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変身ヒーローと無双チート救世主
本物の力
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大きな光の球が発射される。
そのエネルギーの大きさに押されるようにしてバスターキャノンは天を向いていた。
ハイパーユニオンギアの動体視力とセンサーをもってしても光の球の速さは避けるのが難しいほどだった。
ヨミは両手を前に突きだした。
避けられないと判断したのは早かったが、押さえ込める力ではない。
光の球がヨミの手に触れた瞬間、爆発した。
爆発したエネルギーの余波で、俺自身の体が後ろに下げられる。
煙の中にいるヨミの姿は見えないが、魔力はそれほど減っていない。
すぐにマテリアルソードを形成する。
『オーバーチャージブレイク、マキシマムエナジースラッシュ』
マテリアルソードの刃がバスターキャノンの必殺技のように放射状に大きく広がっていく。
爆発に伴う煙の中へ飛び込み、煙を斬り裂くようにマテリアルソードを振り下ろす。
手応えが途中で止まった。
斬り裂かれた煙の中からヨミの姿が見えてきて、マテリアルソードはヨミの左腕を斬り落とし、肩の辺りに食い込んだまま微動だにしない。
「今の私にこれだけのダメージを与えるとは思いませんでした」
冷静にそう言いながら、右手でマテリアルソードの刃の部分を掴む。
その手に魔力が集中して闇が纏わり付いたと思った次の瞬間、刃がその手に握り潰された。
「はあ!」
俺の体を支えていた剣か砕かれて、体勢を崩して地面に落下し始めたところでヨミが回し蹴りを繰り出す。
隙だらけだった左の脇腹に思いきり入り、薙ぎ払われて後ろに吹っ飛ぶ。
上半分が崩れ落ちた建物の壁に激突した。
壁にめり込んでしまった体を力任せに引き抜きながら手足の状態を確かめる。
背中にも大きな衝撃を受けたが、一番のダメージは蹴られた脇腹だった。
ハイパーユニオンギアのアーマーにヒビが入っている。
ヨミを見ると、俺が斬り落とした左腕はすでに魔力によって再生されていた。
……魔力の消費から換算して、お互いに与えたダメージは似たようなものだった。
ほとんど互角だ。
……こっちはもう残り時間が少ないってのに。
ちなみに、センサーはメリッサやバルトラムの魔力が減っていることも示していた。
あの二人の戦いも厳しそうだ。
いつもなら全体の戦局を確かめているところだが、そんな余裕はなかった。
最後の一分だ。
次の必殺技で倒せなければ、後は任せるしかない。
『やはり、サバイバルギアも戦力に計算しての戦いだったのですね』
前回戦った時に、わかっていた。
俺はどんなに覚悟を決めたと口にしても、ヨミを本気で殺すことは出来ない。
必殺技を使っても、心のどこかで力をセーブしている。
ヨミが致命傷を負わなかったことにホッとしている。
たとえヨミを圧倒できるほどの力を持っていても、恐らく俺ではヨミを止められない。
俺の心とは関係なく、全力を発揮できるAIに頼むしかなかった。
「行くぞ!」
それはヨミに言ったのか、果たしてAIに言ったのか。
自分でもよくわからなかった。
体の再生に魔力を使ったお陰で、ヨミの動きがさっきよりも鈍っている。
そして、それは高速での戦闘を主体とする俺には、大きなアドバンテージになった。
スローという程でもないが、ヨミの蹴りは全て見切れる。
躱しながらカウンターでパンチを浴びせる。
みぞおちの辺りを殴ると、ヨミが少し後退した。
まだ、必殺技が使えるほどエネルギーは回復していない。
技も使わずに、ひたすらカウンターでみぞおちを狙う。
ヨミも回し蹴りをフェイントにかかと落としや前蹴りを繰り出すが、ほんのわずかそのスピードが落ちただけで、もう俺には届かない。
そして、遂に攻撃することを止めてヨミは両腕でガードを固めた。
その上からでも構わずに殴り続ける。
ヨミはガードの隙間から瞳を覗かせる。
このままサンドバッグになるつもりはなさそう。
反撃の糸口を探っているのはありありだったが、それはこっちも同じだ。
