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Secret 3
①
しおりを挟む「あっ、おねえちゃんっ」
その夜、ひさしぶりに家で妹の姿を見た。
来月から始まる通常国会に向けて、内閣から提出される予算案や法案などの準備が大詰めで、この時期の省庁は超多忙だ。
一応、総合職としてバリバリ働く身としては、ほとんど家に帰る機会がなかった。
——というのは、建前で……
いや、確かに仕事が忙しいのはそうなんだけど、ほかの人に振られるはずの仕事まで一手に引き受けていたのだ。
『七瀬さん、ちょっとマジで勘弁してくださいよぉー』と、泣きを入れる山岸には悪いけど……
とうとう田中とお見合いすることになった七海とは、やっぱり——会いたくなかったから。
妹の七海は「かわいい」。
父親似でウルトラマンみたいな「ヒーロー顔」のわたしとは真逆の、母親似の大きな瞳にちょこんとした鼻の「ヒロイン顔」。
本人は、その猫っ毛が湿気のある日は広がって広がって大変になるから、わたしの何の変哲もないどストレートな黒髪を、
『うらやましい、うらやましい。あたしもおねえちゃんみたいな髪で生まれたかったぁー!』
と言っているが、ココアブラウンにカラーリングしたふわっふわっなその髪は、思わず男子が触って撫で回したくなると思う。
身長だって一六〇センチあるため、決して低いわけではないはずなのに、その雰囲気から一五五センチほどしかないイメージだ。
とにかくなんだか気になって目が離せなくて、放っておけなくなるタイプなのだ。
——七海は、田中が今までセフレにしてきたオンナたちとも真逆なんだけどなぁ……
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
お風呂から出てリビングに入ってきたわたしに、妹が声をかけてきた。
「あのね……あたし、今度お見合いするかもしんないんだけどさ」
——単刀直入に来たな。まぁ、七海らしいけれども。
わたしは奥のキッチンで冷蔵庫を開け、中からスーパード◯イの缶を取り出した。
最近は発泡酒も美味しいのが出てるっていうのに——っていうか、カロリーオフなのが呑みたいんだけどなぁ——父が「家で発泡酒なんて絶っ対にイヤだ!」と言って聞かないのだ。
何気なさを装ってそんなことを考えてはいるが、この手だけはわたしの心に正直だった。
ビールの缶を握る指が——心なしか震えていた。
「……あ、おとうさんから聞いたよ。あんた、田中 諒志とお見合いするんだって?」
わたしは気を落ち着けるためにスーパード◯イを一口呑んだあと、反対の手で洗い立ての真っ黒な髪をばさっと掻き上げた。
妹の目から、ビールを持つわたしの震える手を逸らすためだ。
——七海には、どうしても気づかれたくなかった。
「おねえちゃん、やっぱ田中さんのこと知ってるんだ?」
リビングのソファにいた妹が身を乗り出して訊いてくる。経歴を見て、わたしと田中が、大学の学部も就職先も一緒だとわかったのだろう。
「ねぇ、おねえちゃん……田中さんってどんな人?」
——七海、ごめん。
だれが教えるもんか、って思っちゃった。
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