世界を救った変身ヒーローだったのに、人類に危険視されて異世界へ追放されたのだが

天地海

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変身ヒーローと魔王の息子

代表戦、開始

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 扉の中は簡素な作りの部屋だった。
 待合室だろう。
 窓はなく扉は前後にあるだけ。
 広さは縦横五メートルくらいか。
 正面の扉の方から歓声のようなものが聞こえてくる。
「何でしょうか?」
 歓声が気になるのか、ヨミはドアに近づいて耳をそばだてる。
「……何となく予想は付くけどな」
「え?」
「キャリーたちもこの闘技場に呼ばれていただろ? つまり、代表戦には観客がいるって事だ」
 この歓声が誰に向けられたものかも、だいたいわかる。
 何しろここは俺たちにとってはアウェーだからな。
「……兄ちゃん。もし、大勢の前でオレたちの正体がばれるようなことになったら?」
 アスルは真剣な眼差しで聞いてきた。
「相手は人間だぞ。今のヨミやアスルがそこまで追い込まれるようなことになると思うか?」
「オレはこの国に入ってから、何か嫌な予感が拭えないんだ。それこそ、あの鉱山の奥に入ったときのような……」
「まさか、魔王が現れるのかも知れないって事か?」
 その事は考えていなかったが、ありえないことではない。
 レグルスの話では一度襲ってきて撃退したと言っていた。
 つまり、倒してはいない。
「魔王が代表戦の邪魔をしてきたときは、帝国とは休戦する。あいつらも魔王と戦ったんだから、それは受け入れるだろう」
「全員で協力して魔王とは戦うと言うことですね」
 ヨミの言葉に俺は頷いた。
「ただ、無理はするなよ。ヤバいと思ったら逃げてくれ。さすがにまたナノマシンを分離させるような治療はしたくない」
 そこまで激しい戦いになったら、自然とヨミやアスルの正体も明るみに出てしまうだろう。
 観客だけでも厄介なのに、この戦いは生中継されているということも忘れてはならない。
 次の瞬間、一際大きな歓声が聞こえてきた。
 そして、正面の扉がノックされる。
「誰だ?」
「本日の司会進行と審判に選ばれた、レダ=ルドルファって言いまーす」
 拍子抜けするほど明るく元気な声が聞こえてきた。
「選手の皆さんを呼びに……あ、間違えた。代表者の皆さんを呼びに来ました!」
 かなりうさんくさいがそう言うことならと扉を開けた。
 するとそこにはバニーガールの衣装に身を包んだモデルのような体形の女が立っていた。
 思わず扉を閉める。
「え? ちょっと! 棄権するつもり?」
「あ、いや……そうじゃない」
 っていうか何なんだあの女は。
 あれが司会進行?
 ……国の運命を懸けた戦いを任せるにはとても心許ないのだが……。
 代表戦なのに、まるで娯楽のようじゃないか。
 観客や生中継をするって時点で、見世物であることは間違いないのか。
「あの、出てこないなら本当に棄権になるわよ」
「ヨミ、相手してやってくれ」
「あ、はい」
 俺は扉から離れてヨミに任せることにした。
「どうぞ、入ってください」
 ヨミが扉を開けると、少しだけ頬を膨らませてバニーガールが入ってきた。
 名前は確か、レダとか言ったか。見るからに不満そう。
「えーと、あなたがアキラで、こっちの人がヨミ、そしてそっちの少年がアスラフェルでいいのね」
「ああ」
「これから舞台へ移動することになるけど、もう一度ルールのおさらいをするわよ」
 第一声と打って変わって仕事はきっちりするようだ。
 レダは淡々と代表戦のルールを説明した。
「三対三のバトルロイヤル。どちらかが全滅した時点で試合終了。……ごめんね、ちょっと大統領戦のときと言葉がごっちゃになってるわ。試合と表現したけど、相手を倒す条件に生死は含まれていない。つまり、極端なことを言えば全員殺した方の勝ち。何しろ、これは戦争なんだからね」
 それ以外の勝利条件はこの国の大統領戦に則っていると説明した。
 一つは相手の気絶。
 もう一つは相手のギブアップ。
 殺されたくなければ、ギブアップするようにと念を押された。
 そして、一応円形の舞台はあるが、闘技場全てが戦場。
 観客席と舞台は魔法によって隔離されているので、広範囲に影響を及ぼす魔法を使っても観客席には被害が及ばないからそこは気を遣う必要がない。
 武器や魔法道具の使用に制限はないが、観客席から受け渡しは出来ない。
「それじゃ、魔法聖霊薬も持ち込めるのか?」
「ええ、心配なら今ここで行商人を呼んできて補充してもいいわよ」
 ヨミとアスルのためにたくさん用意したい気もするが、俺の道具袋に詰め込めば邪魔になる。
 この前アイレーリスの魔法道具屋でもらったおまけの魔法聖霊薬だけでいいだろう。
 俺はその小瓶をヨミに渡した。
「いざというときに使えと言っていたから、魔力が減ってから飲め」
「はい」
 後は取り敢えずいいだろう。
「回復薬はいらないの?」
「必要ない」
 俺たち三人は全員が攻撃特化型。回復が必要な状況に追い込まれた時点で勝利は見通せない。
「そう。説明は以上よ。何かわからないことがあるなら、今ここで聞いておいて。ここから先に進んだら、もう私が言えることはなくなるからね」
 俺は特に何もなかった。アスルも同じように頷く。
 ヨミだけ一歩前に進んで質問した。
「では、一つだけ。もし、相手に大怪我を負わせてしまったら、それを治療できる方は用意されているのですか?」
「……ええ。生死を問わないことはルールに入っているけど、レグルス大統領はできる限り死者を出したくないと言っているわ。帝国の武力を示して世界を統一させることが私たちの目的だからね」
 甘いんだか厳しいんだかよくわからない大統領だ。
「さあ、舞台へ連れて行ってくれ。これ以上相手を待たせるのも悪いだろ」
「たいした自信ね。もう一度言っておくわ。怪我したくなかったら、すぐにギブアップしなさい」
「あんたは司会なんだろ? 戦う前から棄権するように勧めるなよ」
 アスルがイラついたように言う。
「私の言葉の意味、すぐにわかると思うわ」
 レダは振り返りながらそう言うと、さらに言葉を続けた。
「それじゃ、舞台へ行くわよ」
 俺たちはレダが入ってきた扉をくぐる。
 すると、暗く長い廊下が続いていて、その向こうにぽっかりと光が浮かんでいた。
 誰も何も言うことなく足音だけが廊下に響く。
 さっきまでの歓声も聞こえてこない。
 徐々に光が近づいてきて、その中に飛び込むと、そこは闘技場の中だった。
 石で造られた円形の舞台が最初に目に飛び込む。
 そして、周囲を取り囲む大きな壁とさらにその上に観客席が階段状に広がっていた。
 観客席は全て埋まっていた。満員御礼の札でも出してやりたいくらい。
 キャリーたちはその最前列に座っていたが、あまり居心地はよくなさそうだった。
 再び舞台の上に目をやると三人の人影が見える。
 カーラとジュリアスは見覚えがあるが、もう一人の男は初めて見る顔だった。
 スキンヘッドでひげが濃い。太り気味の体形はとても戦えるようには見えないが……。
「それじゃ、連合国の代表者を紹介するわ! ギルド所属の上級冒険者! アキラとヨミ! それから、中級冒険者のアスラフェルよ! さあ、舞台に上がって!」
 促されるままに俺たちは円形の舞台に上がった。
 すると、それまで静かだった観客が一斉に歓声を上げた。
 この戦いに、国の運命がかかってるって知らされていないのか?