ガードの上から殴ったところで、ダメージはほとんど入らない。
程なくして、必殺技が使えるだけのエネルギーが回復した。
残された時間もあとわずか。
最後の賭に出た。
『オーバーチャージブレイク、ファイナルストライク』
左のジャブで牽制しつつ右拳を強く握る。
まるでそこにボクシンググローブが現れたのかと思うほどの光が右拳だけを包み込む。
ヨミの全身を覆う魔力の流れが変わったのが見て取れた。
右足にその力が集まっている。ヨミはその足を一歩後ろに引いた。
俺は腰を捻りながら右拳を大きく振りかぶる。
すると、まるでロケットのエンジンでも付いているかのようにエネルギーを放出しながら拳が加速する。
ヨミも腰を捻りながら右足を大きく薙ぎ払ってきた。
カウンターを狙っていたのだ。
それは、周りで見ている人にとっては瞬きするよりも短い時間の攻防。
わずかなスピードの差が決定的な結果を生み出す。
リーチは足の長いヨミの方が有利だった。
だが、それが俺に触れることはなかった。
先にヨミのガードを破壊して体の中心に右拳が入る。
拳のエネルギーが爆発を起こし、ヨミの体が吹き飛んだ。
『高出力エネルギーの負荷に耐えられる限界時間に到達しました。変身を強制解除します』
ハイパーユニオンギアは限界に到達し、変身が解除される。
これでもう、俺の意志では数時間は変身できない。
倒れているヨミを見ると、彼女の体を覆っていたダーククロースアーマーは消滅していた。
あっちも相応のダメージを負ったようだ。
俺自身ではセンサーを使えるわけではないから、ヨミの魔力がどれだけ減っているのかはわからない。
ゆっくりと立ち上がるヨミを見ながら、やっぱり倒せてはいなかったんだなと冷静に受け止めていた。
生身の俺とヨミでは、戦闘能力に大きな差がある。
ナノマシンがあるから一般の人間よりは丈夫だが、魔物でもまともに戦えば負ける。
相手が魔王では為す術はなかった。
身体強化の魔法を失っても、ヨミの速さは今の俺には見切ることすら出来ない。
彼女の姿がフッとかき消えたと思ったら目の前に立っていた。
「俺もあの勇者たちのように殺すのか?」
「安心してください。アキラは勇者のように苦しめたりはしません。一撃で殺します」
言うや否や俺の首を掴んだ。
そして、片手で俺の体を持ち上げる。
「ダーククロースアーマー!」
それは進化した方の魔法ではなくて、以前使っていたものと同じ。
闇の力が右足だけに宿っている。
「今の私の魔力ではこれが精一杯のようですね。それでも、アキラを殺すには十分でしょう」
右足だけを後ろに引いて、あの必殺の回し蹴りの体勢を取る。
今できる最大の攻撃をするつもりだ。
槍の勇者のように、治療魔法すら意味がないほどのダメージを負った場合、果たしてサバイバルギアは展開されるのだろうか。
わからなかったが、それに懸けるしかなかった。
しかし、ヨミはその体勢のまま動こうとしない。
構えた右足が震えている。
「……ヨミ……?」
「こ、殺したくない……アキラは、私の……」
ヨミの表情が歪む。
その目から血涙が流れ出た。
「私、は……どうなっても、構いません。誰か……アキラを、助けて……!」
ヨミが必死に自分の心と戦っていることがわかった。
俺はこのままただ見ているしかできないのか。
怒りと悲しみに心が支配されそうだった。
すると、突然体が軽くなったような感覚に陥る。
痛みも苦しみも感じない。
その代わりに体の感覚が一切なくなっていた。
主人公視点のヴァーチャルリアリティの画面を見ているかのようだった。
「つくづく、お前らは見ていて退屈させない。だから、ほんの少しだけ力を貸してやるよ」
俺の口が俺の意志とは関わらず勝手に言葉を口にする。
『だ、誰だ?』
サバイバルギアが展開された時のように、俺の体が誰かに操られているような感覚だった。
しかし、まだ俺の体は生身のままだ。
「誰ってことはないだろ。俺のことはお前がよく知ってるんじゃないか?」
確かに、その口調と雰囲気だけでも十分だった。
「俺こそが、デモンから妹を救う戦士――武装セイバーネムスだ」
大地彰が名乗りを上げた瞬間、景色が歪んで一瞬の間にヨミの拘束から解放された。
