もう一度、愛してくれないか

佐倉 蘭

文字の大きさ
46 / 51
Chapter 9

しおりを挟む

 通話を終えた紗香が、おれにスマホを差し出す。それを受け取りながら、
「紗香……もう抱きしめてもいいか?」
と訊けば、向こうからおれの方に、ふわりともたれかかってきた。

「……真也さんが、浮気してなくて、よかった……」
 おれは、この手の中に還ってきた妻を、ぎゅーっと抱きしめた。

「……ねぇ、あなた、今日は何の日か覚えてる?」
 上目遣いで、紗香が訊いてきた。
「もちろん、覚えてるさ。結婚記念日だろ?それも、二十五回目の……『銀婚式』だ」

 すると「覚えてたんだ」と、大きな瞳がますます大きくなった。
  ——まぁ、気がついたのは今週だけどな。
 そんな紗香が知らなくていいことは、迷わずラララ星の彼方に旅立つがいい。

「だから、ホテルのディナーを予約してある。……そのあとは、スイートも取ってあるからな」
 紗香の耳元でささやく。びくびくっ、となった。おれのよく響く低い声に、紗香は弱い。

「……うん、ありがと。うれしいな」
 そうつぶやいた紗香のくちびるに、ちゅっ、とキスをする。

「昨夜、帰ってこないから、どうなることかと思ったんだぜ?」
 もう一度、今度は深く口づけようと顔を寄せると……

「ストップ!」と制された。
 おれが怪訝な顔になると「伸びかけのヒゲが痛い」と顔をしかめられた。
 おれは顎を撫でた。確かにざらり、とする。

「わかった。速攻で、シャワーを浴びてくる。……おまえも、一緒に入るか?」
 紗香の頬をするり、と撫でる。

「む…無理無理無理無理…っ!
 だって真也さん、ヘンな格好させるんだもんっ」

「あ、後ろを向けっていうヤツか?そんなのベッドではいつも普通にヤってるじゃねえか。壁に手をつけろ、って言ったのは、身長差もあるし床が濡れてて滑ったら危ないから安定させるためだ。でないと、おれだってヤりづらいし、思うぞんぶん動けないからな。だが、おまえがだんだん、ずりずりと下がってきて、尻を突き出す形になるのは、おれは知らねえぞ。鏡に映ったお互いの姿が見えて、おまえもすんげぇ昂奮こうふんしてたじゃねえかよ」
 マジであのときの紗香は、超絶にエロかった。

 すると、紗香の顔が一瞬にして、真っ赤っかに染まった。
「ち…ちょっとっ!あ…朝から、なに言ってんのよっ!?」
 バシッと思いっきり胸を叩かれて、おれは「てっ」と思わずごちた。
  ——今さら、なにを照れてやがる。たかが立ち後背位バックくらいで。

 どうやら、今まで甘やかし過ぎたようだな。これから、四十八手をコンプリートしようとしているのに。

 江戸時代に確立された、日本が誇る伝統的な体位スタイルの数々だぞ。おまえは先人の叡智の結集を冒涜する気か?


 ゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


 それでなくても烏の行水なのに、おれはバスルームでヒゲをあたって速攻で全身を洗い終えると、すぐさま出てきた。ヨレヨレだったTシャツもスウェットも、脱衣所のゴミ箱へダンクしてやった。

 がしがしっとタオルで髪を拭い、バスタオルをぐるっと巻いて、急いで寝室へ戻る。
「……待たせたな、紗香っ!」

 紗香は、クィーンサイズのベッドに横たわっていた。おれは飛び乗るような勢いで、彼女に跨った。

 だが……返事がない。












 それもそのはず……

 ……紗香は大の字になって爆睡していたのだ。

 こうなると、絶対に、起きない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

繰り返す夜と嘘 〜【実録】既婚の僕と後輩の彼女、あの夜のキスから始まった13年の秘密〜

まさき
恋愛
結婚して半年の僕と、同じ職場の彼女。 出会った頃は、ただの先輩と新入社員だった。   互いに意識しながらも、 数年間、距離を保ち続けた。   ただ見つめるだけの関係。   けれど――   ある夏の夜。 納涼会の帰り道。   僕が彼女の手を握った瞬間、 すべてが変わった。   これは恋でも、友情でもない。   けれど理性では止められない、 名前のない関係。   13年続いた秘密。 誓約書。 そして、5年の沈黙。   これは――   実際にあった「夜」の記録。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...