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大掃除の日:金
第1話
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今朝はいつもより玄関の掃除が早く終わってしまった。
起きた時間が早かったからではない。
不慣れとはいえ、二人がかりだったので必然だったのだ。
それに、アンリエッタは要領もよく、教えたことがすぐにできるし、覚えも良い。
これなら明日以降は一人で玄関の掃除を任せても、こなせるだろう。
「けんど、参っただな。朝食までだいぶ時間が余っちまっただ」
かといって、自分たちの食事のために寝ているマリリンやコックのジョニーさんを起こすのも気が引ける。
途方に暮れていたら、アンリエッタがサラの隣りに来て言った。
「……あの、サラさん。昨日言ってましたよね。自分の住むところが魔物に襲われてなくなってしまったって……」
「ああ、んだよ。わだすが生きてんのはきっど、運がよがったからでねーの?」
なくなってしまったのは家だけではない。
両親も、そして集落そのものさえ……。
「どうして、そんなに笑っていられるんですか? 悲しくはないんですか?」
なんだか、アンリエッタの方がよほど当事者であるかのように気持ちをぶつけてきた。
応えないわけにはいかない。
「……悲しくねーっつったら、嘘になるべな。でんも、なくなっぢまったもんをいつまでも嘆いても仕方ねえ。わだすは今生きていて、命の尊さを知っでっから、精一杯楽しく生きなぎゃもったいねー。ただ、それだけなんよ」
「…………強いんですね……」
「あははっ、んなことねーべ。ただ、脳天気なだけだで」
「いいえ、きっとそれが強いってことだと思います」
アンリエッタはそう言って空を仰いだ。
「……私も、サラさんのように強くなりたい……」
ポツリと、願いのような言葉を零して。
「んなら、まずは腹ごしらえしねーとな。そろそろマリリンだちが起きてくるでな」
「……はいっ」
少しだけ考えるような仕草をしてから、力強く頷いた。
集めておいた掃除道具を持って、サラとアンリエッタはマリリン亭の中へ戻った。
「今日は週に一度の大掃除の日だでな。ちゃんと朝飯くってねーと大変だっぺ」
朝食の後、酒場ホールにルームメイドたちが全員集められた。
いつになく真剣な眼差しでマリリンがサラたちを見回す。
「今日がどういう日か、あんたたちはわかってるんでしょうね?」
試すようにアンリエッタ以外に目配せをする。
「当たり前よ。明日からの週末に備えて、できうる限りの準備をする」
メイドたちのリーダーを自負するリータ先輩が自信たっぷりに答えた。
「――そうっ!」
手を腰に当てて、マリリンは踏ん反り返った。
体が大きいからそれだけでかなり迫力がある。
アンリエッタは堪らず初めてマリリンを見た時のようにサラの腕にしがみついて隠れてしまった。
「今週は予約も入っているのよ! つまり、今週の収支を左右する週末といっていいわ!! 最高のおもてなしをするためには、最高の準備が必要不可欠!! 張り切っていくわよっ!!」
『はいっ!』
ルームメイドたちの声が重なる。
「それじゃあ、今日の仕事を割り振るわね! まずリータとレイナ!」
『はいっ!』
リータ先輩とレイナ先輩が軍人のように揃って一歩前に出た。
「あんたたちはジョニーと一緒に明日出す料理の仕込みをお願いするわっ!!」
『はいっ!!』
さっき、軍隊のように、と思ったけど……。
ようにではなくて、まさに軍隊の軍令そのものだ。
マリリンの容姿が女将というより国軍の隊長でもやっていた方が似合っているので、まさにその雰囲気が出ている。
「それから、サラとアンリエッタ! あんたたちは各部屋の大掃除をお願いするわっ!! 塵一つ、埃一つでも残したら許さないわよっ!!」
「はいっ!!」
返事をするだけでも気合いが入るってもの。
でも、アンリエッタには少し厳しかったかな。