「そして、私が大地彰の妹――未来です」
彰の手を握りながら、未来が優雅に自己紹介をした。
テレポートで彰を助けたんだ。
彼女はずっとこの戦いを見ていたのかも知れない。
そう思えるくらい都合のいい登場だった。
「未来、久しぶりになるが出来るか?」
「お兄様、私はいつでも心の準備は出来ています」
彰が未来の頭を撫でる。
俺には見せたことのないくらい甘えたような表情を向けていた。
「あなたは……誰? アキラ、ではない……」
ヨミが眉をひそめてそう言った。
「今のあなたも本来のあなたではないと思いますけど」
皮肉めいて未来が言い返した。
「……私は、魔王ヨミ。闇を極めしものとして、人間を滅ぼす」
ぎこちなくそう宣言したが、その表情にはさっきまでの感情はまったく見られなかった。
「さあ、見せてやろう。俺たちの力を」
「はい、お兄様」
彰が右手を挙げてポーズを取る。
「リミッター解除! ネムスギアのナノマシンよ! 限界を超えて増殖しろ!」
『裏起動コードを認証しました。ナノマシンによる侵食を開始します』
脳内にAIの声が響く。
ハイパーユニオンギアで使ったエネルギーが回復していくのがわかる。
だが、それに伴ってナノマシンが神経にまで入り込んでいくのがわかる。
このままだと、脳にまで達する。
身も心も全てナノマシンに置き換えるつもりなのか。
『混乱しないでください。ご心配には及びません。お兄様の心とあなたの心は、私が守りますから』
未来がテレパシーで俺の心に語りかける。
大地彰の体には、彰と俺とAIと未来。四つの心が一緒に存在していた。
「心変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、デウスギアフォーム、展開します』
黒を基調としたサバイバルギアに似ているが、アーマーに金色の縁取りがされていた。
そして、最大の違いはナノマシンが体だけでなく脳内にまで入り込んでいるのに、意識は大地彰のままだった。
「さあ、始めようか」
彰がヨミに人差し指を向ける。
【ヨミが真っ直ぐ向かってくる。
左の足刀で牽制し、右の回し蹴りを繰り出す】
これは、サバイバルギアの時に見た行動予測?
ヨミはその予測通りに、体を横にして左で蹴ってきた。
彰はヨミが腰を捻ろうとした一瞬の隙に、マテリアルソードを形成して体を突く。
【ヨミは刃をバックステップで躱し、跳び蹴りを繰り出す】
彰の手にはすでにバスターキャノンが握られていた。
『チャージショットワン、エレメントバスター!』
ロックオンするよりも先にトリガーを引く。
空中に向けて放たれたビームにまるで吸い寄せられるようにヨミが突っ込んでいた。
【地上に落ちたヨミを、アスルが抱き止める】
ヨミはまともにビームを全身で浴びて、地上に落ちてくる。
そこには予測通りアスルが現れた。
……これは、本当に行動予測か?
俺もAIも目の前のことに集中していてアスルたちの戦いがどうなっているのかなんてわかっていなかった。
ナノマシンはそれすらも予測できるものなのか?
「デウスギアが見せるのは、AIの行動予測じゃない」
どうやら、俺の考えていることは彰にも聞こえるようだった。
「未来の超能力による予知だ」
予知と予測。
似ているようで、違う。
【ヨミとアスルが協力して向かってくる。アスルは正面から、ヨミは背後に回る】
――デウスギアフォーム――。
それはサバイバルギアを能動的に展開させるようなフォームだった。
ナノマシンが限界を超えて増殖することにより、身体機能だけでなく脳にまで侵食する。
本来であれば、大地彰の意識までもがナノマシンに乗っ取られてしまうのだが、未来の超能力によってそれを制御し、ナノマシンから供給される無限のエネルギーと大地彰の戦闘経験と未来の予知能力を持ち合わせた最強最後の切り札的フォームだった。
あまりにも強すぎるそのフォームは、本編では四回くらいしか出番がなかった。
最近発売されたブルーレイボックスの映像特典ではその裏話が明かされていた。
玩具全体の売り上げが悪かったから、新しいフォームの玩具はあまり生産されず、初期フォームの売れ残りを一つでも減らすために最終回では結局一度も登場させられなかったらしい。
