35 / 51
Chapter 8
④
しおりを挟むこんなに、憔悴しきって迎えた朝は——初めてだ。
昨夜はあわただしくシャワーを浴びたあと、明け方までまんじりともせずに、リビングのソファに座ってスマホをじーっと見つめていた。
だが、トークの画面にたった一度、ふきだしが現れたあのとき以来、もう何の反応もなかった。
おれは、洗ったまま乾かしもしなかった髪を、苛立たしげに、がしっ、と指で掻き上げた。
——紗香……こんな時間に、どこで、なにを、やってるんだ⁉︎
——まさか、あの歳下のホスト(推定)と、一緒にいるんじゃないだろうな⁉︎
おまえが心配で、おれが不安で……気が狂いそうだ。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
玄関で、ガチャガチャと音がした。
おれは跳ねるようにソファから起き上がった。いつの間にか、うとうとしていたらしい。
すぐさま、リビングを出た。
ダ◯エのキャリーケースを持った妻が、ウォーキングクローゼット代わりにしている部屋へ入っていくところだった。
紗香が——帰ってきた。
いや、紗香が……帰ってきてくれたのだ。
「……あなた、どうしたの?」
リビングに入ってきた妻が訝しげに訊いてきた。
「なんだか、ものすごーく老けてるわよ?」
洗いざらしで乾かさずにいた髪はボサボサ、睡眠不足で顔色の悪い肌には無精ヒゲ。
さらに……
まったく経緯は覚えていないが、Tシャツもスウェットのズボンも、捨てようと紙袋に詰めていたヨレヨレのものを引っ張り出して、身に着けていた。
だが……
——だれのせいだと、思ってるんだっ⁉︎
「……あたし、昨日、ほとんど寝てないの。悪いけど、これからちょっと寝るわ」
そう言って、妻は寝室に向かおうとした。
その肩を「おいっ!」と後ろから掴んだ。
一瞬、ふわりとハーブの香りがした。うちのボディソープの匂いではない。
「……おまえ、昨夜、どこにいたんだ?」
尖った声になる。
すると、おれの手が勢いよく振り払われた。
「どこだって、いいでしょっ!」
見上げた彼女の目が赤かった。きちんと化粧はしているが、顔色は良くない。昨夜、眠れていないのは本当なのだろう。
彼女は寝室に入っていく。おれもあわてて、あとに続く。
「あたし、寝るって言ったでしょっ。ついてこないでっ!」
寝室に入った妻を、おれは抱き寄せた。
「や…やだっ……放してっ。触らないでっ!」
彼女はおれの腕の中でもがいた。
「……おまえはもう、おれに触られるのもイヤなのか?」
そして、おれはとうとう、その言葉を口にした。
「紗香……おまえ……そんなに好きなのか?」
彼女は顔を上げて、おれに鋭い視線を向けた。
するとそのとき、ヴヴッとバイブが鳴った。紗香がクロスボディにしたボリード ミニからだった。あわてて、彼女がバッグの中からスマホを取り出す。
おれはすかさず、彼女の手からスマホを奪った。
「……ちょ…ちょっと、なにするのよっ⁉︎」
おれはスマホのディスプレイを見た。
——「凌牙」からのLINE通話だった。
おれは通話に出た。
「もしもし……紗香の夫ですが」
0
あなたにおすすめの小説
繰り返す夜と嘘 〜【実録】既婚の僕と後輩の彼女、あの夜のキスから始まった13年の秘密〜
まさき
恋愛
結婚して半年の僕と、同じ職場の彼女。
出会った頃は、ただの先輩と新入社員だった。
互いに意識しながらも、
数年間、距離を保ち続けた。
ただ見つめるだけの関係。
けれど――
ある夏の夜。
納涼会の帰り道。
僕が彼女の手を握った瞬間、
すべてが変わった。
これは恋でも、友情でもない。
けれど理性では止められない、
名前のない関係。
13年続いた秘密。
誓約書。
そして、5年の沈黙。
これは――
実際にあった「夜」の記録。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる