196 / 214
変身ヒーローと無双チート救世主
操られる運命
しおりを挟む
俺はソードギアへ変身しマテリアルソードを構えた。
ガイハルトの剣を受け流して、向かい合う。
ヨミはその姿を一瞬消すと、爪の勇者を押さえ込んで現れた。
メリッサはジュリアスに氷の魔法を浴びせていた。
「兄ちゃん! 武器を破壊してもすぐに元に戻っちゃうぞ!」
復活した伝説の斧が勇者の体を勝手に動かす。
斧の勇者は糸の切れた操り人形のように、手足がバラバラに動いていた。
「おい! お前ら自分の意志で攻撃してるんじゃないんだな!?」
「あ、ああ。伝説の剣が、勝手に――」
質問している合間にもガイハルトが斬りかかる。
それをマテリアルソードで受け止める。
「……本当なんだろうな……」
「こんなことで嘘をついても仕方がないだろ。特にそこの魔王だかエルフだかよくわからない奴の力は俺たちじゃとても敵わないってことくらいはわかる! 戦いを挑むこと自体が無謀だって思ってるさ!」
必死に訴えかけてくる表情は確かに、戦いを望んでいないように見える。
だけど、この力強さは本気で戦っているとしか思えない。
アスルが軽くあしらっているのは、それだけ勇者との力の差が大きいということだろう。
武器を破壊しても止められないのなら、勇者を攻撃するしかない。
だが、中途半端に攻撃しても斧の勇者のように立ち上がる。
動きを確実に止めるには――。
「ちょっと痛いぞ」
両手でマテリアルソードを振るい、ガイハルトを押し返す。
「変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ファイトギアフォーム、展開します』
間髪を入れず技もセットする。
『チャージアタックツー、マルチプルトリック!』
超高速による残像が、それぞれの勇者たちの隙を注視する。
一斉に殴り飛ばし、メリッサの前に五人の勇者が倒れ込む。
辺りはすでに空気が冷たくなっていて、メリッサを除いてみんな吐く息が白かった。
「コールドストーム」
勇者たちを凍るほどの暴風が包み込み、彼らは氷の彫像にされていた。
打ち合わせをしていたわけではないが、メリッサは見事に勇者たちの動きを止めてくれた。
ヨミやアスルではどうしても本気で戦うと勇者を殺しかねない。
メリッサに頼むしかないと思った。
「……一応、それ死んではいないんだよな?」
「アスラフェル様は勇者を殺すことを望んでいません。だから、動きを止めただけよ。ただ、私はお姉様ほど器用じゃないから、半日以上もこのままだと心臓は止まってしまうかも知れないけど」
淡々と恐ろしいことを言う。
しかしまあ、半日も放置することにはならない。
アスルが救世主を倒すまでの間だけでいいんだ。
「なあ、勇者はもう戦えないぞ。これでオレと再戦するんだよな」
少年はクスリと笑って言った。
「やだなぁ。俺は勇者を殺したらって言ったんだけど。まだ誰も死んでないだろ。それじゃあ、人間たちは君たちを恐れないじゃないか」
「……お前、何を言ってるんだ?」
アスルが少年の顔を見て一歩引いた。
ヨミも怪物でも見るかのような表情をさせる。
「ア、アキラ。この人、変です。気持ち悪い」
「やれやれ、変なのは君たちの方だろ。魔王は人間を殺し、世界を恐怖へ陥れる存在なんだから」
「メルトハート!」
ミニスカナース服の女が魔法を使った。
すると、氷が一気に溶けて勇者たちが動き出す。
ただ、寒さと体力の消耗からか目は虚ろで震えが止まっていない。
顔が青いからまるでゾンビのようにも見える。
ゆっくりとした足取りで、五人の勇者はアスルとヨミとメリッサに向かって歩き出した。
「お前ら、まだオレたちと戦うつもりなのかよ! いい加減にしろ!」
アスルはただ、斧の勇者の方を押し返そうと手を伸ばしただけに見えた。
それなのに、闇を纏った右手が斧の勇者の左肩を吹き飛ばした。
「――え――」
左腕が地面に転がり、アスルは唖然としていた。
勇者たちの動きはそれでも止まらない。
斧の勇者も片腕を失っているのに、その事を気にも留めずに右手一本で伝説の斧を振るう。
代わりに声を上げたのは、この様子を遠巻きに見ていた人間たちだった。
「うあああああああ!」
「勇者の腕が!」
「あの魔王、勇者を軽く小突いただけで……」
「な、なんて強さだ……」
驚きと恐怖が波のように広がっていく。
「ち、違う。オレはそんなつもりじゃ……」
この事態に一番驚いているのはアスルだった。
近づいてくる勇者に触れることすら恐れるかのように一歩引く。
「な、なんだ……!? 逃げられない!?」
アスルは向かってくる槍の勇者に対して武道の構えを取った。
まるで、本気で迎え撃つつもりのようだ。
「アスラフェルくん! ダメです! 本気で戦ったら、殺してしまう!」
「姉ちゃん! わかってるけど体がいうことを聞かないんだ!」
「何を――え――?」
ヨミの魔力が膨れ上がって右足に闇が集中した。
表情は変わらないのに、全身から殺気が溢れている。
それはゆらゆら近づいてくるガイハルトに向けられていた。
「そ、そんな……」
二人揃って表情が強張っている。
脂汗が張り付いていた。
ガイハルトが剣を振り上げた。
ヨミはそれを左手でガードして、右足を薙ぎ払う――。
「ああああああああああ!!」
叫び声を上げてすんでのところで足を止めている。
全身の力を振り絞っているように見えた。
「うおおおおおおお!!」
アスルも同じだ。
右手の拳を左手で押さえてなんとか勇者を攻撃しないようにしていた。
勇者だけじゃない。
二人とも異常だった。
まるで勇者を本気で殺すかのように殺気を溢れさせているのに、表情が強張ったままだ。
「ア、アキラ! 止めてください! このままでは人を殺してしまいます!」
ヨミが全身を震わせたまま必死に訴えてきた。
「兄ちゃん! 体の自由が利かない! どうしたらいいのかわからない!」
「アハハハッ! 何言ってるんだよ。魔王の本能に目覚めたんじゃないか? 魔王は本来、勇者を恐れ、人間を憎む。自分たちの種族を守るために人類を滅ぼすものなんだから」
高みの見物を決め込んでいた少年が笑った。
あいつが何かしてるのか?
いや、特に不審な動きはなかったし魔法を使った様子もない。
俺は隣りにいるメリッサを見つめた。
「メリッサは、大丈夫なのか?」
「え? あ、はい」
とにかく二人を止めるしかない。
だが、今のあいつらを基本フォームで止めることは不可能だ。
救世主と戦う時のための切り札のつもりだったが、ハイパーユニオンギアを使うしかない。
『お兄様。彼女たちはもう救えません』
融合変身をしようとしたら、唐突に未来が話しかけてきた。
(救えないって、どういう意味だ)
『勇者たちと同様、この世界の理に取り込まれています。勇者は魔王を殺すまで戦い続け、魔王もまた勇者を殺すまで戦い続けます』
(あいつらは勇者も人間も殺したいなんて思っていない。どうして望んでいないことをするようになったんだ?)
『……それはあなたが真実を認めない限り理解できないでしょう』
(真実? 真実ってなんだ? 知っているならいい加減教えてくれ!)
『教えても意味はありません。あなたは自らそれを封印していますから』
(封印……)
いつも思い出しかけると気分が悪くなるのはそのためなのか……?
『一刻も早くこの場から立ち去るべきです』
(ヨミとアスルを見捨ててか? そんなことできるわけないだろ)
『お兄様! 彼を止めてください!』
未来が俺の中に眠る大地彰に呼びかけたが、起きてくる気配は感じなかった。
(どうして今さら現れたのかわからないが、俺の邪魔をするつもりならあんたこそ立ち去ってくれ)
そう告げると、彼女はもう話しかけては来なかった。
『……彰、どうしたのですか?』
AIが事も無げに聞いてくる。
俺の脳内にテレパシーで話しかけてきた言葉はAIには聞こえていなかったようだ。
「何でもない。それよりも――」
ヨミとアスルと勇者たちはお互いがお互いを攻撃しようとしているのを無理矢理に押さえようとしていた。
それはあまりに異様な光景で妙な踊りを見せられているかのよう。
「融合変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ハイパーユニオンギアフォーム、展開します』
紫色のアーマーを身に纏う。
活性化したナノマシンのお陰で全身に力が溢れて身体能力が大幅に強化されていることを感じる。
ネムスギアのセンサーの感度も一気に高まった。
ヨミもアスルも身体に異常は見られない。
となると何かを治せばいいってことでもなさそうだ。
今はとにかく二人の止めるしかない。
「メリッサ、やっぱり勇者たちを頼んでいいか?」
「その代わり、アスラフェル様を無事に帰して」
「俺自身がそう思ってるよ」
そう言って走り出す。
緩慢な動きの勇者たちには目もくれず、ヨミの前に立った。
「少しだけ、我慢してくれ」
声は帰ってこなかった。
ヨミも目が虚ろになっていて、まるで俺のことが見えていない。
これじゃ隙だらけだ。
ダーククロースアーマーを使ったままだから、普通に攻撃しただけではダメージを与えることすら適わないだろう。
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
超高速で真正面からヨミのみぞおちを狙う。
この一撃で倒れてくれればいいと思ったら、ヨミの両手が俺の拳を受け止めた。
衝撃で彼女の体が少し浮き上がる。
「おい! 受け止めてどうするんだよ!」
『彰! ガードしてください!』
とっさに左腕をあげる。
そこへ風を切りながら闇を纏ったヨミの右回し蹴りが見舞われた。
その勢いで横に数メートル地面を滑った。
左腕に痺れるような痛みを感じる。
骨は折れていないようだが、打撲くらいはしているかも知れない。
ハイパーユニオンギアでもこの威力。
基本フォームなら今の一撃は致命傷になっていた。
「ヨミ……」
呼びかけても言葉は返ってこない。
『今度は上です!』
ヨミを跳び越えてアスルが光と闇のエネルギーを帯びた拳ごと突っ込んできた。
地面を蹴って飛び退る。
そのまま拳は俺のいた辺りの地面を殴り、エネルギーが爆発した。
地面がえぐれて土が舞い上がる。
クレーターが出来て、さらに地面に大きくヒビが広がった。
おいおい、あれをガードしていたらどうなっていたんだ。
冗談じゃない。
二人とも本気で殺しにかかってきている。
ヨミとアスルは二人揃えたように構えを取って俺と向かい合った。
同時に駆け寄ってくる。
「お前ら! 俺がわからないのか!?」
アスルのパンチとヨミのキックを躱しながら声をかけても反応はない。
二人の攻撃はファイトギアのスピードでも避けるのが精一杯だった。
キャノンギアの防御力もあるとは言え、あれだけの攻撃を受け止める気にはならない。
次から次へと繰り出される攻撃を前に、為す術がない。
『このままでは時間が』
言われなくてもわかってる。
二人を止めるには、こっちも本気で戦わなければならない。
しかし……。
さすがに必殺技を使ったら、殺してしまうんじゃ……。
「ア……アキ、ラ……た、戦って……ください……。私は……あなたを……傷つけたくない……」
目は虚ろなままだが、苦しげにヨミが言葉を吐き出した。
「全力で戦ったら、殺しちゃうかも知れないだろ!」
「だい……じょうぶ、です。わたしを、私たちを……信じて……」
迷いはそれで吹っ切れた。
聞きたいことや言いたいことはあるが、今は何よりも二人を止めることを優先する。
『二人の力はだいたい把握できました。私が二人の命を保証します』