余談になるが、生産数が少なかったせいでデウスギアフォーム関連の玩具には、プレミアが付くようになってしまった。
未来の協力がなければ使えないフォームだったから、俺にはデウスギアは使えないと思い込んでいた。
最強の魔王が二人相手でも、簡単にあしらってしまう。
俺の意識はヨミとアスルではなく、メリッサたちに向けられていた。
見ると、二人とも倒れている。
クリスタルになっていないから死んではいないようだが、魔力は著しく減っていた。
アスルとの戦いがよほど激しかったのだろう。
【ヨミの右足に魔力と闇が集まる。アスルの右拳にも同じように魔力と闇が。無防備な彰に渾身の一撃を放つ】
彰がわざと隙を作ったのは間違いなかった。
二人同時に力の入った一撃を放つ。
彰がそれを素速く躱すと、ヨミの右足とアスルの右拳がぶつかり合い、お互いに大きく吹き飛ばされた。
そして、彰は両手を広げる。
その手にそれぞれバスターキャノンが現れていた。
『スペシャルチャージショット、マキシマムエナジーバスター!』
立ち上がろうとした二人を放射状に放たれたエネルギーが襲う。
石造りの道路も建物も全て巻き込んで、エネルギーが照射した部分は完全に消滅していた。たった一つを除いて。
むき出しになった土の大地に、ヨミとアスルが倒れている。
魔力はだいぶ減っているようだが、彰は二人が生き残ったことに感心していた。
大地彰は、やっぱり俺とは違った。
二人を殺すつもりだ。
倒れたままのヨミに近づき、見下ろす。
予知は何も現れない。
それはきっと、今のヨミには戦うほどの力が残っていないってことを表しているようだった。
「俺の中にいる人間を助けるためなら、どうなってもいいと言ったよな」
「……はい、このままでは……私は、アキラを殺してしまう……自分で、止められるなら……それが一番なんですけど……」
『マテリアルソードを形成します』
彰が両手でマテリアルソードを構えた。
「悪く思うな。全てはこいつの心の問題だ――」
彰が言っているのは、俺のことだ。
だが、俺の心とヨミやアスルの心が変わってしまったことに何が関係あるのか。
それはわからない。
ただ、今するべきことは勝手に口を突いて出た。
『待て! ヨミを殺さないでくれ!』
彰がマテリアルソードを掲げたまま動きを止めた。
そのエネルギーの大きさに押されるようにしてバスターキャノンは天を向いていた。
ハイパーユニオンギアの動体視力とセンサーをもってしても光の球の速さは避けるのが難しいほどだった。
ヨミは両手を前に突きだした。
避けられないと判断したのは早かったが、押さえ込める力ではない。
光の球がヨミの手に触れた瞬間、爆発した。
爆発したエネルギーの余波で、俺自身の体が後ろに下げられる。
煙の中にいるヨミの姿は見えないが、魔力はそれほど減っていない。
すぐにマテリアルソードを形成する。
『オーバーチャージブレイク、マキシマムエナジースラッシュ』
マテリアルソードの刃がバスターキャノンの必殺技のように放射状に大きく広がっていく。
爆発に伴う煙の中へ飛び込み、煙を斬り裂くようにマテリアルソードを振り下ろす。
手応えが途中で止まった。
斬り裂かれた煙の中からヨミの姿が見えてきて、マテリアルソードはヨミの左腕を斬り落とし、肩の辺りに食い込んだまま微動だにしない。
「今の私にこれだけのダメージを与えるとは思いませんでした」
冷静にそう言いながら、右手でマテリアルソードの刃の部分を掴む。
その手に魔力が集中して闇が纏わり付いたと思った次の瞬間、刃がその手に握り潰された。
「はあ!」
俺の体を支えていた剣か砕かれて、体勢を崩して地面に落下し始めたところでヨミが回し蹴りを繰り出す。
隙だらけだった左の脇腹に思いきり入り、薙ぎ払われて後ろに吹っ飛ぶ。
上半分が崩れ落ちた建物の壁に激突した。
壁にめり込んでしまった体を力任せに引き抜きながら手足の状態を確かめる。
背中にも大きな衝撃を受けたが、一番のダメージは蹴られた脇腹だった。
ハイパーユニオンギアのアーマーにヒビが入っている。
ヨミを見ると、俺が斬り落とした左腕はすでに魔力によって再生されていた。
