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⑧
しおりを挟む向こう岸へたどり着いたチチは周囲を見渡した。どうやら、湖に入るときに身につけていた衣を捜しているようだった。
そのとき、ティーラの目に白い布が映った。それは岸辺に生えた緑の木々の枝に掛けられていた。
彼女がそれに気づくよりも先に、彼はその布をひょいと手に取った。
「おまえが捜しているものはこれじゃないのさ」
ティーラはチチにその白い布を差し出した。
今まで頑な表情だったチチの頬が少し緩み、その布に手を伸ばした。
その瞬間、彼は急に手を引っ込めた。布は依然として、彼の手中にあった。
とたんに表情がこわばり、怪訝な目になる彼女に対して、
「おれが先刻、訊いたことに答えたら、返してやるさ」
彼は告げた。
すると、チチはなにも云わず、いきなりティーラの下帯を、すっと外して奪い取った。
彼女は初めて口元をほころばせた。でも、その表情はほんの一時限りだった。
彼女は下帯から解き放たれた、獰猛な生き物のような肉の塊を、目のあたりにすることになったからだ。
チチの顔から、また色が消えた。
チチがひるんだ隙に、頭一つ分以上も背の高いティーラが上から彼女に覆いかぶさった。自分の下帯を彼女の手から取り戻すためだ。
ところが、チチはするりと彼をかわして、身を翻した。
そして、空に向けて、彼の下帯をぽーんと放り投げた。
下帯は、弧を描き、木々や草むらが広がる斜面のどこかへ姿を消した。
それを見たティーラは口を少し歪めた。
それから、今度は自分が手にしていたチチの衣を同じようにぽーんと放り投げた。
彼女の衣も、木々や草むらの中へ消えていった。
素裸の彼と彼女が——そこにいるだけとなった。
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