 そんなはずはない。だとしたら、どうしてこんなに馬鹿騒ぎが出来るんだろう。
 帝国はそれほど自分たちの勝利を確信していると言うことなのか。
 これが、ただの見世物でしかないとでも?
「……あの、アキラ」
「何だよ」
 帝国の連中に馬鹿にされたような気になってムカついていたので、ついヨミの言葉にもつっけんどんになってしまった。
「あの人たちの持ってる武器、すごく似たような力を感じるのですが……」
 ヨミは俺の口調なんか気にしないほどカーラとジュリアスともう一人のおっさんの手に持つ武器に注目していた。
「何が言いたいんだ?」
 俺の視力は普通だから、もうちょっと近づいてよく見なければよくわからない。
 カーラの持っているのは杖で、ジュリアスの持っているのは弓矢。もう一人のおっさんが持っているのは斧って事はわかるが……。
「兄ちゃん、あれは――」
 アスラフェルも何かに気がついたようで俺に言おうとしたが、レダの声にかき消された。
「「我らが帝国の誇る伝説の勇者。カーラ様とジュリアス様とランドルフ様にも今一度大きな拍手を!」」
 例の声を大きくする魔法だ。
 闘技場だけでなく街中に届いたんじゃないかという気になるが、だからといって耳を痛めることはない。
 それがこの魔法の不思議なところだった。
 取り敢えず、おっさんの名前がはっきりしたので覚えておこう。
 観客からは俺たちの時とは一際違った歓声が上がる。
 だからもうアスルの言葉はよく聞こえなかった。
「それでは、代表者の皆さんは舞台の中央へ!」
 レダの言葉に従い、カーラたちが向かってくる。
 俺たちも一緒に歩き出した。
 そして、中央付近に集まり、お互いの距離が三メートルくらいのところで止まった。
「……間違いありません! あれは、伝説の武器!」
 ヨミが叫んだ。
「え?」
 ……伝説の武器? と言ったか?
「「代表戦! 始め!!」」
 聞き返すことも出来ないまま、レダがそう告げた。
 そして、次の瞬間目を見張った。
「闇の神の名において、我が命ずる! 闇の力をその身に纏い、破壊する力を与えよ! ダーククロースアーマー!」
 聞き覚えのある呪文を唱えたのは、ヨミではなくカーラ。
 彼女の持つ杖が闇に染まったかと思ったら、そこから溢れる闇がカーラだけでなくジュリアスとランドルフの体をも覆っていた。
「変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ソードギアフォーム、展開します』
 変身が完了するのと同時くらいに、ヨミも魔法を使って闇を身に纏っていた。
 最初の一歩。
 予想外の情報に戸惑った分、カーラたちの攻撃の方が速かった。
 ランドルフは斧でヨミを斬りつける。
 ジュリアスは弓から光の矢をアスルに放った。
 俺には、カーラがそのまま向かってくる。
 杖を剣のように振り下ろしてきたので、マテリアルソードで斬ろうとしたが、ガキッと鈍い音を上げるだけだった。
「へぇ……レグルス大統領が認めるだけのことはあるわね。それ、普通の剣ではないのね」
「お前のその杖もな。伝説の杖だって言うのか?」
「そうよ。私は伝説の杖に選ばれた勇者なのよ。上級冒険者? たかが魔族を数匹倒したくらいでいい気にならないでよね」
 闇を纏う魔法の使い方をよくわかってる。
 ヨミも一度やって見せたが、この魔法は使用者の持っているものにも効果を与えられる。
 つまり、闇を纏った杖自体が武器になっていた。
 それだけじゃない。
 カーラは自分だけでなく身体能力を強化するこの魔法を仲間の二人にもかけていた。
 伝説の杖の能力なのかはわからないが、ヨミよりも魔法を使いこなしていることは間違いない。
 おまけに、最初の攻防で完全に俺たちはバラバラにされていた。