……魔力の消費から換算して、お互いに与えたダメージは似たようなものだった。
ほとんど互角だ。
……こっちはもう残り時間が少ないってのに。
ちなみに、センサーはメリッサやバルトラムの魔力が減っていることも示していた。
あの二人の戦いも厳しそうだ。
いつもなら全体の戦局を確かめているところだが、そんな余裕はなかった。
最後の一分だ。
次の必殺技で倒せなければ、後は任せるしかない。
『やはり、サバイバルギアも戦力に計算しての戦いだったのですね』
前回戦った時に、わかっていた。
俺はどんなに覚悟を決めたと口にしても、ヨミを本気で殺すことは出来ない。
必殺技を使っても、心のどこかで力をセーブしている。
ヨミが致命傷を負わなかったことにホッとしている。
たとえヨミを圧倒できるほどの力を持っていても、恐らく俺ではヨミを止められない。
俺の心とは関係なく、全力を発揮できるAIに頼むしかなかった。
「行くぞ!」
それはヨミに言ったのか、果たしてAIに言ったのか。
自分でもよくわからなかった。
体の再生に魔力を使ったお陰で、ヨミの動きがさっきよりも鈍っている。
そして、それは高速での戦闘を主体とする俺には、大きなアドバンテージになった。
スローという程でもないが、ヨミの蹴りは全て見切れる。
躱しながらカウンターでパンチを浴びせる。
みぞおちの辺りを殴ると、ヨミが少し後退した。
まだ、必殺技が使えるほどエネルギーは回復していない。
技も使わずに、ひたすらカウンターでみぞおちを狙う。
ヨミも回し蹴りをフェイントにかかと落としや前蹴りを繰り出すが、ほんのわずかそのスピードが落ちただけで、もう俺には届かない。
そして、遂に攻撃することを止めてヨミは両腕でガードを固めた。
その上からでも構わずに殴り続ける。
ヨミはガードの隙間から瞳を覗かせる。
このままサンドバッグになるつもりはなさそう。
反撃の糸口を探っているのはありありだったが、それはこっちも同じだ。
ガードの上から殴ったところで、ダメージはほとんど入らない。
程なくして、必殺技が使えるだけのエネルギーが回復した。
残された時間もあとわずか。
最後の賭に出た。
『オーバーチャージブレイク、ファイナルストライク』
左のジャブで牽制しつつ右拳を強く握る。
まるでそこにボクシンググローブが現れたのかと思うほどの光が右拳だけを包み込む。
ヨミの全身を覆う魔力の流れが変わったのが見て取れた。
右足にその力が集まっている。ヨミはその足を一歩後ろに引いた。
俺は腰を捻りながら右拳を大きく振りかぶる。
すると、まるでロケットのエンジンでも付いているかのようにエネルギーを放出しながら拳が加速する。
ヨミも腰を捻りながら右足を大きく薙ぎ払ってきた。
カウンターを狙っていたのだ。
それは、周りで見ている人にとっては瞬きするよりも短い時間の攻防。
わずかなスピードの差が決定的な結果を生み出す。
リーチは足の長いヨミの方が有利だった。
だが、それが俺に触れることはなかった。
先にヨミのガードを破壊して体の中心に右拳が入る。
拳のエネルギーが爆発を起こし、ヨミの体が吹き飛んだ。
『高出力エネルギーの負荷に耐えられる限界時間に到達しました。変身を強制解除します』
ハイパーユニオンギアは限界に到達し、変身が解除される。
これでもう、俺の意志では数時間は変身できない。
倒れているヨミを見ると、彼女の体を覆っていたダーククロースアーマーは消滅していた。
あっちも相応のダメージを負ったようだ。
俺自身ではセンサーを使えるわけではないから、ヨミの魔力がどれだけ減っているのかはわからない。
ゆっくりと立ち上がるヨミを見ながら、やっぱり倒せてはいなかったんだなと冷静に受け止めていた。
生身の俺とヨミでは、戦闘能力に大きな差がある。
ナノマシンがあるから一般の人間よりは丈夫だが、魔物でもまともに戦えば負ける。
相手が魔王では為す術はなかった。
身体強化の魔法を失っても、ヨミの速さは今の俺には見切ることすら出来ない。
彼女の姿がフッとかき消えたと思ったら目の前に立っていた。
「俺もあの勇者たちのように殺すのか?」
「安心してください。アキラは勇者のように苦しめたりはしません。一撃で殺します」
