もう一度、愛してくれないか

佐倉 蘭

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Chapter 7

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「確か、専務の奥さまって、会長の娘さんでしたよね?」
 豊川は、込み上げてくる笑いをこらえながら尋ねてきた。
「……そうだ」
 おれは苦虫を噛み潰したような顔で答えた。

 会長の猛反対を押し切りまくってやっとの思いで結婚した、そんな立場のおれが妻に隠れて浮気なんかできるわけないだろう。
 そんなことがバレでもしたら、即刻離婚させられて、会社もお払い箱だ。

 会長は、今でもかわいい娘が孫を連れて出戻ってくるのを、手ぐすね引いて待っているところがある。
 表面上は、おれに激似の大地に対する会長の風当たりは強く、一見もう一人の孫の慶人を依怙贔屓えこひいきしているように見えるが……さにあらず。

 朝比奈一族全体の中でも、次代を担うプレッシャーに抗えるタフさを一番持っているのは大地だ、と考えているのが透けて見える。「参勤交代」はそんな会長の「策略」の一つだ。
 オンナ受けのよいおれに魔がさすように、との会長の切実なる願いだ。

 若かりし頃、追い払っても追い払っても、オンナは向こうから寄って来た。
 それに、おれも男だ。どうしても紗香の肌が恋しくなったときがあった。ジムで一心不乱に汗を流してもダメだった。

 そんなときは、赴任地から高速をぶっ飛ばして、家に着くなり紗香を抱いて、またすぐにトンボ帰りした。
 だから、赴任地には必ず車が置いてあるのだ。(品川ナンバーから変えざるを得なくなったのはここ大阪が初めてだが……)

 
「……奥さま、会長には似てはりませんねぇ」
 豊川がおれのスマホの紗香の笑顔を見て、しみじみ言った。
 スリートップは、それぞれの「組員」への「手打ち」のメール送信で忙しそうだ。

「あぁ、ありがたいことに母親似だ」
「ステキなご夫婦ですねぇ……憧れちゃいます」
 豊川が羨ましそうに微笑んだ。
 ——大阪支店北浜勤務の泉州男と、結婚を考えているのか?

「結婚して二十年以上も経つのに、未だにラブラブなんて、すごいですよ!共通の『趣味』とかあるんですか?」

「そんなのないよ」
 プロともガチでラウンドするおれと、未経験者の妻が、お互い「楽しく」ゴルフできる確率は果てしなく低い。

 コンペなんかで同じ組に夫婦がいた場合、たいてい亭主が女房に「余計なアドバイス」をする。
 だが、そんな急にできるものではないから、女房が失敗すると、亭主が「それ見たことか」とか「なんでおれの言うとおりにしないんだ」とか言って女房の地雷を踏む。

 すると、風薫る緑豊かなフェアウェイのど真ん中で……
「うるさいわねっ!ほっといてよっ!」
「なんだ、おまえ、せっかく教えてやってんのにその態度はなんだっ⁉︎」
「『教えて』なんて、わたしがいつ言った?だいたい、あなた、わたしに教えられるようなスコアなのっ⁉︎ 調子が悪いとか言って、ほんとは実力ですぐ100叩くじゃないっ!」
と、罵り合いになるのだ。

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