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伝えられる声
エピローグ
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一週間の検査入院も無事? 終えて、頭痛もなく真琴は晴れて退院することになった。
結局この一週間でわかったことといえば、真琴がいたって健康だということだけだった。
真琴自身にはいろいろあった。
わかったこと。知ったこと。思い出したこと。気づいたこと。教えられたこと。
たくさんのことがあった。
そのどれもが真琴にとってとても大切なことだった。
真琴は病室の荷物を片付けながらこの一週間を振り返っていた。
「これで、よしっ……と」
ほとんどの荷物は昨日両親に持ち帰ってもらったので、今日の荷物はそんなに多くはなかった。
最後の荷物をバッグに詰めたところで、ベッドのサイドテーブルが目に留まった。
そこに置かれていたのは、美希にもらった最後のノートのコピーだった。
(美希……)
真琴はそれを丁寧に折って、バッグのサイドポケットにしまった。
そして、バッグを肩にかけ、真琴は颯爽と病室から出た。
今日は両親の送迎はない。
こう何度も自分のために仕事を休んで欲しくなかったから断ったのだ。
病院の近くにはバス停があったからバスで帰ればいいのだし。
また、退院の日が平日の昼間ということもあり、由紀子たちにも送迎は断っていた。
――はずなのに、病院から出るとドキンと胸が高鳴った。
「よおっ」
そこには勇壱が待っていた。
「って、何で勇壱がここにいるのよっ」
ずり落ちそうになったバッグを手でしっかりと摑みながら言った。
「迎えに来たに決まってるだろ?」
「断ったじゃない。だって今日、学校は?」
「サボった」
「サ、サボったぁ?」
それをさせたくなかったから断ったのに、この男は……。
(少しは私の気持ちも考えろっ)
「なぁ、せっかく来たんだから少しはうれしい顔しろよ」
「できるわけないでしょ。このバカ」
「バ……、その言い種はないだろ。誰のためにここに来たと思ってるんだ?」
「頼みもしないのに……っていうか来ないように頼んだのに勝手に来たのは誰よっ」
「……真琴のために来たいと思ったから来たんだよ。それじゃ悪いのかよ」
勇壱はすっかり意気消沈して投げやりにそう言った。
そう素直に言われると、真琴の気持ちも少しは落ち着いてきた。
「別に悪いとは言ってないでしょ。……それに、まあ少しはうれしかったし」
本音を言えば、少しどころかかなりうれしかった。
こんなに早く勇壱に会えるなんて思っていなかったから。
真琴が勇壱の行動に反発してしまったのは、心の準備をしていなかったのに突然目の前に現れて、動揺してしまったからだった。
「ふーん」
勇壱はにやにやと笑っている。
「何よ」
「いや別に。……俺たちって似てると思ってな」
「何が?」
「素直じゃないところが」
そう言って勇壱は真琴が肩にかけていたバッグを取って歩き出した。
「ちょ、ちょっと……」
「こんな重いもの、病み上がりの人には持たせられないだろ」
真琴はどんどん先に進む勇壱の背中を追った。
バス停は病院の目の前にある。
そこで立ち止まろうとした勇壱を、今度は真琴が追い抜いた。
「もう少し歩かない?」
真琴は半歩だけ振り返って言った。
「構わないけど。真琴って結構ケチなんだな」
バスの運賃を少しでも安くしようとしてるとでも思ったのだろうか。
「バカ、行くわよ」
「ああ」
勇壱とこうして二人で歩くのは久しぶりだった。
たったそれだけのことで、こんなにドキドキしているのに、何でそのことに気づかなかったのか。
あの夏休み前に噂が流れた時、その真相なんて探るべきじゃなかったのだ。
ただ、自分の心と正面から向き合うだけでよかったのだ。
そして、今の真琴にはそれができていた。
だから、するべきことは一つ。
自分の想いを伝えればいい。
どんなに心のコエを聞くことができたって、伝えられなければ意味なんてない。
「勇壱」
「何だよ、急に」
「好きだよ」
真琴は真っ直ぐな瞳を勇壱に向けた。
勇壱は目を見開いて真琴を見つめた。
心の声を聞きたくなったけどグッと我慢する。
今勇壱が何を考えているのかを勝手に探ることは許されることじゃない。
ただ待つことしか出来ない。
すでに勇壱の心はわかっているはずなのに、告白したことと不安がない交ぜになってドキドキする。
どれくらいそうしていたのかわからなくなりかけた時、勇一の表情が少しだけ柔らかくなった気がした。
「……俺もだ。本当はずっと好きだった……」
真剣な眼差しで勇壱は初めて私に本心を見せてくれた。
「じゃあ両想いだったんだ」
「ああ、そうだな……」
想いを伝えて、伝えられて、真琴の心も解放されたのかもしれない。
(あ、しまった!)
真琴は気持ちが舞い上がって、つい心のコエを聞いてしまった。
((高柳には感謝しなきゃな、あいつに言われてここに来て正解だったぜ!))