「は、はい……!」
涙目になりながら、アンリエッタは一応返事はできた。
「ねぇ、どうでもいいけど、私のチェックアウトすませてくれないかしら?」
全員の気合いが入ったところで、それを腰砕けにさせるような気怠い声でベローナさんが言った。
「……あのねえ、少しは場の空気を読みなさいよっ。まったく……」
ぶつくさ言いながらもマリリンは宿屋の受付カウンターへ向かった。
「あ、そんじゃ荷馬車はわだすが用意すっから」
若干掃除が遅れてしまうが仕方がない。
言いながら、倉庫の鍵を投げてくるのを待っていたら、
「いいわ、サラ。ベローナの相手はあたしがするから、あんたたちは仕事に取りかかって頂戴」
「あ、はい」
サラたちメイドが忙しいのはマリリンが一番わかっているから配慮してくれたのだろう。
こういう時は素直に甘えさせてもらう。
すでにリータ先輩とレイナ先輩の姿はない。
キッチンで仕事を始めているのだ。
「ほんじゃ、まずは掃除道具を持ってくっか」
「……あ、はい」
アンリエッタの肩を叩くと、ようやく気持ちが落ち着いたのか、さっきまでの泣き顔はどこかへ行ってしまった。
裏庭から掃除道具を一式持ってくる。
今までの掃除では使わなかったような小さなモップやバケツも。
酒場ホールへ戻ると、すでに受付のところにはベローナさんもマリリンもいなかった。
さっきまでの熱気はどこへやら。
閑散とした空気が漂っていた。
……それだけじゃないような……。
「はぁ……」
「ありゃ? どーしたん?」
どんよりとした空気をアンリエッタが出していた。
「大掃除なのに、私とサラさんしかいないんだと思ったら、少し不安になっただけです」
まあ、そう思うのも無理はないだろう。
本当はサラ一人でも十分なのだが、それはいずれわかることだ。
言葉で説明するより、実際に見せた方が話は早いし。
「心配すんなや。とにかく、椅子とテーブルを運んじまうべ」
「……はい」
普段の掃除だと、椅子やテーブルは動かさない。
モップだって軽く掛ける程度だ。
だから今日は掃除のスタートからしていつもと違う。
まずは酒場ホールの東側を掃除するために、テーブルと椅子を西側に寄せる。
椅子はともかく、大型のテーブルは一人では動かせない。
「アンリエッタ、そっちの端を持ってくんねか?」
「はい」
「重がったら、言っでな」
「……大丈夫です。これくらいなら」
さっきまで不安そうな表情をさせていたのに、仕事が始まると真剣になれる。
根が真面目なのだろう。アンリエッタのいいところだ。
テーブルや椅子が片付くと、酒場ホールはだいたい半分くらいの広さになる。
ただ、その半分のスペースには今、何も置かれていないから狭くは感じない。
「サラさん、次は何をすれば……?」
言いながらアンリエッタはほうきとちりとりの準備をしようとしていた。
「あ、今日はまだそれは使わねんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、まんずはこれからだ」
言って、サラは先が横に長いブラシのようなモップを持った。
これで広くなったスペースのゴミや埃を一気に集める。
「……あれ? でも、サラさん。そのモップ一つしかありませんよ」
「ん? そりゃ、二つも必要ねーかんな」
「……それじゃあ、私はどうしたら……?」
「アンリエッタはそっちのテーブルがある方で休んでてくんろ」
訝しげな表情で首をかしげつつ、アンリエッタは言われた通りにした。
「――さ、よーぐ見でな。これがわだすの本気だで!!」
モップを両手に持ち、構える。
目に力を込めて、キッとホールの東側を見据える。
サラの瞳に映るのは床に落ちているホコリとゴミだけ。
そして、一気にモップを走らせる。
サラの瞳に捉えられたホコリやゴミたちは、まるでサラと踊るかのように、モップに絡み取られていく。
ダンッと音を立ててホールの端にモップが突き立てられる。
そこにはホールの東側に落ちていたホコリやゴミがまとめられていた。
サラは幼い頃小さな集落で自給自足の生活をしていた。
両親は食事のために猟師や畑仕事をしていたので、自然と家事はサラがやるようになっていた。
料理は母が得意だったので、掃除や洗濯を進んでやるようにした。
そのお陰か、いつしかサラは効率のいい掃除を身につけていったのだ。
これくらいの広さの部屋なら、二往復するだけで片づく。
むしろ、誰もいない方が効率がいいのだ。
「……す、すごいです……」
「そりゃどーも。アンリエッタ、ほうきとちりとりいーかんな?」
「あ、はい!」
アンリエッタは少し興奮気味に、ほうきとちりとりを持ってきた。
「私、あんなの見たことありませんでした。まるで、サラさんがモップを使ってホコリやゴミと舞い踊っているみたいで……見とれている間にモップがけが終わっていました」
「そんりゃ言い過ぎだっぺ」
いつもの朗らかな目で笑った。
ほうきとちりとりで集められたホコリやゴミを掃きとる。
「さ、次は水拭きだなや」
「サラさん。いえ、師匠。水拭き用のモップはこちらに用意してあります」
「アンリエッタ、師匠ってわだすのことかや?」
「はいっ!」
なんか、余計なものを見せてしまったのかも。
サラを見るアンリエッタの目の輝きが違う。
「わだすは師匠なんて呼ばれるような人間じゃねーんだけんども……。ま、とにかく水拭きしちまうべ」
「師匠、私はやっぱりお邪魔にならないように、ここにいた方がいいですか?」
アンリエッタはさっきと同じ場所に立っていた。
……ただ、さっきと違うのはまるで舞台を見る観客のように身を乗り出している。
「……んだな。そこで大人しくしてくんねか」
「はいっ」
さっきと同じように水拭き用のモップを構える。
再び目つきは鋭くなり、床を睨みつける。
サラは大きく息を吐き出して――ホールの東側を駆け抜けた。
まるでホールの中に新しく床板を貼り付けているかのごとく、サラが通った後の床はキラキラ輝いていた。
酒場ホールは掃除が終わった東側だけ、新築のよう。
アンリエッタはただただ驚いて声も出せていなかった。
起きた時間が早かったからではない。
不慣れとはいえ、二人がかりだったので必然だったのだ。
それに、アンリエッタは要領もよく、教えたことがすぐにできるし、覚えも良い。
これなら明日以降は一人で玄関の掃除を任せても、こなせるだろう。
「けんど、参っただな。朝食までだいぶ時間が余っちまっただ」
かといって、自分たちの食事のために寝ているマリリンやコックのジョニーさんを起こすのも気が引ける。
途方に暮れていたら、アンリエッタがサラの隣りに来て言った。
「……あの、サラさん。昨日言ってましたよね。自分の住むところが魔物に襲われてなくなってしまったって……」
「ああ、んだよ。わだすが生きてんのはきっど、運がよがったからでねーの?」
なくなってしまったのは家だけではない。
両親も、そして集落そのものさえ……。
「どうして、そんなに笑っていられるんですか? 悲しくはないんですか?」
なんだか、アンリエッタの方がよほど当事者であるかのように気持ちをぶつけてきた。
応えないわけにはいかない。
「……悲しくねーっつったら、嘘になるべな。でんも、なくなっぢまったもんをいつまでも嘆いても仕方ねえ。わだすは今生きていて、命の尊さを知っでっから、精一杯楽しく生きなぎゃもったいねー。ただ、それだけなんよ」
「…………強いんですね……」
「あははっ、んなことねーべ。ただ、脳天気なだけだで」
「いいえ、きっとそれが強いってことだと思います」
アンリエッタはそう言って空を仰いだ。
「……私も、サラさんのように強くなりたい……」
ポツリと、願いのような言葉を零して。
「んなら、まずは腹ごしらえしねーとな。そろそろマリリンだちが起きてくるでな」
「……はいっ」
少しだけ考えるような仕草をしてから、力強く頷いた。
集めておいた掃除道具を持って、サラとアンリエッタはマリリン亭の中へ戻った。
