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Chapter 9
⑤
しおりを挟む「……昨日の夜、娘さんからの説得にやっと応じたご主人が、凌牙さんのお迎えに来たまではよかったんだけど。やっぱりお互いの『思い』のズレは変わらなくて、泥仕合になったらしいの。それで、凌牙さんから突然『助けて』ってL◯NEが来て、あたしが行ってご主人の話を聞くことになったのよ」
息子の直属の上司の妻、という立場でもある紗香がいれば、冷静に話し合いができるだろうと思われたのだ。
仕事終わりにその場に駆けつけた伊東は、紗香とその素性を知って、腰を抜かさんばかりに驚いていたそうだが。(おれと伊東には内緒にしておこう、と申し合わせていたらしい)
「……だけど、やっぱり、男の人はなにもわかってないんだわ、って思ったわ」
紗香はふーっと息を吐いて、肩を落とした。いつの間にか、おれたちは寝室のベッドに並んで座っていた。
「だって……凌牙さんのご主人ったら、『だったら、おれと一緒にタカラヅカを観劇したらいい』って言うんだもの」
——ええぇっ⁉︎ それって、ダメなのかっ⁉︎
おれはてっきり、亭主の方が「タカラヅカなんて、金輪際観に行くな」とでも言ったために平行線になっていると思っていた。
「あたしだって、あなたと一緒に観に行くのなんてイヤよ。そんなの、罰ゲームだわ」
——おまえもイヤなのかっ⁉︎ おれと行くのは「罰ゲーム」なのかっ⁉︎
おれはハンマーで思いっきり殴られたような衝撃を受けた。
「だって、あなただって、大好きなゴルフは気の合う仲間と一緒に行きたいでしょ?好きでもなんでもないのに『義理』でついて来られちゃ却って迷惑でしょ?」
——あ、そういう意味か。
おれはホッと胸を撫で下ろした。あぁ、寿命が十年ほど縮んだ思いだったが、元に戻った。
「せっかく夢のような世界を堪能しているのに、隣を向いたらダンナがいた、なーんてブチ壊しだしね」
——悪かったな。
「それに、終わったあとはわかる者同士で、いろいろ感想を言い合いたいものなのよ。わかんない人には熱く語れないじゃない」
——それは確かに、ゴルフのラウンド後にも言えることだな。
「だから、この前の土曜日……あなたがゴルフの日ね、凌牙さんと観劇してきたのっ!初めての聖地、宝塚大劇場よっ!」
おれより遅く帰ってきて、やたら疲れた様子でとっとと眠りやがったため、おまえを抱けなくて悶々とした日だ。チクショウっ。
すると、突然、夢見る少女のキラキラした瞳になった紗香が、その時観劇した宙組公演「TRAFALGAR~ネルソン、その愛と奇跡~」の主役のネルソン提督を演じた男役トップスター大◯祐飛もさることながら、ナポレオンを演じた蘭◯とむがいかにすばらしかったかを、それからたっぷり二十分もの時間を費やして語った。
——おまえ、終わったあと、おれにでもじゅうぶん熱く語れるじゃねえか。しかも、先刻より五分延びてるし。
「……で、おまえ、その頑固な亭主をどうやって説得できたんだ?」
あれだけ揉めてた夫婦を、たった一晩で元サヤに戻した武勇伝を聞かせてほしいものだ。
すると、これまた突然、先刻までの上機嫌だった顔がたちまちのうちに曇った。
「……紗香?」
鋭い視線とともに、おれの顔を見上げる。
「あたし、伊東くんから聞いたの」
みるみるうちに、その瞳に涙がこみ上げていた。
「あなたが、会社の子と……浮気してるって」
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