もう一度、愛してくれないか

佐倉 蘭

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Chapter 8

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 こんなに、憔悴しきって迎えた朝は——初めてだ。

 昨夜はあわただしくシャワーを浴びたあと、明け方までまんじりともせずに、リビングのソファに座ってスマホをじーっと見つめていた。
 だが、トークの画面にたった一度、ふきだしが現れたあのとき以来、もう何の反応もなかった。

 おれは、洗ったまま乾かしもしなかった髪を、苛立たしげに、がしっ、と指で掻き上げた。
 ——紗香……こんな時間に、どこで、なにを、やってるんだ⁉︎
 ——まさか、あの歳下のホスト(推定)と、一緒にいるんじゃないだろうな⁉︎

 おまえが心配で、おれが不安で……気が狂いそうだ。


゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


 玄関で、ガチャガチャと音がした。

 おれは跳ねるようにソファから起き上がった。いつの間にか、うとうとしていたらしい。
 すぐさま、リビングを出た。

 ダ◯エのキャリーケースを持った妻が、ウォーキングクローゼット代わりにしている部屋へ入っていくところだった。

 紗香が——帰ってきた。
 いや、紗香が……帰ってきてくれたのだ。


「……あなた、どうしたの?」
 リビングに入ってきた妻が訝しげに訊いてきた。
「なんだか、ものすごーく老けてるわよ?」

 洗いざらしで乾かさずにいた髪はボサボサ、睡眠不足で顔色の悪い肌には無精ヒゲ。
 さらに……
 まったく経緯は覚えていないが、Tシャツもスウェットのズボンも、捨てようと紙袋に詰めていたヨレヨレのものを引っ張り出して、身に着けていた。

 だが……

 ——だれのせいだと、思ってるんだっ⁉︎


「……あたし、昨日、ほとんど寝てないの。悪いけど、これからちょっと寝るわ」
 そう言って、妻は寝室に向かおうとした。

 その肩を「おいっ!」と後ろから掴んだ。
 一瞬、ふわりとハーブの香りがした。うちのボディソープの匂いではない。
「……おまえ、昨夜、どこにいたんだ?」
 尖った声になる。

 すると、おれの手が勢いよく振り払われた。
「どこだって、いいでしょっ!」

 見上げた彼女の目が赤かった。きちんと化粧はしているが、顔色は良くない。昨夜、眠れていないのは本当なのだろう。

 彼女は寝室に入っていく。おれもあわてて、あとに続く。
「あたし、寝るって言ったでしょっ。ついてこないでっ!」

 寝室に入った妻を、おれは抱き寄せた。
「や…やだっ……放してっ。触らないでっ!」
 彼女はおれの腕の中でもがいた。
「……おまえはもう、おれに触られるのもイヤなのか?」
 そして、おれはとうとう、その言葉を口にした。

「紗香……おまえ……そんなに好きなのか?」

 彼女は顔を上げて、おれに鋭い視線を向けた。

 するとそのとき、ヴヴッとバイブが鳴った。紗香がクロスボディにしたボリード ミニからだった。あわてて、彼女がバッグの中からスマホを取り出す。

 おれはすかさず、彼女の手からスマホを奪った。
「……ちょ…ちょっと、なにするのよっ⁉︎」
 おれはスマホのディスプレイを見た。

 ——「凌牙」からのLINE通話だった。

   おれは通話に出た。

「もしもし……紗香の夫ですが」
 
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