「今日は週に一度の大掃除の日だでな。ちゃんと朝飯くってねーと大変だっぺ」
朝食の後、酒場ホールにルームメイドたちが全員集められた。
いつになく真剣な眼差しでマリリンがサラたちを見回す。
「今日がどういう日か、あんたたちはわかってるんでしょうね?」
試すようにアンリエッタ以外に目配せをする。
「当たり前よ。明日からの週末に備えて、できうる限りの準備をする」
メイドたちのリーダーを自負するリータ先輩が自信たっぷりに答えた。
「――そうっ!」
手を腰に当てて、マリリンは踏ん反り返った。
体が大きいからそれだけでかなり迫力がある。
アンリエッタは堪らず初めてマリリンを見た時のようにサラの腕にしがみついて隠れてしまった。
「今週は予約も入っているのよ! つまり、今週の収支を左右する週末といっていいわ!! 最高のおもてなしをするためには、最高の準備が必要不可欠!! 張り切っていくわよっ!!」
『はいっ!』
ルームメイドたちの声が重なる。
「それじゃあ、今日の仕事を割り振るわね! まずリータとレイナ!」
『はいっ!』
リータ先輩とレイナ先輩が軍人のように揃って一歩前に出た。
「あんたたちはジョニーと一緒に明日出す料理の仕込みをお願いするわっ!!」
『はいっ!!』
さっき、軍隊のように、と思ったけど……。
ようにではなくて、まさに軍隊の軍令そのものだ。
マリリンの容姿が女将というより国軍の隊長でもやっていた方が似合っているので、まさにその雰囲気が出ている。
「それから、サラとアンリエッタ! あんたたちは各部屋の大掃除をお願いするわっ!! 塵一つ、埃一つでも残したら許さないわよっ!!」
「はいっ!!」
返事をするだけでも気合いが入るってもの。
でも、アンリエッタには少し厳しかったかな。
「は、はい……!」
涙目になりながら、アンリエッタは一応返事はできた。
「ねぇ、どうでもいいけど、私のチェックアウトすませてくれないかしら?」
全員の気合いが入ったところで、それを腰砕けにさせるような気怠い声でベローナさんが言った。
「……あのねえ、少しは場の空気を読みなさいよっ。まったく……」
ぶつくさ言いながらもマリリンは宿屋の受付カウンターへ向かった。
「あ、そんじゃ荷馬車はわだすが用意すっから」
若干掃除が遅れてしまうが仕方がない。
言いながら、倉庫の鍵を投げてくるのを待っていたら、
「いいわ、サラ。ベローナの相手はあたしがするから、あんたたちは仕事に取りかかって頂戴」
「あ、はい」
サラたちメイドが忙しいのはマリリンが一番わかっているから配慮してくれたのだろう。
こういう時は素直に甘えさせてもらう。
すでにリータ先輩とレイナ先輩の姿はない。
キッチンで仕事を始めているのだ。
「ほんじゃ、まずは掃除道具を持ってくっか」
「……あ、はい」
アンリエッタの肩を叩くと、ようやく気持ちが落ち着いたのか、さっきまでの泣き顔はどこかへ行ってしまった。
裏庭から掃除道具を一式持ってくる。
今までの掃除では使わなかったような小さなモップやバケツも。
酒場ホールへ戻ると、すでに受付のところにはベローナさんもマリリンもいなかった。
さっきまでの熱気はどこへやら。
閑散とした空気が漂っていた。
……それだけじゃないような……。
「はぁ……」
「ありゃ? どーしたん?」
どんよりとした空気をアンリエッタが出していた。
「大掃除なのに、私とサラさんしかいないんだと思ったら、少し不安になっただけです」
まあ、そう思うのも無理はないだろう。
本当はサラ一人でも十分なのだが、それはいずれわかることだ。
言葉で説明するより、実際に見せた方が話は早いし。
「心配すんなや。とにかく、椅子とテーブルを運んじまうべ」
「……はい」
普段の掃除だと、椅子やテーブルは動かさない。
モップだって軽く掛ける程度だ。
だから今日は掃除のスタートからしていつもと違う。
まずは酒場ホールの東側を掃除するために、テーブルと椅子を西側に寄せる。
