62 / 128
Chapter 10
酔った勢いで素直になってます ①
しおりを挟むもう一度、パウダールームへ行く羽目になった。
海洋とあんなことをしてしまったので、大きな鏡に映った顔は、ますます真っ赤っかだ。
おまけにグロスはすっかり落ち果てて、くちびるはどスッピン状態だった。
足元は先刻よりもっとひどく、ふらふらしている。なんだか、頭もずきずきと痛い。
——だけど、ずいぶん時間経ってるしなぁ。
わたしは手早くメイクを直し、ふらつく足を律しながら、披露宴会場に向かった。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
わたしは披露宴会場のテーブルに戻った。
将吾さん、大地、亜湖さん、そして裕太以外に太陽もいたが、海洋はいなかったのでひとまずホッとする。
将吾さんは太陽と親しげに話をしていた。
二人とも学部は違うが同じKO大出身だった。慶人を通じて、顔見知りだったのであろう。
将吾さんはスウェーデンとのクォーターだが、色素の薄い太陽もハーフかクォーターのような風貌だ。
——太陽はまだ一生をともにするような相手に巡り会えてないのかな?
相変わらず、まだまだ遊び足りなさそうな顔つきをしていた。
太陽と海洋は双子だが二卵性なので似ておらず、むしろ太陽は慶人によく似ていて、海洋は大地によく似ていた。
親戚の同年代の男どもは四人とも、一八〇センチ前後の長身でイケメン揃いではあるが、子どもの頃から一番チャラくて、女性関係に問題ありだったのが太陽だ。
足がめちゃくちゃ速くて、陸上部に入ったらインターハイ出場間違いなし、と言われていたのに「放課後まで野郎に囲まれていたくない」との理由により、帰宅部でバンド活動に勤しみ他校の女子たちからキャーキャー言われていた。
中高一貫の超名門男子校に通っていた頃の彼らに一度、一番成績が良くて本当に頭の賢いヤツはだれ?って訊いたことがあった。
すると、速攻でしかも全員一致で「太陽」と答えたのでびっくりした。なんでも医学部も狙えるほどの成績だったらしい。
『どうして医者にならなかったの?医者ってモテるじゃん?』
太陽にそう訊いたら、
『バカか。医者ってのは成績がいいってだけでなっちゃいけない職業だ。おれより海洋の方がずっと向いてる』
と、いつになく真顔で返された。
太陽がしゃかりきになって勉強しているという話はとんと聞いたことがないが、経済学部ではなく敢えて商学部に進み、在学中に公認会計士の資格を取得した。
また、あさひJPN銀行に入行したあと、銀行から留学した先は超名門ハーバード大のビジネススクールで、もちろんしっかり経営学修士を得ている。現在は、執行役員である経営企画部長に就いて、頭取へのキャリアを着々と積んでいた。
まだまだチャラさは残っているが、ヤツも朝比奈の一族らしく、朝比奈にとって一番有益になる道を歩んでいる。
その太陽が唖然とした顔で言った。
「……彩乃、なんだ?その真っ赤っかな顔は?浴びるほど酒でも呑んだか?」
「失礼ね。蓉子の結婚式でそんなに呑むわけないでしょ」
わたしは太陽をきゅっと睨んだ。
「ワインの白・ロゼ・赤の一杯ずつと、あとは亜湖さんと同じソフトドリンク三杯よ」
すると、大地と亜湖さんがぎょっ、とした。
「お…おまえ、亜湖と同じものを飲んだのか?」
——あら、なによ。わたしがあなたの愛する妻と同じものを飲むのが気に入らないわけ?
「彩乃さん、あれはジュースじゃないの。リキュールなんだけど日本酒ベースだから、かなりキツいお酒なの」
亜湖さんは申し訳なさそうに言った。
「亜湖は一人で一升瓶を空けるほどの酒豪なんだっ!おれも慶人も蓉子も、酔い潰されてエラい目に遭ったっ!!」
「「「「「えええぇぇぇ……っ!? 」」」」」
大地の言葉に、このテーブルだけじゃなく周りのテーブルの人たちまでも、どよめきながらのけぞった。
「び…ビールが呑めないんじゃなかったの?」
亜湖さんはセーラー服やブレザーの制服を着ていても違和感ないほどの童顔だ。
「ビールだけが呑めないんです」
わたしがソフトドリンクだと思ってくぅーっと飲んだのは、奈良の「梅◯宿」という日本酒リキュールで、口あたりがジュースなのに恐ろしく回って足元をとられる「危険な」お酒らしい。
蓉子が日本酒好きの亜湖のために、ホテルに入っている日本料理のお店から特別にオーダーできるよう配慮したものなんだそうだ。
ちなみに、亜湖さんは今、ピーチジュース(本名は「あらごしもも」)を呑んでいた。
わたしは、へなへなへな…と腰砕けになった。
将吾さんがあわてて、がしっと支えてくれた。
「おい、こらっ、彩乃!しっかりしろ!」
将吾さんが眉を顰めて、わたしを窘める。
でも、飲んでいたのがお酒だったと聞いて、急に酔いが回ってくるような気がした。
——もう、頭の中がぐるぐるだ。
自然と将吾さんの胸に頭を預けていた。
将吾さんは天を仰いだ。
0
あなたにおすすめの小説
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
夫婦戦争勃発5秒前! ~借金返済の代わりに女嫌いなオネエと政略結婚させられました!~
麻竹
恋愛
※タイトル変更しました。
夫「おブスは消えなさい。」
妻「ああそうですか、ならば戦争ですわね!!」
借金返済の肩代わりをする代わりに政略結婚の条件を出してきた侯爵家。いざ嫁いでみると夫になる人から「おブスは消えなさい!」と言われたので、夫婦戦争勃発させてみました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる