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きみに指輪をあげたい
Chapter 3 ②
しおりを挟むとたんに、かわいい美咲の顔が険しくなる。
「気に入らなければ、買わなくていいから。せっかくの機会だから、見てみようぜ」
実は……この言葉も香里のコマンドだった。香里は美咲の心理を巧みに掴んでいた。
「では、カラットはいかが致しましょうか?」
と、にこやかに微笑む店員の言葉に……
——カラット?なんじゃそりゃ⁉︎
エラー発生。香里からのコマンドなし。 和哉、万事休す——
ところが……
「〇.五カラットでお願いします」
美咲はこともなげに告げた。そのまま淀むことなく、カット・カラー・クラリティも指定する。
そして、
「……見るだけ、だからね」
と、かわいく言った。
店員が条件に近い指輪をいくつか持ってきた。今度はバレリーナと名のついた「婚約指輪」だ。やっぱり、婚約指輪はダイヤが大きくて華やかだ。こういうのに疎い男でもわかる。
ある指輪を見た瞬間……美咲の目の色が変わったような気がした。
「……和哉、帰ろう」
突然、美咲がつぶやいた。
「どうした、美咲?……指輪つけないのか?」
せっかく持ってきてもらった指輪を触ろうともしない。
「……つけたら、ほしくなるから」
美咲は思いつめた顔をしていた。
「初めて、ほしいと思う指輪に出会ってしまった。……今まで指輪に興味を持ったことなんてなかったのに……」
前の夫には、金属アレルギーだと偽ってまで結婚指輪をつけていなかった。
——なに⁉︎ 「初めて」だって⁉︎
和哉を動かす、史上最強のワード「初めて」が発動された!
和哉は、速攻で財布の中からクレジットカードを取り出し、「ボーナス払いでお願いします」 と、店員に差し出す。
「あ、あの……婚約指輪は、どの指輪をお求めでしょうか……」
「そうだ。……美咲、どれだ⁉︎」
美咲は黙ったままだ。
「言え、美咲!どれが気に入った⁉︎」
美咲は黙ったままだ。
「吐け、 吐くんだ、美咲っ⁉︎」
とても、婚約指輪を買おうとしている客には見えない。
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