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Book 6
「葛城は住むことにした」④
しおりを挟む「店では、そんな細い方のリングでよかったのかな?って思ったけど、櫻子さんは華奢な指だから、その細さがよく似合ってるね。二人ともぴったりのサイズが店内にあって、ラッキーだったしね」
葛城さんは目を細めて微笑んだ。ほんの少しだけ、目尻にシワが出る。
なのに、セクシーに見えるのが不思議だ。イケメンは得だなぁと思わずにいられない。
わたしのは、二・五ミリの一番細いタイプだ。それに対して葛城さんは三・五ミリの少し太いタイプだった。男の人の手にはこのくらいの太さの方が落ち着く。
「さすがカル◯ィエだねぇ。三色のゴールドなのに、全然派手な感じがなくて、しっくりと肌に馴染む」
わたしも肯いた。確かにそうだった。
「もともと、日本人などの肌の色は白っぽいプラチナよりもゴールドの方が合ってるのかもしれませんね。それに、ゴールドは軽くて、つけ心地がいいですね」
たまたまぱっと目についたものだったが、このリングにして正解だったと思う。
「うん、僕は指輪なんて普段つけないけど、これならずっとつけてても気にならないから大丈夫だな」
葛城さんは細長くて少し筋張った指を持つ大きな手を、グーにしたりパーにしたりしながら言った。
「……もしかして、葛城さんも普段からつけるんですか?しかも、左手薬指に?」
「そうだよ」
わたしの問いかけに、葛城さんは平然と答えた。
「僕は櫻子さんの『結婚相手』だからね。……それに、僕の方にもちゃんと『メリット』になるから気にしなくていいよ。実は、ウィンウィンなんだ。でないと、いくら僕だってこんなことしないよ」
葛城さんはさらに目を細めて笑った。
葛城さんはきっと、お仕事の上でも優秀な営業マンに違いない。
だって、美味しいスープハンバーグを堪能しているうちに、わたしは目下の懸案の「ストーカー疑惑」から「最果ての地への島流し」のこと、そして自らの生い立ちのことなど、すっかりしゃべってしまったのだから。
——この人見知りのわたしが。
葛城さんが文具メーカーの社員でよかった。
でなかったら、わたしは彼から、高額な(でも実は二束三文な)宝石だの着物だの美容器具だのを一切合切買わされていたはずだ。
だけど……今のわたしなら……
葛城さんが売りつけるのであれば、年に一度も使うかどうかわからないのに、何万もするような職人さん手づくりの「匠」な万年筆を、何の躊躇いもなく何本も買うだろう。
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