もう一度、愛してくれないか

佐倉 蘭

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Chapter 9

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 すると「ちょっとアンタ、貸しっ」と言う声とともに、ガサガサッと音がして、
『専務さん、伊東 大輔の母の「凌牙」でございますぅ。いつも息子がお世話かけておりますぅ』
 典型的な関西のオバチャンの声が聞こえてきた。

  ——もうバレバレの「小芝居コント」はいいから。

   ……確か、伊東の母親は、演歌に出てくるような「河内女」だと言ってたな。


『サーヤちゃんは、ほんっまにええ子やさかい、あんじょう大事にしたってくださいや。東京と大阪で離れたはるし、それにうちのアホ息子が言うには、女の人が放っとかれへんほど、専務さんはごっつうええ男らしいから、そら魔がさすこともありますわなぁ。そこは土下座でもなんでもして、サーヤちゃんに許しを乞うてください。……何事も誠意を尽くせば、絶対に通じますから』

 ——なんで、おれが土下座して紗香に許しを乞わねばならんのだ?

『せやけど、専務さん……夫婦ってなんやろねぇ』

 伊東の母親の「凌牙」は、まるでなにわの舞台女優・藤山◯美がエンディングに向かう際に、今までのドタバタ喜劇から観客をほろっとさせる「ええ話」で大円団に持っていくときの雰囲気を、独学でかもし出していた。

『主人のことは「てもうたろか、ワレ!?」って思うときもありますけど』

 ——そんなときがあるのかっ!?

 スマホの向こうで、
「オカン、ガラ悪いから河内かわち弁使うなよっ」
と伊東が吠えている。

『そやけど、今回のことで、やっぱし夫婦も家族も、余所見よそみせんと心を合わせてやっていかなあかん、っていうことが、ようわかりましたわぁ。ほんま、雨降って地固まる、ですなぁ。……専務さんにもご心配をおかけしました』
 先刻さっきの息子同様、スマホの向こうで頭を下げている気配がした。

 ——知るかっ!そっちは大団円でも、こっちはこれから修羅場だっ!!


 そのあとに代わった伊東の父親にも、なぜかお詫びされ感謝された。どうやら、ようやく嫁を迎えに来たらしい。(やっぱりこの地では「妻」と言うより「嫁」の方がしっくりくるな)

 最後に小声で、
『うちの家族の手前、奥さんには綺麗事を言わさしてもろたけど、わしも男や、専務さんがあんなふうになる気持ちは、わからんでもないですわ。……応援してまっさかい、奥さんのこと、がんばってくださいや』
と、奇怪な激励をされた。

 ——キレイゴト?あんなふうなキモチ?……ってなんだ?

 そして、ワケがわからぬままの通話が、やっと終わった。


 改めて、紗香の方へ向き直る。おれは、地獄の底を這いずり回るような、低ーい声で告げた。

「……さぁ、紗香。説明してもらおうか?」

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