15 / 25
Kapitel 4
①
しおりを挟む昼餐を終えた昼下がり、『珈琲、飲まないか?』とリリを誘ったラーシュが、珈琲を飲みながら言った。
「……グランホルムへの手紙に『仕事が立て込んでいるのはわかるが、妹がこれからのことについて話したいと言っている』と書いて送ったら、彼から『でき得る限り早く仕事に段取りをつけて、イェーテボリに出向く』と返事が来たよ」
「そう……ありがとう、ラーシュ」
兄に礼を述べたあと、リリもRörstrandのカップを持ち上げ、中の珈琲を含んだ。
「私はそれ以上のことは書き記してないからね」
つまり——グランホルム大尉は、リリの話がどういうものなのかをよく知らずに彼女の許へやってくる、というわけだ。
彼がいつ到着するかなんて、まだまったく予想もつかないにもかかわらず、リリに緊張が走った。
家同士のつながりに重きを置く、彼の属する貴族社会では考えられない、本人——しかも女性の方から直接婚約破棄の申し出をするという、その特異さと重大さを、彼女は改めてひしひしと感じた。
「……後悔しないように、おやり」
そうつぶやいて、ラーシュはまた珈琲を飲んだ。
テーブルの皿の上に盛られたkanelbulleは、ひさしぶりに彼らの母親が自ずから作ったものだった。
いかにも家庭の主婦が作ったという素朴な見た目と味だが、まだ兄妹が幼かった頃、競うようにして食べた思い出深いお菓子だ。
しかし、この日の二人は、とうとう手をつけずじまいだった。
……そして、グランホルム大尉がリリを訪れる日が来た。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
スウェーデン王国軍の海軍——Kangliga Flottanの本拠地である軍港の街・カールスクルーナから、船でイェーテボリに到着したグランホルム大尉は、その足でシェーンベリ邸にやってきた。
そして、シェーンベリ父子との固い握手によって出迎えられた大尉は、ひとまず男性の訪問客のための応接間に通され、今般の世界情勢やそれにまつわる政治情勢などを、軍の機密に触れない程度に彼らと語り合って情報交換したのち、ようやくリリの許へと姿を現した。
邸の南側に造られた大きく張り出したアーチ状の屋根の下、広い庭園が一望できるよう窓が最大限に切り取られた温室に、リリはいた。
そこにはAlmedahlsの布地がふんだんに使われた座り心地のよい長椅子が並べられ、晴れた日はもちろんのこと、雨の日も雪の降る日もどんな天候であろうと、珈琲を飲みながら目の前の庭園をゆったりと愛でることができる談話室ともいうべき場所であった。
だから、スモーキングルームやドローイングルームなどとともに訪問客をもてなす「応接間」の一つになっていた。
しかし、今の彼女にとっては、ちっとも居心地の良い場所とは思われなかった。
ついに——このときが来たのだ。
11
あなたにおすすめの小説
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―
柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。
最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。
しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。
カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。
離婚届の上に、涙が落ちる。
それでもシャルロッテは信じたい。
あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。
すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。
初恋にケリをつけたい
志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」
そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。
「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」
初恋とケリをつけたい男女の話。
☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる