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Before Prologue
〜Boy meets Girl〜【後編】
しおりを挟むたっぷり、五秒はそのままだったというのに。
少年があんまり堂々としていたから、だろうか?
それとも、少女がおとなしく、されるがままになっていたから、だろうか?
——周囲はだれも、気にも止めなかった。
少年のくちびるが離れたとき、少女の頬はリンゴのように赤く染まっていた。
「You’re so blushing. Are you OK?」
〈きみ、真っ赤になってるぞ。大丈夫か?〉
少年はくくっ、と笑う。
笑われた少女は、口惜しそうな顔で少年を見上げた。
ちょうどそのとき、男の子が「Japanese doll」の父親に羽交い締めにされ、ずるずると引き摺られて退場していくところだった。男の子はなにか喚いて抵抗していた。
Hey,buddy! Nice try!!
〈おい、おまえ!やれるだけのことはやったよ!!〉
少年は心の中で労った。
「……彩乃、あの着物の子に会いに行こうよ」
エレメンタリースクールに入りたてみたいな女の子が、少女に声をかける。
すぐ傍にいたのに、向こうのキスに心を奪われていたのか、こっちのキスには気づいていないようだった。
子どもってのはそんなものだ、とまだ自分も子どもなのに、少年はそう思った。
しかし、女の子のおかげで収穫があった。少年は日本語の聞き取りはできた。
Booyah!! l was able to know her name!
〈やったー!! 名前がわかったぞ!〉
頬を真っ赤にしたまま駆け出そうとする少女に、少年は声をかけた。
「Ayano!」
少女は急に自分の名前が呼ばれたので、振り向いてしまう。
「Can you speak English?」
〈英語、話せる?〉
少年は、ゆっくりと、発音した。
少女は、英会話スクールで習った単語だ、と思った。
そして、小さな声で「No」とだけ答えた。突然のことだったので、せっかく習っていた「l can’t.」をつけるのを忘れた。
「……No way!」
〈マジかよっ!〉
少年は天を仰いだ。少女が自分を無視していたわけではなかった。
「Ayano!」
少年はもう一度、呼びかけた。
「Study English.」
〈英語、勉強しろよ〉
いささかエラそうな言い方だが、仕方ない。
少女は意味がわかったのか、こくっ、と肯いた。
「ボクも、ニホンゴ、ベンキョウする」
少年が日本語で言った。
少女が初めて、にこっと笑った。
そして、女の子の方へ駆けて行った。
⇒⇒⇒ Prologue
「Before Prologue ~Boy meets Girl~」〈 完 〉
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花雨さま
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