(え……? 美希が、勇壱を後押ししたの……? 何で、そんなことを……)
どんなに考えてもその答えは出せそうになかった。
君のコエが聞こえる。
でも、人の心なんて一生理解できないのかもしれないと思った。
結局この一週間でわかったことといえば、真琴がいたって健康だということだけだった。
真琴自身にはいろいろあった。
わかったこと。知ったこと。思い出したこと。気づいたこと。教えられたこと。
たくさんのことがあった。
そのどれもが真琴にとってとても大切なことだった。
真琴は病室の荷物を片付けながらこの一週間を振り返っていた。
「これで、よしっ……と」
ほとんどの荷物は昨日両親に持ち帰ってもらったので、今日の荷物はそんなに多くはなかった。
最後の荷物をバッグに詰めたところで、ベッドのサイドテーブルが目に留まった。
そこに置かれていたのは、美希にもらった最後のノートのコピーだった。
(美希……)
真琴はそれを丁寧に折って、バッグのサイドポケットにしまった。
そして、バッグを肩にかけ、真琴は颯爽と病室から出た。
今日は両親の送迎はない。
こう何度も自分のために仕事を休んで欲しくなかったから断ったのだ。
病院の近くにはバス停があったからバスで帰ればいいのだし。
また、退院の日が平日の昼間ということもあり、由紀子たちにも送迎は断っていた。
――はずなのに、病院から出るとドキンと胸が高鳴った。
「よおっ」
そこには勇壱が待っていた。
「って、何で勇壱がここにいるのよっ」
ずり落ちそうになったバッグを手でしっかりと摑みながら言った。
「迎えに来たに決まってるだろ?」
「断ったじゃない。だって今日、学校は?」
「サボった」
「サ、サボったぁ?」
それをさせたくなかったから断ったのに、この男は……。
(少しは私の気持ちも考えろっ)
「なぁ、せっかく来たんだから少しはうれしい顔しろよ」
「できるわけないでしょ。このバカ」
「バ……、その言い種はないだろ。誰のためにここに来たと思ってるんだ?」
「頼みもしないのに……っていうか来ないように頼んだのに勝手に来たのは誰よっ」
「……真琴のために来たいと思ったから来たんだよ。それじゃ悪いのかよ」
勇壱はすっかり意気消沈して投げやりにそう言った。
そう素直に言われると、真琴の気持ちも少しは落ち着いてきた。
「別に悪いとは言ってないでしょ。……それに、まあ少しはうれしかったし」
本音を言えば、少しどころかかなりうれしかった。
こんなに早く勇壱に会えるなんて思っていなかったから。
真琴が勇壱の行動に反発してしまったのは、心の準備をしていなかったのに突然目の前に現れて、動揺してしまったからだった。
「ふーん」
勇壱はにやにやと笑っている。
「何よ」
「いや別に。……俺たちって似てると思ってな」
「何が?」
「素直じゃないところが」
そう言って勇壱は真琴が肩にかけていたバッグを取って歩き出した。
「ちょ、ちょっと……」
「こんな重いもの、病み上がりの人には持たせられないだろ」
真琴はどんどん先に進む勇壱の背中を追った。
バス停は病院の目の前にある。
そこで立ち止まろうとした勇壱を、今度は真琴が追い抜いた。
「もう少し歩かない?」
真琴は半歩だけ振り返って言った。
「構わないけど。真琴って結構ケチなんだな」
バスの運賃を少しでも安くしようとしてるとでも思ったのだろうか。
「バカ、行くわよ」
「ああ」
勇壱とこうして二人で歩くのは久しぶりだった。
たったそれだけのことで、こんなにドキドキしているのに、何でそのことに気づかなかったのか。
あの夏休み前に噂が流れた時、その真相なんて探るべきじゃなかったのだ。
ただ、自分の心と正面から向き合うだけでよかったのだ。
そして、今の真琴にはそれができていた。
だから、するべきことは一つ。
自分の想いを伝えればいい。
どんなに心のコエを聞くことができたって、伝えられなければ意味なんてない。
「勇壱」
「何だよ、急に」
「好きだよ」
真琴は真っ直ぐな瞳を勇壱に向けた。
勇壱は目を見開いて真琴を見つめた。
心の声を聞きたくなったけどグッと我慢する。
今勇壱が何を考えているのかを勝手に探ることは許されることじゃない。
ただ待つことしか出来ない。
すでに勇壱の心はわかっているはずなのに、告白したことと不安がない交ぜになってドキドキする。
どれくらいそうしていたのかわからなくなりかけた時、勇一の表情が少しだけ柔らかくなった気がした。
「……俺もだ。本当はずっと好きだった……」
真剣な眼差しで勇壱は初めて私に本心を見せてくれた。
「じゃあ両想いだったんだ」
「ああ、そうだな……」
想いを伝えて、伝えられて、真琴の心も解放されたのかもしれない。
(あ、しまった!)
真琴は気持ちが舞い上がって、つい心のコエを聞いてしまった。
((高柳には感謝しなきゃな、あいつに言われてここに来て正解だったぜ!))
(え……? 美希が、勇壱を後押ししたの……? 何で、そんなことを……)
どんなに考えてもその答えは出せそうになかった。
君のコエが聞こえる。
でも、人の心なんて一生理解できないのかもしれないと思った。
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