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Book 6

「葛城は住むことにした」⑤

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 そのあと、華丸のデパートを二人で出た。

 すると、葛城さんはなんと、わたしを家まで送る、と言い出した。
 うちの近くに出没するという「不審者」を警戒してのことだ。

「えっ、でも、うちはすっごく不便なとこなんですっ。地元では陸の孤島って呼ばれてるくらい、最寄り駅が近くになくて」

 わたしの家が埼玉と千葉に挟まれた二十三区の東端である「立地」を言うと、
「えっ、櫻子さんのおうち、駅から遠いの?」 
 葛城さんの整った眉がぎゅっ、と寄った。

「じゃあ、ますます、きみの身が危険にさらされるじゃないか」

 ——いやいやいや、そうではなくて。

 そして、メトロの駅に行く途中で、なぜか葛城さんは「ちょっと買い物させてくれる?」と言ってド◯キに寄った。


 ゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


 結局、うちまで、葛城さんはわたしを送ってくれることになった。

 JRの常磐線の駅を降りてからは自転車だ。
 葛城さんは、駐輪場でわたしの赤いママチャリのサドルのレバーを引っ張って引き出し、ぐるぐるぐるっと回して、サドルを上げた。

 そして、「ほんとは道路交通法違反なんだけどね」といたずらっぽく笑って、
「後ろに乗って。僕が自転車を漕ぐから。あ、櫻子さんの家までの道、教えてね」
 わたしのママチャリにまたがった。

 それから、わたしたちは、まるで高校生の下校時のように、自転車を二人乗りして家まで帰ってきた。

 もうすっかり夜のとばりが下りていた。
 だからわたしは、ご近所の目を気にすることなく、自転車の荷台に横乗りした。

 青春真っただ中のウブな女子高生みたいに俯いて、葛城さんのスーツの上着の端を掴むわたしに、
「……櫻子さん、もっとしっかりと持たないと、振り下ろされちゃうよ?」
 自転車を軽快に漕ぐ葛城さんが、前を向いたまま笑って言った。
  
 彼の背中から、じかに声が聞こえてきたような気がした。


 ——ところが。

 こんな時間にもかかわらず、お隣の山田のおばちゃんの門扉の前に、裏の中村のおばちゃんがやって来ていたのだ。

 いい歳して自転車で二人乗りして帰ってきたわたしたちの姿を見て、門灯に照らされたおばちゃんたちの目が、夜目にもらんらんと光り輝いているのがわかった。

「……あらぁっ、櫻子ちゃんっ、おかえりなさいっ!」
 山田のおばちゃんが、ご近所一円に聞こえるんじゃないかと思えるほどの声を張り上げた。

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