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Last Chapter
⑥
しおりを挟む「この指輪はね、祖父が祖母のためにモニ◯ケンダムでつくらせたそうだよ」
薬指に大きなダイヤモンドを戴かせた麻琴の左手の甲に、ちゅ、と恭介がくちびるを押しつける。
時を経たそのクラシカルなリングは、麻琴の洗練された華やかさにとてもよく似合っていた。
モニ◯ケンダムはオランダのアムステルダムが発祥の地だが、のちにイギリスのロンドンに本拠地を移し、今では英国王室の王冠にダイヤモンドを供給するジュエリーブランドだ。
そもそもダイヤモンドカッティングの会社としてスタートしたモニ◯ケンダムはその技術に定評があり、 世界三大カッターの一角を成す。
「麻琴さえ良ければ、結婚指輪もモニ◯ケンダムにしようか?」
恭介が麻琴の耳元で艶っぽく囁く。
——あ、それは……久城さんが「裏切り者っ!」って……絶対怒るだろうなぁ……
麻琴はうっすらと白い靄のかかった頭の中で、そう思った。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
「……恭介君、巧くいったかい?」
コックコート姿の初老の男性が、階下に降りてきた恭介と麻琴を見て言った。この店の主人だった。
恭介はがっちりと恋人つなぎしていた麻琴の左手を高らかに掲げた。薬指にはモニ◯ケンダムのバカでかいダイヤモンドが瞬いていた。
——ちょ、ちょっと、恥ずかしいからやめてっ!
せっかく赤みが引いた麻琴の頬が、またぶり返しそうだ。
「あら、ヘレナさんの婚約指輪ね?」
店主の妻のマダムがうれしそうに手を叩いた。
「おじさん、おばさん、僕のfianceeの……麻琴です」
恭介は麻琴を抱き寄せ、改めて「紹介」した。
「もうすぐ同じファミリーネームになるから、名前で呼んでね」
そう言って、軽くウインクした。
——あぁ、もうすっかり外堀を埋め尽くされて、コンクリートでガチガチに固められてしまったような気分だわ……
「あ、改めまして……渡辺 麻琴です。よろしくお願いします」
麻琴は丁寧にお辞儀をした。
「こちらこそ、よろしくお願いしますよ、麻琴さん」
店主がニヤリと笑う。
「……それと、恭介君のことも末長くね」
「これから、ちょくちょくお店にいらしてね、麻琴さん」
マダムが穏やかな笑みで麻琴を見つめる。
「恭介くんはね、もう高校生くらいのときから『おじさん、おばさん、僕がこの店に女の子を連れてきたときはプロポーズするときだからね』って、頑なに言ってたのよ。もちろん……恭介くんが女性をお連れになったのは、あなたが初めてよ」
「えっ、じゃあ、久城さんもいらしたことないんですか?」
麻琴はびっくりして恭介に訊いた。
「きみ以外の人と結婚しようと思ったことなんて、僕には一度もないよ」
恭介が麻琴とつないだ手にきゅっ、と力を込めた。
「でも、麻琴さん……大丈夫?恭介くんってね、思い込んだらしつこくって、昔から『欲しい』と思ったものは、歳の離れた妹の麗華ちゃんを泣かしてでも絶対にモノにしてたのよ」
マダムが心配そうな顔になる。
「……おばさん、何歳のときの話だよ?」
恭介が困った顔で苦笑する。
「恭介君、強引なことはしてないだろうね?」
店主が恭介をじろり、と見る。さすが、恭介を子どもの頃から見守ってきただけあって、お見通しのようだ。
「まぁ……多少は『実力行使』したことは否めないけどね」
しかし、恭介はどこ吹く風、だ。
「麻琴さん……こういう人だから、諦めて?」
マダムが気の毒そうに麻琴を見つめる。
——仕方ない。どう足掻いたって、結局は、捕まっちゃったんだもの。
——それに、そういう恭介さんを、好きになってしまったんですもの……
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