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Chapter 3
①
しおりを挟む「……おかえりなさい」
妻が言った。
「この時間なら、もう食べてきたわよね?お風呂沸いてるから、入ったら?」
玄関から踵を返し、リビングに向かう細長い廊下を歩いていく。
「あ…あぁ、そうだな」
おれは答えた。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
風呂から出てリビングに行くと、入れ違いに妻がバスルームへ向かう。
「ビール呑むんでしょ?テーブルにおつまみの小鉢があるから」
冷蔵庫を開けてスーパードライを取り出そうとしていたおれに、妻が声をかける。
「あ…あぁ、サンキュ」
ダイニングテーブルに視線をのばすと、初夏らしい涼しげなガラスの小鉢に、鯵の南蛮漬けがあった。この部屋にはない器だった。東京から持ってきたのだろうか?
ダイニングチェアに腰を下ろし、リモコンでテレビを点け、いつものようにテレビ◯阪の「経済情報」という名の金の亡者のための番組を見ながら、スーパードライのプルトップを開けた。
一息で、ぐーっと呑めるところまで呑む。
「ぅーん……ぅまいっ!」
南蛮漬けを食うために箸を取る。おれも息子も、酢の酸っぱさが得意でないから、妻のつくる南蛮漬けは酸っぱさを抑えてある。
南蛮漬けの鯵を口の中へ放り込む。
——やっぱり、さほど酸っぱくない。
妻の味、だった。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
化粧を落としたあどけないスッピン顔で、妻はリビングに戻ってきた。
おれより五つ歳下だが、もうアラフォーを通り越して、アラフィフと言ってもいいような年齢になってしまった。
だが、もともと童顔だったせいか——夫の贔屓目を差っ引いても——ずいぶん若く見える。三十代後半だといっても通用しそうだ。
二十歳を過ぎた息子と並んでみて、さすがに姉弟には見えないが、若い叔母さんとその甥という感じで親子には思えない。
今はパイル織のルームウェアを身につけ、セミロングの髪をふんわりアップにしている。ふんわり漂う香りは、おれのシャンプーとボディーソープだ。
「……あなたのだと、髪がごわごわするわね」
妻は苦笑しながら言った。
「ちょっと、言いたいことがあったんだけど。お酒呑んでるあなたにできる話じゃないから……またにするわ」
妻はそう言って、おれの返事も待たずリビングの向こうにある寝室へ行った。ベッドメイクするためだろう。
——『言いたいこと』ってなんだ?なんで『酒呑んでる』おれに『できる話じゃない』んだ?
そもそも……
——あいつは何のために、突然、こっちに来たんだ?
わからないことだらけだった。
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