砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎ 〜Romance in Abū Dhabī〜 【Alphapolis Edition】

佐倉 蘭

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الفصل ٨「砂漠へGO!」

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「……え、えーっと……」
   突然のことに、なかなか言葉が出てこない。

「あ、そうだ!た、確か……『イブン・マーリク』さんとおっしゃいました……よね?」
   だったら、普通は「イブン」と呼ばせるのではないのだろうか?

「Lulu… What are you talking about?」
〈ルールゥ…なんて言っているんだ?〉
   マーリク氏が顔をしかめる。どうやら、彼にはあたしの言ってることが通じてないみたいだ。

——あれ? もしかして、日本語は先刻さっきので終了?
  
「I learned Japanese from Atif who was my passenger on the way here. So I can't tell you that much yet.」
〈ここに来る道すがら、同乗していたアーティフに日本語を教わった。だから、まだそんなには話せない〉

——『アーティフ』?

奥様アキーラ
   奥さんのファティマさんとともに控えていたムフィードさんが、あわてて駆け寄ってきた。
「『イブン』はアラビア語で『息子』です。なので、『イブン・マーリク』は『マーリクの息子』です」

「えっ、そうなの?」
   ロシアの人たちがお父さんの名前を第二のファミリーネームのように使う「父姓」みたいなものかな?

「From now on, you must not call me by my father's name.」
〈金輪際、私を父の名で呼ぶな〉
   マーリク氏は忌々しげに吐き捨てた。

——ということは……あたしは今まで彼のことをお父さんの名前で呼んでいたんだ。

「I’m sorry…」と言いかけると、ムフィードさんから制される。
「こちらではよくあります。私は『アーティフ・イブン・ムフィード』です」

——ということは……ムフィードさんの正式な氏名は「ムフィードの息子、アーティフ」というわけだ。
   だから、マーリク氏はムフィードさんを『アーティフ』と呼んでいたのだ。

「私は『ムフィード』でいいですよ」
   ムフィードさんが肩をすくめながら言った。

「あの……ムフィードさん。アラビア語で『わかりました』ってどう言うんですか?」
   あたしは彼に尋ねた。

「それなら、便利な言葉あります。『ان شاء الله』です」
   あたしはムフィードさんが教えてくれた言葉を口の中で反芻する。アラビア語の発音は、なかなか難しい。

「もともとの意味は『アッラー御心みこころのままに』です。でも、英語の『Go ahead.』の意味で使います」

   あたしはマーリク氏の方を向いて言った。
「インシャアッラー」
——通じるかな?

   すると、マーリク氏の目が見開かれた。どうやら、彼にその意味が通じたようだ。
  
「……ラジュリー」
   あたしは彼の名を呼んだ。

「…My Lulu…」
〈…私の真珠…〉
   彼も、あたしの「名」を呼ぶ。

   今、この瞬間——彼の力強く輝く黒曜石の瞳には、あたしの姿だけしか映っていない。

——あぁ、その瞳に……「あたし」が吸い込まれていく……

   あたしたちは「初めて」互いを見つめ合った。


   すると、そのとき——

   いきなり、向こうの方に張られている天幕テントの幕が跳ね上がり、白装束カンドゥーラの男たちが口々になにか叫びながら飛び出してきた。
   おのおのがみな、ライフルのような銃を手にしている。この地で出回っているロシア製のカラシニコフだ。

   男たちは銃口を空へ向けると、迷うことなく引き金トリガーを引いて発砲し始めた。

   周囲に遮るものがなにもない広大な砂漠に、大きな銃声だけが、けたたましく鳴り響く。と同時に、踏ん張りがきかなくて走りにくいはずの砂地をものともせず、男たちがあたしたち目がけて駆けてくる。
   辺りには、もうもうと砂塵が舞い上がった。

——な、な、なに……っ⁉︎ あたしたち……しゅ、襲撃されてるっ⁉︎

   男たちは、あっという間にマーリク氏に駆け寄ったかと思うと、そのうちの何人かで彼の身体からだを頭上に担ぎ上げた。

「きゃあぁっ⁉︎ か、彼を……どうする気っ⁉︎」
   あたしはマーリク氏に向かって手を伸ばし、思わず日本語で叫んだ。

「ちょ、ちょっと……だ、だれか……っ!彼を助けてっ‼︎」
   あたしは周囲を見回し、声を張り上げる。

   だが——だれも助けようとしない。

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