんだあれ!?」
異変にいち早く気がついたのはクラスメイトの佐野(さの)君だった。
佐野君につられて先生や他のクラスメイトも窓際に押し寄せる。
天音は来るべき時が来たのだと何かを悟るように窓際から離れた。
『我が名は魔神ルシファー。今日からこの世界も我のものだ!!』
頭の奥に直接言葉を叩き込まれたような感覚。空いっぱいに広がる邪悪なモノの姿。世界を支配する魔族の神。
今までに味わったとこのない恐怖と絶望にみんなその場に倒れ込み、吐く者までいた。
パニックになっているのはこのクラスだけじゃなくて他のクラスも同様だった。
いや――きっと世界中が同じような状況になっている。
それに立ち向かえる人間はきっと天音だけだった。
心の奥から溢れてくる力。
それが何なのかはわからなかったが、大事なのはその力を何に使うかと言うこと。
天音はその力で天へ飛ぶ、魔神ルシファーに向かって――。
「……天音ちゃん、天音ちゃん」
後ろから背中を押されて天音はハッと我に返った。
「おい、照日(てるひ)。この問題がわからないのか?」
数学の教師で天音のクラス担任――尾山(おやま)先生は黒板に書いた問題をチョークで三回ほど叩いた。
天音は黒板を見てから空を見た。
雲一つない快晴。割れるどころかヒビ一つ入ることはない。
だってそれは全て天音が妄想した世界の話だったから。
「照日。外を見てる余裕があるなら、もちろん答えられるんだろうな?」
「あ、えと……」
まずい。さっぱりわからない。
これならいっそ本当に世界の壁を破って魔神が現れてくれたら良いのに。
冷や汗をかいていると、後ろから小さなメモが渡された。
この席が教室の端、窓際の後ろから二番目でよかった。
ここは教壇からはほとんど死角なのでメモをやりとりしても気付かれない。
「わからないならわからないで、ちゃんと先生の話を聞きなさい」
「えーと、その答えは――」
天音はメモに書かれていた答えを読んだ。
「……何だ、わかってるんじゃないか。だったらもうちょっと授業に集中してくれ。それからこの前の生活指導でも言ったけどな。もうちょっと前髪を切りなさい。校則には目が隠れるほど伸ばすのは禁止ってなってるだろ。後で誰かにピン止めでも借りて止めておけよ」
「は、はい」
余所見をしていたのに答えたからか、先生は余計な注文まで付けてきた。
髪は面倒だからそのままにしているだけだが、前髪を切るつもりはなかった。
周りの人たちに表情を見られたくなかったから。
学校に通ってはいるものの、天音は精神的な引きこもりのようなものだった。
このつまらない世界のことは適当にやり過ごし、妄想の世界で活躍する。
そんな中で唯一の例外がさっき天音を助けてくれた後ろの席に座っている月永(つきなが)暦(こよみ)ちゃん。
天音は着席するときに一瞬だけ後ろの席の暦ちゃんに目配せした。
暦ちゃんは微かに笑って、またすぐに授業を聞く真面目な顔に戻った。
さすがにこれ以上妄想を続けるわけにもいかない。
天音も少しだけ反省して二枚目のノートを引き出しの中へしまった。
平和だけど退屈な日常。
この地球において、日本という国に生まれ、何不自由なく高校に通える。
世界的に考えたとき、この日常がいかに尊くそして贅沢なものだとわかってはいるが、退屈な日常を紛らわせる妄想癖は高校二年生の夏を迎えても簡単には治りそうになかった。
決まった時間に退屈な授業が始まる。
天音(あまね)は教科書とノートを開き、さらにもう一冊一回り小さいノートを開いた。
数学の先生が黒板に例題を書いて説明をしている。
周りのクラスメイトたちはそれを黙々と聞きながらノートを取っている。
姿勢だけ見たら天音も同じようにノートにシャーペンを走らせているのでサボっているとは思うまい。
この窓際の後ろから二番目という席は天音にとって最高の場所だった。
一番後ろほど目立たないし、先生からも遠い。
そして、元々地味で存在感薄い天音がそこに座ってしまえば、授業中に邪魔されることは滅多になかった。
さて、先生とクラスメイトの状況を確認できたところで、まずは世界観設定だ。
この前は人に変身できる竜と仲良くなって、空を飛んで旅をしていくって話だったから……。