さらに速度を上げて二人の間合いから離れた。
『バスターキャノンを形成します』
エネルギーの調整がしやすい武器を選び、
『オーバーチャージブレイク、スターライトバスター』
砲弾がセットされるごとに砲身が輝きを増す。
エネルギーが溢れ出る前にトリガーを引いた。
バスターキヤノンの砲身からエネルギーの塊が光となって発射される。
いつもよりは大きいエネルギーではなかったが、それでも発射の余波でバスターキャノンを支える腕が武器ごと上を向いた。
発射された光の球は流れ星のような尾を残しながら光速で二人に迫る。
今の二人にならそれでも避けたりガードしたり出来ただろうが、正面から直撃して爆発した。
爆風が辺りを包む。
どうなったのか目視では確認できないが、ネムスギアのセンサーは二人の生存を示していた。
さすがにあれだけの攻撃をまともに喰らっているので、魔力は大幅に減らしていたが、二人とも健在だ。
武器をしまって様子を見ようと近づく。
センサーを頼りに、徐々に薄れていく煙の中を歩く。
目の前が急に暗くなる。
煙の中から誰かが立ち上がった。
「アキラ! 逃げて!」
叫びながらも煙を斬り裂いたのはヨミの回し蹴りだった。
ガードが間に合わず、脇腹にもろに喰らって吹き飛ばされた。
地面を転がりながらも、すぐに立ち上がる。
蹴られた部分を見ると、アーマーにひびが入っていた。
口のに血の味が広がる。
『ほ、骨は折れていないようですが……』
ヨミの一撃はハイパーユニオンギアでもこれだけのダメージを負うのか。
成長したことは素直に嬉しいが、将来夫婦喧嘩をしたら命がけの戦いになるな。
『そんなことを考えている場合ですか!? 残り時間を考えてください!』
煙を振り払うようにアスルも飛び出してきた。
「手加減しすぎたんじゃないか!?」
『そんなはずは……』
再びヨミとアスルが連携して攻撃を繰り出してきた。
このままじゃ時間切れになる。
実力がきっ抗している相手に三分しか使えないってのはハンデが大きすぎる。
「こうなったら基本フォームに戻す」
『な、何を言ってるんですか!?』
AIが心底驚いたような声を上げた。
「お前に任せるしかないってことだよ」
『まさか、サバイバルギアを……』
「覚悟を決めろ」
『無茶です! あれは相手を排除するまで制御できません! 私がヨミさんたちを殺してしまう!』
「へ――」
喚くAIを無視して俺が覚悟を決めた時、目の前に円形の光が現れた。
「ホーリーシールド!」
ヨミとアスルの攻撃が光の盾に阻まれる。
それを見て二人はバックステップで距離を取った。
一体、誰が防御魔法を――。
振り返るとそこには懐かしい顔があった。
ガイハルトの剣を受け流して、向かい合う。
ヨミはその姿を一瞬消すと、爪の勇者を押さえ込んで現れた。
メリッサはジュリアスに氷の魔法を浴びせていた。
「兄ちゃん! 武器を破壊してもすぐに元に戻っちゃうぞ!」
復活した伝説の斧が勇者の体を勝手に動かす。
斧の勇者は糸の切れた操り人形のように、手足がバラバラに動いていた。
「おい! お前ら自分の意志で攻撃してるんじゃないんだな!?」
「あ、ああ。伝説の剣が、勝手に――」
質問している合間にもガイハルトが斬りかかる。
それをマテリアルソードで受け止める。
「……本当なんだろうな……」
「こんなことで嘘をついても仕方がないだろ。特にそこの魔王だかエルフだかよくわからない奴の力は俺たちじゃとても敵わないってことくらいはわかる! 戦いを挑むこと自体が無謀だって思ってるさ!」
必死に訴えかけてくる表情は確かに、戦いを望んでいないように見える。
だけど、この力強さは本気で戦っているとしか思えない。
アスルが軽くあしらっているのは、それだけ勇者との力の差が大きいということだろう。
武器を破壊しても止められないのなら、勇者を攻撃するしかない。
だが、中途半端に攻撃しても斧の勇者のように立ち上がる。
動きを確実に止めるには――。
「ちょっと痛いぞ」
両手でマテリアルソードを振るい、ガイハルトを押し返す。
「変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ファイトギアフォーム、展開します』
間髪を入れず技もセットする。
『チャージアタックツー、マルチプルトリック!』
超高速による残像が、それぞれの勇者たちの隙を注視する。