言うや否や俺の首を掴んだ。
そして、片手で俺の体を持ち上げる。
「ダーククロースアーマー!」
それは進化した方の魔法ではなくて、以前使っていたものと同じ。
闇の力が右足だけに宿っている。
「今の私の魔力ではこれが精一杯のようですね。それでも、アキラを殺すには十分でしょう」
右足だけを後ろに引いて、あの必殺の回し蹴りの体勢を取る。
今できる最大の攻撃をするつもりだ。
槍の勇者のように、治療魔法すら意味がないほどのダメージを負った場合、果たしてサバイバルギアは展開されるのだろうか。
わからなかったが、それに懸けるしかなかった。
しかし、ヨミはその体勢のまま動こうとしない。
構えた右足が震えている。
「……ヨミ……?」
「こ、殺したくない……アキラは、私の……」
ヨミの表情が歪む。
その目から血涙が流れ出た。
「私、は……どうなっても、構いません。誰か……アキラを、助けて……!」
ヨミが必死に自分の心と戦っていることがわかった。
俺はこのままただ見ているしかできないのか。
怒りと悲しみに心が支配されそうだった。
すると、突然体が軽くなったような感覚に陥る。
痛みも苦しみも感じない。
その代わりに体の感覚が一切なくなっていた。
主人公視点のヴァーチャルリアリティの画面を見ているかのようだった。
「つくづく、お前らは見ていて退屈させない。だから、ほんの少しだけ力を貸してやるよ」
俺の口が俺の意志とは関わらず勝手に言葉を口にする。
『だ、誰だ?』
サバイバルギアが展開された時のように、俺の体が誰かに操られているような感覚だった。
しかし、まだ俺の体は生身のままだ。
「誰ってことはないだろ。俺のことはお前がよく知ってるんじゃないか?」
確かに、その口調と雰囲気だけでも十分だった。
「俺こそが、デモンから妹を救う戦士――武装セイバーネムスだ」
大地彰が名乗りを上げた瞬間、景色が歪んで一瞬の間にヨミの拘束から解放された。
「そして、私が大地彰の妹――未来です」
彰の手を握りながら、未来が優雅に自己紹介をした。
テレポートで彰を助けたんだ。
彼女はずっとこの戦いを見ていたのかも知れない。
そう思えるくらい都合のいい登場だった。
「未来、久しぶりになるが出来るか?」
「お兄様、私はいつでも心の準備は出来ています」
彰が未来の頭を撫でる。
俺には見せたことのないくらい甘えたような表情を向けていた。
「あなたは……誰? アキラ、ではない……」
ヨミが眉をひそめてそう言った。
「今のあなたも本来のあなたではないと思いますけど」
皮肉めいて未来が言い返した。
「……私は、魔王ヨミ。闇を極めしものとして、人間を滅ぼす」
ぎこちなくそう宣言したが、その表情にはさっきまでの感情はまったく見られなかった。
「さあ、見せてやろう。俺たちの力を」
「はい、お兄様」
彰が右手を挙げてポーズを取る。
「リミッター解除! ネムスギアのナノマシンよ! 限界を超えて増殖しろ!」
『裏起動コードを認証しました。ナノマシンによる侵食を開始します』
脳内にAIの声が響く。
ハイパーユニオンギアで使ったエネルギーが回復していくのがわかる。
だが、それに伴ってナノマシンが神経にまで入り込んでいくのがわかる。
このままだと、脳にまで達する。
身も心も全てナノマシンに置き換えるつもりなのか。
『混乱しないでください。ご心配には及びません。お兄様の心とあなたの心は、私が守りますから』
未来がテレパシーで俺の心に語りかける。
大地彰の体には、彰と俺とAIと未来。四つの心が一緒に存在していた。
「心変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、デウスギアフォーム、展開します』
黒を基調としたサバイバルギアに似ているが、アーマーに金色の縁取りがされていた。
そして、最大の違いはナノマシンが体だけでなく脳内にまで入り込んでいるのに、意識は大地彰のままだった。
「さあ、始めようか」
彰がヨミに人差し指を向ける。
【ヨミが真っ直ぐ向かってくる。
左の足刀で牽制し、右の回し蹴りを繰り出す】
これは、サバイバルギアの時に見た行動予測?