椅子はともかく、大型のテーブルは一人では動かせない。
「アンリエッタ、そっちの端を持ってくんねか?」
「はい」
「重がったら、言っでな」
「……大丈夫です。これくらいなら」
さっきまで不安そうな表情をさせていたのに、仕事が始まると真剣になれる。
根が真面目なのだろう。アンリエッタのいいところだ。
テーブルや椅子が片付くと、酒場ホールはだいたい半分くらいの広さになる。
ただ、その半分のスペースには今、何も置かれていないから狭くは感じない。
「サラさん、次は何をすれば……?」
言いながらアンリエッタはほうきとちりとりの準備をしようとしていた。
「あ、今日はまだそれは使わねんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、まんずはこれからだ」
言って、サラは先が横に長いブラシのようなモップを持った。
これで広くなったスペースのゴミや埃を一気に集める。
「……あれ? でも、サラさん。そのモップ一つしかありませんよ」
「ん? そりゃ、二つも必要ねーかんな」
「……それじゃあ、私はどうしたら……?」
「アンリエッタはそっちのテーブルがある方で休んでてくんろ」
訝しげな表情で首をかしげつつ、アンリエッタは言われた通りにした。
「――さ、よーぐ見でな。これがわだすの本気だで!!」
モップを両手に持ち、構える。
目に力を込めて、キッとホールの東側を見据える。
サラの瞳に映るのは床に落ちているホコリとゴミだけ。
そして、一気にモップを走らせる。
サラの瞳に捉えられたホコリやゴミたちは、まるでサラと踊るかのように、モップに絡み取られていく。
ダンッと音を立ててホールの端にモップが突き立てられる。
そこにはホールの東側に落ちていたホコリやゴミがまとめられていた。
サラは幼い頃小さな集落で自給自足の生活をしていた。
両親は食事のために猟師や畑仕事をしていたので、自然と家事はサラがやるようになっていた。
料理は母が得意だったので、掃除や洗濯を進んでやるようにした。
そのお陰か、いつしかサラは効率のいい掃除を身につけていったのだ。
これくらいの広さの部屋なら、二往復するだけで片づく。
むしろ、誰もいない方が効率がいいのだ。
「……す、すごいです……」
「そりゃどーも。アンリエッタ、ほうきとちりとりいーかんな?」
「あ、はい!」
アンリエッタは少し興奮気味に、ほうきとちりとりを持ってきた。
「私、あんなの見たことありませんでした。まるで、サラさんがモップを使ってホコリやゴミと舞い踊っているみたいで……見とれている間にモップがけが終わっていました」
「そんりゃ言い過ぎだっぺ」
いつもの朗らかな目で笑った。
ほうきとちりとりで集められたホコリやゴミを掃きとる。
「さ、次は水拭きだなや」
「サラさん。いえ、師匠。水拭き用のモップはこちらに用意してあります」
「アンリエッタ、師匠ってわだすのことかや?」
「はいっ!」
なんか、余計なものを見せてしまったのかも。
サラを見るアンリエッタの目の輝きが違う。
「わだすは師匠なんて呼ばれるような人間じゃねーんだけんども……。ま、とにかく水拭きしちまうべ」
「師匠、私はやっぱりお邪魔にならないように、ここにいた方がいいですか?」
アンリエッタはさっきと同じ場所に立っていた。
……ただ、さっきと違うのはまるで舞台を見る観客のように身を乗り出している。
「……んだな。そこで大人しくしてくんねか」
「はいっ」
さっきと同じように水拭き用のモップを構える。
再び目つきは鋭くなり、床を睨みつける。
サラは大きく息を吐き出して――ホールの東側を駆け抜けた。
まるでホールの中に新しく床板を貼り付けているかのごとく、サラが通った後の床はキラキラ輝いていた。
酒場ホールは掃除が終わった東側だけ、新築のよう。
アンリエッタはただただ驚いて声も出せていなかった。
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