今度はもっと殺伐とした物語が良いかな。
二冊目のノートに[世界観]と書き、[ファンタジー世界]の項目を書き加える。
オーソドックスに中世ヨーロッパを基本とした世界。
……でも、ファンタジーって言うとどうしてこうみんな画一的に同じような世界観になるんだろう。
結局のところ世界観なんて記号みたいなものだから誰もが知っているような世界のほうが想像しやすいってことかな。
もちろん、魔法が栄えていて、人間と敵対する魔族なんかがいる。
――そうだ。
魔族が世界を支配していることにしよう。
世界を支配した魔族が次にすることは決まっている。
さらなる人間の世界の支配だ。
魔族たちは世界を仕切る壁を打ち破り、この――天音たちのいる世界へと侵入してくる。
大きな物音。空がガラスのように割れていく。
「な、なんだあれ!?」
異変にいち早く気がついたのはクラスメイトの佐野(さの)君だった。
佐野君につられて先生や他のクラスメイトも窓際に押し寄せる。
天音は来るべき時が来たのだと何かを悟るように窓際から離れた。
『我が名は魔神ルシファー。今日からこの世界も我のものだ!!』
頭の奥に直接言葉を叩き込まれたような感覚。空いっぱいに広がる邪悪なモノの姿。世界を支配する魔族の神。
今までに味わったとこのない恐怖と絶望にみんなその場に倒れ込み、吐く者までいた。
パニックになっているのはこのクラスだけじゃなくて他のクラスも同様だった。
いや――きっと世界中が同じような状況になっている。
それに立ち向かえる人間はきっと天音だけだった。
心の奥から溢れてくる力。
それが何なのかはわからなかったが、大事なのはその力を何に使うかと言うこと。
天音はその力で天へ飛ぶ、魔神ルシファーに向かって――。
「……天音ちゃん、天音ちゃん」
後ろから背中を押されて天音はハッと我に返った。
「おい、照日(てるひ)。この問題がわからないのか?」
数学の教師で天音のクラス担任――尾山(おやま)先生は黒板に書いた問題をチョークで三回ほど叩いた。
天音は黒板を見てから空を見た。
雲一つない快晴。割れるどころかヒビ一つ入ることはない。
だってそれは全て天音が妄想した世界の話だったから。
「照日。外を見てる余裕があるなら、もちろん答えられるんだろうな?」
「あ、えと……」
まずい。さっぱりわからない。
これならいっそ本当に世界の壁を破って魔神が現れてくれたら良いのに。
冷や汗をかいていると、後ろから小さなメモが渡された。
この席が教室の端、窓際の後ろから二番目でよかった。
ここは教壇からはほとんど死角なのでメモをやりとりしても気付かれない。
「わからないならわからないで、ちゃんと先生の話を聞きなさい」
「えーと、その答えは――」
天音はメモに書かれていた答えを読んだ。
「……何だ、わかってるんじゃないか。だったらもうちょっと授業に集中してくれ。それからこの前の生活指導でも言ったけどな。もうちょっと前髪を切りなさい。校則には目が隠れるほど伸ばすのは禁止ってなってるだろ。後で誰かにピン止めでも借りて止めておけよ」
「は、はい」
余所見をしていたのに答えたからか、先生は余計な注文まで付けてきた。
髪は面倒だからそのままにしているだけだが、前髪を切るつもりはなかった。
周りの人たちに表情を見られたくなかったから。
学校に通ってはいるものの、天音は精神的な引きこもりのようなものだった。
このつまらない世界のことは適当にやり過ごし、妄想の世界で活躍する。
そんな中で唯一の例外がさっき天音を助けてくれた後ろの席に座っている月永(つきなが)暦(こよみ)ちゃん。
天音は着席するときに一瞬だけ後ろの席の暦ちゃんに目配せした。
暦ちゃんは微かに笑って、またすぐに授業を聞く真面目な顔に戻った。
さすがにこれ以上妄想を続けるわけにもいかない。
天音も少しだけ反省して二枚目のノートを引き出しの中へしまった。
平和だけど退屈な日常。
この地球において、日本という国に生まれ、何不自由なく高校に通える。
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