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Last Chapter
①
しおりを挟むその日の昼下がり……
あれからたっぷり睡眠を取った紗香であったが、昨夜の思いがけぬ「オール」で肌の調子が悪いからメンテナンスしたいと言う。なので、ディナーの前にホテルのエステとヘアサロンに予約を入れた。
紗香は、黒地に大胆な蘭の花がプリントされた、レオ◯ールの膝丈のワンピースに着替えて、玄関に出てきた。
「へぇ……そういう華やかなのも似合うな。おまえ、そんな服、持ってたっけ?」
おれの方は、濃紺の生地にさりげなくダークグレーとブルーのレールストライプが入った、ポール・スチ◯アートのスリーピースだ。サマーウールのため、軽くて動きやすい。
この前、阪急のメンズ館で「オーダーは数週間かかるから、とりあえずすぐ着られるように一着買っときましょ」と紗香が選んでくれたものだが、既製なのに驚くほど身体にフィットしている。
「このワンピ、前に銀座の松波屋へお出かけしたときに、おかあさまがあたしとおねえちゃまに買ってくれたのよ。……娘たちが何歳になってもお揃いにしたいのね」
紗香が肩を竦めて答えた。彼女がピンクの花びらで、姉がブルーらしい。
以前、彼女たちの実家で見せてもらったアルバムに、色違いの同じ服で微笑む幼い彼女たちが何枚も写っていたのを思い出した。
「タカラヅカの観劇のときに偶然カブッちゃったんだけど、なんだか姉妹の漫才師みたいだったわ。でも、ここ大阪なら、きっと大丈夫ね」
マノ◯・ブラニクの肌なじみのよいベージュのBBに足を滑り込ませながら、ふふっ、と笑う。
往年の映画女優、ブリ◯ット・バルドーを冠したシンプルなそのハイヒールは、約十センチの高さにもかかわらず「まるで吸い付くような履き心地なの」と紗香のお気に入りで、色違いで何足も揃えている。
おれはヒールを履き終えた紗香に、黒のバッグを渡した。モノグラム サテンでスペシャルオーダーしたアルマBBだ。
これらは、今までの誕生日やクリスマスの際にプレゼントしたものだ。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
ホテルでは、鉄板焼のレストランの個室で、専用のシェフが神戸牛や鮑をフランベしてくれた。目の前で上がった炎に、紗香が無邪気な歓声を上げる。
コースの料理が落ち着いたところで「デザートの際はお申しつけください」と言って、シェフが座を外した。
おれは用意していたリボンのついた箱を、紗香に差し出した。
「……紗香、今年は誕生日のプレゼントを渡せなかったから兼用になるけど、その代わり、すんげぇ奮発したからな」
「わぁ……開けていい?」
紗香が上目遣いで訊く。
リボンを解き、包みを開いて出てきたのは、ヴァン・◯リーフ&アーペルの若草色のケース。
ぱかっと開けて、その中にあったのは……
「……うっわぁ……キラッキラッしてる」
見つめる紗香の瞳が、潤んで揺らめいた。
「左手、出せよ」
おれは、紗香の左手薬指にすでにある結婚指輪の上に、それを通した。
「わっ……すっごい……サイズぴったりっ」
——そりゃそうだ。リングゲージとかいうのを借りて、おまえがぐっすり寝てたら起きないのをいいことに「堂々と」測ったんだからな。
「このタイプはサイズ直しできない、っていうもんね。もうこれから太れないわね」
紗香はそれを見ながら、ふふっ、と笑った。
彼女の左手薬指で新たに輝いているのは、ヴァン・◯リーフ&アーペルのロマンス・エタニティリングである。ダイヤモンドがリングの周囲を三六〇度とり巻いていて「永遠の愛」をあらわしている。切れ目なくダイヤが連なっているため、原則としてサイズ変更できないそうだ。
最近では結婚指輪に使われるらしいが、本来は結婚後の記念日に「いつまでも変わらぬ愛」として送るものだ。
三.二ミリとやや太めのタイプの方にしたが、指のサイズが四六と細い紗香であっても、ある程度年齢を重ねた手には、やはりこのくらいの太さがしっくりきていた。
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