一斉に殴り飛ばし、メリッサの前に五人の勇者が倒れ込む。
辺りはすでに空気が冷たくなっていて、メリッサを除いてみんな吐く息が白かった。
「コールドストーム」
勇者たちを凍るほどの暴風が包み込み、彼らは氷の彫像にされていた。
打ち合わせをしていたわけではないが、メリッサは見事に勇者たちの動きを止めてくれた。
ヨミやアスルではどうしても本気で戦うと勇者を殺しかねない。
メリッサに頼むしかないと思った。
「……一応、それ死んではいないんだよな?」
「アスラフェル様は勇者を殺すことを望んでいません。だから、動きを止めただけよ。ただ、私はお姉様ほど器用じゃないから、半日以上もこのままだと心臓は止まってしまうかも知れないけど」
淡々と恐ろしいことを言う。
しかしまあ、半日も放置することにはならない。
アスルが救世主を倒すまでの間だけでいいんだ。
「なあ、勇者はもう戦えないぞ。これでオレと再戦するんだよな」
少年はクスリと笑って言った。
「やだなぁ。俺は勇者を殺したらって言ったんだけど。まだ誰も死んでないだろ。それじゃあ、人間たちは君たちを恐れないじゃないか」
「……お前、何を言ってるんだ?」
アスルが少年の顔を見て一歩引いた。
ヨミも怪物でも見るかのような表情をさせる。
「ア、アキラ。この人、変です。気持ち悪い」
「やれやれ、変なのは君たちの方だろ。魔王は人間を殺し、世界を恐怖へ陥れる存在なんだから」
「メルトハート!」
ミニスカナース服の女が魔法を使った。
すると、氷が一気に溶けて勇者たちが動き出す。
ただ、寒さと体力の消耗からか目は虚ろで震えが止まっていない。
顔が青いからまるでゾンビのようにも見える。
ゆっくりとした足取りで、五人の勇者はアスルとヨミとメリッサに向かって歩き出した。
「お前ら、まだオレたちと戦うつもりなのかよ! いい加減にしろ!」
アスルはただ、斧の勇者の方を押し返そうと手を伸ばしただけに見えた。
それなのに、闇を纏った右手が斧の勇者の左肩を吹き飛ばした。
「――え――」
左腕が地面に転がり、アスルは唖然としていた。
勇者たちの動きはそれでも止まらない。
斧の勇者も片腕を失っているのに、その事を気にも留めずに右手一本で伝説の斧を振るう。
代わりに声を上げたのは、この様子を遠巻きに見ていた人間たちだった。
「うあああああああ!」
「勇者の腕が!」
「あの魔王、勇者を軽く小突いただけで……」
「な、なんて強さだ……」
驚きと恐怖が波のように広がっていく。
「ち、違う。オレはそんなつもりじゃ……」
この事態に一番驚いているのはアスルだった。
近づいてくる勇者に触れることすら恐れるかのように一歩引く。
「な、なんだ……!? 逃げられない!?」
アスルは向かってくる槍の勇者に対して武道の構えを取った。
まるで、本気で迎え撃つつもりのようだ。
「アスラフェルくん! ダメです! 本気で戦ったら、殺してしまう!」
「姉ちゃん! わかってるけど体がいうことを聞かないんだ!」
「何を――え――?」
ヨミの魔力が膨れ上がって右足に闇が集中した。
表情は変わらないのに、全身から殺気が溢れている。
それはゆらゆら近づいてくるガイハルトに向けられていた。
「そ、そんな……」
二人揃って表情が強張っている。
脂汗が張り付いていた。
ガイハルトが剣を振り上げた。
ヨミはそれを左手でガードして、右足を薙ぎ払う――。
「ああああああああああ!!」
叫び声を上げてすんでのところで足を止めている。
全身の力を振り絞っているように見えた。
「うおおおおおおお!!」
アスルも同じだ。
右手の拳を左手で押さえてなんとか勇者を攻撃しないようにしていた。
勇者だけじゃない。
二人とも異常だった。
まるで勇者を本気で殺すかのように殺気を溢れさせているのに、表情が強張ったままだ。
「ア、アキラ! 止めてください! このままでは人を殺してしまいます!」
ヨミが全身を震わせたまま必死に訴えてきた。
「兄ちゃん! 体の自由が利かない! どうしたらいいのかわからない!」
「アハハハッ! 何言ってるんだよ。魔王の本能に目覚めたんじゃないか? 魔王は本来、勇者を恐れ、人間を憎む。自分たちの種族を守るために人類を滅ぼすものなんだから」
高みの見物を決め込んでいた少年が笑った。
あいつが何かしてるのか?