 左の奥の方を見ると、ヨミがランドルフの斧の攻撃に苦戦していた。
 右の方を見ると、舞台の上から舞台の下へジュリアスが光の矢を放ち、舞台の下に逃げたアスルはそれを避けるので必死だった。
「余所見をしてる余裕があるの? 火の神と雷の神の名において、我が命ずる! 雷撃よ、あのものを狙い撃ち、炸裂させよ! スパークフレア!」
 杖の先から雷が現れてこっちに向かってくる。
『逃げても無駄です。この魔法は追いかけてきます』
 それならかき消すだけだ。
『チャージアタックツー、クリアムーンサークル!』
 マテリアルソードの刀身部分にエネルギーが集まり、輝きを増す。
 弧を描くように振るうと、雷は俺が発生させたエネルギーの斬撃に飲み込まれるようにして消えた。
「そうでないと面白くないわ!」
 カーラが冷たい微笑みを浮かべる。
 俺は全体を把握するためにカーラと距離を取った。
 しかし、彼女は攻撃の手を緩めることはない。
「ファイヤーボール! ブラストカッター! ライトニングボルト!」
 立て続けに魔法が飛んでくる。
 それを同じ要領で叩き落とすことは難しいことじゃないが、このままではヨミやアスルと合流することが出来ない。
 ……俺がやるしかないのか?
 相手は、女だぞ……。
「どうしたの? 私たちには三人で十分なんでしょう?」
 挑発的な言葉と共に、杖で殴りかかってくる。
 それを受け流すので精一杯だった。
 混乱している。
 それはこの状況に持ち込まれたこともそうだが、やはりカーラたちが伝説の武器を持っていたことが大きい。
 帝国が魔族と戦う力を持っていたのも、魔王を退けたのも、これで全て納得はいく。
 だが、その反面――伝説の武器に選ばれた勇者が現れたから魔王は帝国を襲ったのではないかと思った。
 ギルドマスター、クランスの言っていた通りの展開じゃないか。
 カーラたちがその力を使えば、魔王は再びここに来る?
 その事を理解しているとはとても思えない。
「カーラ! 伝説の武器や伝説の勇者がどういう存在なのかわかってるのか!?」
「魔王の脅威から人類を救う希望の力よ!」
 そう言いながら、さらに呪文を唱えた。
「風と雷の神の名において、我が命ずる! 荒れ狂う稲光よ、舞い踊れ! ライトニングトルネード!」
 風が渦を巻き、そこにさらに雷が纏わり付く。
『チャージアタックワン、クレセントスラッシュ!』
 地上から空へ向けて三日月を描く。
 竜巻は縦に真っ二つになり、その力を失った。
 多少雷によるダメージは負ったが、竜巻に巻き込まれなければ焼き焦がされることはない。
「ふぅん。二つの複合魔法じゃ、まだ足りないみたいね。どこまで付き合ってくれるのか楽しみだわ」
 余裕のある微笑みで見下していた。
 伝説の杖の力がどれほどのものか、まだAIにも分析は出来ていない。
 お前は気がついていたのか? この町に伝説の武器があると。
『いえ、予想外です。伝説の武器は戦いが始まらなければその力を発揮させないようです。魔力と違って、その力の反応を捉えることは不可能に近い』
 即座にAIは否定した。
 なら、次に気になるのは伝説の武器に引き寄せられるものの存在。
 魔力ならAIにだって感知できるはずだ。
 しかし、答えはさらに俺の予想を裏切ってくれた。
『この舞台は魔法による防御魔法で覆われています。そのせいで、観客席に座っているキャロラインさんの魔力すら感知することが出来ません』
 ってことは、もし魔王がこっちに近づいていても気づけないって事か。
「ねえ、ギブアップはしないわよね。それじゃ興ざめだわ」
 ほほ笑みながらそう言うカーラに俺はちょっと引いていた。
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