ヨミはその予測通りに、体を横にして左で蹴ってきた。
彰はヨミが腰を捻ろうとした一瞬の隙に、マテリアルソードを形成して体を突く。
【ヨミは刃をバックステップで躱し、跳び蹴りを繰り出す】
彰の手にはすでにバスターキャノンが握られていた。
『チャージショットワン、エレメントバスター!』
ロックオンするよりも先にトリガーを引く。
空中に向けて放たれたビームにまるで吸い寄せられるようにヨミが突っ込んでいた。
【地上に落ちたヨミを、アスルが抱き止める】
ヨミはまともにビームを全身で浴びて、地上に落ちてくる。
そこには予測通りアスルが現れた。
……これは、本当に行動予測か?
俺もAIも目の前のことに集中していてアスルたちの戦いがどうなっているのかなんてわかっていなかった。
ナノマシンはそれすらも予測できるものなのか?
「デウスギアが見せるのは、AIの行動予測じゃない」
どうやら、俺の考えていることは彰にも聞こえるようだった。
「未来の超能力による予知だ」
予知と予測。
似ているようで、違う。
【ヨミとアスルが協力して向かってくる。アスルは正面から、ヨミは背後に回る】
――デウスギアフォーム――。
それはサバイバルギアを能動的に展開させるようなフォームだった。
ナノマシンが限界を超えて増殖することにより、身体機能だけでなく脳にまで侵食する。
本来であれば、大地彰の意識までもがナノマシンに乗っ取られてしまうのだが、未来の超能力によってそれを制御し、ナノマシンから供給される無限のエネルギーと大地彰の戦闘経験と未来の予知能力を持ち合わせた最強最後の切り札的フォームだった。
あまりにも強すぎるそのフォームは、本編では四回くらいしか出番がなかった。
最近発売されたブルーレイボックスの映像特典ではその裏話が明かされていた。
玩具全体の売り上げが悪かったから、新しいフォームの玩具はあまり生産されず、初期フォームの売れ残りを一つでも減らすために最終回では結局一度も登場させられなかったらしい。
余談になるが、生産数が少なかったせいでデウスギアフォーム関連の玩具には、プレミアが付くようになってしまった。
未来の協力がなければ使えないフォームだったから、俺にはデウスギアは使えないと思い込んでいた。
最強の魔王が二人相手でも、簡単にあしらってしまう。
俺の意識はヨミとアスルではなく、メリッサたちに向けられていた。
見ると、二人とも倒れている。
クリスタルになっていないから死んではいないようだが、魔力は著しく減っていた。
アスルとの戦いがよほど激しかったのだろう。
【ヨミの右足に魔力と闇が集まる。アスルの右拳にも同じように魔力と闇が。無防備な彰に渾身の一撃を放つ】
彰がわざと隙を作ったのは間違いなかった。
二人同時に力の入った一撃を放つ。
彰がそれを素速く躱すと、ヨミの右足とアスルの右拳がぶつかり合い、お互いに大きく吹き飛ばされた。
そして、彰は両手を広げる。
その手にそれぞれバスターキャノンが現れていた。
『スペシャルチャージショット、マキシマムエナジーバスター!』
立ち上がろうとした二人を放射状に放たれたエネルギーが襲う。
石造りの道路も建物も全て巻き込んで、エネルギーが照射した部分は完全に消滅していた。たった一つを除いて。
むき出しになった土の大地に、ヨミとアスルが倒れている。
魔力はだいぶ減っているようだが、彰は二人が生き残ったことに感心していた。
大地彰は、やっぱり俺とは違った。
二人を殺すつもりだ。
倒れたままのヨミに近づき、見下ろす。
予知は何も現れない。
それはきっと、今のヨミには戦うほどの力が残っていないってことを表しているようだった。
「俺の中にいる人間を助けるためなら、どうなってもいいと言ったよな」
「……はい、このままでは……私は、アキラを殺してしまう……自分で、止められるなら……それが一番なんですけど……」
『マテリアルソードを形成します』
彰が両手でマテリアルソードを構えた。
「悪く思うな。全てはこいつの心の問題だ――」
彰が言っているのは、俺のことだ。
だが、俺の心とヨミやアスルの心が変わってしまったことに何が関係あるのか。
それはわからない。
ただ、今するべきことは勝手に口を突いて出た。
『待て! ヨミを殺さないでくれ!』
彰がマテリアルソードを掲げたまま動きを止めた。
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