いや、特に不審な動きはなかったし魔法を使った様子もない。
俺は隣りにいるメリッサを見つめた。
「メリッサは、大丈夫なのか?」
「え? あ、はい」
とにかく二人を止めるしかない。
だが、今のあいつらを基本フォームで止めることは不可能だ。
救世主と戦う時のための切り札のつもりだったが、ハイパーユニオンギアを使うしかない。
『お兄様。彼女たちはもう救えません』
融合変身をしようとしたら、唐突に未来が話しかけてきた。
(救えないって、どういう意味だ)
『勇者たちと同様、この世界の理に取り込まれています。勇者は魔王を殺すまで戦い続け、魔王もまた勇者を殺すまで戦い続けます』
(あいつらは勇者も人間も殺したいなんて思っていない。どうして望んでいないことをするようになったんだ?)
『……それはあなたが真実を認めない限り理解できないでしょう』
(真実? 真実ってなんだ? 知っているならいい加減教えてくれ!)
『教えても意味はありません。あなたは自らそれを封印していますから』
(封印……)
いつも思い出しかけると気分が悪くなるのはそのためなのか……?
『一刻も早くこの場から立ち去るべきです』
(ヨミとアスルを見捨ててか? そんなことできるわけないだろ)
『お兄様! 彼を止めてください!』
未来が俺の中に眠る大地彰に呼びかけたが、起きてくる気配は感じなかった。
(どうして今さら現れたのかわからないが、俺の邪魔をするつもりならあんたこそ立ち去ってくれ)
そう告げると、彼女はもう話しかけては来なかった。
『……彰、どうしたのですか?』
AIが事も無げに聞いてくる。
俺の脳内にテレパシーで話しかけてきた言葉はAIには聞こえていなかったようだ。
「何でもない。それよりも――」
ヨミとアスルと勇者たちはお互いがお互いを攻撃しようとしているのを無理矢理に押さえようとしていた。
それはあまりに異様な光景で妙な踊りを見せられているかのよう。
「融合変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ハイパーユニオンギアフォーム、展開します』
紫色のアーマーを身に纏う。
活性化したナノマシンのお陰で全身に力が溢れて身体能力が大幅に強化されていることを感じる。
ネムスギアのセンサーの感度も一気に高まった。
ヨミもアスルも身体に異常は見られない。
となると何かを治せばいいってことでもなさそうだ。
今はとにかく二人の止めるしかない。
「メリッサ、やっぱり勇者たちを頼んでいいか?」
「その代わり、アスラフェル様を無事に帰して」
「俺自身がそう思ってるよ」
そう言って走り出す。
緩慢な動きの勇者たちには目もくれず、ヨミの前に立った。
「少しだけ、我慢してくれ」
声は帰ってこなかった。
ヨミも目が虚ろになっていて、まるで俺のことが見えていない。
これじゃ隙だらけだ。
ダーククロースアーマーを使ったままだから、普通に攻撃しただけではダメージを与えることすら適わないだろう。
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
超高速で真正面からヨミのみぞおちを狙う。
この一撃で倒れてくれればいいと思ったら、ヨミの両手が俺の拳を受け止めた。
衝撃で彼女の体が少し浮き上がる。
「おい! 受け止めてどうするんだよ!」
『彰! ガードしてください!』
とっさに左腕をあげる。
そこへ風を切りながら闇を纏ったヨミの右回し蹴りが見舞われた。
その勢いで横に数メートル地面を滑った。
左腕に痺れるような痛みを感じる。
骨は折れていないようだが、打撲くらいはしているかも知れない。
ハイパーユニオンギアでもこの威力。
基本フォームなら今の一撃は致命傷になっていた。
「ヨミ……」
呼びかけても言葉は返ってこない。
『今度は上です!』
ヨミを跳び越えてアスルが光と闇のエネルギーを帯びた拳ごと突っ込んできた。
地面を蹴って飛び退る。
そのまま拳は俺のいた辺りの地面を殴り、エネルギーが爆発した。
地面がえぐれて土が舞い上がる。
クレーターが出来て、さらに地面に大きくヒビが広がった。
おいおい、あれをガードしていたらどうなっていたんだ。
冗談じゃない。
二人とも本気で殺しにかかってきている。
ヨミとアスルは二人揃えたように構えを取って俺と向かい合った。
同時に駆け寄ってくる。
「お前ら! 俺がわからないのか!?」
アスルのパンチとヨミのキックを躱しながら声をかけても反応はない。
二人の攻撃はファイトギアのスピードでも避けるのが精一杯だった。
キャノンギアの防御力もあるとは言え、あれだけの攻撃を受け止める気にはならない。
