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Chapter 9
②
しおりを挟むすると「ちょっとアンタ、貸しっ」と言う声とともに、ガサガサッと音がして、
『専務さん、伊東 大輔の母の「凌牙」でございますぅ。いつも息子がお世話かけておりますぅ』
典型的な関西のオバチャンの声が聞こえてきた。
——もうバレバレの「小芝居」はいいから。
……確か、伊東の母親は、演歌に出てくるような「河内女」だと言ってたな。
『サーヤちゃんは、ほんっまにええ子やさかい、あんじょう大事にしたってくださいや。東京と大阪で離れたはるし、それにうちのアホ息子が言うには、女の人が放っとかれへんほど、専務さんはごっつうええ男らしいから、そら魔がさすこともありますわなぁ。そこは土下座でもなんでもして、サーヤちゃんに許しを乞うてください。……何事も誠意を尽くせば、絶対に通じますから』
——なんで、おれが土下座して紗香に許しを乞わねばならんのだ?
『せやけど、専務さん……夫婦ってなんやろねぇ』
伊東の母親の「凌牙」は、まるでなにわの舞台女優・藤山◯美がエンディングに向かう際に、今までのドタバタ喜劇から観客をほろっとさせる「ええ話」で大円団に持っていくときの雰囲気を、独学で醸し出していた。
『主人のことは「殺てもうたろか、ワレ!?」って思うときもありますけど』
——そんなときがあるのかっ!?
スマホの向こうで、
「オカン、ガラ悪いから河内弁使うなよっ」
と伊東が吠えている。
『そやけど、今回のことで、やっぱし夫婦も家族も、余所見せんと心を合わせてやっていかなあかん、っていうことが、ようわかりましたわぁ。ほんま、雨降って地固まる、ですなぁ。……専務さんにもご心配をおかけしました』
先刻の息子同様、スマホの向こうで頭を下げている気配がした。
——知るかっ!そっちは大団円でも、こっちはこれから修羅場だっ!!
そのあとに代わった伊東の父親にも、なぜかお詫びされ感謝された。どうやら、ようやく嫁を迎えに来たらしい。(やっぱりこの地では「妻」と言うより「嫁」の方がしっくりくるな)
最後に小声で、
『うちの家族の手前、奥さんには綺麗事を言わさしてもろたけど、わしも男や、専務さんがあんなふうになる気持ちは、わからんでもないですわ。……応援してまっさかい、奥さんのこと、がんばってくださいや』
と、奇怪な激励をされた。
——キレイゴト?あんなふうなキモチ?……ってなんだ?
そして、ワケがわからぬままの通話が、やっと終わった。
改めて、紗香の方へ向き直る。おれは、地獄の底を這いずり回るような、低ーい声で告げた。
「……さぁ、紗香。説明してもらおうか?」
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