次から次へと繰り出される攻撃を前に、為す術がない。
『このままでは時間が』
言われなくてもわかってる。
二人を止めるには、こっちも本気で戦わなければならない。
しかし……。
さすがに必殺技を使ったら、殺してしまうんじゃ……。
「ア……アキ、ラ……た、戦って……ください……。私は……あなたを……傷つけたくない……」
目は虚ろなままだが、苦しげにヨミが言葉を吐き出した。
「全力で戦ったら、殺しちゃうかも知れないだろ!」
「だい……じょうぶ、です。わたしを、私たちを……信じて……」
迷いはそれで吹っ切れた。
聞きたいことや言いたいことはあるが、今は何よりも二人を止めることを優先する。
『二人の力はだいたい把握できました。私が二人の命を保証します』
さらに速度を上げて二人の間合いから離れた。
『バスターキャノンを形成します』
エネルギーの調整がしやすい武器を選び、
『オーバーチャージブレイク、スターライトバスター』
砲弾がセットされるごとに砲身が輝きを増す。
エネルギーが溢れ出る前にトリガーを引いた。
バスターキヤノンの砲身からエネルギーの塊が光となって発射される。
いつもよりは大きいエネルギーではなかったが、それでも発射の余波でバスターキャノンを支える腕が武器ごと上を向いた。
発射された光の球は流れ星のような尾を残しながら光速で二人に迫る。
今の二人にならそれでも避けたりガードしたり出来ただろうが、正面から直撃して爆発した。
爆風が辺りを包む。
どうなったのか目視では確認できないが、ネムスギアのセンサーは二人の生存を示していた。
さすがにあれだけの攻撃をまともに喰らっているので、魔力は大幅に減らしていたが、二人とも健在だ。
武器をしまって様子を見ようと近づく。
センサーを頼りに、徐々に薄れていく煙の中を歩く。
目の前が急に暗くなる。
煙の中から誰かが立ち上がった。
「アキラ! 逃げて!」
叫びながらも煙を斬り裂いたのはヨミの回し蹴りだった。
ガードが間に合わず、脇腹にもろに喰らって吹き飛ばされた。
地面を転がりながらも、すぐに立ち上がる。
蹴られた部分を見ると、アーマーにひびが入っていた。
口のに血の味が広がる。
『ほ、骨は折れていないようですが……』
ヨミの一撃はハイパーユニオンギアでもこれだけのダメージを負うのか。
成長したことは素直に嬉しいが、将来夫婦喧嘩をしたら命がけの戦いになるな。
『そんなことを考えている場合ですか!? 残り時間を考えてください!』
煙を振り払うようにアスルも飛び出してきた。
「手加減しすぎたんじゃないか!?」
『そんなはずは……』
再びヨミとアスルが連携して攻撃を繰り出してきた。
このままじゃ時間切れになる。
実力がきっ抗している相手に三分しか使えないってのはハンデが大きすぎる。
「こうなったら基本フォームに戻す」
『な、何を言ってるんですか!?』
AIが心底驚いたような声を上げた。
「お前に任せるしかないってことだよ」
『まさか、サバイバルギアを……』
「覚悟を決めろ」
『無茶です! あれは相手を排除するまで制御できません! 私がヨミさんたちを殺してしまう!』
「へ――」
喚くAIを無視して俺が覚悟を決めた時、目の前に円形の光が現れた。
「ホーリーシールド!」
ヨミとアスルの攻撃が光の盾に阻まれる。
それを見て二人はバックステップで距離を取った。
一体、誰が防御魔法を――。
振り返るとそこには懐かしい顔があった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」
チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。
だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。
魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。
だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。
追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。
訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。
そして助けた少女は、実は王国の姫!?
「もう面倒ごとはごめんだ」
そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる